律「唯、今度は違うところに入ってみようぜ」

唯「そうだね、でも熱いところは嫌だなぁ」

周囲のお客さん目も気にせず我先にと素っ裸になるこの二人
いくら周りが女性だけとはいえど、彼女達に羞恥心というものはないのだろうか?
呆れてしまうが、これでいい

律「じゃあ外で待ってるから」

唯「みんなで同じところに入ろう?」

梓「わかりました、転ばない様に気をつけてくださいよ?」


まず彼女達を行かせてしまえば、4つの眼がこの場から確実に消える事になる
あとは浴衣に着替えた時と同じように、二人に背を見せながら下着を脱げばいい
脱いでバスタオルをはおる途中、下半身を見られない様に細心の注意を払いながら

紬「澪ちゃん、なにしてるの?」

澪「え?なにって?」

紬「あのね澪ちゃん、ここの露天風呂タオル厳禁なの」

梓「…えっ」

澪「………」

一瞬ムギが何を言っているのか分からなかった
私より先に巻こうとしていたバスタオルの手を止め、梓が声を出して反応する
どうやら私と同じようにバスタオルを巻いて外に出ようとしていたらしい
やっぱり梓は私の味方だ、そんな思いが頭をかすめたが
そうもいってられない状況みたいだ

思えばさっき出て行った律も唯も素っ裸だった
その時に気付くべきだったのだ
私は地獄への一歩を既に踏み出していた事を
そして下着姿で私の前に立ち、容赦のない言葉を浴びせる金髪の親友が
今の私には悪魔の化身に思えた

紬「だからね、一糸纏わぬ姿で外に出なきゃダメなのよ?
  そのバスタオルは後で体を拭くものなの」 

澪「いや…でも……」

梓「………」

紬「マナーだから…お願い二人とも」

梓「わ、わかりました……」

ムギのその言葉を耳にした梓は観念したのか、バスタオルを元の位置に戻して
生まれたままの姿になる
いかにも規則や道徳といったものを重んじる梓らしい
私より年下なのに私よりも胆が据わっている
そんな梓を目の前に私は

澪「じゃあやっぱり後にしておこうかな」

紬「後でも同じよ澪ちゃん、タオルを巻くのは全面禁止なの」

澪「じゃあ今回は入るのやめておくよ」

紬「何しにきたの?!」

必死の抵抗を見せる
全裸のままみんなに陰毛を見られるだけ見られるなんて
私には死ねと言われているのと同義だ


梓「仕方ありませんよ澪先輩、早く脱いで行きましょう」

澪「………」

涙が溢れそれがこぼれ落ちるのを必死に我慢した
涙でかすれた梓の下半身をふっと見てみたが
そこに映る光景は私が小学生の時に通過していた光景だった
さっき恥ずかしがっていたのは一体何だったのか

もう誰も信じられない
私の味方なんて誰もいない
私が信じるは、私のみ

澪「うぅ…」

バスタオルを元の位置に戻し、両手を一杯に広げ、自身の股間を覆う
自分の手が大きい事に、これ程頼もしいと感じる機会はおそらくこの先ないだろう



律「遅いぞー、みんな」

梓「すみません、脱ぐのに手間どっちゃって…」

唯「それじゃあ全員揃ったところで」

律「ほお…」

澪「………」

私の幼馴染はまじまじと私の胸を凝視してくる
これほど彼女の頭にたんこぶを作ってやりたいと思う事は、初めての経験だ
しかし股間の前に置かれたこの両手の封印を解く訳にはいかない

律「よく育ってますなー」

唯「おやじ発言だよりっちゃん!」

胸を凝視される事など以前の私であれば、天地がひっくり返る程に恥ずかしかった筈
脱衣所での修羅場を潜り抜けた事で私は完全に覚醒していた
この際上半身の事等どうでもいい
私は体を背けてみんなから股間を凝視されない様にする



唯「硫黄温泉だって」

律「だから卵みたいな匂いなんだな」

梓「湯も白く濁ってますね、良い気持ち…」

紬「硫黄はね、血圧を下げる効果があるのよ
  慢性の婦人病にも効果があるとか」 

律「へー、そうなんだ…澪!」

唯「あはは、澪ちゃん相変わらずだね」

律「そんな隅っこにいないでこっちおいでよ」

澪「いい」

この白く濁った湯は天の助けかもしれない
これなら浸かっていればよっぽどの事が無い限りバレはしない
問題があるとすれば……

律「よし、体洗おうっと」

梓「私もそうします」

この瞬間だ
こればっかりは私の手でも防ぎようがない
髪や体を洗えばどうしても両手は無防備になる
ここさえ乗り切る事ができれば…



唯「けっこう周りのお客さんも入ってきたねー」

紬「一番混む時間帯だから…」

こんな事なら律達みたいに空いてる昼間入っておけばよかった
そうすればまだ入らないという行為が自然になったのに
しかし今それを考えたところでどうしようもない
律達だけじゃなく、周りの人達にも見られない様にゆっくり湯を出よう

そして洗い場に辿りつき、アレを手に入れれば…

澪「……よし」

唯「澪ちゃん、横いーい?」

澪「うわっ!?」

なにを好き好んで私の隣に座るんだこの子は
他に空いてる席はいっぱいあるのに
せっかく一番目立たない端を確保したっていうのに

それよりも、見られてないよね
見てないよね唯!



唯「あはは、澪ちゃんってば」

澪「!」

見られた…見てしまったか…この子は…
私の横に座る純朴な少女は私の股間を指差し、
無邪気な笑みを浮かべながら周りの注目を集めさせていた

唯の笑い声に誘われたのか、遠くに座っていた律と梓とムギ
それに周りにいたお客さんまで、私に向けて視線を合わせるのが分かった

唯、唯は純粋で可愛くて素直で本当に良い子だよ
私もそんな唯が大好きだよ
でもごめんね唯
この時ばっかりは唯を張り倒してやりたいと思ったよ


唯「桶をそんなところに置いてたらおかしいよお…あはは」

澪「!」


よ…良かった……
どうやら私の陰毛を見られた訳じゃなさそうだ
間一髪私の股間を守る木の桶が間に合った様だ

それを悟った瞬間私は安堵からか溜め息を発していた
なにはともあれ私は自分で瞬時に練った作戦の成功を見た
その達成感に自分ながら酔っていた
背後から聞こえるギャラリーの軽い笑い声
それさえ心地よく感じる程に


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