そつぎょうしきご!
唯「うぅうぅうぅうぅうぅえぇえぇえええええええええ~~~~~ん!」
梓「もう!泣きすぎです唯先輩。鼻水と涙で顔が大変なことになってますよ」
律「泣きすぎて甲子園のサイレンみたいになってるな」
澪「唯・・・」
紬「よしよし唯ちゃん、今日の分のお菓子が残ってるわよ~」
唯「・・・ヒック」
律「泣き止むのかよ!」
唯「・・・だってだってみんなは寂しくないのぉ?」
律「そりゃ寂しくないっつったらウソになるけどさ」
澪「・・・・・・」
紬「放課後ティータイムは終わらないから大丈夫よ!唯ちゃん」
澪「・・・・・・」
律「そうだぞ~!私もそれが言いたかったんだ。な、澪?」
澪「・・・・・・」
律「あっれ~~~?もしかして澪ちゅわん泣くの我慢してるんでちゅか~?」
澪「う、うるさい!バカ律!」ポカッ
梓「でも唯先輩と澪先輩が寂しがるのは無理ないかもしれませんね」
紬「そうね・・・二人は地元を離れて上京するんだもの」
律「しっかし、まさか唯が音楽の専門学校に行くとはな~」
梓「澪先輩なんてあの東京大学に進学ですもんね」
澪「まさか受かるなんて・・・記念受験のつもりだったのに・・・」
律「澪の親が涙流して喜んじまって行かないなんて言い出せなかったんだよな」
梓「でもスゴイことですよ」
和「あんた達なに贅沢言ってるのよ」
唯「あ、和ちゃん!」
律「和だって凄いじゃないか。地元の国立に行くんだから」
和「私は自分のことより唯が自分で進路を決めたことが嬉しいのよ」
澪「ママ・・・お母さんみたい」
梓「唯先輩はニート街道一直線だと思ってました」
唯「ふぇぇ、ひどいよあずにゃ~ん」
和「これから唯がニートにならないよう監視するのが中野さんの役目でしょ?」
梓「え・・・?」
和「あら?バレてないと思ってた?私は唯のことだったら何でも知ってるのよ?」
梓「和先輩・・・」
和「ライバルが黙って身を引いてあげるんだから唯を泣かせたりしたら許さないわよ」
律「お、おいこの二人なんの話してるんだ?」
澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ・・・」
紬「キマシタワーーーー」ムギユーーーーーーーーーーン
唯「ふぇ?」キョトーーーーーーーン
和「唯は中野さんのこと好きなんでしょ?」
唯「うん!大好きだよ~~!頭に猫耳を装着したくなるくらいの可愛さだよ~~」ダキツキ!
梓「や、やめてください///抱きつかないでください///」アセアセ
律「こ、これってやっぱり・・・」
澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ」
紬「リハってことにしてもっかい!覇っっっっっ!」ムッギュンムギュギュンッッッ
律「落ち着けムギ。和田ア○コになってるぞ」
梓「もう!唯先輩のせいで制服が涙と鼻水でグシャグシャですっハンカチで顔拭いてあげますから顔上げてください」ゴシゴシ
唯「でへへへへ。ごめんよ~~~~」スリスリ
和「唯。上京は自分自身で選んだ道でしょ。もう悲しむのは止めなさい。」
律「そうだぞ~唯!なんか悩んだり悲しいことがあったりしたらすぐ言えよ!東京だろうと地球の裏側だろうとすぐに駆けつけてやるからな!」
澪「私は唯と同じ東京に居るから寂しくなったらいつでも会おうな。絶対だぞ?分かったな?心細くなったらいつでも会うんだからな?いいな?約束だぞ?」
紬「いつでも顔を見せに帰ってきてね唯ちゃん。特に梓ちゃんには週二ペースで会いに来るべきだわ。そうよ絶対そうなんだわ!」ムムギュンムムギュンッッッッ
憂「おねーーーーーちゃーーーーん!いつでもオイシイごはんとアイス用意して待ってるからね!いやむしろ来年同じ専門学校行くから普通に行くから」
さわちゃん「辛い時は、ここでのティータイムを思い出すのよ?・・・てか私と憂ちゃんの出番これだけ?扱いひどくね?」
梓「・・・唯先輩」
唯「あいあいさー!」ケイレイ!
梓「あなたって人は本当にボンヤリしててお菓子ばかり食べてていつもいつも私に抱きついてきていつもいつも無邪気で子供みたいで全然先輩らしくなくて・・・」
唯「あ、あずにゃん?」
梓(違う。私が最後にこの人に言いたいことは、こんなことじゃないのに。なんで私の口は最後の最後まで素直に動いてくれないんだろう・・・)
唯「おーい?どったの?あ~ず~にゃ~ん?」
梓「・・・と、とにかく!他の先輩方と違って唯先輩は全てが危なっかしくて仕方ないです!東京に行ってからも、いつも私達が部活やってた時間になったら必ず私に生存報告メールを送るです!」
唯「うん!わかったよ!あずにゃんは、いっつもお面白いこと言うね!」
梓「じょ、冗談とかじゃないんですからねっ!ちゃんと毎日送ってくださいよ生存報告メール!」
唯「うん!あ、このぐしゃぐしゃのハンカチちゃんと洗って返すからね」
梓「もういいですよ。そのハンカチは唯先輩にあげます」
唯「ありがとーーーーーーーー」タッタッタッタッタ
律「なんだ唯のヤツ?いきなり走ってちゃったぞ?」
澪「どうしたんだ?何か忘れ物でもしたのかな?」
紬「あ、立ち止まってこっちを振り向いたわ」
和「まったくあのコは最後の最後まで私達を振り回して・・・」
憂「おねーーーーーーーちゃーーーーーーん???」
さわ「なんだってのよーーーーーーーー?あ、まだ出番あったんだ私」
梓「唯せんぱーーーーーーーーーーい???」
唯「・・私ねーーーーーー」
梓「よく聞こえませーーーーーーん」
唯「・・・大好きーーーーーー」
梓「!!聞こえませーーん。もっと大きな声で言ってくださいーーー」
唯「あずにゃんのこと大好き!みんなのこと大好き!私けいおん部に入って本当に良かった!みんなに出会えて本当に良かった!
