「失礼します。特急ヴェガの乗客の方でしょうか?」

夏目「は、はい」

「乗車券の確認をさせて頂きます」

夏目「はい、どうぞ」

「ありがとうございました。
 私、当特急『ヴェガ』の車掌を務めさせていただきます。美弥 澪(れい)と申します」

夏目「・・・」

車掌「こちらの乗車証バッチを駅員が確認できる箇所にお付けください」

夏目「はい。・・・ほら先生」

レイコ「なんだ?」

夏目「このバッチを付けるんだよ」

レイコ「いらん」

夏目「付けないと乗れないんだぞ」

レイコ「・・・」シブシブ

車掌「・・・」

夏目「あ、僕の名前は夏目貴志。こっちは姉の・・・レイコです」

車掌「・・・先生とお呼びになっておられましたが」

レイコ「コイツの先生だから当然だ」

夏目「・・・」

車掌「左様ですか。それでは間もなく発車致しますのでご乗車ください。
   では、良い旅をお楽しみ下さい」

夏目「はい」

車掌「失礼します」ペコリ

レイコ「・・・」

夏目(まさか、レイコさんを姉として紹介するなんてな・・・おかしな話だ・・・
   それにしても、車掌さんってキレイな人だな・・・)

レイコ「あれはなにをやっているのだ、夏目」

夏目「?」

レイコ「ほら、あれだ」

夏目「あ・・・さっきの・・・確か、山口星奈さん・・・だっけ」

レイコ「手を上げて叩き合っているな」

夏目「あれは、ハイタッチだよ先生」

レイコ「ハイタッチ・・・?」

夏目「彼女たちなりの、お別れの儀式なんだと思う」

レイコ「ふむ・・・」

夏目(ああいう場面は苦手だ・・・)

レイコ「さっさと乗るぞ」

夏目「あぁ、出発だな」

prrrrrrrrr

ガタンゴトン ガタンゴトン

夏目「よいしょっ」

レイコ「狭いな」

夏目「先生・・・自分の部屋に戻らないのか?」

レイコ「なぜだ?」

夏目「狭いなら移動したらいいのに。この部屋の隣なんだからさ、窮屈しないぞ」

レイコ「じゃあ、この部屋に居るときだけ」

どろん

先生「依代の姿でいるとしよう」

夏目「ニャンコ先生、外に出るときは気をつけてくれよ」

先生「・・・ふぁ~」

夏目「よし、荷物の整理はこんなもんだな」

先生「ぷー、ぷー」

夏目「もう寝たのか・・・」

先生「ぷー、ぷー、ぷー」

夏目「先生と車内を歩きたかったけど、一人でいこう・・・」

ガチャ

夏目(おっと・・・)

「・・・ふぅ」

夏目「?」

「・・・こんにちは」

夏目「こ、こんにちは」

「・・・」

スタスタ

夏目(今のため息はなんだったのだろう)

夏目(ここが動力車で車掌室も兼ねてるのか)

ガタンゴトン

夏目「・・・」

車掌「あら、夏目さん」

夏目「あ、車掌さん」

車掌「なにか御用ですか?」

夏目「いえ、見て周っているだけです」

車掌「そうでしたか」

夏目「・・・」

車掌「・・・」

夏目「そ、それじゃ」

「車掌さん」

車掌「あら、さとみさん」

さとみ「ノートを落としてしまったみたいで・・・。車掌さんのところに届いていませんか?」

車掌「いえ、今のところは届いておりませんよ」

さとみ「そうですか。・・・あら?」

夏目「・・・」

車掌「松本から乗車された夏目貴志さんです」

夏目「こ、こんにちは」

さとみ「千歳さとみです。よろしくお願いします」ペコリ

夏目「・・・」

車掌「さとみさん、どこで落としたか心あたりありますか?」

さとみ「それが・・・。客車でくつろいでいた時に持っていたのは覚えているんですけど」

車掌「分かりました。それではご一緒に参りましょう」

さとみ「いえいえ、車掌さんの手を煩わせるまでも」

車掌「お気になさらないでください」

さとみ「おねがいします・・・」

車掌「それでは貴志さん」

『貴志くん』

夏目「!」ビクッ

車掌「どうかなされましたか?」

さとみ「?」

夏目「い、いえ・・・」

車掌「・・・失礼致します」

さとみ「それでは」

スタスタ

夏目(ビックリした・・・。塔子さんの声と似ているから・・・動揺してしまった)

「元気してる!? みらいだよ!」

夏目(テレビ撮影!?)

みらい「あー! 一日車掌を務める美少女アイドルに対してその反応はないんじゃないかなぁ~」

夏目(名取さんよりすごいオーラだ・・・!)

