数ヵ月後


『今日のゲストは平沢唯さんでーす』


唯先輩がデビューしてから三ヶ月が経った。

今や唯先輩は売れっ子アイドルだ。

ちょっと天然だけど、お茶の間に元気をくれると評判である。

梓「すごいなぁ・・・・・・」

たった数ヶ月でテレビに引っ張りだこ、ポスターや雑誌の表紙も飾るほどだった。

梓「やっぱり唯先輩はすごい・・・」

今もテレビで唯先輩の特集をやっている。


司会『唯ちゃんの特技は・・・ギターということですが、弾けるの?』


梓「・・・!!」

思わず私は身を乗り出した。


唯『はい~、え~っと、高校のときはバンドも組んでたんですよ~』

司会『へぇ~、じゃあ今日はギターを持ってきたので、弾いてもらいましょう』

唯『えっ!?ここでですかっ?恥ずかしいなぁ~』


うわ・・・唯先輩ギター触るの久しぶりじゃ・・・?

しかもこれ、生放送だし・・・。


司会『それでは軽く演奏してもらいましょう』





司会『ほぉ~、素晴らしい腕前ですなぁ』

唯『えへへぇ~、どうもぉ~』


私は唖然とした。

唯先輩は間違いなく今もギターの練習をしている。

むしろ高校時代より上手くなってるかもしれない。

唯先輩が頑張ってるのに、私は一人で現状を不満に思って・・・。


私は、何もしてない自分に対し憤りを感じた。

それと同時に、唯先輩のことを、羨ましくも思った・・・。

梓「私も、唯先輩みたいになりたい・・・」




数週間後


先生「中野さん、本当にそれでいいの?」

梓「はい。もう決めたことです」

卒業後の進路相談で、私は先生に音楽の道を歩むことを伝えた。

もちろん反対されたが、私の決意は固かった。

先生「そう・・・なら山中先生にも話しておきなさい。軽音部の時お世話になったでしょう」

梓「分かりました。ありがとうございます」

私が本気で音楽を続ければ、きっと先輩たちと、また一緒に・・・。

これからどんな辛いことがあっても、私は、唯先輩に追いつくまで、諦めない。




数年後


唯先輩がデビューしてから数年。

唯先輩はギターの腕や歌唱力も買われ、歌えて演奏できるトップアイドルになっていた。


私はというと、未だに路上でギターを鳴らす日々を送っていた。


 ジャジャーン

梓「ありがとうございましたー」

この数年いろんなことをした。

トレーニングも欠かさずに行った。歌も上手くなったと思う。

インディーズでCDも出した。レコード会社を回ったりもした。

それでも、プロへの道は果てしなく険しいものだった。


梓「唯先輩は・・・もう私のこと忘れてるかな・・・」

唯先輩がアイドルになったあの日から、私は先輩たちとは一度も会ってない。

次に会うのは、私がもっと一人前になってからだ。

今の私は情けなさすぎて、先輩たちにあわす顔も無い。

憂には今の私の状況を黙ってもらっている。

私が唯先輩に憧れて、この道を選んだことがばれてしまったら

唯先輩に負担をかけてしまうかもしれない。

それだけは避けたかった。


梓「はぁ・・・やっぱりあそこに行くしかないのかな・・・」

実は一度私にファンがついた時があった。

秋葉原で路上演奏をしていた時だ。

でも、あそこに集まった人たちは、私の演奏は聴いてなかった気がした。

なんとなくだけど、アイドルの気持ちが分かったような気分になった。

唯先輩もこんな気持ちだったのかな。

アイドルって、楽しいのかな・・・。



梓「片付けよっと・・・・・・」

いつも以上にアンニュイな気分になってしまったので

私はわざとらしく独り言をつぶやき、撤収作業に入った。

今日もいつもどおり収穫ゼロ。

足踏みしたままの一日が、今日も終わろうとしていた。

ギターアンプを持ち上げようとしたその時、突如懐かしい声が耳に響いた。


 「梓・・・だろ?」



梓「っ!?・・・・・・」


振り返ると、そこには、律先輩が立っていた。

数年前より少し雰囲気が変わっただろうか。大人っぽい感じがする。

トレードマークのカチューシャも付けておらず、それだけで月日の流れを実感できた。

律「久しぶり・・・だな。何年ぶりだ?」

梓「えっ・・・あ・・・・・あの・・・・」

数年ぶりに見る律先輩を前にして、私は何も言えなかった。

混乱してどうしていいか分からない私に対し、律先輩は静かに口を開いた。

律「・・・とりあえずそこの喫茶店行こうぜ。時間あるだろ?」



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