澪はぼんやりとベッドに座っていた。

こうしてベッドの上での生活を始めて、もう何日になるだろう。

部屋は衣類や本、食べ物の容器が散らばり、悲惨な状態だ。ハエも飛び始めている。

そろそろ掃除しなきゃ。澪は思う。だが一向に腰を上げる気になれない。

今の私を見たら、唯や梓は何て言うだろう。軽蔑するかもしれないな。

……二人とも。もうすぐ私そっち行くかも。

そんなことを考えていた時。

充電器に突っ込まれたまま何日も放置されていた携帯が鳴った。


澪「……もしもし?」

紬「澪ちゃん?今すぐ私の家に来てほしいの」

澪「……無理」

紬「じゃあ、今すぐそっちに行くわ。りっちゃんも一緒にね」

澪「どうして?」

紬「わかったの。唯ちゃん達の自殺の原因」



律「……ずいぶんとまあ、散らかしたもんだ」

澪「ほっとけ」


何日も着ていたパジャマを脱ぎ捨ててシャワーを浴び、
大急ぎで食べ物の容器を片付けた。
それでも、荒んだ生活はごまかしきれなかった。


紬「ちょっとテレビ借りていいかしら?」

澪「いいけど。原因って何なの?」

紬「これよ」


紬が取り出したのは、学祭のライブのビデオだった。


澪「学祭のライブのビデオ?これがどうして」

紬「いいから。ちょっと見てて」


秋山家のテレビに、ライブの映像が現れる。なんとも懐かしい「ふわふわ時間」が流れはじめる。

映像には唯が映っていた。可愛らしい衣装を着て、ギターを持った今は亡き親友。澪の胸が疼く。

だが紬は、映像をスロー再生にしてしまう。音楽は途切れ、画面がコマ送りになる。


律「何をやってるんだ?」


スクリーンには何の変化もおこらないようだった。だが数秒の後、こんなメッセージが画面上に現れた。





【女子高生は死滅しろ!桜高の生徒は自ら死ね!】





律「……なんだこれ。何かのジョークか?」

紬「違うわ。冗談でもなければイタズラでもない。れっきとした殺人よ」

澪「……ムギ、これってまさか」

紬「そう。……サブリミナルよ」

律「ちょっとまった。何なんだそのサブなんとかって」

紬「テレビやラジオなどを利用した洗脳方法よ。
  知覚できない程度の速さや音量の映像・音声等を繰り返し挿入して、
  視聴者の潜在意識を刺激するの」

澪「聞いたことがある。
  確か1957年にアメリカの映画館で上映された映画のフィルムに
  「コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」とメッセージを入れたコマを
  5分ごとに繰り返し挿入したら、実際にコーラとポップコーン売り上げが上がったんだ」


紬「まず最初に、梓ちゃんが学祭のビデオを見たわ。それで自殺した」

律「ちょっと待った。あの場には私らもいたぞ。何で梓だけが」

澪「思い出せ。お前やムギや唯が、私を押さえつけてただろう」

紬「そう。この時点で唯ちゃんは命拾いした。だけど次は助からなかった」

澪「和と二人で見てしまったから。だから二人は死んだ」

律「じゃあ、憂ちゃんは……」

紬「私に返す前に、見たって言ったわ。だから……」

律「……でもちょっと待て。誰がこれをしかけたんだ?誰が私達を殺そうとしてるんだ?」

澪「思い出せよ、律。このビデオを持ってきたのは誰だ?」

律「……さわちゃん」


律「そんなバカな!どうしてさわちゃんが私らを殺さなきゃならないんだ?」

紬「それは、これを読めばわかるわ」


紬が日記帳を取り出す。
そこにはさわ子の女子高生に対する憎悪が延々と綴られていた。
軽音部に対する罵詈雑言も見つかった。
サブリミナルに関する記述も見つかった。


紬「……あのヒトは、こうして私達を昔から嫌っていたのよ。殺してしまいたいくらいに
  でも一人じゃたくさんは殺せない。それに殺人犯になる度胸もない。
  だからこうして、サブリミナルで自殺を装って殺すことにしたのよ。
  大量に、そして自分の手を汚さずに」

律「……ふっざけやがって!」


突然律が立ち上がった。彼女の握られた手は激しい怒りに震えている。


律「こんなわけのわからない方法で、唯や梓や和や憂ちゃんは殺されたのかよ!
  あのババア、許せねえ……。今すぐ行って殴り殺してやる!」

澪「待てよ。そんなことをしても、お前の手が汚れるだけだ」

紬「警察に行きましょう。そして全部話すのよ。証拠もあるし、あのヒトを完全に抹殺できるわ」




半ば足をもつれさせながら、三人は夜道を走る。

紬の手にはビデオがしっかりと握られていた。仲間たちを殺した凶器が。

交番を発見して、全速力で駆け込む。


澪「あの、すみません」

紬「ちょっと、お見せしたいものが」


交番の中はまったくの無人だった。荒い息を吐きながら、律が舌打ちする。


律「巡回中かよ、役立たずめ」

紬「警察署に、生きましょう」


三人はあらためて走り出そうとする。

だが数歩も歩かないうちに、突然若い大学生風の男が前に立ちふさがった。


律「なんだよあんた。そこどいてくれ」


風を切るような音がしたと思った次の瞬間、

男の拳がまともに律の顔面に叩きつけられた。小柄な律は何メートルも先に吹っ飛ばされた。

次にたくさんの人が現れた。会社員風の男、主婦と思われる中年の女、老人。

彼らは手を伸ばし、次々に三人を攻撃する。四方八方から暴力が少女達に襲いかかる。


律「何しやがる!」


律の怒声は、突然凄まじい絶叫に変わった。

人々は次々に現れ、暴力の輪に加わる。手に棒や刃物を持った人間も現れた。

紬のブロンドの髪は毟られ、顔は血に濡れていた。
必死に握っていたビデオも、誰かに奪われてしまった。

これほどの苦しみがあるだろうか。
そう思った刹那、ありがたいことに黒く深い眠りが訪れ、彼女を慈悲深く包み込んだ。






律達が澪の家に集まる前、とある動画サイトに一つの動画がupされた。

動画は人目を引くが、一週間もすれば誰もが飽きて忘れてしまうようなニュース動画だ。

この動画に、ちょっと見では確認できないメッセージが

何度も挿入されているなど、誰に想像できただろうか。

メッセージは三人の女子高生の顔写真と、一行の文章だ。




【この三人を抹殺せよ】




日記 ×月×日

桜が舞い散る季節。

今日は講堂で部活説明会とやらがあった。ガキどもの下らないお遊びだ。

軽音部の紹介と称して、二年前の学祭のビデオが流された。

入部を希望するガキも出てきているらしい。

もっとも、そいつらが入部することは未来永劫有り得ないだろう。

軽音部は、一人も残っていない。これから増えることなどありえるだろうか。

花が散る季節。

今年は、いったいどれだけの花が散るだろうか。





これでおしまい
元ネタは「世にも奇妙な物語」の一エピソードです
スレを提供してくれた>>1と読んでくれた人、ありがとう

これでもうやり残したことはないぜ。
グッバイけいおんSS