純「42時間が経過しました。実況は和さんに代わりまして、鈴木純です。

  さて、42時間が経過して、梓の死体はガスでお腹が膨らみ始めています。完全閉鎖環境なので、虫は湧きません。」 
   
憂「まるでパスツールのフラスコだね」

純「梓選手の突然のリタイアに驚きの冷めぬまま、各選手の要求が出揃いました。

  律先輩は、眠眠打破6本。梓爆殺の直後は、興奮していた律先輩ですが、少し落ち着いたみたいです。 
   
  唯先輩は、コーヒーです。ついに唯先輩もカフェインへ。なりふり構っていられませんねぇ。 
   
  澪先輩は……おっと、精神安定剤?これはどうなるのでしょうか、解説の憂さん?」 
   
憂「要求があれば、認められると思います。澪さんは薬の種類を指定しなかったので、最初は一般的な精神安定剤が支給されるでしょう。
  澪さんも気が付きましたね。これはいかに心を落ち着かせて耐える戦いであるかを。」 


純「どうやら、委員会は準備をしていたようです。要求通り、精神安定剤が支給されます。
  抗不安薬ですね、具体的にはマイナートランキライザーのデパスが支給されます。さあ、解説の憂さん、どうでしょうか?」 
   
憂「デパスは正式名称をエチゾラムといい、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、とういか精神安定剤ですが、これは諸刃の剣ですね。

  そもそも抗不安薬の多くが、不眠症の治療に使われていることから分かる通り、要するに精神を落ち着けて眠くするんですよ。副作用は、倦怠感や頭痛、吐き気など一般的な症状。 
  に加え、精神系の薬を飲んだ後は、自動車の運転をしないよう推奨されている通り、眠気が襲ってくるんですね。 
   
  澪先輩に誰も忠告しないのが、悲しい!無知ゆえか、知っていても、脱落させようと、あえて何も言わないのかー!? 
   
  お姉ちゃんはそんな事何も知らないので、無実です!」 

純「さあ、ステージⅡ開始早々に、地雷を踏んでしまった澪先輩。運命やいかに?

  ムギ先輩ですが、面白い物を要求してきました。『この選手権の企画書』です。通るはずがないのに、注文してきた意図はなんでしょうか?」 
   
憂「頭が切れるのは紬さんですね。こちらが、情報をどこまで開示するか、その姿勢を探ろうとしてきているのでしょう。いったい、委員会はどこまで情報を開示するのでしょうか?
  黒塗りでほとんど埋まった企画書が渡される公算の方が高いですよ、しかし、紬さんは情報の大切さを知っている!確かに、情報は早々に得ておく必要がありますね。 
   
  企画書には、今回のヘッドギアの設計図も乗っているので、そのまま渡すと解体されるおそれがあるので、さすがに全てを開示する事はないと思いますが…… 
   
  律さんは、ヘッドギアを壊そうとして、紬さんにとめられる、滑稽なシーンが先ほどテレビで映し出されましたね。 
   
  冷静に考えれば、壊そうとすれば爆発するのはわかるよねー」 
   
純「そうそう。バカなんだから。あはは」


純「おっと、委員会と最高評議会の解答が着ました。これは面白い。企画書の代わりに、参考書を渡すそうです。

  ナチスドイツの1943年のアウシュビッツ強制収容所での不眠実験のデータとレポート、日本軍731部隊での同様の実験―民間人に対するデータ―のレポート、 
  グアンタナモ基地でのゲリラ兵士に対する不眠試験のデータとレポート、ソビエト連邦ノヴォシビルスク16での抑留日本兵収容所での不眠実験のデータとレポート。 

  この4大実験の日本語訳つきの資料が渡される事に決定しました。 
  これには、たくさんのヒントが山盛りだぞー!」 
   
憂「自分たちの寿命がわかるなんて、幸せだね!」




……

純「実験開始から48時間が経過しました。視聴者の皆様も、ここまでなら経験がおありの方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし、彼女たちのストレスは、想像を絶するものがあります。
 眠れば、即、爆殺です。 
 この恐怖の中、仮眠も出来ずに、起き続ける。死の恐怖は、一番の動物的な欲望です。それは睡眠欲を凌駕すると言ってもいいでしょう。 
 ならば、彼女たちは起き続けるしかないのです。実況は私鈴木純と 
 
