梓を抱きしめたぬくもりが、昨日のように思い出される。
外は大雨だ。冷たい雨が、降り注いでいる。
暦ではもう夏になるというのに、雨が降って寒いと思うのは、
気温のせいだけじゃないだろう。

澪「梓・・・。」

梓に振られて数日。
ぎくしゃくではあったが、部活動の際、私たちは顔を合わせた。
梓は目を合わせてくれない。
あたりまえだけど、悲しい気持ちがこみ上げてくる。


ある日、部活動始まる前、教室で私はみんなに梓に振られたことを告げた。


唯「えぇ?!急だね!」

律「また・・・どうして?」

紬「あんなに仲良さそうだったじゃない!(貴重なエネルギー源が!)」

澪「まぁ、そういうわけだからさ・・・。でも、あんまり言わないでくれよ?」

律「澪はそれでいいのか?」

澪「梓も考えた末での結論だと思うんだ。だから・・・さ。」

私はまだ返事をしていないことをみんなには言わなかった。
でも、雰囲気で律にはばれているような気がした。



付き合っていた当時。
唯はあからさまに、梓に抱きつかなくなって、
少し不満そうだった。
別れた今も私のことを思ってか、梓に抱きついたりしない。

練習しても、ぎくしゃくしてしまう。
気にしない気にしないと意識して、結局は梓のことを気にしてしまう。


ある日、梓が早退をしたいと言ってきた。

梓「あ、あの、今日は早めに帰っても良いでしょうか?」

律「おー。珍しいなぁ、梓が早く帰りたいだなんて。」

横目で律が私を見る。こっちを見るな、バカ律。

唯「何か用事があるならしかたないよ~。今日はおやつ食べて解s」

梓「練習はちゃんとしますよ!」

唯「ちぇっ」ブー

あぁ。あいつのところへ行くのか。どうして今日なんだ・・・。
私と会った日じゃなくても良いじゃないか・・・。
行かないで・・・梓・・・。




私たちの恋愛は、順調にスタートした。
軽音部のみんなには内緒だったが、雰囲気でばれていたのか、
すぐに冷やかされ始めた。
冷やかされることもまんざらじゃなかった私は、
律たちを叱りながらも、内心ではうきうきしていた。
梓も梓で、冷やかしを怒りながらも、
私と目が合うと、顔を真っ赤にした。
その真っ赤にした顔を見て、私も真っ赤になった。
確かにこれじゃあ、バレバレだ。ムギからの視線が熱い。

二人でデートもいくつか行った。
思えば、喧嘩なんか一つもなく、笑顔が、笑いが絶えなかったな。
夜景がきれいな観覧車。
辺りの景色が見渡せて、夜景が見れる頃には絶景になる。
そこで私と梓ははじめてキスをした。

澪「あ、梓、隣に来なよ。」

梓「は、はい!」


梓がこちら側に来ると同時に、私は梓の手を握る。
握った時にまた梓の体はぴくっと反応した。
手に汗握るとはこのことだろう。
キスしようと、心に決めていた私は、
いつ行こうかタイミングを見計らっていた。
よし、頂上をちょっとすぎたらすぐ振り返って―。

澪「なぁ、あずs―!!」

梓「澪先p―!!」

私たちは同時に顔を近づけた。何という偶然だろう。
でも、キスとしては大失敗、まるで火打石のように口と口がぶつかり合った。


澪「い、いったー!」

梓「・・・・・・・う」

澪「・・・・。」サスサス

梓「・・・・。」サスサス

澪「・・・・・っぷ・・・くく」

梓「・・・んぷ・・・ふふ」

澪「あはははははは!」

梓「ははははははははは!!」


澪「ま、まさか、同時に振り替えるなんてな!」クスクス

梓「すごい偶然です!でも、残念なファーストキスですね。」クスクス




私たちは、それ以来キスをすることはなかった。
今でも少し笑みがこぼれてしまう。
偶然にしては出来すぎた、二人の痛いキス。

澪「最後に・・・ちゃんとしたかったな・・・。」

私は、別れてほしいという梓の要求に、答えを出していなかった。
余りに唐突だったし、気持ちの整理をしたかった。
でも、梓と離れれば離れるほど、別れたくないという気持ちは増すばかり。

澪「梓・・・。」

名前をつぶやくだけで、涙があふれ出てくる。
やっぱり、このままじゃ、梓を忘れることはできない・・・。
私は携帯を手に取り、梓にメールを打っていた。




私たちは付き合っている間に一度喧嘩をした。
確か些細なことだったと思う。
なぜ喧嘩したのか思い出せないほどだったから。
律や唯、特に紬になだめられて私たちは仲直りした。

澪「そういえば・・・、私たち、なんで喧嘩していたんだっけ?」
二人きりでの下校時間。私はふとつぶやいた。

梓「澪先輩が、律先輩とふ、2人で遊んでいたのを私が見て、それで・・・。」

澪「あぁ・・・それで梓が不機嫌になってたんだな。」

梓「ごめんなさい。」

澪「い、いや、いいんだ。私も配慮がたらなかったよな。」

梓「わ、私が勝手に不機嫌になったんです。」

澪「で・・・なんで不機嫌になったんだっけ?」

梓「で、ですから・・・。律先輩と二人きりで遊んでいて・・・。」

澪「なんで、律と遊ぶのがいけないんだ?」ニヤニヤ

梓「え?ですから・・・。先輩、笑ってませんか?」

澪「・・・わ、笑って、な、ないぞ!」

梓「笑ってます!ひどいです!」

澪「ごめんごめん!でも、心配するな。」

梓「心配なんかしてません!」プンプン

澪「梓。」

梓「はい・・・。」

澪「わ、私が好きなのはお前だけだ・・・///」カァーッ

梓「し、知ってます!///」カァーッ

怒った時や感情が高ぶった時にこそ、人間は素が出る。
そんな梓が本当に愛おしかった。



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