その4

憂「稚くて愛を知らず」





和「お邪魔します」

唯「うん、上がって上がって~」


憂「こんにちは」

和「憂もお邪魔するわね。あ、なんだかいいにおい」

憂「えへへ、和ちゃんが来るっていうからお菓子作ったの」


久しぶりに和ちゃんがうちに来た。
けいおん部の誰かと一緒じゃなく、和ちゃんだけっていうの本当には久しぶり。

憂は、はりきってケーキを焼いた。
ふわっふわの生地に、ふわっふわのクリームたっぷりのケーキ。


私は知っている。憂は和ちゃんが好きなんだ。


憂はみんなの前では「和さん」と呼ぶけれど、私と和ちゃんしかいないときには「和ちゃん」って呼ぶ。
敬語も、ときどきタメ語まじりになる。

これは、憂なりの甘えなのかも。


昔から憂は和ちゃんを姉のように慕っていた。本当の姉の私が姉らしくなかったからかもしれない。
そう思うとなんだかちょっぴり悔しい。


和「うん、美味しい」

憂「よかった~」

和「シフォンは綺麗に膨らますの難しいわよね。憂はお菓子作り上手ね」

憂「の、和ちゃんのお料理だって美味しいですよ。ね、お姉ちゃん!」

唯「ん? うん」モグモグ

唯「ういーおかわりー」

憂「あ、うん、ちょっと待ってね」チラ

憂(残り、少ないな……)

憂「和さん、もっと食べますか?」

和「あ、でも少しでいいわよ」

憂「じゃあ、お姉ちゃんと半分こで!」

唯(むー……)


別にケーキの取り分が少なくなったからムカついたわけじゃなかった。
和ちゃんはお客さんだし、私はいつも憂の料理を食べられるし、だから憂の行動は普通のことなんだけど。


唯「むむむ」

和「唯、どうしたの」

唯「なんでもないよー。あーおいしぃい!」

憂「お姉ちゃんてば。あ、もっとお茶いれてくるね」

和「悪いわね」


憂はよく働く。我が妹ながら、本当にできた子だ。
できた子といえば、和ちゃんもだけど。

私の周りにはしっかり者が揃っている。あずにゃんもそうだし、ムギちゃんも。
あと、澪ちゃんも、恥ずかしがりと恐がりを除けば頼れるお姉さんだ。

うーん、りっちゃんは、そうでもないけど。


唯「うへへー、おいひーね、和ちゃん」

和「ええ。……あ、唯」

唯「んく?」

和「頬、クリームついてるわよ」

唯「え? ほんとー?」

唯「あ、憂ー」

憂「和さん困らせちゃダメだよー?」


憂は笑っていたけれど、手に持っていたティーポットの中のお茶はぐらぐらと揺れていた。
湯の中に広がる輪っかが、憂の気持ちを顕しているみたいだった。


唯「わたしちょっとトイレ」

憂「あ、うん、じゃあ私も」

唯「え?」

憂「レモン忘れちゃったからキッチンに取りに行くの」


憂はテーブルにお茶を置いて私の後についてきた。

和ちゃんを見れば、まだ指先を見つめて固まっている。



憂「お姉ちゃん」


後ろ手でドアを締めながら憂が言った。


唯「なにー? うい」

憂「和ちゃんは私のだよ」

唯「え」


憂「なんてね」


ふざけたように言っているけれど、私にはわかった。

憂は、そういう意味で和ちゃんが好きなんだ。


そして、和ちゃんは、私のことが好きなんだ。
さっきの赤面は、そういう意味なんだ。



私はそれを深くは受け取らなかった。
自分自身、そういうことには疎かったから、遊び半分みたいな、からかいみたいな、そんな気持ちでいた。

だからトイレから戻ったとき、ちょっとした悪戯をしかけてみようと思った。



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