和「解説はおなじみ真鍋和です。」

純「先程の支給で一番の目玉、実験データとレポートですが、どうやらムギ先輩しか読んでません。

 澪先輩は、耳を抑えて怖がり、教えようとするムギ先輩から逃げ、律先輩も悪趣味だと言って、耳を傾けません。 
 ムギ先輩の隣で、唯先輩だけが概要を聞いています。」

和「私もしばらく前に全てに目を通したけど、これほど参考になる資料はないわよ。

  確かに、ゲリラ兵のデータは参考にならないけど、彼らがとった眠気覚ましの方法が、逐一観察されて羅列されている。その、発狂の過程と一緒にね。 
   
  さらに、今実験が準拠するナチスの同様の実験で、被験者が求めた道具もなかなか参考になるわ。 
   
  ムギと唯が一歩アドバンテージを得た形ね。 
   
  ただし、絶望は死に至る病だという事を忘れていなければね、……」 
   
純「解説者らしい言葉が飛び出しました。

  支給品は、律先輩が『ポケットモンスター赤』。ゲームボーイ付きです。 
   
  澪先輩が、”ねむけざまし”とだけ要求してきたので、用意してきた無水カフェイン錠を1日分支給です。おそらく6時間でなくなるでしょう。 
   
  唯先輩が、”ももてつ”と要求してきたので『桃太郎電鉄DX』が支給されます。これにはスーパーファミコンが支給されます。ソニーのみなさん、ごめんなさい。 
   
  ムギ先輩は、おっと、カフェイン錠と指定してきました。これには無水カフェイン錠を澪先輩と同量支給されます。」 


和「どうやら律はゲームをして退屈を一人で紛らわす作戦みたい。これは72時間までは十分有効な方法よ。一方唯とムギは共同戦線。
  ゲリラ兵が、山手線ゲームのような事をして100時間まで過ごした作戦を踏襲するようね。これも有効よ。おそらく無水カフェイン錠も二人で分けるみたい。 
   
  一方で深刻なのは澪。しかし、ゲリラ兵の中で300時間耐えた男は、澪のように社交性がなくて内向的な人間だったから大丈夫、まだまだチャンスはあるわ。 
   
  168時間……つまり一週間を不眠で超えると、そこから先は策が全く通用しない、茨の道よ。そこまで澪が耐えれば、後は惰性で勝ち抜く可能性がある。 
  こういうひたむきさが往々にして功を奏してしまうの。 

  ムギや唯は小賢しいわね。」 




憂「72時間が経過しました。実況は私、平沢憂」

和「ある時は桜高生徒会長、ある時は唯を心配する幼馴染、またある時は正義の実験の最高責任者、そして今は国営放送の解説、真鍋和です。」

憂「さあ、ついに72時間の大台を乗り越えました。3日間不眠です。彼女たちの健康面に心配はないのですか?」

和「せっかく最高のシェフを東京から何人もよんだのに、最初のカレー以外注文しないじゃない!

  48時間以降は、ウィダーインゼリーばかり。いったい、いくら金がかかってると思ってるのよ!」 
   
憂「どうやら、健康面にも悪影響がみられるみたいですね。女子高生の命であるお肌は、かさかさになり、髪のキューティクルは失われ、目もとに濃いクマをつくっています。」

和「そう。支給品は?」

憂「今回は、全員無水カフェイン錠ですね。これでしばらく乗り切るつもりでしょうけど、薬物は長続きしませんよ。」

和「視聴率は50%前半で安定してきましたね。国民の皆様の鬱憤も、これで晴れるというところでしょうか。

  梓が死んだ時の瞬間視聴率、驚いたわよ。72%よ。国民的アイドルの誕生かしら。」 


憂「さて、次はニューヨークから続報です。

  安全保障理事会の本邦政府に対する制裁決議1986号が賛成14(常任理事国5カ国含む)、反対1(本邦政府)で可決された事を受け、 
  国連総会においても、本邦政府に対する非難声明を賛成多数で可決しました。 

  また、決議に基づき、米州政府は国内の日本人資産の凍結並びに航空・海上封鎖に踏み切り、 
  中華人民共和国と台湾協定を結び日本問題解決までの台湾への不可侵を改めて確認しました。 
 
  また、安保理決議は48時間以内に被験者の解放を求めており、それが認められない場合は、 
  国連軍を編成し、さらに48時間以内の空爆開始を定める決議を行う用意があると本邦政府に強く圧力をかけました。 
 
  同時に米州政府から通達された日米安保条約の破棄を受け、本邦政府は国内米軍基地の接収を開始、沖縄県を除く全国の米軍基地をすみやかに接収したと発表しました。 
   
  また、接収完了に伴う内閣総理大臣談話にて、日本国政府は非核三原則の放棄、IAEA原子力国際機関の脱退、 
  並びにCTBT包括的核実験禁止条約等の関連条約の破棄を宣言、ただ今開催されている臨時国会で承認される模様です。 
 
  憲法9条についての最高裁判所の判定は、あくまで自衛行為の範疇にとどまるとの解釈で一致しており、法的問題はないとの見方を示しました。 
 
  さらにCTBTの破棄に基づき、24時間以内の沖ノ鳥島での本邦初の成層圏内水爆実験を行う旨を自衛隊統合幕僚長が発表、 
  核弾頭3000発の保有並びに即時発射用意を宣言し……」 




憂「120時間が経過しました。実に5日間、不眠で乗り切っています。想像以上に強靭な精神力だ!

