律「ムギ?え?えっと あっそうか笑うとこか
  あはは・・・なんだよぅ そのツッコミ辛いボケは・・・」

卒業式のサプライズ教室ライブを感動のうちに終えたメンバーは
音楽室で突然、紬からの告白を受けて呆然とする

ようやく切り出した律の言葉にもあきらかに動揺が見えていた
ただ事ではない紬の雰囲気を皆感じていたからだ

紬「ふふ・・・リッちゃん ゴメンね ボケたんじゃないの・・・
  私 魔法天使 紬は今から天界に帰ります だから・・・これでお別れです」

澪「ムギが魔法天使・・・本当・・・なんだな」

梓「・・・私 なんかすごく納得できます
  ムギ先輩って不思議な雰囲気持っているし
  いつも魔法のように色々なもの用意してくれて・・・」

唯「すご~い!!ムギちゃん魔法使いだったの!!すごいねぇ!
  そっか~だからあんなに美味しいお菓子屋ケーキ 毎日出してくれたんだね!」

紬「ふふ そうなの でも安心してね
  魔法で作ったお菓子は美味しいだけじゃなくて身体にもいいのよ」

律「・・・待てよムギ
  そんなことよりお別れってどういう事だよ・・・どういう事なんだよ!」

紬「私はその名前の通り人と人との運命の糸を紡いで
  大きな繋がりにする幸運と出会いを司る魔法天使なの・・・」

紬の人間界での役割は一人では才能が開花出来ない少女達の縁をとり持ち
天賦の才能を発揮させ成功に導くことであった

紬「私が導いたのはみんなの出会いだけ 才能はもともとそれぞれが持っていたものよ
  放課後ティータイムはこれからもずっとその輝けるみんなの才能で活躍できるわ」

梓「キーボードはどうするんですか・・・」

紬「キーボードがなくてもバンドはできるわ ・・・」

澪「なにいって・・・」

律「ムギ・・・ふざけ・・・」


唯「ダメだよ!!!」


唯の叫び声にも似た声が音楽室に響く

唯「ムギちゃんがいない放課後ティータイムなんて 放課後ティータイムじゃないよ!!!」

そう叫んだ唯の顔は既に涙でくしゃくしゃになっていた

紬「唯ちゃん・・・ありがとう・・・」

紬の頬からも大粒の涙が流れ落ちる

紬「でも・・・私は残れない・・・それが決まりなの・・・
  私がみんなと同じ時を過ごせるのはいつも3年間だけ
  女子高生活の3年間にだけ舞い降りる魔法天使それがわたしなの」

唯「やだよ!決まりなんてどうでもいいよ!
  ムギちゃんお願い 一緒に・・・ずっと一緒にバンドしようよ!」

澪「作曲・・・ムギがいなくなったら誰が作曲するんだよ!」

紬「大丈夫 みんなできるわ みんなにはそれだけの才能があるの
  きっと今までよりそれぞれが個性的な歌を紡いでもっともっといい曲ができるはず」

律「ムギ・・・いつまで・・・いつまでならいれるんだ・・・」

別れは避けられない
既にそう悟った全員が泣いていた

紬「・・・今 卒業式が終わったこの放課後が・・・日が落ちたらお別れです」

梓「そんな・・・!?」



いまやどうしていいかわからず突如訪れた理不尽な別れに泣き崩れるメンバー達
その一人一人に優しく声をかける紬

紬「梓ちゃん・・・」

梓「ムギ先輩・・・ムギ先輩!
  私・・・ひっく・・・もっと・・・もっとムギ先輩と話したいこと・・・ひっく」

紬「梓ちゃんは本当は1番放課後ティータイムが大好きな子・・・
  どんな障害が待ち受けていても梓ちゃんの放課後ティータイムへの強い思いが
  きっと皆を固く結びつけるはず これからもみんなのことよろしくね」

梓「ムギ先輩・・・わあああぁん」


紬「澪ちゃん・・・」

澪「ムギ・・・私・・・」

紬「澪ちゃんはその素晴らしい才能を放課後ティータイムという場所でなら発揮出来るわ
  人見知りやあがり症のことを気にしてはダメ それも澪ちゃんの才能を構成する大切な要素なの
  澪ちゃんのことを全力でサポートしてくれる仲間達にもっともっと甘えていいと思うわ」

澪「ううっムギ・・・やだ・・・やだよぅ・・・」


紬「律っちゃん・・・本当にありがとう」

律「・・・」

紬「私がこの3年間、自分が天使であることも忘れて
  本当に学生生活を楽しめたのは律っちゃんのおかげなの

  時には引っ張り、時には抑えて、律っちゃんは本当の意味で
  しっかりと放課後ティータイムの舵取りができるリーダーだわ
  これからもあのデートの時のようにみんなをエスコートしてあげてね」

律「・・・デートって・・・どう反応すればいいんだよ・・・
  ムギ・・・ムギがいないとダメなんだよ・・・
  部長なんて・・・私がリーダーなんて おかしーし・・・」

紬「放課後ティータイムのリーダーは律っちゃんです
  天使をあれだけ楽しませたんだから自信持って!律っちゃん!」

律「ムギ・・・」


紬「・・・そして、唯ちゃん」


紬が3人に語りかけている間ずっとジュルジュルと鼻をすすり嗚咽していた唯
名前を呼ばれてビクっと驚く彼女を、紬は優しく後ろから抱きしめて語りかけるのだった

紬「唯ちゃん・・・あなたはその素晴らしい才能を開花させれば
  歌で世界を変えることが出来るほどの能力の持主なの」

唯「ふえ・・・?」

紬「私は一人一人では開花できない人達の繋がりを紡いで成長させる魔法天使・・・
  唯ちゃんはそのカギとなる中心的存在なの・・・
  あなたに関わる人達は全てあなたを成長をさせて自らも才能を開花させるのよ」

