澪「なぁ、和」

和「どうしたのさ、秋山さん」

澪「和ってさ…」

和「うん?」

澪「そ、そ、その!どうして唯と付き合ったりしてないんだ…?」

和「……」

和「……なんだ?俺が琴吹さんと付き合ってるの、そんなに変か?」

澪「い、いや!さ、そう言うことが言いたいわけじゃなくて!!ただ単に『どうしてなんだろう』って思ったんだ」

澪「ほら、和と唯もさ、私と律みたいに幼なじみで小さい頃からお互いに傍にいたわけだろ?」

和「まあ。幼稚園ぐらいから一緒だしな」

澪「うん、だからさ、その……ムギと付き合ってるうんぬんがおかしいとかそういうことじゃなくて」

和「……つまり、どうしてこの2人は自分と律のように恋愛関係に発展しなかったのかってことか?」

澪「そ、そ、そ、そ、…そんな感じ///」カァァ

和「なんでそこで顔が赤くなるんだよ?」

澪「へっ!?あ、いや、なんかすまん。恋愛関係って言葉がなんか恥ずかしくて///」

和(……秋山さんはたまに見た目のわりに精神的に幼いな)

和「……あのさ」

澪「う、うん」

和「別に隠そうとは思ってなかったんだけどさ」

澪「うん」

和「一応、唯と付き合ってたことはあるよ」

澪「……えっ」

和「……」

澪「……それ本当か?」

和「こんなこと嘘ついてどうするんだよ」

澪「……知らなかった」

和「そりゃまぁ、今はじめて言ったからな。逆に知っていたら驚くというか…」

澪「……それはいつぐらいの話?高校でか?」

和「いや、高校じゃないよ。中学3年の終わり3ヶ月くらい」

澪「……それはまた妙な時期に」

和「たしかにな。中学同じだったやつには、3年間、ずっと付き合ってたと勘違いされてたみたいだし」

澪「やっぱ、唯って中学のときからあんな感じに和とはべったりだったのか?」

和「まぁ、さすがに今は抱きついたりはないけど、小学校、中学校はひどかったからな。勘違いされても仕方ないとは自分でも思うよ」

澪「そうなのか」

和「あんだけいつも一緒にいたらそう思われるのも無理ないってくらい、唯と2人でいるのは当たり前だったし」

和「でも、幼なじみってそういうもんだよな。恋愛感情抜きにしてもさ」

澪「ん?」

和「生活空間が重なりすぎって妙な連帯感というか…依存性というか。ほっとけないというか。目の届く範囲に自然といるっていうかさ。上手く言葉にできないけど」

澪「……あぁ、言いたいことわかるよ」

和「わかってくれるとありがたいね」

澪「でも、……てことは高校入学の時はもう」

和「あぁ。別れてたな。今思えば、よくもまぁ、俺も唯も普通に幼なじみの状態に戻れたと思うよ」クスクス

澪「たしかに…。唯とか未練がましそうにグダグダしそうだけど…」

和「…高校1年のはじめって新しいことがたくさんで、生活リズムも無理矢理に変えなきゃいけなかったから。そういうのが性格上よかったのかもな」

和「心に余裕持つ暇がなくてあれこれ考えるくらいなら寝ていたいみたいな」

澪「あぁ、なるほどな」

澪「……聞いていいのかわからないんだけど」

和「なんだ?」

澪「そ、その、どっちから『付き合おう』って言ったり『別れよう』とか言ったんだ?」

和「……」

澪「あ、嫌ならその、言わなくていいぞ?」

和「……いや、別に隠すことでもないし。『付き合おう』は唯からで『別れよう』は俺から」

澪「……そうなのか」

和「まぁ、俺からっていうより『別れよう』はお互いに、かな。……憂はいまだに俺から一方的に別れたって思ってるみたいだけど」

澪「あぁ、そっか、憂ちゃんは知ってるのか」

