律「さむっ」

律「なんでこんなに寒いんだよ全く・・・」

律「あ~雪降ってるじゃん」

律「雪見ると冬が来たって感じだなー」

律「今年も冬が来たかー」

律「・・・」


私の名前は田井中律

N女子大の4年生で今年22歳になる

就職も決まり大学も休みなので実家に帰省しているところだ

律「せっかく帰ってきたのに誰もいないんだもんなー」

律「お父さんとお母さんは旅行で」

律「聡は部活の合宿」

律「実家でだらだらしようと思ったのに」

律「これじゃ寮に居たほうがましだったな」

律「あー暇だ」

律「誰かからメールとか来てないかなー」

律「・・・」

律「来てるわけないか・・・」

来てるわけない

そう思いながらいつも澪からのメールを待っている

ずっと待ってるけど

あの日から一度も連絡は無い

律「・・・」

秋山澪は

私たちの前から消えた

律「はあ・・・」

こうして冬が来ると胸が痛くなる

春でも夏でも秋でも澪の事を考えない日はない

でも冬が来るとこんなにも苦しくなる

律「今どうしてるのかな」

律「・・・」


冬が私を呼んでるから―――


―――――――――
――――――
―――

律「か、彼氏が出来た!?」

澪「う、うん」

律「おいおい冗談はいいよ」

律「私が何か悪い事したなら謝るから」

澪「違うんだ、本当なんだ」

律「え、ええ~・・・」

律「うっそだ~・・・」

澪「ごめん・・・」

律「いや、いやいやいや・・・え~」

澪に彼氏が出来たのは大学2年の時

なんでも二十歳の誕生日に告白されたとか

律「マジか~・・・いやいや」

律「ええええ・・・」

澪「ご、ごめん」

どうやらバイト先の人と前からいい感じだったらしい

でも『お付き合いは二十歳になってから』とか言ってそれまでは付き合っていなかったそうだ

澪「みんなにはちゃんと報告しておかなきゃって思って」

律「それはいいんだけどさ」

恋人同士になったその日に呼びだされて報告された

それだけは嬉しかったけどやっぱり複雑だった

律「で、付き合ったのに誕生日一緒に過ごさなくていいのかよ」

澪「うん、まだそういうのは早いと思って・・・」

律「ったく真面目なんだかどうなんだか」

澪「なんだよ」

澪「それにこんな雪が降ってる冬の日はなんだかいい歌詞が書けそうなんだ」

澪「冬が私を呼んでる!って感じでさ」

律「ふうん」

澪「なんだよ」

律「彼氏へのラブソングか?」

澪「ち、違うって!」

澪「そんなんじゃ・・・」

律(わかりやすっ)

澪は冬になるとふらっと何処かにいく癖がある

高校の時もだけど大学に入ってからもそうだった

冬が私を呼んでる、とか言って何も言わずにいなくなる

大学1年の時なんか一人で恐山まで行ったらしい

なんて行動力だと感心したけど同時に呆れてしまった

澪「冬はいいよな、なんか楽しくなる」

律「彼氏と旅行でも行くのか?」

澪「だからそんなんじゃないって」

澪「一人でどこか行きたくなるんだ」

律「ふうん」

律「あーあ、澪も女になっちゃうのか~」

澪「な、何言ってるんだバカ!」ゴツン

律「いてっ、なんだよだってそういう事だろ?」

澪「そ、そういうのは結婚するまで駄目だ」

律「へえ、まあ口だけならなんとでも言えるしな」

澪「りつ~!」

律「わかったわかった」

律「で皆にはいつ話すんだ?」

澪「明日直接話すよ」

律「そうですか」

澪「だから今日は一緒に歌詞考えようよ」

律「何だ急に、いつもみたいに一人で考えろよ」

澪「・・・駄目か?」

律「・・・しょうがないな、今日は特別だぞ」

澪「うん!」

澪が彼氏より私を選んでくれたみたいで嬉しかった

その日はまた例のごとく甘々な歌詞を延々見せられたけど


翌日

唯「え~!澪ちゃん彼氏出来たの!?」

澪「うん・・・」

梓「どんな人なんですか?」

澪「バイト先の人で、優しい人だよ」

紬「澪ちゃんに彼氏・・・」

紬「もうおしまいね・・・」フラフラ

唯(ムギちゃんはなんでこんなに落ち込んでるのかな)

唯(先を越されたから?)

