付き合い始めて数カ月したある日の休日。
もう暖かくなって良い月になったのに、一向に暖かくなる気配はない。
外に出るのも少し嫌だったけど、学校で出された宿題が、まだ終わっていない。

澪「図書館にでも行くか・・・。」

部屋にいると、集中できない私は、家を出て、近くの図書館へ足を伸ばした。

澪「やっぱり春服じゃ、少し寒いな・・・。」

マフラーを巻いて家を出る。
このマフラーは梓とお揃いで買ったものだった。
お揃いで買ったものをいつもより長く身につけていられるこの気温に、
感謝すべきなのかもしれない。



商店街を抜けて、図書館の道へと向かうその反対側に梓が目に入った。
声をかけようと手を挙げようとしたけど、ためらった。
なぜなら、梓は男と二人きりでいたからだ。
仲よさそうに、連れ立って歩いている。

澪「だ、誰だ・・・?」コソコソ

澪「梓のお父さんか?・・・にしては、若すぎるな服装が・・・。」コソコソ

澪「もしかして、お兄さん?でも、梓はひとりっこのはずだし・・・。」コソコソ

かんがえすぎか、親戚かなんかだろう。
と、思った私は次の瞬間、愕然とした。
男が強引にだけれど、手を握った。
梓は驚いて、手を振りほどいたけれど、嫌がっている様子でもない。

澪「梓・・・。」

私はいつの間にか当初の目的を忘れ、自分の家へと踵を返していた。
せつない胸に冷たい風が身にしみた。




放課後、律たちには先に帰ってもらって、私たちは二人きりで、部室にいた。
私は、この前の男のことを聞こうと、梓と二人きりになったのだ。

梓「中学の時の同級生で・・・たまたま偶然あったんです。」

澪「そうか・・・でも、私には―。」

梓「ごめんなさい!澪先輩!」

澪「え?」

梓はそう言ったきり頭を下げて動かなくなった。
小刻みに震えている。泣いているのだろう。

澪「あ、梓?どうし―。」

梓「別れてください。澪先輩」

澪「な?!どうして?!」

梓「ごめんなさい!」


先日二人でいた男との出会いは本当に偶然だったらしい。
久しぶりに会ったから話が弾み、
どこかで座って話そうと場所を移動していた時、私が出くわしたようだった。
話しているうちに、男から「前から好きだった。付き合ってくれ」と切り出されたらしい。
男からそう言われたのは初めての体験だったけど、
胸がどきどきして、男の真剣な顔を見て、
自分もなぜかその男に好意を抱いていた。

梓の言い分はだいたいこうだった。
私は、突然の告白に面をくらって、何も話すことができなかった。

空気が重い・・・。私はやっとの思いで言葉を切りだした。

澪「どうしてだよ・・・梓・・・。」

梓「ごめんなさい!」

澪「ごめん・・・。すぐに返事は出せない。」

そう言って私は二人きりの教室を後にした。




あれから、数日。ちゃんとした答えを出さないまま、私と梓はいた。
というか、私が踏ん切りのつかなかっただけだけれど。

「今すぐあの公園で会いたい」

そうメールを送った。時間も時間だが、
来られないことはないはずだ。

私は返事も見ずに、あの公園―私たちが付き合い始めた大木のある公園に、
一足先に来ていた。
空を見上げる。曇っていて、星は見えない。
そういえば、明日は朝から雨だって言ってたっけ。
空を見上げながら、梓をまつ。
空には何も見えないはずなのに、私には、あの日の満天の星空が浮かんできた。


そうやって見上げていると、梓の足音が慌ただしく聞こえてきた。

梓「はぁはぁ・・・。澪、先輩。」

澪「梓・・・ごめんな、急に呼び出して。」

梓を見ると、こらえていた涙があふれ出しそうになった。

梓「いえ・・・。」

澪「隣に・・・座らないか?」

梓「はい・・・。」

澪「私たちが付き合い始めた時は、すごいきれいな星空だったよな。」

梓「はい・・・。」

澪「でも、今は曇って何も見えないな・・・。」

梓「・・・・。」

澪「最後に・・・さいっごに・・・。」

だめだ・・・。こらえていた涙があふれ出す。

澪「さ、さいごに・・・私とちゃんとキスしてくれないか?」

梓「え・・・?」

澪「き、キスじでぐれだら・・・もうぎれいざっぱり別れようっ。」

梓「み、澪先輩・・・。」

澪「頼む・・・梓。」

私は、梓を強引に抱き寄せ、唇を近付けた。
梓も私に身をゆだねてくれた。

澪「っく、えぐっ」

梓「っう・・・えっく」

二人とも泣きながら口づけを交わす。何回も何回も。
これでも、梓は戻ってきてくれない・・・。
なぜか私にはわかってしまう。
誰よりも梓のことを愛しているから。
そして私は梓を抱きしめた。このぬくもりを忘れないように・・・。


Fin.




終わりです。

わずかながら見てくれた人ありがとう。