唯「いやあああああああっ!!」

和の手からは、春子の頭部がぶらぶらと垂れ下がっていた。
まるで戦国時代に相手の武将の首をとった侍のように、和はそれを掲げた。

和「どうだああああああああ!?すげえだろおおおおお」

律は立ち上がり、和に向かって叫んだ。

律「の、和っ!!みんなは…ムギと澪は……っ!」

和は口元に笑みを浮かべて答えた。

和「さああああああ!?とりあえず邪魔したやつはみーーーんなビリビリって」

和「ビリビリーって裂いてやったわよ!?チーズみたいにねえええええ!」

律「な…まさか澪を……」

和「あんなロミオだかデミオだか、わかんねえやつなんて知ったこっちゃねえよ!!
  あーでも、あのマユゲはビリビリーってしたよ!!
  ビリビリのバラッバラよ!!へひっ…ぎひゃひゃはゃひゃは」

唯「そん……な…ムギちゃん……」

律「なんで…なんでなんだよ和!唯が何したっていうんだよ!?」

和はげたげた笑いながら言った。

和「ひ、ひひっ!楽しかっただろうねえ?さぞかし楽しかっただろうねえ!?
  ヤンキーと二人してポイポイポイポイしてよおおお!?」

唯「ごめんなさい……ごめんなさい……」

唯は謝った。
和と、和の凶行の犠牲となったクラスメイトのために、何度も謝罪の言葉を口にした。

しかし、その誠心誠意を込めたその言葉も、今の和には届かなかった。

和「そうなんだ。じゃあ私、唯もビリビリにするね」

事務的にそう言うと、和は獲物を狙う猛禽類のように両手を広げた。

和「むひょうッ!」

そしてそのまま和は唯の方に猛然と走り出した。


唯「ひ、ひいっ!!」

唯は臆病のままに身を屈めて目を閉じた。

和「むひょううううう!!」

唯は死を覚悟した。
が、和は唯に襲いかかってこなかった。

恐る恐る、唯は目を開けた。

和「ふ、ふはへへへへへへ……なんだぁ?
  おま、おまおまおまえも裂けるチーズにしてやろうか?おぉ?!」

律「やってみろよ……ぜ、絶対唯は守るから…っ!」

律はなけなしの勇気を振り絞って和の前に立ち塞がった。
いや、勇気というよりはほとんど無謀だった。
怒りによって脳のセーブから解放された和の筋肉の前では、
律の小さな身体など文字通り裂けるチーズに等しかった。

和「酒のツマミにしてやるよおおお!!」

和が律に飛びかかった。


律「ふっ!」

律はさっとそれをかわした。
近くにあったパイプ椅子を取り、前に突き出した。

和「どらァ!!」

和が飛びかかると、律はパイプ椅子でそれに応戦した。

和「っ?!ンノヤロオオオオオオ!!」

律「くっ!唯!早く逃げろ!」

唯「あ……ああああ……」

律「早く!!」

人の領域を超えた和に対して律が対等に応戦できたのは、まさに恐怖のおかげであった。
度を超えた恐怖は、人間の生存本能を呼び覚ます。
律の身体は、生きるため…ただその一点のみに特化して動いた。

和「邪魔するな!!チーズ風情が
  私立桜ヶ丘女子高等学校第六十二代生徒会長の邪魔をするなあああえあああ!!」

律「うるせえ!」

律はパイプ椅子を降り下ろした。
がつんと音を立てて、和の頭に当たった。

和「ぎゃああああああああああ」

律「よし、もうひと押し!」

律が和にトドメを刺そうとした時だった。

唯「もうやめてええ!!」

頭を抱えて倒れる和を、唯が身を呈して庇った。

律「ゆ、唯……」

唯「もうやめてりっちゃん……」

律はゆっくりとパイプ椅子を離した。


和「ぐひっ」


唯「もうやめて…。和ちゃんは悪くないよ…」

律「で、でも唯!こいつはムギや春子を…!」

唯「私が…私が悪いの…」

律「……」

唯「和ちゃん、ごめんなさい…」

唯はゆっくりと和に手を差し伸べた。
和はそれに反応せず、がっくりと項垂れたままだった。

唯「和ちゃん…?」

和「……くっ」

和「くっくっくっ……」


和「くっくっくっ」

保健室に和の不気味な笑い声が響いた。

和「くっくっくっくっくっくっくっくっくっ」

律はパイプ椅子を拾い直した。

唯がそれを咎める視線を律に送ろうとする。
その瞬間、和はばっと立ちた上がった。
右手で唯の頭を鷲掴みにして、軽々と持ち上げる。

唯「い…痛い!和ちゃんやめて!」

唯は地に着かない足をばたつかせて懇願した。

和「そうだよ」

和「ずえええぇぇぇんぶお前が悪いんだよおおおお!!!」

和が手に力を込めると、唯の頭がみしみしと音を立てた。

唯「あああ!痛い!いだいいだいいだいいぃぃぃぃィィィィ!!」



律「や、やめろっ!」

律はパイプ椅子を和に向けて横薙いだ。
しかし和はそれを左手だけで受け止めた。


和は掴んだパイプ椅子をぐっと握り、フレームをねじ曲げた。

律「なっ……?!」

和「っしょおおおおおおおお!!!」

和は、窓に向かって唯を放り投げた。


唯「いやあああああああ!!」1カメ

唯「いやあああああああ!!」2カメ

唯「いやあああああああ!!」3カメ


律の目に、その光景はスローモーションで映った。

唯は頭から一直線にガラスに突っ込み、窓をぶち破って外に放り出された。

律「唯ィィィィ!!こ、ここ三階だぞ!?」

律が和の方を向き直ると、和が鬼の形相で目前に迫ってきた。


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