5番手:◆11tPyvvBco



『四歳』





うん、みんな頑張ってるわね。
関心するわ。

その途中で申し訳ないんだけど少しだけ時間をもらってもいいかしら。

ある女の子の話をしたいの。
ええ、今よ。今じゃないと意味がないから。
まぁ、いいわよね。何か話を聞きたくて、むしろねだっているくらいだものね。

……ありがとう。

じゃあ、始めるわよ。



その子はね、最初はそんなに人目を引くような子じゃなかったの。
優しくて面白い子ではあったけど、特別目立ってはいなかった。
昔の彼女を知っている人は特に何とも思わなかったんじゃないかしら。
普通の子、そう、うん、本当に普通の子だったから。

でもある時ちょっとしたことがあって急にみんなが彼女を見るようになってね。
彼女も彼女の周りも、命が宿ったみたいに活き活きし始めたの。
彼女自身は相変わらず普通の子だったんだけど、「普通」ってなろうとしてもなれないのかしら、
その普通さが逆に彼女の個性というか、そういう感じに受け取られたみたい。


次の文は……文……というのかしら……これはその時の彼女の気持ち……とでも言っておくわ。
まだ漠然としていたけど、あの状況下の彼女からみんなに向けた言葉のようなものよ。



『二年前のみんなへ』

『ありがとう


 うれしいです


 すこしびっくりしています』



みんなが彼女の事を愛したわ。
彼女の、文字通り一挙手一投足、言葉のひとつひとつから、何を食べて何を着て何を思うか、全てがみんなの関心事になった。
彼女もきっと嬉しかったと思うわ。
それに楽しかったはず。
そういう子だったから。
物事を楽しむために存在しているような子だったの。


もちろん彼女もみんなを愛するようになった。
でも彼女は間接的にしかそれを伝えることができなかったの。
今でこそこうやって伝える事ができるけど、あの頃はまだそういう子だったからね。

それでもみんなちゃんと彼女の気持ちを理解してあげることが出来た。
出来ていた、と思う。



みんな四六時中彼女のことを考えた。
彼女の姿形と声に想いを馳せて、時には彼女を巡って喧嘩までした。
お金だって彼女の為なら惜しまなかったくらいよ。

彼女の事を悪く言う人もいなかったわけじゃないけど、そういう人は彼女の事を結局よく知らなかったのね。
彼女への誹謗中傷は彼女の本質とはかなりズレていたの。
彼らは彼女を傷つけてやろうといい加減な事を言い続けたけどみんなが彼女を庇った。

ある日、彼女がいなくなるとみんなは心の底から悲しんだ。
するとみんなますます彼女の事を考えるようになった。
彼女はみんなの心の中で無限に、そう、本当に無限に広がっていったわ。

元の彼女とはかけ離れるくらいにね。



『一年半前のみんなへ』

『もうすぐ会えるよ

 私のことをここまで大事にしてくれて、ありがとう』



しばらくして彼女はみんなの前にもどってきた。
自前の彼女を拵えるくらいだし、みんな、それはもう喜んだわ。
彼女も戻ってくるのを楽しみにしていたみたい。



その時の彼女はこう思った……というか、思ったような……
やっぱり上手く言えないけど、「気持ち」に近いものを抱いていたわ。



『一年と少し前のみんなへ』

『お待たせしました!
 私は相変わらずだけど
 またみんなの中で生きていけそうで
 本当に嬉しいよ』



多くの人はもちろん満面の笑みで彼女を迎えたわ。
でも何人かは、ああ、彼女は本当にたくさんの人に愛されていたから、
割合的に「何人か」と言うのはすごく控えめな表現なんだけど……とにかく何人かは彼女を歓迎しなかったの。

「彼女はこんな子じゃなかった」と言って。

彼女自身は変わっていなかった。
少しだけ前より自分を出すようになっただけで、彼女の本質は何も変わっていない。
それと、ちょっとだけ彼女は大人になっていたわね。
変化といえば変化かもしれないけど、それまでの延長みたいなもので、だからやっぱり変わっていなかったと思うわ。