  それにしても、教育に良くない場面が目につきますね、いかかですか、解説の純ちゃん」 
   
純「ええ。排泄物は垂れ流し、床は嘔吐で生じた吐瀉物まみれ。あんなにたくさんカフェイン剤を摂取したら、副作用がひどいに決まってますよ。

  気絶しそうになりながら、4人は芋虫のようにはいずり回っている。きっと、眠れないんでしょうね、ここまで来ると。もう寝たくても眠れない。そういう時間がこれからしばらく続く。 
   
  もう早く眠っちゃったほうが楽だと思うけどなぁ。 
   
  あと、梓の腐敗した死体、どうにかならない?虫はわかないけど、かなり臭いと思うよ。」 


憂「支給品は、律さんが、『点滴』、澪さんが無水カフェイン剤、お姉ちゃんが『点滴』、紬さんは要求なしです。

  一番深刻なのは先程から、呼吸が浅いですよ。」 
   
憂「あ、点滴は標準的なぶどう糖果糖液が1食に相当する分、支給されます。点滴の打ちかたマニュアルもつけたので、たぶん大丈夫。
お姉ちゃん、感染症には気をつけて!」

純「見てて楽しいものじゃないね、和さんがいないから言うけど。けど、こういう事が必要だたんて、人間はなんて汚いんだろう。」

憂「紬さんは、指先全てに針を差して、眠気をさまそうとしていますね。

  おっと、ここで速報です。医師団が脳波と頸動脈の脈拍を測っているのですが……紬さんの脈拍が急激に低下しているそうです。脳波はまだ以上ありません。 
   
  律選手は、本選手権のドクターストップを訴えています。律選手が駆け寄り、水をかけています、必死に叩いています。でも紬さんの眼は見開いたままだ、脳波も乱れているが、まだ睡眠脳波ではない。 
   
  どうなる、どうなる!?」 


純「不慮の事故で死亡した場合も、ヘッドギアは爆発するようにプログラムされています。

  近くにいる人を巻き込まないよう、警告音が出ていますね。律先輩は、まだ側にいるぅー」 
   
憂「さあ、紬さんの脱落は秒読みだ、どうなる、どうなる!?」

純「あ、今医師団が紬さんの心臓停止を宣言しました。プログラムに基づき、5分以内に蘇生しない場合、脳が不可逆的な損傷を受けたものとみなし、ヘッドギアが爆発します。」

憂「驚愕の表情のお姉ちゃん!澪さんは震えている!現場の混乱は、想像を絶するものがあるぞー!」

純「5分間、恐怖に震えるのは、周りの3人ですね」

憂「……あと一分!紬さんの脳波は平坦になっています!今、必死に律さんが心肺蘇生法を施しているが、どうなるどうなるー!」

純「澪先輩と唯先輩は固まっています。」

憂「あと10秒、お茶の間でもこの緊迫感が伝わっていると思います!



憂「5、4、あ、律さんが離れた、1、ぼーん!」

純「頭が、頭がぁー!」

憂「梓ちゃんに続いて、紬さんもリタイア!120時間と42分でのリタイアです!これで残るは3人!デッドヒートが繰り広げられそうですね。」

純「ここからが本当の地獄ですよ。」

憂「そろそろ誰か、この戦いの勝敗を分けるあのアイテムに気がついた頃だと思います」

純「気がついてからが、和さんのおっしゃる、ステージⅢですよ。」

憂「でもなぜ、情報を手に入れ、有効に活用してきた紬さんが早急にリタイアしたのでしょうか?」

純「おそらく、知りすぎた、ということに原因がありますね。

  決して助からない実験、これから先の被験者の過程を見てしまったら、自分がそうなって苦しみ続けなければいけないという絶望は、想像以上に早くムギ先輩の精神を蝕んだそうです。 
   
  一方、隣で話を聞いていただけの唯先輩はそこまで現実感がわかなかったのでしょう。」 

憂「さあ、生き残りたいという願いが人を人間でなくするまであと少しです!」



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