紬「こんばんは~」

店員「いらっしゃいませぇ」

夏目「・・・」

紬「名古屋の観光ガイドを下さい」

店員「少々お待ちくださいませぇ」

夏目「あ、おれも一つ」

店員「はぁーい」

紬「名古屋でどこへ行くか決まりました?」

夏目「いえ・・・」

車掌「うふふ、観光ガイドを手に入れてから行き先を考えましょう」ニコニコ

紬「あら・・・。気が早かったみたいね」テレテレ

夏目「ふふ」

車掌「・・・」

店員「そういえば、先ほど律さんが購入されていきましたよ」

紬「あらら」

車掌「二つは要らないですね」ニコニコ

紬「そうですね」ニコニコ

夏目(面白い人だな・・・)

車掌「それでは行きましょうか」

紬「はい。それでは~」

夏目「・・・」

店員「どうぞ。観光ガイドですぅ」

夏目「どうも・・・」

ガチャ

先生「・・・ん?」

夏目「・・・ふぅ」

先生「おい夏目、喉が・・・気が利くではないか」

夏目「お茶でいいよな」

先生「分かっとるではないか」ゴクゴク

夏目「・・・そういえば、貰ったヤツまだ飲んでなかったな」ゴソゴソ

先生「ぷふぁー。いい茶葉を使用してるわい」

夏目「ペットボトルで分かるのか、先生」

先生「お、それはなんだ?」

夏目「もらい物だけど」

先生「よこせっ」

夏目「・・・」

プシッ

先生「いただきまーす」ゴクゴク

夏目「ストロベリー☆ロマンス・・・甘そうだな」

先生「あっまッ! なんだこれは!」

夏目「あはは」

先生「こんなの飲めるか!」

夏目「ちゃんと飲まないと失礼だぞ」

先生「・・・胸が焼けるようだ」

夏目「ちょっと飲んでみる」ゴクゴク

先生「おちゃーっ」

夏目「・・・う・・・胸が・・・」

先生「ごくごく」

夏目「あ、こら! 全部飲むな!」

先生「おまえの分まで飲んでやる」ゴクゴク

夏目「やめろ、残せ!」

先生「やだよーん」ゴクゴク


――――シャワー室


ピチョン ピチョン

夏目「動くな」

ゴシゴシ

先生「湯船はないのか!」

夏目「あるわけないだろ。列車の中なんだぞ」

先生「ケチくさい」

夏目「そりゃ、列車の中に湯船があったら豪勢だけどさ。シャワーかけるからな」

先生「はいよ」

夏目「ネコのクセに風呂が好きなんだからな」

ジャーー

先生「私はネコじゃないと言っておるだろ。ふぃ~気持ちがいい~」

夏目「・・・これでよし」

先生「・・・っ」ブルブルブルブル

夏目「その仕草をして、ネコじゃないと言われてもな」

先生「さぁーてと」

夏目「あ、バカ! ドアを開けようとするな!」

先生「ん? ・・・あぁ、人の姿にならないといけなかったな・・・めんどくさい」

夏目「違う。おれが開けるからじっとしててくれ。同じシャワー室から男女が出てきたら大騒ぎだぞ」

先生「それなら早くしろ。名古屋の名物探しをしなくてはならんからな」

夏目「よいしょ」ヒョイ

先生「みつかるなよ?」

夏目「動くなよ?」

ガチャ

夏目「よし、誰もいな――」

ゴスッ

「きゃっ」

夏目「いつっ!」

先生「であいがしらか、マヌケな二人だ」

愛「いたたたたた」ヒリヒリ

夏目「松浦さん・・・」ヒリヒリ

愛「あ、夏目さん・・・すいません・・・」

先生「なにかと運が悪いヤツだな」

愛「その猫・・・」

夏目「!」ギクッ

愛「ぬい・・・ぐるみ・・・ですか・・・?」

夏目「あー、はい! そうです!」

愛「・・・そう・・・ですか」

先生「おい、部屋に戻るぞ」

夏目「・・・」

愛「・・・失礼します」

夏目「あ、あの・・・」


―――――1号車

愛「・・・置いてきたんですか?」

夏目「・・・はい。なにかと邪魔なので」

愛「・・・」

夏目(色々と突っ込みがある内容だけどな・・・。男がぬいぐるみと一緒にシャワー室に入っていたこととか)

愛「・・・」

夏目(それに気付かないほど落ち込んでいる・・・って事かな・・・)