和「……それはまぁ、唯のことだからな。大抵のことは憂に筒抜けだろ?例外はあるだろうけどさ」

澪「……和はどうして唯と別れようって思ったんだ?」

和「……」

和「俺が唯にもらってたものがいつだって…」

和「心をえぐられるくらいの優しさの域をでなかったからかな」

澪「……優しさ……唯の性格が嫌だったからとか?」

和「いや、何年間幼なじみやってると思ってんだよ。唯の性格とかそんなのはもう許容範囲。あの馴れ馴れしいとこも、妙な熱中性も、怠け者なとこも」

澪「……そっか」

和「秋山さんだって、律に対しては同じようなもんだろ?妙に憎めないっていうか、でも、心の底から嫌ではないというかさ。たまに本気で腹立つこともあるけど」

澪「……あぁ、うん。そうだな」

和「人間として、幼なじみとして、俺は唯を嫌いになったことは一度もないよ」

澪「うん」

和「でも、そういう気持ちと恋愛感情ってのは必ずしも一致しないんだよな。たとえそれが幼なじみであってもさ」

澪「……」

和「唯といると楽しかったし、あいつは本当に俺のこと信頼して頼っていてくれたように思う」


和「でも、唯と付き合ったら付き合ったでその分、罪悪感めいたものもたしかに感じててさ」

澪「罪悪感…」

和「まぁ……さ、ようは幼なじみとしてはよくても恋人としては俺では唯には役不足だったってことだ」

澪「……自己完結?」

和「かもな。…うすっぺらい思いでも積み重ねたらいつか本物になるのかもしれないって思ってた俺のあさはかな願望の結末だよ」

和「唯には、悪いことをした」

澪「……うすっぺら」

和「……」

澪「……なぁ」

和「ん?」

澪「間違ってたら悪いんだけど和ってさ…」

和「なんだ?」

澪「本当に好きだったのは唯じゃないんじゃないか?」

和「……」

和「……さあな。もう昔のことだし」

和「きっと、言葉にしたら色んなものを壊してしまいそうだからなぁ」

澪「……」

和「それに今はもう、俺は琴吹さんがいるのが幸せすぎて仕方がないよ」

澪「……そうか」

和「ん」

和「あ、あとさ」

澪「ん?」

和「律は俺みたいなやつじゃないから…秋山さんと律は俺らみたいにならないよ。だから、そこは安心しなよ」

和「律は、本当に秋山さんが好きだからさ」

澪「……」

澪「……ん、ありがとう」


12通りめ 澪と和 終わり



律「えっ…な、なんでここに…!?」

姫子「いや、なんでって言われても…ここでバイトしてるからね」

律「バイト……そいつは知らなんだ」

姫子「はは…まぁ、寄ったからにはなんか買ってってね!」

律「あぁ…腹減ってるからそのつもりだよ」

姫子「それは良かった」

律「みたいだな」

姫子「ごゆっくり~」

律「おう」スタスタ

律(あ、今日は◯□の発売日だったっけな…読んでくか)ヒョイ

律(フムフム…)ペラッ

律(……こんな格好してくれったって澪は恥ずかしがってしてくれないだろうな~)ペラッ

姫子「いらっしゃいませー、あ、マイルドの10ですね」

律(あいつ、制服以外でスカートはかないからなー。……まぁ、はかれてもこっちが困るけど)

律(あ、これかっけー)ペラッ

姫子「こちらあたためなさいますか?」

律(……今月号つまんね)ペラペラペラパタン

律(パン買うか…)モドシ

姫子「ストローおつけしますか?」

律(……)

バイト男「姫子ちゃん、今日なんか元気じゃね?」

姫子「えっ、そんなことないですよ?」ハハハ

バイト男「いや、元気っしょ、その声の大きさで元気じゃないとかありえないっしょ」ニヤニヤ

姫子「そ、そうですかね…」

律(……パン、パン……っと)

