コーヒーを飲み、私が少し落ち着くまで、律先輩は黙ったままだった。
梓「・・・・・・・・・・あの、律先輩」
律「ん?」
梓「偶然、私を見つけたんですか・・・?」
律「まぁ半分偶然半分狙ったかなぁ」
梓「・・・どういうことです?」
律「お前がどういう状況だったかは前に憂ちゃんから聞いてたんだよ。だから、路上で歌ってる奴らの顔をチェックするのは癖になってたしなぁ」
なんだ、憂がとっくに言っちゃってたんだ。なら、もう唯先輩にも・・・。
律「・・・なぁ梓、お前、一体いつになったら帰ってくるんだ?」
梓「えっ・・・?」
律「お前、私達が卒業してからさ、どっか行っちまったよ。・・・私達の、何がいけなかったんだよ」
違う。
私はどこにも行っていない。先へ行ったのは先輩達のほうだ。
私はどこにも行けず、ただ思い出に縛られているだけ。
もう学校も卒業したのに、私はけいおん部を卒業できてない。
私の中で、放課後ティータイムは、まだ放課後なんだ・・・。
梓「・・・・・・唯先輩がアイドルとして活躍し始めた頃・・・」
梓「私は、テレビに映る唯先輩を見て、正直憧れました」
梓「あの、学園祭の時の唯先輩みたいな輝きを、感じたんです」
梓「それで私も唯先輩みたいになりたいと思い、音楽の道を歩むことを決めたんです」
梓「私はアイドルにはなれないけど、音楽を極めれば、唯先輩に追いつけるって思ったんです」
梓「遠くに行ってしまった唯先輩に追いつければ、また皆さんと演奏ができると思って・・・」
梓「でも、私は・・・・・・それを言い訳にして、現実から逃げてるだけなんです・・・」
梓「もう、放課後ティータイムは、終わってしまったのに・・・」
律「・・・梓、今の唯、楽しそうに見えるか?」
梓「・・・」
律「さすがに今じゃ唯と会う機会はめっきり減っちまったよ。それでも、テレビ越しに見て、唯が心の底から笑ってるの、見たことあるか?」
梓「・・・唯先輩・・・」
律「・・・何で唯が未だにアイドルを続けてるかわかるか?」
律「・・・お前が、アイドルの唯を見たいって言ったからだよ」
梓「・・・」
律「唯がアイドルを始めてしばらくして、お前は私達と連絡しなくなった。憂ちゃんから無事ってことだけは聞かされてたが、それでも唯は相当ショックを受けてたんだぜ」
律「アイツはなんだかんだ責任感が強いからな。『あずにゃんが元気出すまで頑張るー』とか言っちゃってさ」
律「もう、終わりにしようぜ、梓。・・・・・・・・・頼む・・・」
ああ、私ってとことん自己中だ。
知らない間に、こんなにも多くの人を傷つけてしまっていた。
私の頭の中は、後悔しかなかった。
梓「・・・うっ・・・うっ・・・・・・律せんぱぁい・・・・・・・・う・・・うわぁぁぁああああーん!!!」
梓「ううっ、律先輩、ごめんなさいっ 私っ 私っ・・・」
律「おいおい、謝るなら先に唯だろうがよ。私に謝っても何も出ないぞ」
梓「唯先輩・・・すみませんでした・・・ひっく」
律「だから私に言ってもしょうがないだろー。よし、明日皆集めるぞ」
梓「え・・・明日・・・ですか・・・?」
律「なーに、『中野梓完全復活!』とでもメール回せばすぐに集まるって」
翌日
本当に次の日に皆が集まることになった。
待ち合わせ場所には、律先輩、ムギ先輩、澪先輩の三人がいた。
澪「梓、久しぶりだな。少し身長伸びたか?」
紬「梓ちゃん久しぶり~♪」
梓「皆さん本当にご迷惑をおかけしました!!」
私は開口一番頭を下げ、誠心誠意謝罪した。
澪「お・・・おいおい、こんな街中でいきなり頭下げるなよ・・・」
紬「梓ちゃん、私達全然怒ってなんかないわよ」
梓「でも・・・やっぱり謝っても謝りきれないですっ」
律「はいはーい、謝罪タイムは一旦しゅーりょー。まず肝心の唯がまだ来てないしね」
律「さすがに昨日の今日じゃ、唯は時間通りは無理だったかー。ま、先にテキトーにお茶でも飲んでよーぜぃ」
澪「律、なんだか今日はご機嫌だな」
紬「うふふ♪」
唯先輩に会ったら、何て言おう。
その前に、まず、何て言われるだろう。私は、唯先輩の人生を狂わせてしまったから。
考えれば考えるほど自己嫌悪に陥るのに、悪いことを考えずにはいられなかった。
数時間後
カランカラーン
唯「お、お待たせ、しましたぁ!平沢唯、ただいま、参りましたっ!」
律「おー!唯ー!やっと来たかー!久しぶりー!」
唯先輩は走ってきたみたいで、息を切らして店にやってきた。
梓「あっ・・・」
唯先輩と目が合う。
唯「・・・あ・・・・・・あぁ・・・・・・」
唯「あーーーーーーーずにゃーーーーーーーん!!」
梓「うわっ!!」
私が何かを言う前に、唯先輩は私に抱きついてきた。
ただでさえ目立つのに、さっき自分の名前をフルネームで叫んだもんだから、周囲の視線が・・・。
唯「あずにゃぁぁぁん!寂しかったよぉぉぉぉ!!」
律「あのー、感動の再会のところ申し訳ないんですが、ギャラリーが少々騒がしく・・・」
唯「ほぇ!?あ、ど、どうもぉ~」
気づくと周りのお客さんが携帯で写真を撮ったりしている。
あの「平沢唯」が叫びながら店で暴れればそりゃそうか・・・。
澪「場所・・・変えるか」
紬「ええ・・・」
最終更新:2011年11月07日 21:09