私の記憶と推察が確かならば

頭から血を流した律が ここに倒れていなければならないはずだ


だけど……


ということは……


澪「やっぱり『おゆおに』が食べちゃったんだ!!」


これで全部、おゆおにの仕業になった!!

夢は信じれば叶うって、ホントだったんだなぁ


紬「そ、そんなハズは……」

澪「あっ、ということは口止め料を払う必要もなかったんだ」

 「ムギ、さっきの1000円返してくれ」

紬「えっ、なに?」

澪「1000円。さっき渡しただろ?」

じりっ、とムギとの距離を詰める

紬「い、いやよ」

じりっ、とその分、ムギも後ろに あとずさる

澪「このッ……」

 「いいから返せええええええええ!!!」

紬「いやぁあああああああ!!」


私は その場でクルクルとブレイクダンスを踊って叫びだすと

ムギは一目散に走り出した

澪「ムギッ!!」

紬「あっ!?」


どしゃり


ゴンッ


転んだ

砂に足をとられたムギが宙に放物線を描いて倒れこんだ

放物線って言いたかっただけなんだ   だってカッコいいから

それにしても慌てて駆け出したとはいえ、何もない砂浜で転ぶとは不思議な娘よ

澪「まったく、1000円を返さないからバチが当たったんだぞ」

 「ムギ……?」

私は ふらついた足取りで近づいてみるが

ムギは逃げようとも起き上がろうとすらしない


私は異変を感じて、急いでムギの元に駆け寄る

紬「……」


倒れこんだムギの頭の下に、黒っぽい流木が落ちていた


澪「お、おい」


体をゆすってみるが、ムギは口をだらりと開いたまま、目を開ける様子が無い


ぬるり


澪「……!!」


ムギの頭から赤い何かが流れていた


澪「ム、ムギ!!おい、しっかりしろ!!」

私はムギの肉体が硬直してしまう前に握り締めていた1000円を慌てて奪い返した

澪「ふぅ、損するトコだった。しかし、これってあんまりよくない状況だよね……」

ムギは勝手に転んで流木に頭をぶつけただけだ

私は何一つ悪くない


だけど唯は、私とムギが2人きりで砂浜に向かったのを知っているし

律のこともある


もしかしたら、この光景を目の当たりにすれば

あらぬ誤解をしてしまうかも知れない



澪「……よし」

ざりっ ざりざり


私は砂浜に「おゆおに参上」と書いて

速やかにドヤ顔でその場をあとにした

ムギと2人で来た道を、今は1人でたどって別荘に戻る


私はとりあえず唯になんて説明しようか考えていた


「いきなり、おゆおにが突撃してきてムギをペロリと食べちゃったんだ!!」


……いくら唯が相手とはいえ、こんな雑なデタラメが通じるのだろうか

そもそもペロリと食べたといっても、ムギは頭から血を流してただけで

食べられた形跡はない


!!


じゃあ、こういうのはどうだろう

まず、おゆおにがムギを突き飛ばして、食べようとしてた所を

私がゲンコツで追い払った……

そしてムギは死んだ



決まりだな

分かりやすいし、私の活躍シーンがあるのも気に入りました


私はなんだか自分が大変 立派な人間になったような気がして

暗い夜道をずんずんと歩き始めたのです



澪「ん……唯?」


先ほど、唯が眠りだした場所まで引き返してきたが

そこには誰もいない


地面に「ふんす」と書いてあるので、唯が寝ていたのは この場所で間違いないと思うが……

目を覚まして どこかに移動したのだろうか


ここから私の来た砂浜までは一本道で、それで出くわさなかったのだから

別荘に戻ったか……


人が2人も死んでるのにのんきなヤツだな


しかし、それも唯らしいか


くすり、と私は笑った


別荘は しん……と静まり返っていた

楽しくて賑やかな合宿になるハズだったのに

どうしてこんな事になってしまったのか……


あぎゅyがgclずjぎゃぎゃぎゃがy


澪「!?」

突如、どこか遠くの方から、耳をふさぎたくなるような醜い音が聞こえる


あぎゅあksldjかいおすいほあ;d


澪「な、なに、なんの音?」

これは……獣の雄叫びのような、そんな音だ

だけど、こんな鳴き声の動物なんて、ちょっと記憶に無い


そして、イヤなことに「遠くの方から」といってもすぐ近くではないというだけで

下手をすると、この別荘の奥の方から聞こえたのかも知れない


私は思わずあたりを見回す

まさか得体の知れない何かが、いるんじゃないだろうな


今の音に驚いて誰か出てこないか期待したのだが……

考えてみれば律もムギもいない、唯は……別荘の中にいるのか?いないのか?


そういえば梓は?