愛「あの・・・話とは・・・」

夏目「発車する前に、秀輝に言われた事を気にしているのかと思って・・・」

愛「いえ・・・。それはもう・・・気にしてないんです」

夏目「・・・」

愛「悪いのは・・・全部私ですから・・・っ」

夏目「どうして・・・ですか?」

愛「私・・・なにかと・・・運が悪くて・・・嫌なんです」

夏目「・・・」

愛「私一人が被害に合うのなら我慢できます・・・だけど、それを他の人にまで」

夏目「それは・・・」

愛「気のせいなんかじゃありません・・・。律さんに迷惑をかけました・・・」

夏目「・・・」

愛「私が律さんの近くにいたから・・・風邪をひかせてしまったんです・・・」

夏目「・・・」

愛「秀輝さんにも・・・数え切れないくらい・・・っ」

夏目「田井中さんは分からないけど、秀輝は・・・迷惑とか思っていないと思う」

愛「・・・いずれ、そう思わせてしまいます」

夏目「!」

愛「いや・・・なんですっ・・・」

夏目「・・・」

愛「律さんにも、秀輝さんにそう思われるのが・・・嫌われる時が来るのが・・・っ」

夏目「・・・っ」

愛「・・・」

夏目「ひょっとして・・・さっきの電話って・・・」

愛「・・・はい。私・・・家――」

律「お、二人ともなにしてるのん?」

愛「あっ!」ビクッ

夏目「・・・」

律「なんだよ~、こんなとこにいないでさー、展望車に」

愛「し、失礼しますっ」ガタッ

テッテッテ

律「ありゃ・・・?」

夏目「・・・」

律「あははー、邪魔しちゃったかな・・・?」

夏目「いえ・・・」

律「マジな話だったんだな。座っていい?」

夏目「どうぞ」

律「・・・愛ちゃんさ、地元が青森なんだって」

夏目「・・・そこから乗車したと」

律「聞いていたのか。・・・でさ、ヴェガが南下していく程、顔色が悪くなっているような気がする」

夏目「・・・秀輝もそう言ってました」

律「あいつも気付いていたのか・・・」

夏目「・・・」

律「言ってくれないと分からない事が増えるんだよなー」

夏目「言えない事って、結構ありますよ」

律「ほぉ・・・」

夏目「・・・」

律「聞き出すしかないかな。・・・まだ時間はあるはずだ」

夏目「・・・」

律「・・・じゃあな」

夏目「田井中さん」

律「どした?」

夏目「松浦さんは・・・」

律「・・・」

夏目「・・・いえ、なんでも・・・ないです・・・」

律「・・・。じゃ」

夏目「・・・」

律「あ、私は律でいいからさ。夏目も展望車来いよ~」

スタスタ

夏目「・・・」

夏目(妖との出会いと別れを繰り返しているうちに
   自分でも人になにかしてやれる事があるんじゃないかと
   そう思い始めて・・・いたのかもしれない・・・)

夏目「・・・おれも塔子さんと滋さんに迷惑かけるのやだなぁ」

さとみ「こんばんは」

夏目「!」ビクッ

さとみ「ふふ、驚かせてごめんね」

夏目「・・・」

さとみ「悪いと思っていたけど、愛さんとのやりとりをみてたわ。ここ座るわね」

夏目「・・・はい」

さとみ「彼女、自分嫌いなのよ」

夏目「・・・」

さとみ「人に迷惑をかける自分が嫌いってとこかな」

夏目(・・・おれも、妖が見えることで自分を嫌う事があった)

さとみ「・・・」

夏目(おれが変な事を言うから・・・周りの人に不安を与えてしまって・・・
   誰でもないおれ自身が悪いんだと分かっていた・・・)

さとみ「・・・・・・・・・私と一緒ね」ボソッ

夏目(嘘を言う人が嫌われるのは当然だから・・・)

さとみ「・・・」

夏目(おれと松浦さんは・・・違う・・・)

さとみ「・・・」

夏目(車窓を見てるけど・・・真っ暗でなにもみえないはず・・・考え事かな)