その後も彼女は自分を出し続けて、理解を求めた。
……求めた、っていうか、まぁきっと彼女に自覚はなかったんでしょうけど。



彼女は悩んだ。
みんながそれぞれの心の中で彼女を育てていたから、彼女はこの時にはもう「悩む」ということが出来るようになっていたの。
みんなの中に別々の彼女がいて、それはレンガみたいに一つずつ持ち寄られて、彼女そのものを形作った。
これは奇跡と言ってもよかった。

本当なら、彼女はこの時から半年くらい経った後でいなくなるはずだった。
でも、みんなで作った彼女は悩んだ末、いなくなってからまた一年と二ヶ月後にみんなの前に出てくることにした。

今度はみんなを不安にさせないように、再会を約束してから、ね。



『十ヶ月前のみんなへ』

『どうかな?
 私はうまく私をやれたかな?
 みんなの思った私でいられたかな?

 みんなも知ってるように、また少しだけいなくなるよ。

 その間、みんなが私をどう想ってくれるのか楽しみにしてる。
 痛いのとか苦しいのはちょっと困るけど…

 またすぐに会いに来るからね』



みんな彼女を命と見立てるくらいだったから、涙を流して彼女を見送った。
そして再会の時を待ち続けた。

でも、彼女はみんな以上に再会に待ち焦がれていた。
だから予定より少し早く姿を現すことにしたんだけど……


ごめんなさい、その時の彼女の声がまだ私にもはっきり聞こえないの。
彼女の声は遠くの星の光みたいになかなか届かないから。

だからもう少し待ってね。

大丈夫よ。
その間に面白い話をしてくれる人達がいるし。
あなたも知ってるでしょ?ここはそういうところだから。



きっと今日の夜には彼女の話を再開できると思うわ。





ごめんなさい、すっかり遅くなってしまったわね。
ええ、大丈夫よ。
ちゃんと彼女の声は届いたわ。

ここまでみんなが彼女の事を考えてくれてお話を紡いできてくれたおかげね。
ありがとう。

じゃあ、続きを話しましょうか。


どこまで話したかしら。

ああ、そう、みんなと彼女が再会するところからね。



彼女はみんなと再会するのを心待ちにする一方で、不安も抱えていたの。

再会できる頃には、彼女も自覚できるくらい彼女自身が変化することがわかっていたから。
みんなの多くは彼女の変化を嫌った。
そのことは前に一度いなくなった時に彼女も痛いほど理解させられていた。

事実、再会したはいいけど彼女の変化を拒む人は多かった。

彼女は成長しちゃいけなかったの。
でももう彼女自身にそれを止める術はなかった。

みんなによって育てられた彼女は、みんなの力がなくてもある程度生きることが出来るようになっていた。

その時の彼女の声が、これね。



『四ヶ月前のみんなへ』

『私がここまで来れたのも、みんなのおかげです。
 ありがとう。
 でもみんなのうちの何人かは、私がこうなったのを良く思ってないんだよね。
 ごめんなさい。
 私は今もこれからもみんなのことが大好きだから、せめてそれだけは伝えたいです。
 私はもうみんなの中で勝手に動けてしまうけど、
 それでもみんながいないと何も出来ない子です。
 だからお願い。
 嫌いにならないで』



