ぴちゃ……ぴちゃ……


  ぐちゅぅ

  『あっ……ああんっ』 


  ぴちゃん……ぴちゃん……  


  『んはあぁぁぁっ……ひぃっ…ぐぅぅ」


梓「なんか純の声、色っぽいな……」

そう思うと余計に艶かしく感じられ
梓は少し頬を赤らめたりしてしまうのでした。


  ぴちゃん……


             ぴちゃん……  

梓「ふぅ……」

梓「唯先輩……今頃」


             ぴちゃん……


  ぴちゃん……  


梓は目を閉じ気になる先輩の顔を思い浮かべました

今度会った時もあの無垢な笑顔で呼びかけてくれるのでしょうか
彼女はまた抱きついてくるのでしょうか
そして、その時もまたきっと自分は迷惑そうな顔をしてしまうのです。

梓(私ももっと素直にならなくちゃ)

梓(もし私から抱きついたら、あのひとどんな顔するんだろ)

思わず唇に笑みが浮かびます。


  ミシッ     ミシッ


  ギ……ギィ……


何か軋むような物音に梓は我に帰りました。

気が付くと純の声が聞こえなくなっています

梓「純……?」

梓は腰を上げ、少し扉に近づきました。

先の音はその木の扉が開く音だったのでしょう

梓「純……?」

ぞくぞくっと、
背筋に冷たいものが走りました

梓「あれは……」

  視線-----

少しだけ開いたその隙間から、何かがこちらを伺っています。


梓「じゅ、純……だよね」

返事はありません。

全身総毛立つものを感じながらも、梓は眼を逸らすことが出来ませんでした。
逸らした途端何か、おぞましいものが飛び出してきそうな気がしたのです。



どの位そうしていたでしょうか、視線がふっと消えるのが判りました。

ほうっと安堵の溜息をついた次の瞬間

それはすうっ……と伸びてきました。

それ、そう

真っ白い腕


  『おいで……』

梓「ひゃっ!」

  ドスンッ

梓は思わず声を出し、尻餅をついてしまいました。



  『……おいで……』

白く細い腕、その手がひらひらと手招きをしています


  『おいで……』

梓「じ、じゅん?純なの?」

  ひら   ひら

梓「そういうのやめよ……ねっ」


  『おいで……』


  『……おいで……』


そして梓は気が付いたのです。

梓「……違う」


梓「純じゃない……純はそんな手じゃ……」


純の腕などではありえない真っ白い腕は、手招きを繰り返します


    ひら  ひら  


   『あずさ……おいで……』   


梓「いやだ……いや」

梓「な、なんで私の名前知ってるのよぉ……」


   『おいで……あずさ……』

    ひら  ひら  


梓「逃げなきゃ……」

後退りして立ち上がった梓は、一気に踵を返し廊下を走り出しました。

ダダッ ダダダダダッ





ぎい……    ビタンッ

       ひたひたひたひたひたひた     



       ひたひたひたひたひたひた     


梓「なにこれ?足音?」

何かが後ろから付いてくるのです。


梓「追いかけて……来てる!」





       ひたひたひたひたひたひた     
        ひたひたひたひたひたひた            


梓「なに?なんなのよもうっ!!」

梓は暗い廊下を夢中で走りました
恐怖で足が縺れ何度も転びそうになるのを堪えながら。

何度か角を曲がると、もう自分の部屋がどこなのかなど全くわからなくなってしまいました。
それでも止まることなどできません、足音はずっと追いかけてくるのです。  
行けども行けども廊下に終わりはありません。



       ひたひたひたひたひたひた
        ひたひたひたひたひたひた            
       ひたひたひたひたひたひた            




もうそこに、何かが

すぐそこに

振り返ればそこにいるのかもしれません

     あの真っ白な腕の……が…… 



   そこに……すぐそこに

梓「だめ……来ちゃやだ」



         ひたひたひたひたひたひた
        ひたひたひたひたひたひた              
         ひたひたひたひたひたひた              
        ひたひたひたひたひたひた              


梓「誰か……助けて!」


梓「純!」

叫ぼうとしても息が切れ掠れ声しか出せません。


梓(どうしようどうしよう)

次の角を曲がると襖戸が目に入りました

考える間もなく梓はその襖を開け

部屋の中へ……

  ガタンッ!