みらい「ま、いいや。キミはこの売店車へ何しに来たのかなー?」

夏目「え、えと・・・」タジタジ

みらい「次の停車駅、金沢の観光ガイドがお勧めだよ!」

夏目「そ、そうですか」タジタジ

みらい「・・・」

「カットー!」

「チッ」

夏目「・・・ホッ」

みらい「すいません。お騒がせしてしまって・・・」

夏目(あれ・・・?)

「次に行くぞみらい!」

みらい「はい、マネージャー!」

夏目「・・・」

みらい「本当にすいませんでした」ペコリ

テッテッテ

夏目「・・・ハァ」

「だいじょうぶですか?」

夏目「え・・・あ、はい」

「すいません。ご迷惑をお掛けしました~」

夏目「どうして店員さんが謝るんですか・・・?」

店員「お客様に迷惑をお掛けしているのは事実ですから」

夏目「・・・?」

店員「彼女の一日車掌の仕事を受け入れた私たちの責任にもなりますので」

夏目「そうですか・・・」

店員「お詫びと言っては何ですが、お飲み物でも提供させてください~」

夏目「い、いえ・・・そこまでは・・・」

店員「そうですか~?」

夏目「ちゃんと払います。このオレンジジュースを」

店員「ありがとうございます~」

夏目(乗って間もないのにこの疲れは・・・)フラフラ

ガタンゴトン

夏目(ここが客車一号車か・・・。そこの座席で休もう・・・)

スト

夏目「「 ・・・ふぅ 」」

「ん?」

夏目「うわっ」

「えっと・・・?」

夏目「す、すいません! 座っていると気づかなくて・・・!」

「いや・・・」

夏目(うわぁ・・・なにやってんだよ、おれ・・・知らない人の隣にいきなり座るなんて・・・)

「松本から乗って来たの?」

夏目「は、はい」

「そっか・・・。これからよろしく」

夏目「よ、よろしくお願いします・・・」

「私の名前は秋山澪」

夏目「おれの名前は夏目貴志です」

澪「私は高校三年生・・・」

夏目「高校二年です」

澪「・・・」

夏目「・・・」

「澪ちゃーん!」

「ミオサーン!」

澪「あ、小麦とエレナさん・・・」

小麦「律ちゃんが風邪をひいたって・・・おや、この子は?」

エレナ「どちらサマデスカ?」

澪「松本から乗車した」

夏目「夏目・・・貴志です・・・」

小麦「私の名前は伊東小麦! よろしくね夏目君!」

エレナ「エレナ・ユーリ・ノーディス。ヨロシクですワ」

夏目「よ・・・よろしく・・・」

小麦「それで、律ちゃんの様子はー?」

澪「熱で寝込んでいるだけだから」

エレナ「ソーデスカ」

夏目(席を移動しよう)

