憂「それじゃこれ、全部お姉ちゃんのなんですね」


平沢家。律と紬は、温かい紅茶とクッキーを頂いていた。
憂は二人が運んできた姉の私物を、一つ一つ大切に手に取る。


憂「あれだけ整理整頓するように言っておいたのに。お姉ちゃんたら……お姉ちゃんたら……」


憂の頬を涙が伝い落ちる。紬が慌ててハンカチを渡す。


憂「……すみません。今日は本当にありがとうございました。私も皆さんに渡すものがあるんです」

紬「何かしら?」


憂が学祭のライブのビデオを取り出す。


憂「……お姉ちゃん、和ちゃんと二人で楽しそうに見てたんですよ。
  久々に見たな、あんなに楽しそうなお姉ちゃん」

紬「よかったら、ずっと持っていてもいいのよ」

憂「いいえ。これは軽音部の皆さんのものですから」

紬「軽音部だった、よ。もう廃部になったの」

憂「それでも、これは皆さんのです。私が持っていてもつらくなるだけですし
  お姉ちゃんのお葬式の後で見たら、悲しくなっちゃって。少し泣いちゃった」



律「じゃあ、今日はこれで失礼するよ」

憂「本当にありがとうございました。また遊びに来て下さいね」

紬「その時はケーキを持って来るわね」


憂が微笑みながら手を振る。どこか寂しげな笑顔だった。


紬「……強い子ね。憂ちゃん」

律「ああ。実の姉が死んだのに。私だったらきっと立ち直れないよ」

紬「りっちゃんも弟がいるのよね」

律「ああ。でも最近、生意気で嫌になっちゃうよ。憂ちゃんみたいな妹がほしい」

紬「ふふっ。今の、あの子が聞いたらきっと喜ぶわよ」

律「あんなにいい妹がいるのに。唯のバカ」

紬「……そうね」




その夜。


律「おっかしいなあ。確かここに入れておいたのに」


律の漫画が何冊か本棚から消えていた。


律「聡が持ってったのかな?……あ。そっか」


彼女は在処を思い出した。何冊か和に貸したきりだったのだ。

だが先日、和の葬式で両親に会った時は返ってこなかった。

もしかしたら、まだ平沢家にあるのかもしれない。

時計を見る。時刻は八時半。まだ電話をかけても許される時間だろう。

少し憂とお喋りするのも悪くない。


律は憂の携帯ではなく、自宅に電話をかける。

コール十回で、ようやく誰かが出た。

だがそれは憂ではない。知らない男の声だった。父親だろう。


『はい』

律「あ、夜分遅くに失礼します。
  田井中と申します。そちらに憂さんはいらっしゃいますか?」

『……憂ですか』


急に相手の声が聞き取りづらくなる。


「……もしもし?」

『申し訳ありませんが、娘はそちらとお話ができなくなりました』

「……」

『憂は……私の娘は……首にロープを結びつけて……それで……』


電話の向こうで、大人の男が泣き崩れるのがわかった。




日記 ×月×日

四人目の自殺者が出た。いい気味だ。

学校全体がヒステリー気味になっている。

お守りを持ち歩く者、インチキな宗教に走る者、不登校になる者。

いろいろいて、見ていて楽しい。

だがちょっとまずいことになった。装置の行方がわからないのだ。

あいつらの誰かが持ち出したのはわかっている。早いとこ回収しなければ。

最悪の場合、装置をもう一つ用意しなければならない。




重いノートの山を抱え、紬は職員室に向かって歩く。

彼女の美しいブロンドの髪は艶やかさを失い、肌は若干荒れていた。

いつの間にか廊下のあちこちに、ポスターや注意書きが貼られていた。

「命を大切にしよう」「命はただ一つ」「今日死んでも悔やまないくらい、全力で生きたいんだ」

どれもこれも、紬には空虚な言葉としか思えない。

先日、桜高はとうとうテレビに出てしまった。

スクリーンに映った母校。なんとも奇妙な光景だった。

ニュースキャスターのコメントは、今でもよく覚えている。


「この一見美しい女子校にも、魔物は潜んでいるのでしょうか。
 自殺した少女達の心の闇には、果たして何が潜んでいるのでしょうか」


聞くものの神経を逆撫でするような、不快な高い声だった。

それ以来紬は、テレビを一度も見ていない。

ニュース番組やワイドショーに、友達を言いたい放題言われるのは我慢ならない。

廊下で何人かの生徒とすれ違う。誰もが深刻な顔をしていた。


紬「失礼します」


彼女は職員室に入る。だが返事はなかった。教師は職員会議で全員留守にしていた。

そういえば最近、職員会議が増えた気がする。

さわ子のデスクに、何十冊ものノートを置く。一息ついた時、彼女の目に何かがとまった。

それは日記帳だった。いかにも大人が持ち歩きそうなデザインの、茶色い表紙の日記帳。

よくないと思いつつも、手に取ってパラパラとページをめくる。

読み進めるうちに、彼女の顔色はだんだんと変わっていった。



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