梓(明るい……あれ?ここは)


そこは見覚えのある自分たちの部屋
そしてそこに

純「あれ?どこ行ってたの梓」

梓「え、純……」

純「何息切らしてんのよ」

梓「どうして……」

純が布団から顔を出して不思議そうにこちらを見ています。

梓「え?え?私、今追いかけられて……」

梓「純……ずっとそこにいた?」

純「へ?うん、目が覚めたら梓いないし、どうしようかって今電気つけたとこだよ」

梓「私今廊下で追いかけられて……」

純「へ?夢見て寝ぼけたんじゃないの?」

梓「ゆめ……?」

そう言われれば悪い夢を見ていたような気もしてくるのです。



純「もう眠いよぉ……」

純は枕に顔を埋めました。


純「電気消して」

梓「うん……」


そう言われ梓は照明の紐を引き明かりを消しました
自分も布団に横になります。
廊下の方を伺ってみますが、やはり何の気配もありません。

梓「はぁ……」

友人の顔を見たからでしょうか、安堵と共に平静な気分に戻って行きました。

梓「お休み」

純「……」

梓(あ、メールどうなったんだろ)

梓「ねえ純、メール……」

純「……」

梓「寝ちゃったの……

梓「……」


そもそもメールの会話も夢だったのでしょうか?
寝惚けていたのでしょうか?
考えるうちに梓も眠りに落ちて行きました。




梓「……」



ぴちゃ…


  ぴちゃ…


梓「……」



梓「っ……」



  ぴちゃ…


  ぴちゃ…



梓「ん……」


『ああっ……んっ……』

またあの声がどこからか聞こえてきます。
苦痛を堪えるような
艶かしい、喘ぎ声のような



   『ああっ……あああんっ』

梓(あれ?この声って……まさか)


梓(……私?)

その声は梓の口から出ていたのです。


  『んんっ……あうぅっ』

梓(え?何で私こんな声出してるの?)

今までこんな声を出したことがありませんでした。
自分でも初めて聞く声、でもどうしようもなくそれは梓の声なのでした。


  ぐちゅっ  ぐちゅっ


ガツン、ゴツンと身体の芯から振動が伝わってきます。

その度に身体中に甘美な痺れが走り
梓の口からは我知らず声が漏れ出ているのです



  ぐちゅっ  ぐちゅっ

  『あんんっ……ひ……』


梓(気持ち……いい……)

梓(え?気持いい?)

梓(何これ……?私どうなっちゃってるの……?)

梓は初めて得る甘い感覚に戸惑いながらも必死の思いで目を開けて様子を伺いました。
自分のお腹の上に丸いものが見えました。何かがいます。
その何かが動くたびに梓は快感に打ち震えてしまうのです。

梓(あっ……純!?)

丸く見えたもの、それは純の頭部でした。
純が梓の下半身に多い被さっていたのです。


  ぐちゅっ  ぐちゅっ


梓「あんっ……だめ、純……何して……?」

純「あ……起きちゃったんだ」

梓「純、やめようよ、こんなのダメだよ……私達」

梓は純を振り解こうとしました。
でも身体の芯が重く痺れ力が入りません。
それはここのまま身を任せてもいいと思える程の官能なのです。


  ぴちゃ……ぴちゃ……


梓「んんっ、やだよ……」

  ぐちゅ  ぐちゅ

梓「ああっ……恥ずかしいよぉ……純……」


純に執拗に刺激を繰り返えします。
堪えようとしても身体がビクンビクンと反応し
びちゃびちゃと下腹部の辺りで水音が鳴っています。
夥しい体液が自分を濡らしていくのが判ります。

梓「どうしちゃったの純……私達友達でしょ……ダメだよ、こんなエッチなこと」



しかしそれは梓の勘違いでした
その純はムクリと顔を梓の方へ持ち上げ言ったのです。

純「どう?生きながら食べられるのってすごく気持ちいいでしょ」


梓(え……食べられる?生きながら?)