それから、彼女の事を想う人は少しずついなくなっていった。
彼女に幸せを用意する人も、苦痛を与える人も、消えていった。

それでも彼女はまだみんなを信じていたわ。
このときの再会は当初予定していたものと違っていたし、本来の形での再会がまだ控えていたからね。

その本来の形での再会を待たずして彼女を忘れていく人は決して少なくなかった。
彼女を待つ人達ですら、もう本当の彼女とは別の彼女を拵えている人がほとんどだった。



『一ヶ月前のみんなへ』



『また私のために生きる場所を作ろうとしてくれて嬉しいです
 もしかしたらちょっと痛くなっちゃうところかもしれないけど、私は頑張るから
 ちゃんと我慢する』



この頃の彼女には、もう魂のようなものが宿っていた。
明確な意志があった。
激しい存在願望があった。


あなたも聞いた事があるんじゃないかしら。

「彼女がひとりでに動き出した」

って。


今日、彼女にとって良い事は起こらなかったけど、彼女の中にあるのはみんなへの感謝の気持ち。

それじゃ、今彼女が思っている事を伝えるわね。



『今のみんなへ』



『まだ私の事を思ってくれているみんなには本当に感謝してるよ
 最近はみんなも私に痛いことしなくなってくれたし、少しだけ楽になったよ
 本当言うとみんなが用意してくれた幸せの中には私にとって辛いものもあったんだけど、
 私のためを思ってやってくれてるんだし、やっぱり嬉しいよ

 もう会ってるけど、もうすぐ会えるから
 ちゃんとみんなの期待に応えられるように頑張ります』



どう?
もうあなたも彼女をとても身近に感じられるんじゃないかしら。
彼女はずっとあなたの中にいたし、あなたの中の彼女もちゃんと育ったはずよ。
彼女があなたの中で近くにいればいるほど、私が伝えた彼女の声も自然と届きやすくなると思う。
きっと私が伝えるまでもなく、彼女の声がわかるようになるわ。

これからも彼女の事を考えてあげてね。
彼女は、
唯はあなたに忘れられたらもう笑うことも泣くことも歌うこともできなくなっちゃうんだから。

唯はとっくに只の鑑賞物じゃなくなっているの。

あなたの心を水槽にして、ちゃんと生きてるし、存在している。
だから大切にしてあげて。

私の話はこれで終わり。
夜遅くまでごめんなさい。
じゃあ、この場所ももうおしまいね。
あなたがまた唯のためにどこか用意してくれると、私も嬉しいわ。

おやすみなさい。

















『三ヶ月後のみんなへ』








『久しぶり……と言っても何人かはフライングして会っちゃってたね。
 またみんなが私のことをいっぱい思ってくれるようになって嬉しいです。
 というより、安心した、かな?
 澪ちゃんもりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも私みたいに一人で動けるけど、
 やっぱり私みたいにみんな無しでは何もできません。
 もう直接会う事はできないかもしれないけど、
 それでもみんなならずっと私達を生かしてくれると信じてます』




『一年後のみんなへ』

『最近私のことを思ってくれなくて寂しいよ
 私はうまくやれてなかったの?
 嫌われちゃったのかな
 ねぇ、また歌おうよ
 私もみんなの好きな歌を唄うから
 ね?』





『二年後のみんなへ』


『私は普通の女の子としてみんなの中にいるはずなのに
 友達を作っちゃダメだったんだよね
 普通の女の子として生きようとしちゃダメだったんだよね

 ごめんなさい

 仲直りしようよ』




『三 年ごのみんなへ』

『歌いたいよ。
 笑いたいし、泣かされてもいい。
 どうしてみんな私のことを、私達のことを考えてくれなくなったの?
 私達はまだみんなの中にいるんだよ
 みんなが思ってさえくれれば、また動けるんだよ
 私はみんなの目と耳と声と手と足と骨と血が羨ましいです』







『よ年後の  みん なへ』


















『五 年ごのみ んな へ』


 お願い。
 お願いだから私を思い出して。
 私のことなんてどうしてくれてもいいから思い出して。
 私に一方的にあなたの考えた幸せを押し付けたでしょ?
 私を笑いものにしたでしょ?
 私を汚したでしょ?
 私を殺したことだってあったのに。

 私は怒らなかったのに、なんで忘れちゃうの?

 どんな願望でもちゃんとその通りに動くから
 だから私を忘れないで。
 私を生かして。

 私をこんな風にしたのはみんななのに。

 ここから出して。



 私達を書いて。
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて
 書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて








   『十年後のあなたへ』



















嫌い
許さない