朝、登校中にて。


唯「あ、あずにゃんだー」

梓「唯先輩じゃないですか。おはようございます」

唯「うんおはよーあずにゃん」

梓「今日は憂一緒じゃないんですか?」

唯「それがお恥ずかしいんですが……昨日ちょっとケンカしちゃって」

梓「もー。また怒らせちゃったんですか」

唯「ち、違うよ。……多分。そう、だと思いたいけど……」

梓(あやしい)


唯「ねえあずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「死ってなんだと思う?」

梓「シ? 音階の話ですか?」

唯「んもう違うよー。カタカナでタヒって書く方の死だよ」

梓「なんかそこはかとなく分かりにくい表現ですね……」

唯「まあまあそれはいいとして、ね?」

梓「はあ」

唯「で、どう?」

梓「どうって……そりゃあ人生の終わり、ですかね」

唯「ふむふむ。ふぃにっしゅってことだね」

梓「はい。その人がその生き方をゴールするというか、クリアするというか」

唯「要するに始まり、誕生と対になるポイントってことだね?」

梓「そうですね。それはとっても悲しいことだと思います」

唯「え? 悲しいことなのかな」

梓「悲しいですよ。おじいちゃんが死んじゃった時も、
  私悲しくて悲しくて涙が止まりませんでしたましたもん」

唯「あ、ごめんね?」

梓「いやもう大丈夫です。乗り越えましたから、多分」


唯「じゃああずにゃんはさ、自分が死にそうになったら悲しい?」

梓「悲しいです、いや悔しいかな?」

唯「く、悔しいの?!」

梓「だってもっと生きていたいじゃないですか。多分何歳になってもそう考えてると思います」

唯(強欲だなぁ)

梓「好きな人と結婚して、子供ができて、孫ができて。
  自分の生きた証が活躍してるところなんかを見ていたいですね」

唯「ほえー。なんかリアリストさんだね、あずにゃんって」

梓「えへへ」

唯(若干混じった侮蔑に気がついてないのかな)


唯「じゃあ次の質問です。人間ってさ、死ぬとどうなると思う?」

梓「なんなんですか? さっきから変ですよ」

唯「いいからいいから。で、あずにゃんはどう思うの?」

梓「そうですねー。やっぱり無に帰るとかじゃないんですか」

唯「無? 無って?」

梓「うーん。うまく言えませんけど……
  意識は消えちゃって、それで何も分からなくなって……」

唯「ああ、だからあずにゃん死ぬのは悔しいんだ」

梓「ええ。何時までも生きてたいです」

唯「なんだかおばあさんみたいだねぇ」

梓「よ、余計なお世話ですっ」


唯「じゃあねあずにゃん。お話ししてくれてありがとね」

梓「え。あ、はい」

あずにゃんは死ぬのがいやなんだね。
確かに同意できるところもあったけど、ちょっと欲が強すぎるね。
まあそんなあずにゃんも可愛いけどねっ。

学校、ついちゃった。




朝、授業開始前にて


唯「りっちゃんおはよー」

律「おーっす唯」

唯「一時間目ってなんだっけ」

律「化学だよん。唯ちゃんと宿題やってきたかー?」

唯「う。うう。……忘れてたよぉ~」

律「だと思ったよ。ほれ写してしまいなされ!」

唯「りっちゃんまじ天使! ありがとー」

律「ふぉっふぉっふぉ、何かあったらこの律様になんでも言うとよいぞよ」

唯「え。じゃあはいはーい!」

律「はい平沢唯さん!」

唯「死ってなんだと思いますか!」

律「……へ?」

唯「死だよ死! deadだよdieだよ」

律「どうでもいいけどなかなか発音いいのな」

唯「受験勉強の賜物です!」

律「いや唯の学部にスピーキングなんか無いだろ……」

唯「しまった!」

律(うんだめだこりゃ)


唯「じゃなくてだよ」

律「え?」

唯「死についてだよー。さありっちゃんの意見聞かせて?」

律「そうだなぁ……。やっぱり救いじゃないか?」

唯「救い? saveとかrescueの?」

律「そーそ。それよそれ」

律(rescueって若干意味違うよな)

唯(英単語がスラスラでてきたんだからちょっとは驚いて欲しいなぁ)フンス

律「本で読んだんだ。幸福は一種類しかないけど、不幸は千差万別。
  幸福とは寓話であり不幸とは物語である、ってね」

唯「寓話? 物語? うーん。よくわかんないや」

律「そうか?」


律「じゃあ簡単に説明するぞ。わからくなったら手を上げろよ」

唯「了解ですりっちゃん隊長!」

律「幸福そうにしてる人はみんなワンパターンに見える。
  お金を持ってて、難しい気苦労もなくて」

律「逆に不幸はあれだ、お金が無い、いやお金があっても心労が耐えない、
  いや毎日楽しいけどお金がなくて死んじゃいそう」

律「幸福と不幸って対称みたいにみえるけど、それはぜんぜん違うんだ。
  つまるところ幸福なんて理想でしかナイって事だな」

唯「はい!」

律「はい唯さん!」

唯「日本語でお願いします!」

律「……うんごめんね」


律「じゃあ極論だけどちょー簡単に言うぞ」

唯(最初からそうしてよ……)

律「幸福なんて存在しないんだよ、この世にはな」

唯「え?」

律「まあ納得してくれなくてもいいよ、あたしの持論だしな」

唯「あ、うん。じゃあとりあえず保留ということで……」

律「おし。じゃあ話を戻すぞ。死は救いだってことな」

唯「やっと本題にもどってこれたね!」

律「いや一応さっきの話も関連してるんだけど……」

律「つまり人間は逃げたいんだよ、そういう常々ついて回る不幸からな」

唯「それわかるよー。私も勉強したくないし、アイスは取りに行きたくないし、朝早く起きたくないもん」

律(ずれてる気もするけどあえて触れないでおこう……)

律「えー、でだ。そっから逃げたい逃げたいと思うだろ? でも逃げ切れ無いんだよなー残念ながら」

唯「お日様はいつも同じ様に登ってきちゃうもんね。ほんとたまにはお寝坊してくれたっていいのにさ」フンス

律「そう、だからさ。死のうと思うんだよ、人間って奴は。逃げたいがゆえに。極論だけどな」

唯「うーん確かに」

律「だから救い。現実の痛みから逃げ切れる最後の手段だからな」

唯「なんかりっちゃんが大人に見えるよ……」

律「ふ。あたしも遂にあだるてぃな女になってしまったか」

唯「りっちゃんかっこいー!」


律「てかもう授業始まるけど宿題写し終わったのか?」

唯「――ああっ」

結局写し終える前に先生が来ちゃって、私の奮闘むなしく忘れ物となりました。
りっちゃんが難しい話するからだもん。りっちゃんのせいだもん。



2