―――――売店車


夏目「そうだ・・・」

レイコ「どうした?」

夏目「すいません」

店員「いらっしゃいませぇ」

夏目「金沢の観光ガイドを一つください」

店員「はい、どうぞ~」

夏目「・・・」

店員「ありがとうございました~」

レイコ「なんだそれは」

夏目「これを見てどこへ行くか決めるんだ」

レイコ「・・・どれ、貸してみろ」

夏目「・・・」

レイコ「ふむふむ」

夏目「・・・あ」

愛「・・・っ」グスッ

夏目「な、なにか・・・?」

愛「い、いえっ」

夏目「・・・」

愛「し、失礼しますっ」

テッテッテ

夏目(泣いてた・・・?)

秀輝「よぅ、夏目」

夏目「あ、あぁ・・・」

秀輝「どうした?」

夏目「さっき、松浦さんが通ったんだけど・・・」

秀輝「うん」

夏目「泣いていたような気がするんだ」

秀輝「・・・」

夏目「・・・」

レイコ「おい、夏目」

夏目「すまん、先生。後でな秀輝」

秀輝「おう」

澪「・・・ふぅ」

夏目「・・・あ」

レイコ「これはうまそうだな・・・」ジュルリ

澪「あ、夏目・・・」

夏目「秋山さん・・・でしたよね」

澪「・・・うん」

レイコ「おい、夏目。早く開けろ」

夏目「そ、それじゃ。・・・ほら、入れ先生」

レイコ「おいしそうな名物が目白押しだぞ」

バタン

澪「・・・先生?」

先生「にゃふふん♪」

夏目「ガイドブック・・・そんなに面白いのか?」

先生「これを食べに行くんだぞ、楽しみではないか」

夏目「食べに行くって一言も言ってないぞ」

先生「にゃっ、にゃんだとーッ!?」

夏目「・・・」

先生「おいこら、夏目! ハントンライスだ、ハントンライスー!」

夏目(3回聞いてるな・・・秋山さんの溜息・・・)

先生「聞いとるのか夏目! ハントンだ!」

夏目(松浦さんも・・・)

先生「おい、ハントンライス聞いてるのか!」

夏目「おれの名前がハントンライスみたいじゃないか・・・」

先生「到着次第食べに行こうではないか、にゃふふん」

夏目「お店閉まってるぞ」

先生「どうして分かる」

夏目「書いてあるじゃないか、8時閉店って」

先生「にゃッ!?」

夏目「ふふ、残念だったな先生」

先生「不貞寝だ! もう知らん!」

夏目「本当においしそうだな」

先生「・・・」

夏目(食べに行こうかな・・・)

先生「そうだ、夏目。一つ忠告しておいてやる」

夏目「ん?」

先生「話によると、人が多く集まる場所にいる妖は性質が悪いのもいると聞く」

夏目「・・・」

先生「妖の数こそ少ないが、負の感情を好むヤツがいると聞く。私もよくは知らんがな」

夏目「・・・」

先生「レイコの活動範囲から離れているから、友人帳が奪われる危険性は無いに等しいが・・・」

夏目「・・・」

先生「余計なものを貰わんように用心しろよ、夏目」

夏目「余計なものって・・・?」

先生「呪いの類だ」

夏目「・・・」

先生「受けてからの対処がやっかいだからな、気を抜くな」

夏目「あぁ、分かったよ」

先生「・・・」

夏目「負の感情か・・・」

先生「つい先日、そういう妖を封印したな」

夏目「・・・タキ」

先生「そうだ」

夏目(タキに呪いをかけた妖は・・・、不安や恐怖を与えて喜んでいた)

先生「人が集まる場所はそういうのが生まれやすい」

夏目(そういう感情を好むのか・・・。確かに性質が悪い・・・)

先生「自ら手を出さずとも楽しめるというわけだな」

夏目「そうか・・・。ありがと、先生。気をつけるよ」

先生「・・・うむ」

夏目「明日のお昼にでも食べに行こうか、ハントンライス」

先生「にゃふん♪」

夏目「ふふ」

先生「まんじゅうもあるぞ! 喉が鳴るわい!」

夏目「饅頭まで食べるのか」

先生「な~なつ~じや~とあっじくっらべー♪」

先生「ぷー、ぷー」

夏目「はしゃぎつかれた子どもみたいだな。ちょっと実験してみるか」

ガチャ

バタン

夏目(またニャンコ姿でうろつかれたら困るから・・・)

