町中で陽炎揺らせてリズムとってる無機質無気力無責任なビル群に囲まれて

私 平沢憂は39度の記録的且つ壊滅的猛暑と絶賛戦闘継続中

エンジェルフォールもびっくり自信無くして昇天するような滝汗もそのままに

夏休みの通学路を歩いていく

暑い

暑い

セミが喧しい 暑い

暑いセミが喧しい暑い暑い暑いセミが喧しい暑い喧しい暑い暑い喧しい喧しい暑い

暑い暑いミンミンミンミン暑いジージーニンニン暑い暑いギィギィ暑い暑いミーンミンミンあぁ暑い

暑い暑いニーンニンニン暑い暑い暑い暑い

ゲシュタルト崩壊限界突破な脳内をロデオドライヴ必死こいて制御しつつ

遠くに見えてくる学校をぎろりと睨む

私がわざわざ夏休み直後にベギラゴンみたいな灼熱地獄の通学路を嫌々歩いているのも

追い払っても引っ叩いても泣かせても崇高なるお姉ちゃんに発情することを頑なにやめようとしない

腐った根性が悪の化身アジ・ダハーカを彷彿とさせる

泥棒猫こと中野梓ちゃんの気紛れのせいに他ならない


事の顛末は一週間前

へその緒切った瞬間からお姉ちゃんを愛して崇めて慈しんでいるこの私は当然確実モチのロンに

その日もお姉ちゃんと平凡且つ超幸福な一日を過ごすつもりだったんだけど

極上のケーキに這うゴキブリのような害虫中の大害虫中野梓は

一ミリたりとも躊躇せず我が家のチャイムを高々と鳴らした


ぴんぽーん


世界の終末を告げる天使のラッパにも似たその音色を聞いたお姉ちゃんが

玄関扉を開けようと部屋から出るのを阻止した私が

換わりにクーラー効いた部屋から出てって

アメリカアニメみたくドアが変形する程の勢いで開けてやるんだけど

黙示録の羊 あずにゃんはそんな私を見るなりこう叫んだ


「唯せんぱーい、迎えに来ました!早く買い物に出かけましょう!」


全力でドアをブチ閉める


でも泥棒猫が

わざわざソニックブームみたいなキンキン声で遠くまで叫んだもんだから

お姉ちゃんは「うん!今行くよー」とか返事して

私の脳内で何かが崩れた

フレンジングフラット 脳細胞がリセットされる奇妙な感覚キモチワルイ

プライベートでショッピング 洋服なんか一緒に買いに行っちゃって

下着売り場の試着室で黒ミサ真っ青な

超驚異的淫行乱舞に及ぶ仲にまで発展しているのかと不安で不安で不安になる

勿論何かの間違いで お姉ちゃんからしたら

薄汚い野良猫にお情けでソーセージ一切れあげるくらいの感覚だと

私は信じてるんだけど それでもしかし

最近妙に調子に乗った目つきで私を見てくる中野梓のことを考えると 

無限地獄最低最悪UnderWorldDreamsなパターンも想定しなければならないわけで


つか待ち合せにしろよ 嫌がらせかよ



めいっぱいおめかししたお姉ちゃんは泥棒猫に連れさられ12時間後に帰宅

久々のお姉ちゃんオーラを深呼吸で肺の中に納めながら

お姉ちゃん汗を舐めたいなあとか下劣な妄想しちゃってほんの少し自己嫌悪

お姉ちゃんが身体に付いてしまった

邪悪なゴキブリオーラを取り払う為シャワーに入っている時

私の携帯にメールが届いた


―――――――――――――――――――――

From:ワモンゴキブリ

題名:妹(笑)

今日は唯先輩[絵文字]とジャンボ「絵文字]海水プール[絵文字]で遊んだんだけど

憂は12時間一人[絵文字]で何してたのかな?ねぇ?ねぇねぇ?[絵文字][絵文字][絵文字]

唯先輩[絵文字]ってさ ぶっちゃけもう憂[絵文字]のこと見てないっぽいよ 当り前だけど

そりゃあいつまでも姉妹[絵文字]といちゃついてられないよね

それで本題[絵文字]入るとさ

もう唯先輩[絵文字]は諦めなよ

姉妹[絵文字]でいちゃつくって傍から見たら相当アレ[絵文字][絵文字]だよ?