夕飯のあとから、部屋に こもりきりだったな


澪「よし、いざとなったら梓を生贄に差し出して自分だけ助かろう」

 「私は梓の先輩だから、その権利があるハズだからな」


私はひとまず梓の部屋の様子を見に行くことにした




コンコン

澪「梓、梓、いるかい?」

ノックをしたが返事がない


もちろん私は部屋のドアを蹴破って中に入った

澪「!!」

 「あ、梓……!?」


梓「あぎゃぎゃがぎゃがyぎゃぎゃぎゃぎゃww」


おぞましい獣のような雄叫びは、ベッドに横たわる梓の口から発せられていた

澪「お、おい、梓」

 「正気か?」

ゆさゆさと体をゆするが梓はニタニタと笑顔を浮かべながら目を開く様子はない

梓「あぴややおpさおhsしおはしおch:あ」

澪「……寝てる」

どうやら悪質なイビキのようだった


私は濡れた布を梓の顔にそっと かぶせる

こうすることで、息苦しくなりイビキがおさまると思ったからだ


いちまい

にまい

さんまい…

148 ---

梓「……」ンフーッ ンフーッ

よんまい

梓「……」ンフーッ ンフーッ

ごまい

梓「……」ンフーッ ンフーッ

ろくまい

梓「……」ンフーッ 

ななまい

梓「……」ンフーッ ンフーッ

はちまい

梓「……」ンフーッ 

きゅうまい

梓「……」ン……

じゅうまい

梓「……」


今、梓の顔の上には月刊ジャンプスクエアくらいの厚さになった濡れた布が重ねられている


そして梓は動かなくなった


さようなら



梓「ブハッ!?」

 「む、ぬの!?」

突如、梓が跳ね起きて、口や鼻をふさぐ布を払いのける

澪「おぉ、なんだ、あれだ、元気?」

梓「み、澪先輩!?澪先輩が布をかぶせたですか!?」

 「死ぬかと思ったじゃないですか!死ぬかと思ったじゃないれすか!」

顔を真っ赤にして早口でまくしたてて私に詰めよってくる

それはもう、さながら ちょっと唇を突き出せばキスしちゃいそうな距離だよ

うっとおしいヤツだなぁ

澪「あー……」

 「梓のイビキが、ちょっとあまりにもアレだったからさ」

梓「イビキ?」

 「嫌だなぁ。私がイビキなんか かくワケないじゃないですか」

 「変な先輩!」

澪「変なのはお前なんだよ」

梓「そんなウマイ事いって、私をからかって楽しんでいるんだ!!喜んでいるんだ!!」

そういうと梓は旅行かばんからナイフを取り出した

澪「お、落ち着け梓」

 「アレだ。おゆおにの仕業だよ、やっぱり」

梓「へぁ?」

 「お、おゆおに……?」

澪「ほら、夕飯のとき、唯が言ってただろ」

 「お湯が大好きな鬼がいるって。きっとソイツがお前の顔に布をかぶせたんだよ。何故か」

私はまたも、おゆおに様に罪をかぶっていただくことにした

梓「でもイビキがうるさいから

  澪先輩が布をかぶせたみたいな事を言ってたじゃないですか、今」

澪「そこは お前…………うそだよ」

梓「ホッ。なんだ、うそか」

 「澪先輩が私を殺そうとするワケないですものね!」


満面な笑みを浮かべ大いに納得したようだ


バカなヤツめ


澪「そういえば律やムギも、おゆおにもやられちゃったんだぞ」

梓「えっ」

 「や、やられちゃったって、お2人ともどうなったんですか?」

澪「し、死んだ」

梓「ひぃっ」

澪「つまり、お前も おゆおに にやられそうなところを

  私が部屋にかけつけた事で命拾いした、というワケさ」

梓「へぇ~~!」

これで梓はもっと私を尊敬することだろう

大変よいことだ


梓「それで、ゆ、唯先輩は……唯先輩はどうなったんですか?」

澪「唯?」

 「唯は、えーっと……お腹いっぱいで、眠くなって……いなくなった」

梓「なにを言ってるんですか」

澪「私にもサッパリだが事実だ。受け止めてくれ」

梓「そんな……」

梓「私、唯先輩を探しに行きます!!」

ツインテールを振り回していきりたつ梓


コイツは、唯を性的に慕っている可能性があるからな……


まぁ、それはいいんだが、一緒に探しにいこうと言い出しかねない空気を察知した私は

なんとか引きとめようと思った


何故ならば、外に探しに出れば暑いし、ヤブ蚊もいるからだ


澪「探すったってムチャだ。いいか、どこにいるか見当もつかないんだぞ」

 「ほっとけば、唯もそのうち戻ってくるさ」

 「だって、この別荘は外より涼しいから」

梓「でも……変なバケモノがいるんでしょ!?」

澪「なんだ、バケモノって」

 「そんなもの この世にいるワケないだろ」

 「お前はバカか?」

梓「だって澪先輩が、おゆおにがいるって言ったんじゃないですか」

 「そうじゃなくて もしかして、やっぱり

  私の顔に布をかぶせたのは澪せんぱ……」

澪「おゆおにはいる、必ずだ」

私はナイフを振り上げる梓の目をじっと見つめて言い放った

梓「じゃあ一緒に唯先輩を探しに行きましょう!!」

澪「わかった、お前は別荘の外を勢いよく探せ」

 「そして別荘の中の探索は、この私に任せるんだ」

梓「ラジャーです!!」

そういうと、梓は別荘から飛び出し

Bボタンダッシュで走るマリオのように

暗闇の中を猛スピードで駆け抜け、すぐに見えなくなった