バイト男「そうだって!てか、姫子ちゃーん、いい加減メアド教えてよ~、てか、これ言うの何回目だよってな」ヒャヒャヒャヒャ

姫子「あはははは……いや~…その……」

バイト男「何々?いいじゃん、別に教えてくれたってさ~減るもんじゃないし」

バイト男「俺姫子ちゃんになら、メール毎日送っちゃうよ~はりきっちゃうよ~」

姫子「いや~、ちょっとですねぇ~……」

バイト男「なんだよぉ~減るもんじゃないし、メルアドぐらいいいじゃん、な、な?」

姫子「あはは…いや、私、まだ高校生ですし…」

バイト男「いや、そんなの関係ないだろ?あ、てかさ、夜帰るとき危ないじゃん?なんなら俺、送ってこうか?てか、送っちゃうよ!?」

姫子「……いや、あの…それはちょっとわるいですから…」

バイト男「いや、大丈夫だからさ~今日終わるの8時だよな?俺も同じだし、一緒に帰ろうよぉ~~姫子ちゃーん」

姫子「……いや、その……」




トンッ


律「立花ァ、これ、レジお願い」

姫子「……あ」

姫子「す、すいません。お客さん来たので」

バイト男「ちょっ、姫子ちゃん」

律「あ、あっためも頼むな」

姫子「あ、う、うん。……少し切るね」ピッ

律「おう!」ジャラッ

姫子「はい、おつりとパンね」

律「ん、サンキュー」

姫子「ありがとうございました。また明日がっこ─」

律「あ。あと今日何時にバイト終わるんだ?」

姫子「………え?」

律「バイトが終わる時間いつ?」

姫子「8時だけど…」

律「……あとちょっとだな。じゃあ、コンビニの前で待ってるから一緒に帰ろうぜ!」ニカッ

姫子「……え?」

律「待ってるからな!1人で帰るなよ!!」ジャッ

スタスタ
ピロピロ~ン

姫子「あ、ありがとう…ございました……」

バイト男「ちょっwwwあいつなんだよ。『一緒に帰ろうぜ』とかマジでキメーんだけどwww」

姫子「……」

バイト男「なぁ、マジキメーよな、マジ。姫子ちゃんもそう思うだろ?」ヒャヒャヒャヒャ

姫子「私は…」

バイト男「ん、なになに?てか、メルアドおせーて、おせーて!」ケラケラ

姫子「他人に対してそんなことを言うあなたの方がよっぽど気持ち悪いと思います」

バイト男「………っへ?」

姫子「メルアドは教えられません。もう時間なので失礼します。お疲れさまでした」ペコッ

バイト男「え?え?ちょっ、まっ」

姫子「あともう話しかけないでくださいね。あなたの話し方は不快以上の何物でもないです。話しかけたらセクハラされたって店長に話しますから」

バイト男「」

姫子「では」スタスタ

律(……澪からメールの返事こねーし)モグモグゴックン

律(いつもなら返ってくる時間帯なのになぁ…)ハァ

律(………いっつも待ってるのは俺ばっかじゃねーか)パタン

律(………バカ澪)

