その2
憂「お姉ちゃん、DVはやめて!」
明かりを消して暫く。
暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと彼女の輪郭が見える薄暗い部屋。
うつらうつら、眠りに就こうとする彼女を、布団からずるりと引き擦り出した。
ずしりとした重みが、私の心を躍らせる。
――さあ、はじまるよ。
そんな目で、彼女の上から下までをじっくりと眺めてあげる。
「……」
何か言いたそうな目を視界の端に追いやって、思い切り右手を振った。
パァン、と鋭い音がして彼女が吹っ飛ぶ。
するとゴン、と聞くからに痛そうな鈍い音がして彼女が壁にうずもれた。
この音の相違が好きだ。
ここで私はやっと口を開く。
そして一言。
「いたい?」
彼女は答えはしない。動きもしない。
ただこちらを恨めしそうな目で見ているだけ。
いや、それも私の思い込みで、彼女はとうの昔に諦めてしまっているのかもしれない。
もしかしたら、反抗のポーズだけを取っているのかもしれない。
しかし私も別に応えなんて欲しくないのだ。こんなこと言うのはただの興奮材料だ。
出来るだけ、優しく優しく尋ねる。
ドキドキする。
「ねえ、痛いんでしょ? 痛いなら痛いって、そう言ってほしいなあ」
「……」
私は再び彼女に触れた。
それに反射したように、彼女の手は私を弾き返した。
でも、そんな抵抗なんだっていうんだ。私の前では無力だ。
暴れる手足を押さえ付けて、荒々しく、なんて言葉さえキレイに思えるような抱き方をして、乱れる彼女を鑑賞して、わらう。
「なんで抵抗するの、かなしい」って言いながら。
「あなたの思い通りになんかなるもんか。私はモノじゃない」なんてバカなワガママ言う君の頬を張り飛ばして、
痛さから出た涙を「悲しいからだ」と解釈して冷たい水の中みたいなゾクゾクに浸る。
私の出したものを嚥下する時の君が好きだ。
沢山叩かれた時に一瞬見せる怯えた目の色が好き。
「ね、楽しいね」
いつかきっと、少しずつでいい。
今はまだ気張ってる君の、心の奥にある、もっと惨めったらしい、君が必死で隠している何か、恐怖とかを、ずるずる引っ張り出してやる。
君の全部が好き。
だからもっと私の言う通りにしろよ。
憂「こんな時間になにやってんのお姉ちゃん」
唯「ギー太が悪い子だから言い聞かせてた」
憂「言う、っていうか、ソレ……」
唯「ああ、んとね、カラダに言い聞かせてたの」
憂「なんか濡れてるけど」
唯「よだれだよ?」
憂「だよ? とか言われましても」
唯「とにかくこれは私とギー太の問題だから」
憂「うん、まあ……物音さえ立てなければなんでいいけどね」
唯「うん、うーん」
憂「あと修理費貸せとか、ましてや新しいギター買うから金貸せとか言わないでね」
唯「うん、うーん」
憂「誓えよ」
唯「嫌だよ」
憂「誓うだけ誓え」
唯「え、じゃあ……ハイ」
憂「あと謝りな」
唯「ギー太ごめん」
憂「違うよお姉ちゃん、ギター作るのに犠牲になった木に対してだよー」
唯「あうんはいごめなさいでした木さん」
憂「よっし、おやすみ」
唯「おやすみ」
おわり
最終更新:2011年11月13日 00:14