コトン

夏目「鍵を掛けて」

ギュウギュウ

夏目「こうやって、ロープで固めておけば」

紬「なにをしているんですか?」

夏目「封印です。一応妖なんで」

ギュウギュウ

紬「まぁ・・・」

夏目「よし。これで先生は人の姿にならない限り開けられないはずだ」

紬「人の姿・・・」

夏目「うわ・・・ぁ・・・」

紬「よく分からないのですが」

夏目(バカだおれ・・・)ハァ

紬「『あやかし』ってなんでしょう?」

夏目「あだ名みたいなものです。先生はそんな強さを兼ね備えていますから」

紬「・・・ケンカですか?」

夏目「・・・」

紬「そういうのはやめさせた方が・・・」

夏目「精神的な強さです」

紬「そうですか・・・」ホッ

夏目(嘘はついていないよな。・・・また変なところみられたな・・・)

紬「ご紹介が遅れました。琴吹紬といいます」

夏目「夏目貴志です」

紬「松本からお乗りになったのよね?」

夏目「はい」

紬「なるほどなるほど」

夏目(なにがなるほどなんだろう・・・)

紬「それでは~」シャランラ

スタスタ

夏目「・・・あれは」

夏目(あれは松浦さんか・・・。会話しているみたいだな。琴吹さんと仲が良いのか・・・)

夏目「先生が起きるまでどこへ行こうかな」

スタスタ

愛「・・・」

夏目「・・・」

愛「し、失礼します」

夏目「あ、あの・・・」

愛「はい・・・?」

夏目(聞いてどうにかなるものでもない・・・よな・・・)

愛「?」

夏目「いや、なんでも・・・」

愛「あ、さっきは変なところをみられちゃいました・・・」

夏目「・・・」

愛「嬉しくて・・・つい・・・泣いてしまったんです・・・」

夏目(嬉し涙だったのか・・・)

愛「・・・」

夏目「・・・」

唯「どうしたの、こんなとこで?」

愛「唯さん・・・」

夏目(平沢さんだっけ・・・)

唯「立ち話もなんだから四号車行こうよ!」

唯「どうも、桜が丘高校けいおん部ギターの平沢唯です!」

夏目「・・・」

愛「わ、私自己紹介しましたよね・・・?」

夏目「は、はい。聞きました」

唯「好きな車両はここ、四号車です!」

夏目「・・・」

愛「わ、私は展望車です」

唯「青森から乗車してます! 愛ちゃんより一日早くです!」

夏目「・・・」

愛「私が乗車する時に秀輝さんと紬さんに助けていただいて。運よく乗車できました」

唯「あれはビックリしたよ~」

愛「ふふっ」

夏目「助けてもらって乗車・・・?」

愛「はい・・・。恥ずかしい話、ドアに挟まって・・・」

夏目「ドアに・・・挟まって・・・」

唯「引っ張ってもらったんだよね」

愛「はい・・・」

夏目(さっきも転んでいたな・・・)

唯「愛ちゃん、りっちゃんのお見舞いしてたの?」

愛「はい。健康祈願のお守りを渡したくて」

夏目(それを琴吹さんに渡していたのか)

唯「そっかそっか~」

和「唯、こんなところにいたのね」

澪「3人で話をしていたのか」

唯「そだよ~。座って話をしようよ」ポンポン

夏目(おれが席を譲るか・・・)

和「いいわ。むぎが来たら食堂車に来てね、私たち先に行ってるから」

澪「晩御飯済ませよう」

唯「はいよ~」

夏目(・・・タイミング逃した)

愛「あ、あの・・・澪さん・・・」

澪「ん?」

愛「さっきは・・・ありがとうございました」ペコリ

澪「ううん。お見舞いのリンゴありがとう」

愛「いえ・・・」

夏目(・・・気にしすぎだな・・・ため息の理由なんてどうでもいいはずなのに)

唯「リンゴ・・・」グゥー

和「澪、悪いけど唯と先に行ってるわね」

澪「・・・分かった」

和「唯、先にいきましょう」

唯「でっへっへ。失礼しやす」

テッテッテ

和「後でね」

スタスタ

愛「お腹が空いているんですね」クスクス

澪「リンゴと聞いてお腹が鳴るなんてな・・・」

愛「ふふっ」

夏目(飯山が言っていた事も少しは分かるかもしれないな・・・。楽しそうだ)

澪「・・・」

愛「もう陽が沈んでしまいましたね」

夏目(雲に反射した陽が綺麗だな・・・)

澪「・・・夏目はどこまで行くんだ?」

夏目「阿蘇駅までです・・・」

澪「そうか・・・」

愛「澪さんは?」

澪「梓と広島で降りる予定」

愛「京都からまた乗るんですよね、梓さん」

澪「うん。そう言ってたな」

愛「また会えるといいな」ボソッ

夏目「・・・アズサ?」

澪「一つ下の後輩で、一緒に部活動しているんだ。東京で一度降りて、今は変わりに和・・・
  さっき唯と一緒に食堂車へ向かった同級生が乗っているんだ」

夏目(眼鏡の・・・)

