梓達二年生の教室は、丁度保健室直下の一階にあった。
その教室で、梓と憂と純は、先程の校内放送に従って
他のクラスメイト数人と、事態を把握できないまま気を揉んでいた。
純「あーもー!なんなのよー!部活始まっちゃうじゃん! 」
梓「なんなんだろうね。不審者が校内に入ったとか…?」
憂「えっ?ど、どうしよう…!お姉ちゃん大丈夫かな…」
梓「大丈夫でしょ。唯先輩ならみんなと一緒にいるだろうし…」
純「それに確か生徒会長さんも同じクラスでしょ?
唯先輩が勝手に出歩かないようにちゃんと見張ってるんじゃない?」
憂「そうかな…そうだといいけど……」
憂は姉に思いを馳せ、窓の外にふと目をやった。
唯「ああああああ!……ぐほっ」
憂の視界の上から、唯の姿が現れた。
憂「!?」
憂は我が目を疑った。
純「ん?なに今の声?」
憂は口をぱくぱくさせながら言った。
憂「お、おね、お姉ちゃんが…降ってきた……」
梓純「はぁ?」
梓と純は声を揃えて言った。
梓「何言ってるの?」
純「いくらお姉ちゃん大好きって言っても、幻覚はやばいよ?」
憂「で、でもほら…あそこ……」
憂が窓外を指差すと、梓と純はそこに視線を移した。
和「だぁぁぁぁはははははははははは!!!」
憂梓純「!?」
巨人のような笑い声を撒き散らしながら、生徒会長が降ってきた。
和「どうだああああああああ!?ゲハハハハハハナハ」
目を血走らせて笑う和の異様な姿に、憂達は度胆を抜かれた。
唯「うっ……げほっ…」
三階から落ちた唯は、ぐったりしながら吐血した。
和は腰を低くして、忍者のような走り方で唯に近づくと、左手で首根っこを引っ付かんだ。
和「げっ…げっへ…ギャギャギャギャ」
和はにたりと笑った。
唯「の…どか…ちゃん…」
唯は掴まれたまま、和を見た。
和の右手には、黄色いカチューシャのついた頭皮ようなものが握られていた。
唯「りっちゃん……ごめん…。ごめんね……」
梓「な、なにあれ……あははは……」
常識人である梓にとって、その光景は理解の範疇を大きく超えていた。
どういった感情を示すべきか、脳はその判断ができずに、梓は笑うしかなかった。
憂「お姉……ちゃん……」
純「憂?」
憂「お姉ちゃん!!」
憂は、それが姉の生命を脅かす存在だと瞬時に判断した。
憂は非力だ。
恐らく、平時の和相手ですら力負けするだろう。
それでも、憂は考えるより早く窓を開けて外に飛び出した。
純「憂っ?!やめなよ!危ないよ!」
純の制止を無視して、憂は和に近づいていった。
憂「和ちゃん!お姉ちゃんを放して!」
和「はい」
和はそう言って、唯の首の皮をむしりとった。
唯「いぎゃああああぁぁぁ!!!」
憂「やめてええ!!」
憂は迷わず和に飛びかかった。
しかし和のような人外の動きではなく、十七才の少女のそれでしかなかった。
和は片手でいとも簡単に憂を払い除けた。
憂「あぐっ…」
地に臥した憂を、和は踏みつけた。
和「ひーひひひひひひひ」
憂の身体から、ばきばきという音がした。
憂「ぎぃぃあああああああ!!!」
和は何度も何度も憂を踏みつけ、徹底的に骨を砕いた。
唯「憂……う…い…」
息も絶え絶えに、唯は憂を呼んだ。
和「あ~……あああああああっ!!」
和は唯を掴んだ手に力を込めた。
唯の頭蓋がめきめきと鳴り、眼球が飛び出しそうになった。
唯「ぐぎゃ…あ、あ……」
憂「や……めて……」
憂は這うようにして和に近づき、足にすがりついた。
憂「やめ…て…」
和は憂を一瞥すると、唯を地面に叩きつけた。
そして憂のポニーテール部分を掴み、既にボロボロになっていた憂の身体を持ち上げた。
和「このシスコンがあああああ…」
和「うっ」
和「とうしいんだよおおおおお!」
右手で憂の頭を掴んだまま、和は左手で憂の肩のあたりをがっしりと掴み、力を込めた。
憂「あ…あ…」
純「う、うそ…まさか…」
和がさらに力を込めた。
憂「ぎあ…あ…あああああああっ!」
梓「や、やめてーっ!!」
和は獣のように目を見開いて叫んだ。
和「ヤマカアアアアアアアアアアン!!!」
ばきっという音と共に、憂の頭と身体は分離した。
梓純「いやああああああああああ!!!」
和は憂の頭部を天高く突き上げ、勝どきをあげた。
和「ウオオオオオオオオ!!」
まるで肉食の宇宙人の雄叫びのように、その声が周囲に響き渡った。
唯「う……い……」
和は憂の頭をべろりと舐めると、一気にかぶりついた。
むしゃむしゃと憂の頭を食い散らかす和の姿に、
教室から見ていた二年生はただただ脅えた。
和「ゲエエエエエエエエエ」
大きなゲップをしてから、和は言った。
和「ごめんね唯。食べちゃった。あなたの大切なもの食べちゃった」
和「イチゴみたいに食べちゃったああああああああああああああ!!」
唯「のどか…ちゃん…」
和は唯に近づき、両手で唯の顔を挟んだ。
唯「あががが……」
和「ペッしゃんこにしてやるわ。してやるわああああああ!!」
唯を挟む手に、和が力を込めた。
梓「やめて…もうやめて……」
梓はすすり泣きながら懇願したが、和がそれを聞き入れるはずもなかった。
和「ヒィーッウイッアヒャアアアアエア!!!」
いまわの際。
顔を潰される瞬間、唯は言った。
いつもの悪気のない笑顔で言った。
唯「和ちゃん。ごめんなさい」
べしゃっと音を立てて、唯の頭は潰れた。
和「が、あが……?」
激情の渦に飲まれていた和の精神が、ようやくその魔口から抜け出し始めた。
和「ゆ、い…」
和「ゆい」
和「唯?」
和は顔の潰れた唯をしげしげと眺めた。
和「あ、ああ…」
和「あああああああ…」
和「いやああああああああああ!!!」
我にかえった和を待っていたのは、
どんな地獄や悪夢にも勝る、圧倒的な重さでのしかかる現実だった。
最終更新:2012年03月14日 21:49