紬「なにを見てるの?」

夏目「琴吹さんと秋山さん・・・」

澪「・・・」

さとみ「外の景色をね、見てたの」

ザァーーーーー

紬「雨が降っていてよく見えないわね!」

澪「その前に夜だな、むぎ」

紬「あら・・・」

さとみ「ふふっ」

夏目「ふふ」

澪「・・・」

紬「岐阜に着いたら降りてみない?」

さとみ「いいわね」

澪「到着するまで話でもしようか・・・。座っていい?」

夏目「どうぞ・・・」

紬「失礼するわね」

さとみ「どうぞ」ニコニコ

夏目「あ、秀輝・・・」

秀輝「こんばんは~、じゃあね~」ニヤリ

夏目「ぐっ・・・」

さとみ「含み笑いしてたわね」

紬「?」

澪「どういう意味だ?」

夏目「わ、分からないです・・・」

紬「・・・さとみさんはなにを見ていたの?」

さとみ「外の景色」

澪「真っ暗だけど・・・?」

紬「澪ちゃん・・・心で見るの」

夏目「心で?」

紬「そういう事よね、さとみさん」キラン

さとみ「そういう事・・・かな・・・?」

澪「さとみさん、合わせる必要もないよ?」

紬「澪ちゃん・・・」シクシク

夏目(・・・どうリアクションしたらいいのか・・・笑うところかな)

さとみ「むぎさん、テンションが高いみたいね」

紬「そう・・・?」

澪「そうだな、ライブに向けて気持ちが高翌揚しているって感じだ」

紬「そうね~」

夏目「・・・」

さとみ「普通の家があるでしょ?ほら」

紬「ふむふむ・・・」ジー

澪「・・・」

夏目「・・・」

さとみ「家があって、町があって・・・。想像してたの」

紬「・・・想像?」

さとみ「例えば・・・ほら、あそこに灯りがあるでしょ?」

澪「あの家?」

さとみ「そう。・・・もし私があの家に住んでいたらどんな生活をしているのかを考えるの」

夏目「・・・」

さとみ「毎朝、あの山を見ながら自転車で通学して
    帰りは隣の店で買い物をして」

紬「日曜日には友達とバス停で待ち合わせして、町へでかけたりして~」

さとみ「うん、そうそう。バスが一時間に一本しかないから、乗り遅れると大変だーとか言って」

澪「でも、絶対一人は遅れるんだよな」

夏目「・・・」

紬「・・・そうね」

澪「今、誰かの顔が頭に浮かんだよな、むぎ」

紬「澪ちゃんよ」

澪「私かい」

さとみ「ふふっ」

夏目「・・・」

さとみ「私は今、旅をしているから見るもの全部が特別な景色だけど」

紬「特別な景色・・・」

さとみ「そこに住んでいる人には当たり前の日常なのよね」

澪「確かにそうだな・・・」

夏目(昨日も似たような話をした・・・)

さとみ「自分の知らない人がそうやって生活しているんだと思うと嬉しくて・・・」

紬「さとみさん・・・」

澪「嬉しいって・・・?」

さとみ「自分の事を知らない人は普通に見てくれるじゃない」

澪「それって偏見が無いって事・・・? だとしたら逆じゃないかな・・・?」

さとみ「ううん。そうじゃなくて・・・特別視しないってこと」

夏目(分かる気がする・・・)

澪「よく・・・分からないな・・・」

さとみ「あ、ごめんね・・・。こんな話しちゃって・・・」

紬「・・・知らない人しか居ない場所」

さとみ「・・・うん」

夏目(おれが塔子さんに引き取られる前に出会った人たちは、最初のうちは優しいんだ
   だけど、おれが変な事を言ってしまうから・・・遠ざけてしまった・・・)

さとみ「話題を変えましょ」

夏目(おれを知らないままでいれば、普通に接してくれたはずのに・・・)

紬「さとみさんも行ったのよね?」

さとみ「えぇ、能登半島へ行った帰りにね。よかったわよ、兼六園」ニコニコ

澪「うん・・・。よかったぁ」

夏目「緑が綺麗でした」

紬「・・・・・・そうなの」

さとみ「そうそう。今は夏で緑が多いけど、春には梅と桜が。秋には紅葉。冬には雪景色」

澪「季節によって表情が変わるんだよな・・・いい場所だった」キラキラ

夏目「うん。先生が楽しんでいたから相当いい場所なんだと思う」

紬「観光名所と云われるだけあるわね・・・」

さとみ「あら?」

紬「私・・・行ってないの」ションボリ

澪「律と行って、その後に小麦たちと・・・。昼と夕方の二回も行ってきたよ」

紬「澪ちゃん、意地悪ね」

澪「ふふっ」

紬「うふふ」

さとみ「いいわねぇ」ニコニコ

夏目「・・・」

ガタンゴトン ガタン


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