澪「じゃあムギ、行ってくるから」

紬「本当に?…きっとみんな許してくれるわよ」

澪「いや、ダメだ、私が納得できないんだ」

皆の信頼を裏切る訳にはいかない
ムギのその気持ちも有難いがこれは完全に私の失態だ
私がこんなんだったら誰が軽音部の人格者になりえるだろうか
これは自分との戦いでもある



澪「失礼しまーす……」

澪「………」


と意気込んではみたもののここは昼間とは大分変った露天風呂
見た感じ脱衣所には誰もいないみたいだが
いつ男が乱入してくるかも分からない危険な場所だ

澪「さて…と」

澪「………」

澪「脱ぐか」

ここまできたならもう後戻りはできない
緊張の糸が解れないまま、私は自身の衣類に手をかけ
生まれたままの姿になってゆく
最後にパンツを脱ぎ、棚に押し込んだその瞬間だった



ガラン

澪「!」

「おっ、ごめんよ」

澪「(男だ!男だ!!男だ!!!)」

「こんな時間に珍しいね」

澪「(おっぱい見られた!おっぱい見られた!!おっぱい見られたぁぁ!!!)」


頭の中はパニックになった
とっさにバスタオルで体を覆ったが、一歩遅かった
生まれて初めて父親以外の男性に自分の体を見られてしまったのだ


「露天風呂ってのは人気の無い静かな夜に浸かるってのが通の嗜み方さ
 あんた若いのに分かってるねぇ、ん?どうした?怯えた顔して」 

澪「い…いえ……おじさんがいきなり入ってきたので……」

「おじさんって、失礼な娘だな!れっきとした女性だっての」

澪「あっ」


本当だ、よく見れば胸もある
この人おじさんみたいなおばさんだ
声も男の人の声だったからすっかり錯覚してしまった
なにはともあれ男性に裸を見られた訳ではなかった
私はほっと方を撫でおろす


おばさん「あんたも静かな露天風呂は好きかい?」

澪「えっ、えぇまぁ…」


そうだよ、混浴と言っても男ばかりじゃない
女性だって普通にいるんだから
このおばさんと出会えた事で、ちょっとした安心感が芽生えた


おばさん「それじゃゆっくりしてくんだよ?」

澪「はい、ありがとうございます」


そうゆっくりもしてられない
できる事ならさっさと鍵を見つけて部屋に帰りたいのだ
脱衣所に残念ながら金庫の鍵は無い
私は昼間ここに来た記憶の糸を辿り、自分がどこに向かうべきか考察する




澪「まずは硫黄の露天風呂に入ったんだよな」

とりあえずそこに向かうべきか
昼間の事情と違い今回は上半身も隠す必要がある
股間を左手、胸は右腕を使い慎重に体を隠しながら前に進む

湯けむりが漂う足元に鍵は落ちていないか
周囲に男の気配は無いか
慎重に慎重に歩みを進める

澪「誰もいませんように………誰もいませんように………」

澪「…誰も………いない………よな?」

澪「………」

澪「…よし」


願いが通じてか昼間浸かった硫黄の湯には誰もいなかった
私は自分の記憶を頼りに、自分が関わったであろう箇所を入念に探索する
体を洗った洗い場の排水口に鍵は無いか
桶の中に入っていないか

「おっ、先客がいm」

澪「うわぁぁああぁぁぁあ!!」


ザブン!

「………」

澪「………」

今度こそ男だ
これは正真正銘の男だよ、まちがいない
緊張の糸を切らさず、周囲の気配を極限まで探っていた私は
眼鏡をかけた七三分けのおじさんの目線が私に届く前に、
露天風呂に浸かる事に成功した



澪「………」

「………」


入ってきた時は気さくな雰囲気をかもしだしていたそのおじさんは
なぜか私を見るなり、石の様におし黙り湯船に浸かる
おそらく私が原因だろう
これが長い沈黙の始まりだった


澪「………」

「………」


幸い今浸かっているのは硫黄の湯
白く濁ったこの温泉は私が湯船に浸かってさえいれば、おじさんに裸を見られる事はない
ただしこれには大きな問題がある
それは一切身動きがとれない事
このおじさんがいなくなるまで鍵の探索を再開できない事


澪「………」

「………」

澪「………」

「………」




おかしい…かれこれ二人で湯船を占領してから30分
どれだけ浸かっているつもりだこのおじさまは
もうそろそろ体を洗おうって気になってもいいんじゃないの?
そうしたらおじさんが目を瞑るであろう洗髪のタイミングを見計らって
とりあえず退散だ
他の心当たりのある場所へと退散だ


「ふぃーっと」

澪「?!」

「よっこらせ」

澪「(はっ?!)」


湯船から上がり近くの岩に腰を落ち着かせるおじさま
足のすねのあたりまではまだお湯に浸かったままだ
いや、体洗おうよ
そうしてくれないと私逃げれないから


「あっつい…あっつい…」

澪「(はっ!まさか…)」


この白々しい態度…
どうやら私が熱さに負けて湯船から上がる瞬間を待っているみたいだ
そこで私の裸をどれ見てやろうって訳ですか


「………」

澪「………」


へーそうですか
それなら負けるわけにはいかないな
あんたの根気と私の根気、どっちが強いか勝負だな
私の陰毛は、絶対に見せない
死んでも見せないから!


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