何より今は私[絵文字]に夢中[絵文字]みたいだし

どうしても手を引けないって言うなら 1週間後の夏休み[絵文字]

学校に来てよ

嫌でも諦めさせてあげるから[絵文字][絵文字][絵文字]


――――――――――――――――――――――


足でペン握って書いたラテン語よりも読み難い糞メールはどうみても挑発で

一瞬千撃瞬獄殺を叩きこむのに十分な必殺技ゲージを私に提供してくれた

そこから一週間 お姉ちゃんとはいつも以上に

親しく愛しく慎ましく接するんだけどやっぱりお姉ちゃん可愛い可愛いアイラブユー

回想終わり

お姉ちゃんはまだ 家のふかふかもふもふやわらかベッドで

おやすみなさいを夢中で楽しんでいるので

私はそんなすやすや天使を起こすことなく家を出た

帰ったらまず返り血流すシャワーを浴びようとか考えてたら学校に着き迷わず軽音部の部室に赴く

勿論

ドアを思い切り蹴飛ばす 

イライラしてたので全力全開ゲージMAX100%で蹴飛ばす

あわよくばぶっ壊れて吹っ飛んでゴキブリに直撃させる勢いで蹴飛ばす

でも 

部屋は不気味な程に冷たく静かで落ち着いた空気で満ちていて

そこにぽつんと立つ

中野梓は不気味な程に頬を赤らめて微笑んでいた


ハナカマキリは凶悪凶暴超肉食系昆虫男子にも関わらずその見た目は部屋に飾れるレベルの華っぷりで

経験値稼ぎにもならないバタフリーをひょいひょいひょいひょい喰って見せるんだけど

目の前に立つゴキブリにも似たような習性があるのかもしれない

てか何 その顔 

ニヤニヤニヤニヤ 私が嘲笑の意として受け取ろうとしたその瞬間

中野梓は呟いた



「好き」



「へ?」

「だから 私 好きなんだよ」

「ホウ酸団子が?」

「ううん、憂のことが」


思わずぶちかましそうになる右ストレートをなんとか抑えて

でもやっぱり我慢できなくて左手で快音を響かせるビンタをかます

すぱっちいん

熱でもあるんじゃないのこの子

39度の高熱で

脳味噌やられちゃってるんじゃないのかな



セコンドも両手振りながら褒め称えてくれるようなナイス角度で入ったビンタをものともせず

中野梓は再びこちらを向いて さっきよりも情熱的で情動的で官能的な目つきで

私を見て 呟く


「好き」

「何言ってるの?」

「何度も言ってるでしょ。憂の事が・・」

「なんでそうなるの?ドン引きっていうか、お姉ちゃんは?よくわかんないよ梓ちゃん」


「結構前からさ、唯先輩よりも憂の事見てる自分がいて」

「でも憂って妄信通り越して狂信的に先輩に夢中だし」

「とりあえず先輩と憂を離れさせたくて・・ね?」


金の斧も銀の斧も取らずにショボくれた鉄の斧を選ぶ馬鹿の話を聞いたことがあるけど

お姉ちゃんから私に鞍替えする超究武神天元突破な大馬鹿女は初めて見たから吃驚仰天摩訶不思議

そりゃあ勿論お姉ちゃんから手を引くって言うのは賢いし当り前だし懸命だし義務だけど

だからって妹の私にドス黒いヘドロのような好意を向けられても気持ち悪いだけだ


「無理。じゃあね。バイバイ。さよなら梓ちゃん」


勿論断固としてNOサイン さっさと帰って特製お姉ちゃん朝ごはん(兼昼ごはん)を作ってあげよう


「諦めないよ」


私がドアノブに手をかけた瞬間 蚊の断末魔のような声で中野梓は呟いた



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