「……田井中くん」

律「お、来たか!」ニコッ

姫子「待ったよね?」

律「いんや、ちょうどパン食い終わったから待ってないよ」ヘヘヘ

姫子「そっか…」

律「ん…」

姫子「……」

律「……」

律「……んじゃ、帰ろうか」

姫子「うん、そだね」

テクテク

姫子「今日は澪と一緒じゃないの?」

律「あ、あぁ。たまには単独行動もしないとな」ハハハ

姫子「へー。でも、田井中くんと澪っていつも一緒にいるイメージしかないなぁ」

律「そうか?そこまで一緒にいるわけじゃないけどな…」

姫子「いやー、一緒にいるでしょ。多分一緒にいるのが当たり前過ぎて意識してないだけじゃない?」

律「そかな?」

姫子「そうだよ」

律「……立花が言うならそうなのかもな」フーン

姫子「なにそれ…」クスッ

律「てか、立花ってここら辺にすんでるんだな」

姫子「うん。……◯×の近くって言ったらわかるかな?」

律「あー、あそこか。てか、だったら家以外と近いんだな」

姫子「?」

律「俺、×◯の方なんだよ」

姫子「あ、じゃあ近いね」

律「な。近いな。
今まで会わなかったのが不思議だな」フヘヘッ

律「もしかして、小学生とか中学生の時に道ですれ違ってたりして!」

姫子「……あぁ、うん」

姫子「そだね」タハハ

律「いやー、しかし立花があのコンビニでバイトしてるとはなぁ」

姫子「まぁ、言ってなかったし、言うほど今まで話したことなかったからね、田井中くんと」

律「あぁ…たしかにそうだな」

姫子「……」テクテク

律「……」テクテク

姫子「……変かな?」

律「なにが?」

姫子「私がコンビニでバイトしてるの」

律「いや、変てか、ふつーに驚いてるだけ。
まさかあそこでバイトしてるとはって感じ」

姫子「いつもあのコンビニ使わないの?」

律「ん?なんで?」

姫子「結構前から私、あそこでバイトしてるんだけど、会ったの今日が初めてだからさ……」

律「あー…そういやそーだな。いつもは素通りするかな。
コンビニ寄るとしても…澪がKコンビニ好きだからそっち行くことが多いし」

姫子(……澪)

姫子「そ~なんだ」

律「おう。なんか、あそこのデザート好きなんだ、澪」

姫子「あ~。聞いたことあるかも、澪がそこのデザート好んで食べてるって」

律「え…」

姫子「?」

律「……それ、どこで聞いたんだ?」

姫子「えーっと、たしかファンクラブの子かな?
たまたま澪が買ってるのを2、3回見たファンの子がいたらしくて」

律「そうなんだ…」

姫子「うん。まぁ、私はよく知らないけどね」

律「……」

律(……俺だけが知ってることだと思ってたのにな…)

律(HTTを通して澪が色んな人に知ってもらえるのは嬉しいけど、……)

律(こんな風に俺だけが見ることが出来る側面が減ってくみたいなのは……)

律(やっぱ、気分悪いな…)アーヤダヤダ

姫子「……」

姫子「やっぱさ」

律「ん?」

姫子「田井中くんは、澪が人気なのって彼氏としてすんごい嫌なわけ?」

律「へっ?なんだよ、いきなり」

姫子「いや、今すっごい嫌そうな顔してたから…」

律「……そうか?そ、そんなことないけどな」ハハハ

姫子「……さっきはありがとね」

律「なにが?」

姫子「コンビニで。わざわざ私にレジ頼んだでしょ?」

律「……」

姫子「あのバイト男、シフト私と合わせてきたり、メルアド聞いてきたりで。
初めのうちは親切そうだな~って思ってよかったんだけど…」

姫子「最近ちょっと、つきまとわれてて。バイト中でもダラダラ話しかけてくるし」ハハハ

律「そーなのか」

姫子「うん。でも、今日は田井中くんがいたから助かったよ」

姫子「ありがとね、田井中くん」ニコッ

律「……」

姫子「……どうかした?」

律「いや、いきなり一緒に帰ろうとか迷惑かなと思ってたからさ、
そういう風に感謝されるとは…思ってなかったから」

律「ちょっとジーンときたわ」ハハハ

姫子「そりゃ、ちょっとはいきなり帰ろうって言われて驚いたけどでも、……それ以上に嬉しかったから」

律「……なにが?」

姫子「妙な優しさ……?」

律「妙なって…」

姫子「たはは…じょーだん。でも、学校以外で話す機会なかなかないから嬉しいんだよ?こういう風に田井中くんと話せるのは、さ」

律「……まぁ、ならいいけど…」

姫子「……あ、そろそろ道明るいし1人で帰れるから」

律「ん、………あぁ………」

姫子「じゃあ、送ってくれてありがとね!また明日学校で!!」

律「……あ、あのさ」

姫子「なに?」

律「またバイトの日は、送ってくからさ、遠慮しないで言えよ?」

姫子「え…でも…」

律「また今日みたいにバイト男と帰られて何かあっても困るしさ!」

姫子「……いや、それは」

律「まぁ、まぁ。本当に遠慮すんなよ!次はいつなんだ?バイト」

姫子「……明後日」

律「明後日か。終わりは今日みたいに8時か?」

姫子「う、うん…」

律「わかった。じゃあ、また明日な~!気を付けて帰れよ」スタタタタ

姫子「……あぁ、うん、バイバイ……」

姫子「………」

姫子「………これっていいのかな?」


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