バンドが大好き!放課後のティータイムが大好き!みんなみんな大好き!」
さっきまで泣いていた顔が、まるで雨上がりの太陽みたいに輝いていた。
見る者すべての心を暖かくしてしまう神々しいまでの輝きを全身に浴びて私は
唯先輩って天使だったんだな~なんて当たり前のことに、その時、気がついた。
私と唯先輩の約束。唯先輩から私への生存報告メールは、先輩達が卒業した年の
秋頃まで続いた。
もちろん、生存報告メールが途切れたからといって唯先輩が死んでしまったわけではない。
ちょうど、その頃から唯先輩の周りが忙しくなっていったからだった。
そして、その翌年の春に唯先輩はインディーズからデビューした。
作詞作曲を全て唯先輩自身が手がけたという、そのシングル曲は
たちまち口コミで噂が広まり、インディーズとしては驚くげき売り上げを記録した。
かくいう私も保存用と鑑賞用と布教用に三枚売り上げに貢献していた。
当時けいおん部に入部してきた二人の新入部員は私のことを秋頃までは
ニヤニヤしながら放課後中メールをしている気持ち悪い先輩だと思っていたらしい。
それでも唯先輩のCDを薦めたのがキッカケで私達、新けいおん部の歯車はカタコトゆっくりと良い方向に回っていった。
唯先輩とはドラマや映画のように何年も会えずに感動の再会を果たしたわけでもなく
毎年、夏と冬の二回は、忙しい身である唯先輩もちゃんと時間をとって帰ってきた。
けれど、年に二回会う機会があったからこそ余計に、少しずつ変わっていく唯先輩を実感せずにはいられなかった。
アーティスティックという美しい分だけ、裏側では醜いものが蠢いているであろう世界で
日々を過ごす唯先輩の雰囲気は落ち着いたものに変わっていき
かつて私を魅了して止まなかった無邪気なそれは目に見えて失われていった。
いや、「雰囲気」などというのは言い訳だろう。明らかに唯先輩の世界が広がれば広がるほど
私に対する興味そのものが失われていったのは確かだったからだ。
変わっていく唯先輩を実感しながら、しばらくの間、私の心は深い悲しみの底と諦めの浅瀬を行ったりきたりしていた。
唯先輩の存在を吹っ切れたこと自体が、二十四歳にもなったつい最近のことなのだから無理もない。
今では、唯先輩は「永遠のサブカルニート」の異名で呼ばれ、時おり
メディアに露出する柔らかな微笑みと、天使のような歌声で確かな人気を誇っている。
律先輩は、二十歳の頃に結婚したガキ大将をそのまま大人にしたような旦那さんと
毎日ギャーギャー言い合いながらも仲良くやっているらしい。
澪先輩は、東京で介護福祉士をしている。その誠実で心優しい人柄でお年寄りに大人気らしい。
紬先輩は父親の会社の系列で0Lとして社会勉強をしているらしい。
和先輩はアルバイトをしながら司法試験の勉強に励んでいるらしい。
さわ子先生は相変わらず母校の人気教師らしい。
憂は唯先輩のマネージャーという立場で唯先輩に尽くし続けているらしい。
私はというと、何もしたいことが見つからずに
毎日毎日ボーッとコンビ二でのバイトを続けている。
昨日ふとバイト先の女の子に三年前リリースされた唯先輩のアルバムを薦められた。
女の子「このアルバム大好きなんです。落ち着いた雰囲気が最高なんですよね~」
梓「あ~。私もずっと前からこの人の大ファンだよ」
そう答えながら、アルバムの歌詞カードをパラパラとめくる。
そこには全ページにわたって、ビルの廃墟をバックに冷めた目で笑う唯先輩の写真が載っていた。
もう何度も見飽きたはずの、その涼しげで大人びた唯先輩の笑顔に何故か私は
遠い遠い日々に見た唯先輩の無邪気で眩しい笑顔と
抱きつかれるたびに感じた春の日差しのような温もりを
つい昨日のことのように思い出すのだった。
♪恋人よ ぼくは旅立つ 東へと向かう列車で♪
♪華やいだ町で 君への贈り物♪
♪探す 探すつもりだ♪
♪いいえあなた 私は欲しい物は無いのよ♪
♪ただ都会の絵の具に 染まらないで帰って♪
♪染まらないで帰って♪
おわり
最終更新:2011年12月29日 01:50