  じゅるぅ

梓「あんんっ!」

   っぐちゅ  にちゃぁ

梓「んひぃぃぃっ!」


純「美味しいよ……あずさ……」



そこでようやく梓は気付きました。

純の口元が真っ赤なことに
自分のお腹からなにががずるっと引き出されていることに
それを握った手が真っ白なことに

梓「!!!」

梓「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

梓「死ぬぅ!死んじゃうぅぅぅっ!!」

  『大丈夫、まだ死なない』

  『今度はあんたに憑いてあげるよ』



          ぐちゅ


え……なんだっけ……

         にちゃ ぐちゃ


ええと……

        くちゃくちゃ


ああそうだ……夏祭り

         ぶちぶちっ ずりゅ

楽しみ

だ……な、あ

ゆい、せん、ぱ

         ずるずるずるっ

……


---------------------------------


……にゃん

え?

唯「あずにゃん!」

梓「……」

唯「あずにゃん!どうしたのぼーっとして、みんな先に行っちゃったよ」

梓「唯……先輩?」


梓「えっ?ここ?ここは?」

唯「元気ないよ!せっかく夏祭りなのに楽しまなきゃ」

梓「夏祭り?」

見回すとそこは暗い部屋などではなく、夏祭りの喧騒の中。
道路脇には夜店が軒を連ね、電柱に取り付けられたスピーカーからは
祭囃子の割れた音が流されています。

そして目の前にいるのは
無垢なあの笑顔

梓「唯先輩、私………」

唯「純ちゃんは参加できなくて残念だったねぇ」

梓「え?純?そうだ純は?」

唯「何言ってるの?急におばあちゃんが亡くなったんでしょ?」

梓「おばあさんが……」

唯「だからあずにゃんだけ先に帰ってきたって、そうじゃなかったっけ?」

梓「私だけ帰って……あ……」

唯「へ?あずにゃん?ホントにどうしたの?」

梓「すいません……ちょっと色々あったんで」

唯「そうだよねえ、大変だったみたいだもんねえ」


おかしい、記憶が混乱してる……私さっきまで……

さっきまで……えーとなんだったっけ……


---喰いたい


え?今のは何?

しっかりしなきゃ……

私……私は?

私は梓、中野梓


---喰った


違う!何?この記憶は何?

食べた?私が?

何を?

純を……


---喰った


違う、食べられたのは……私

え?


そうだ……あの白い手

追いかけられて……それから……それから


---憑いた

------おまえに



……何だったんだろ




えっと……なんだったっけ……



---喰いたい喰いたい喰いたい



あ……そうか、




お腹減ってたんだ






梓「唯先輩」

不意に梓から左腕を掴まれ唯は少しびっくりした表情になりました。

唯「えっ、なあにあずにゃん?」

梓「少し……向こうで休みませんか」

唯「え、どうして?みんなとはぐれちゃうよ」

梓「唯先輩と二人っきりでお話ししたくて、久しぶりだし」

唯「あれ?いつもと違うねえ」

梓「私も少し素直になってみようと思って……」

唯「んー、あずにゃんがそう言うならいいよ」

梓「じゃあ行きましょう、あっちがいいです」

ぐいぐいと梓に手を曳かれてついて行きながら
唯はどこかおかしなものを感じました。

唯「あれ?」

夜店の光の加減でしょうか

唯の手を握る梓のその腕は、とても白く見えたのです。


                           -終-

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