日記 ×月×日

今日から新学期だ。

暑い。無性に苛々する。

うるさいガキどもが私の周りに群がって、

ぺちゃくちゃとまくしたてる。ノイローゼになりそうだ。

女子高生ほど私の神経を逆撫でする生き物はない。

無神経で生意気で、そして無知な生き物。繊細な私とはまるでそぐわない。

どいつもこいつも早く死ねばいいのに。




唯「あずにゃん、ご機嫌だね~」

梓「はい、もうすぐライブが出来ると思うとわくわくしちゃって!」


唯達が二年生になり、梓が入部した年。

季節は秋。唯達は学祭のライブを控えていた。


梓「去年のライブも見たかったなあ」

澪「いや梓、世の中には見ない方がいいこともあるぞ?」

律「去年は大活躍だったもんな、澪ちゃんは」

さわ子「去年のライブならビデオに撮ってあるわよ!」

澪「で、出たー!」

梓「うわー、見たい!見たいです!」

澪「いや梓、考え直さない?ていうか考え直してくれ」

さわ子「唯ちゃんりっちゃん、ムギちゃん!」

唯律紬「ラジャー!」

澪「こら、離せ!はーなーせー!」

律「おい澪、暴れるなよ。私ら見れないじゃんか」

澪「見なくていいから!……こら、変なとこさわんな!」


梓「こ、これは……」



律「どうだった?」

梓「……縞パン」

澪「終わった……何もかも終わった……」

唯「今日はじっくり見れなかったから、今度ゆっくり見ようね、ムギちゃん!」

紬「ええ、そうしましょう」


平和な、いつもの軽音部の光景。

この後バンド名やライブで着る衣装の話題で、部室は大いに盛り上がった。

そしていつものことながら、練習は少ししかできなかった。




その日の夜。

唯は早々にベッドに潜り込み、うたた寝をしていた。

たっぷりの夕食で満ち足りた気分になり、実態のない暖色の夢を見る。

電気が点けっぱなしだが、気にならない。猫のように、彼女は眠りを楽しむ。

そんな彼女の幸せな眠りを妨害したのは、電話の切迫した鳴き声だった。


電話は二、三回鳴ってから突然ぴたりと沈黙した。憂が受話器を取ったのだろう。

瞼をこすりながら、唯は時計を見る。午後11時。

誰だろう。唯はぼんやりした頭で考える。
彼女の友達は皆、用事がある時は携帯に連絡する。
それに誰かに電話をかけるには少々遅い時間だ。

悪いニュースが来たのかもしれない。
唯は途端に不安になった。階下から憂の声が聞こえる。


憂「お姉ちゃん、ちょっと来てくれる?」

唯「何?大事な話?」

憂「うん、大事な……本当に大事な話。だから、……来て」


何だろう。不安がどんどん大きくなり、唯を飲み込もうとする。
階段を降りたところに、憂が立っていた。……引きつった顔をして。


唯「どうしたの?」

憂「お姉ちゃん……いい?落ち着いて聞いてね?」

唯「私は落ち着いてるよ。憂こそ大丈夫?」

憂「……」

唯「早く言ってよ。ねえ、お父さんとお母さんに何かあったの?」

憂「違うの。お父さんじゃないの。梓ちゃんなの」

唯「あずにゃんがどうしたの?……ねえ、早く教えてよ。
  何があったの?何でそんなに震えてるの?何で泣いてるの?」

憂「……梓ちゃんね……自殺、しちゃった……」




日記 ×月×日

新学期がスタートして早くも二週間。

ガキの一人が自殺した。学校はひどいパニックに陥っている。

今日もガキが何人か私に同情を求めにきた。

うるさくてたまらなかったけど、連中の惨めな泣き顔が見れたから文句は言わないでおく。

学祭は延期になるらしい。いい気味だ。連中の青春の1ページ(笑)が台無しになったから。

もっと自殺者が出ないだろうか。楽しみだ。




線香の匂い、白い花。そして内出血して変色した梓の指先。それらが澪をひどく混乱させる。
混乱は時間が過ぎるにつれて静まるどころか、ますます酷くなってゆく。

梓はどこかの高層マンションから飛び降りたらしい。ひどく損傷したのだろう、死に顔は見れなかった。

葬式はひどかった。唯は床に突っ伏して号泣するし、紬はハンカチに顔をうずめてばかりいた。

梓のバカ野郎。澪は一人呟く。
あんな指じゃ、もうギターなんか弾けないじゃん。



澪「唯、今日は来てる?」

律「いや、今日も休み。もう三日連続だよ」


葬式の後、唯は学校を休みがちになっていた。
もっとも、当分の間休んでいた方がいいのかもしれないが。
数日前に登校した時の唯の顔は、当分忘れられそうにない。
水分と生気がごっそり抜け落ちた、ミイラのような顔だった。


紬「そんなにショックだったのね、梓ちゃんが自殺したの」

律「私らだって十分ショックだよ……」

澪「いや、唯は梓のこと、特に気に入ってたみたいだから」

律「……くそっ、何で自殺なんだよ。直前までライブやりたがってたじゃんかよ、あいつ」

紬「悩みがあったなら、私達に相談してほしかったわね」

澪「……無理してたんじゃないかな。梓って生真面目な奴だったから」

律「だから何の断りもなく自殺かよ。
  そりゃないだろ?先輩じゃないか。もっと頼ってほしかったよ」

澪「私達も悪いよ。あいつが思いつめてたのに、何も気づいてやれなかったんだから……」


紬「ともかく、今は唯ちゃんの方が心配だわ」

律「そうだな。下手したらあのバカ、梓の後を追っちゃうよ」

澪「……律。冗談でもそういうこと言うな。次は殴るぞ」

律「……ごめん」

紬「まあまあ。りっちゃんも悪気があったわけじゃないんだから」

澪「ともかく放っておいちゃダメだ。今日の放課後にでも早速会いに行こう」



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