「澪ちゃーん! タオル持って来たよ~」

澪「ありがとう、唯」

唯「いえいえ~、おんや、見かけない顔ですな?」

夏目「・・・夏目貴志といいます」

唯「貴志くんか・・・よろしくね!」

夏目「・・・」

小麦「あとでお見舞い行くね~」

エレナ「それデワ~」

澪「失礼するな」

夏目「は、はい・・・」

唯「お願いね澪ちゃん」

澪「あぁ、唯は和のところへ行っててくれ」

唯「はいよ」

テッテッテ

夏目(やっと落ち着ける・・・)ゴクゴク

先生「にゃんにゃん♪」

夏目「ブフーッ!」

先生「お、こんなところにいたのか夏目~」

夏目「なにやってんだよ先生! ニャンコの姿で歩くなって言っただろ!」

先生「む・・・顔を引っ張るではにゃい・・・」ムググ

夏目「は、はやく人の姿に変わってくれ」ヒソヒソッ

先生「しょうがない」ヤレヤレ


「――あずさちゃん」


夏目「人が来ないうちに、はやく!」ヒソヒソッ

先生「今変わってやるわい」

「いい旅をしてきたのね」

どろん

「あら?」

夏目レイコ「「 あ 」」

「今、ネコちゃんから人へ変わりませんでしたか?」

夏目「・・・」サァー

レイコ「おいこら、見られたではないか夏目」

「目の錯覚かしら」ゴシゴシ

夏目「疑ってるから自然体でいてくれ、先生」

レイコ「・・・」

「・・・疲れているのかしら」ゴシゴシ

夏目「目が疲れているんですか?」

「・・・そうかもしれないです」

レイコ「夏目、それくれ」

夏目「おれの飲みかけだけどいいのか?」

レイコ「構わん」ゴクゴク

「仲がよろしいのね」

夏目「あ、はは・・・」

レイコ「・・・ぷはぁ」

「むぎ、律の個室へ行きましょう」

紬「そうね。和ちゃん唯ちゃんは?」

和「先に向かわせたわ」

紬「分かった。それでは失礼します」

夏目「は、はい」

和「あの子は?」

紬「名前聞くの忘れてたわ」ウッカリ

夏目「・・・ふぅ」

レイコ「・・・」ポイッ

夏目「先生、飲み終えたからって車内に捨てるのはいけないんだぞ」

レイコ「拾っておいてくれ」

夏目「まったく・・・あ」

グニャ

「きゃっ」

スッテーン

夏目「だ、大丈夫ですか!?」

「いたたたた、大丈夫です・・・」

夏目「すいません」

「いえ、私の運が悪いからこうなってしまっただけですから・・・」

夏目「おれの連れが投げたのをあなたが踏んでしまったんですから・・・そこに座ってください」

「は、はい・・・よいしょ」

夏目「怪我はありませんか?」

「だ、大丈夫みたいです」

夏目「・・・ほっ」

レイコ「・・・くー」

「お姉さんですか?」

夏目「あ、はい・・・。なんで寝てんだよ先生っ」

「私の名前は松浦愛といいます」

夏目「夏目・・・貴志です・・・」

愛「お姉さんのお名前は・・・?」

夏目「レイコ・・・です・・・」

愛「一緒にヴェガに乗るなんて仲がいいんですね・・・羨ましい・・・」

夏目「勝手に付いてきただけですから」

愛「まぁ」クスクス

レイコ「・・・すー」

「お、愛ちゃん」

愛「あ、秀輝さん」

秀輝「見かけない顔だね」

夏目(また自己紹介するのか・・・)

レイコ「・・・くー」

夏目「夏目貴志です。こっちは姉です」

秀輝「俺は大村秀輝。始発駅の稚内から乗ってるんだ」

夏目「始発駅からですか・・・」

愛「わ、私は青森からです」

レイコ「・・・すー」

夏目「・・・」

愛「・・・」

秀輝「・・・」

レイコ「・・・くー」

愛「そ、それでは私はこれで失礼します」

夏目「本当に怪我とか・・・?」

愛「は、はい。大丈夫です」

秀輝「・・・」

夏目「・・・」

愛「それでは」

スタスタ

レイコ「・・・すー」

秀輝「座っていい?」

夏目「ど、どうぞ・・・」

秀輝「松本から乗って来たの?」

夏目「はい・・・」

秀輝「えっと・・・俺は高校三年生だけど・・・夏目は?」

夏目「二年です」

秀輝「なるほど、萎縮するわけだ」

夏目(萎縮というか・・・)

秀輝「俺は秀輝でいいからさ、さんもくんも無しで」

夏目「・・・」

秀輝「なんか、星奈の台詞をパクッたみたいだな」ブツブツ

夏目「?」

秀輝「いや、こっちの話。・・・夏目はどこまで行くの?」

夏目「阿蘇駅まで・・・です」

秀輝「ふーん。最終駅の一歩手前か・・・。なんかもったいないな」

夏目「もったいない・・・?」

秀輝「阿蘇駅の次で終着駅に到着するから」

夏目「・・・特に、そんな感じは無いですね」

秀輝「ごめん、その敬語もやめてくれないかな」

夏目「・・・」

レイコ「・・・」

秀輝「いや、実を言うと・・・ヴェガの乗客の男女比がおかしくてさ」

夏目「男女比?」

秀輝「うん。年が近い人は女性ばっかりで、夏目が乗ってきてくれてちょっと気が楽になった」

夏目「・・・」

秀輝「同じ目線で話してくれると俺も助かる」

夏目「いいのか?」

秀輝「あぁ、それでいい」

夏目「・・・分かった」

秀輝「分かるだろ、そういうの?」

夏目「なんとなく・・・」

レイコ「・・・」

夏目(同じ景色が見える者同士、田沼とタキ・・・。そんな感じだろうか)

秀輝「旅の途中だから、そういうのできるだけ無しにしたいんだ」

夏目「旅・・・」

秀輝「・・・ほとんど星奈の受け売りみたいなもんだけど」

夏目(旅をしてきて出会った妖もいたな)

秀輝「・・・」

夏目(そして旅立って行った)

秀輝「夏目?」

夏目「え?」

秀輝「ボーっとしていたから」

夏目「いや・・・」

秀輝「そうだな・・・。ヴェガについて聞きたいことはないか?」

夏目「・・・特には」

秀輝「そうだな、自分で見て周ったほうがいいかも」

夏目「・・・」

レイコ「・・・」

秀輝「そんじゃまたな、夏目」

夏目「あぁ・・・」


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