澪「松本までは唯の妹、憂ちゃんが乗っていたんだけどな」

愛「姉想いの方でした」

夏目「・・・学校の友達と乗っているんですね」

澪「むぎが商店街の福引で、ヴェガの乗車券を当てたんだ」

愛「羨ましいです」

夏目「・・・」

澪「五枚もな」

夏目「・・・!」

愛「強運の持ち主ですよね」クスクス

夏目「すごいな・・・」

澪「・・・夏目」

夏目「は、はい」

澪「さっきの人、先生って呼んでいたけど?」

愛「?」

夏目「あ、えと・・・」

澪「・・・」

夏目(うわ・・・説明しづらい・・・)

紬「あら?」

愛「・・・紬さん」

紬「みんなでお話していたのね~」

澪「律はどう?」

紬「ぐっすり眠っているわ」

愛「・・・」

夏目(なんとなく琴吹さんとは気まずい・・・。二回も変なところを見られているだけに・・・)

澪「愛さんも私たちと一緒に食堂車へ行かない?」

愛「い、いえ。・・・まだお腹空いていませんので」

紬「・・・」

夏目(急に居心地が悪くなった・・・)ソワソワ

澪「分かった。じゃ後でな二人とも、行こう、むぎ」

紬「うふふ。コックさんの料理はいつもおいしいわ~」ワクワク

スタスタ

愛「・・・」

夏目「・・・」フゥ

愛「・・・お姉さんを先生と?」

夏目「・・・色々と教えてもらっているんです」

愛「いいですね。そういう方がいらっしゃるのは・・・」

夏目「・・・」

秀輝「お二人さん、そこ座っていいですか?」

愛「ど、どうぞ・・・」

夏目「・・・」

秀輝「まいったよ。エレナと小麦にカメラ向けられてさ、『一発芸をやれ』って言うんだからな」

愛「ふふっ」

夏目「披露したんだ?」

秀輝「まぁ・・・。してやろうと思ったんだけどな、カメラ回してないとか言いやがって」

愛「クスクス」

夏目「・・・」

秀輝「危うく恥をかくところだった。アイツら俺をからかって遊んでいたんだよ」

愛「・・・なんだか楽しそうです」

夏目「・・・」

秀輝「うん。退屈はしないけど」

夏目(バランスが取れてるっていうのかな。いい関係なんだな・・・)

愛「わ、私はそろそろ失礼します」

秀輝「うん。じゃあね」

愛「は、はい」

スタスタ

夏目「・・・」

秀輝「さっき、売店で俺になにか聞こうとしていたよな、夏目」

夏目「え・・・?」

秀輝「愛ちゃんの事で」

夏目「あぁ・・・」

秀輝「・・・」

夏目(嬉し涙って言っていたし、気にする必要もないよな・・・)

秀輝「・・・」

夏目「いや、なんでもない」

秀輝「・・・」

夏目「秀輝・・・?」

秀輝「律が風邪をひいて寝込んでいるのは、自分のせいだと思っているんだよ」

夏目「・・・?」

秀輝「愛ちゃん、なにかと運が悪くてさ。近くにいるとよく分かる」

夏目「どうしてそれをおれに言うんだ?」

秀輝「似ているんだよな、夏目と愛ちゃん」

夏目「似ている・・・?」

秀輝「なにかを隠している」

夏目「・・・ッ!」

秀輝「それを探ろうなんて思わないけど、やっぱ楽しんで欲しいからさ。
   みんなが楽しければもっと楽しいって思える」

夏目「・・・」

秀輝「ごめん。なんか身勝手な言い方だった」

夏目「・・・」

秀輝「会って間もないのにな。・・・悪かった」

夏目「いや・・・。秀輝はいいヤツなんだな」

秀輝「違う。そんな綺麗な事言ってる訳じゃないんだ。俺のはただのエゴだ
   律や琴吹さんとは全然違う」

夏目「・・・」

秀輝「あ、すまん。こんな話まで」

夏目「秀輝は謝ってばっかりだな」

秀輝「痛いとこつくなー」

夏目「そんな話をするのは、気持ちが開放的だからじゃないかな」

秀輝「ちぇ、俺のほうが旅の先輩なのによ。核心付くような事言いやがって」

夏目「悪いな」

秀輝「あはは、変なヤツだな、夏目は」

夏目「ふふ」


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