唯「え・・・えっとよくわかんないや・・・私どうすれば・・・」

紬「何もしなくていいの 唯ちゃんはずっとそのままでいるだけでいいの
  きっとあなたの歌は世界の人々の心に届くでしょう・・・
  放課後ティータイムをよろしくね、唯ちゃん・・・」

唯「・・・うん わかったよ 私、ムギちゃんのためにも
  ずっとずっと放課後ティータイムで歌うよ! 絶対!約束だよ!」

指切りをする紬と唯


紬「・・・では そろそろ時間です」



紬の言葉にハッとして泣きじゃくっていた顔をあげる4人
そこに見たものは大きな白い翼を広げて輝く魔法天使の姿だった

梓「ムギ先輩・・・綺麗・・・」

澪「天使だ・・・本当に天使が・・・」

かなり暗くなり始めた音楽室を紬の後光が優しく照らす

紬「みんな本当にありがとう 最高の・・・今までで一番最高の3年間でした・・・」

光が強くなると同時にキラキラと光の粒子を漂わせて紬の身体がゆっくりと浮かび始める

律「ムギ・・・ありがとう・・・絶対に忘れないからな!ずっと私たちの活躍を見てててくれよな!」

唯「ムギちゃん!またね!またきっと会えるよね!絶対に!絶対また会いに来てね!」

優しくうなずく紬の目から再び大粒の涙がこぼれた
しかしこの時、唯以外の誰もがこの様な天使との接触の記憶が残るはずもないことも、
また2度と会うことができないであろうこともしっかりと悟っていたのだった

だがそれでも・・・

絶対に忘れない
あのキラキラした日々を
絶対に忘れるわけがない
ムギちゃんというおっとりぽわぽわな少女が居てくれたことを


律「ムギーーーーーーー!!!絶対!絶対忘れないからな!」

紬「ありがとう・・・みんな・・・さようなら・・・
  私も・・・私もみんなと一緒に大学に行きたかった・・・」




5年後・・・
大学在学中にメジャーデビューを果した放課後ティータイムは
現役女子大生ガールズバンドとして瞬く間にトップアーティストの階段を駆け登っていた
梓の卒業を待って5人そろっての大学の卒業を記念した初の武道館ライブが間もなく始まろうとしていた

律「武道館か・・・まさか本当にここで演れるようになっちまうとはな・・・さすがに緊張してきたぜぃ」

澪「・・・だ、ダメだ!今までとは全然雰囲気が違う!いくら人って書いて飲んでも震えが止まらない・・・」

梓「澪先輩!しっかりして下さい!もう始まっちゃいますよ・・・ってあれ?私も震えが・・・」

律「まずいな・・・って唯まで何、惚けてるんだよ」

唯はギー太に貼った新しい放課後ティータイムのロゴステッカーをじっと眺めていた
今までのHTTというシンプルなロゴから今回の武道館ライブを機に新しいロゴに変えたのだ
デザイン決めはみんなでやったのだが、何故か全員一致で
HTTのバックにティーポットを掲げた天使の絵を入れることに決まったのだ

唯「この天使・・・なんか違うんだよね・・・」

律「違うっていまさら・・・デザインはみんなで決めたんだぜ・・・
  私も何であの時天使がいいって思ったのか不思議なんだが・・・ベタ過ぎだし」

唯「ううん 天使ちゃん自体はいいんだけど なんか物足りないないんだよね・・・あっ!」

何かを思いついた唯は突然マジックでステッカーに何か書き込んだ

律「おいおい、せっかくの新しいロゴステッカーにいきなり落書きとか・・・えっ!」

唯は天使に半月形の太い眉毛を書き込んでいたのだ

澪「こ・・・これは・・・」

梓「唯先輩!むったんのステッカーにも描いて下さい!」

唯「わーい! あずにゃんも気に入ってくれた?
  ね ね!なんかコッチだよね!すっごくしっくり来るんだよ」

澪「・・・なんか落ち着いてきた・・・ 唯、エリザベスにも頼む!」

律「ズルいぞ!唯!私のスネアのステッカーにもだ!」

唯「よしきた律っちゃん!」

初の武道館ライブを前に極度の緊張状態にあったHTTメンバーの心が一つになった



澪「何だろう・・・すごく落ち着く・・・この感じ」

律「なんだ澪?なんで泣いてるんだよ・・・もう感極まったのか?」

澪「ちが・・・そういう律もないてるじゃないか」

律「えっ?あれっ?ホントだ なんかこの天使のロゴ見てたら勝手に・・・」

梓「声が聞こえた気がします・・・」

唯「あずにゃんも!?あたしも聞こえた気がしたよ
  大丈夫落ち着いてがんばろうって・・・なんかすごく懐かしくて落ち着く声・・・」

律「これならいけそうだな!いくぞ みんな!最高のライブにしようぜ!」

澪「ああ、もちろんだ」

梓「やってやるです!」

唯「出番だよ!ギー太!」

唯にはギー太に貼ったステッカーの太眉天使が微笑んだように見えた


おわり