澪「でもちゃんと清く正しいお付き合いをしようと思って」

律(どうだか)

律(でもいい人だといいな、澪の彼氏)

彼氏が出来ると人が変わる、なんてよく聞くけど澪はそんな事なかった

今までと何も変わらず私たちと一緒に過ごした

いや、今まで以上に私達との時間を大切にしてくれた

遊んだりするのも私たちを優先して、何の予定もない時に彼氏と遊んでいたらしい

きっと彼氏が出来て変わった、って言われるのが嫌だったんだろう

だから皆も素直に澪と彼氏の事を応援していた

・・・ムギだけは結構長い事落ち込んでたけど

律「いいのか?彼氏と遊ばなくて」

澪「うん、バイトで会うし」

澪「皆と一緒に居たほうが楽しいしな!」

律「無理してないか?」

澪「全然!」


最初はこんな付き合い方じゃすぐ別れると思ったけど

澪と彼氏は意外と長続きしていた

二十歳の誕生日に付き合い始めてからそろそろ1年が経とうとしていた頃だった

律「澪、そろそろ彼氏紹介してくれよ」

澪「は、恥ずかしいよ」

律「恥ずかしい事してんのか~?」

澪「ば、バカ!何言ってるんだ!」

律(恥ずかしい事してんのかな~・・・)

律(やっぱ複雑だな)

澪「ちゃんと紹介するからもうちょっとだけ待ってくれ」

律「へいへい」

澪「それにしても今日はいいな!」

律「え~雪降ってんじゃん」

澪「だからだよ、こんな日は何処かに出かけたくなる」

律「ほんとに澪はいつまで経っても澪だな」

澪「だって冬が私を呼んでるから」

律「そーかそーか、そりゃ良かった」

澪「ちゃんと聞け!」

律「はいはい」

彼氏がいようがいまいがいつもと変わらない毎日

私もいつのまにか澪達の事を祝福するようになっていた


そんなことを考えていた大学3年の時

1月15日、澪の誕生日であり彼氏と付き合ったその日

澪は私たちの前から姿を消した

理由は一切分からない

私たちも澪の両親も何も聞いていない

当然メールも電話も通じない

律「どうなってんだよ・・・くそっ」

唯「りっちゃん・・・」

律「今警察にも捜索願を出したらしいけどどうなるか・・・」

梓「澪先輩無事だといいんですけど」

紬「琴吹グループも総力を挙げて捜索するわ」

律「ああ、ありがとう」

気がかりなのは澪の彼氏

私たちは結局澪の彼氏に一度も会っていなかったのだ

バイト先に問い合わせても少し前に辞めて連絡が取れないらしい

この人ならきっと澪の事を何か知ってるんじゃないかと思って必死に探した

けど見つけることはできなかった

律「彼氏と駆け落ちしたとか・・・」

梓「そんな!」

唯「駆け落ち?」

紬「二人でどこかに行っちゃって戻ってこないかも知れないの」

唯「ええ!?そんな!」

紬「・・・」ギリッ

律(なんでだよ)

律(なんで何も言わないんだよ!)

律(彼氏と付き合う事になった時も)

律(あの時もあの時も)

律(いつも一番に相談してくれたじゃねーか!)

律(私にだけは何でも言ってくれたじゃねーかよ!)

律(何してんだよ!澪!)

律(さっさと帰ってこい!!)

―――
――――――
―――――――――

律(あれから1年・・・)

律(今も捜索は続いてるけど一向に見つかる気配はない)

律(澪・・・)

律「って久々に長い事考えてたらもう夜になってるよ」

律「いつのまにか雪も止んでるし」

律「お腹すいた・・・」

律「何か食べるものでも探すか」

ピンポーン

律「ん?誰だよこんな時間に」

律「ったくめんどくさいな」

律「はいはいどなたですかー」ガチャ

律「両親は今居ませんよー」

澪「久しぶり」

律「・・・」

澪「律」

律「澪・・・?」

律「澪なのか・・・?」

澪「どっからどう見ても私だろ」

律「ほんとに」

律「澪?」

澪「ああ」

律「・・・」

上手く言葉が出てこない

言いたい事は山ほどあった

なんでいなくなったのか

なんで急に帰って来たのか

いままでどこにいたのか

何があったのか

律「あ・・・」

でも何を言っていいのか分からない

この状況を理解できていない自分がいた

澪「お邪魔してもいい?」

律「あ、うん」

澪の方からそう言ってくれて少しだけ気が楽になった

今は澪と再び会えた事に感謝しよう

澪「久しぶりだな、律の家に来るの」

律「そう、だな・・・」

どうしよう

混乱して何も言えない

澪「律は変わってないみたいだな」

律「・・・」

律「澪は・・・」

律「変わったよ」

澪「・・・」

律「なにしてたんだよ・・・」

澪「・・・」

律「何があったんだよ!」

律「全然分かんないよ!何から話していいのかも分かんない!」

律「澪のバカ!!」

澪「・・・ごめんな」

律「私たちがどれだけ心配したか知らないだろ・・・!」

律「私が・・・!」

律「私がどれだけ・・・!」

澪「ごめん」

自分でも何を言っているのか分からなかった

感情にまかせて何も考えずに出てきた言葉

そんな言葉をただひたすら澪に浴びせた

澪「ごめんな」

律「澪なんて・・・!」

律「・・・」

ほんとは会えて嬉しい癖に

照れ隠し?意地っ張り?

私は澪に一番言いたかった言葉を言えずにいた

澪「律」

澪「・・・会いたかった」

律「!」

律「私だって」

律「・・・」

律「会いたかった」

律「会えて良かった・・・!」

会えて良かった

そう

それが一番言いたかった

澪に先を越されちゃったけど

その言葉が言えて少し落ち着いた


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