梓「ブハッ!?」

 「む、ぬの!?」

突如、梓が跳ね起きて、口や鼻をふさぐ布を払いのける

澪「おぉ、なんだ、あれだ、元気?」

梓「み、澪先輩!?澪先輩が布をかぶせたですか!?」

 「死ぬかと思ったじゃないですか!死ぬかと思ったじゃないれすか!」

顔を真っ赤にして早口でまくしたてて私に詰めよってくる

それはもう、さながら ちょっと唇を突き出せばキスしちゃいそうな距離だよ

うっとおしいヤツだなぁ

澪「あー……」

 「梓のイビキが、ちょっとあまりにもアレだったからさ」

梓「イビキ?」

 「嫌だなぁ。私がイビキなんか かくワケないじゃないですか」

 「変な先輩!」

澪「変なのはお前なんだよ」

梓「そんなウマイ事いって、私をからかって楽しんでいるんだ!!喜んでいるんだ!!」

そういうと梓は旅行かばんからナイフを取り出した

澪「お、落ち着け梓」

 「アレだ。おゆおにの仕業だよ、やっぱり」

梓「へぁ?」

 「お、おゆおに……?」

澪「ほら、夕飯のとき、唯が言ってただろ」

 「お湯が大好きな鬼がいるって。きっとソイツがお前の顔に布をかぶせたんだよ。何故か」

私はまたも、おゆおに様に罪をかぶっていただくことにした

梓「でもイビキがうるさいから

  澪先輩が布をかぶせたみたいな事を言ってたじゃないですか、今」

澪「そこは お前…………うそだよ」

梓「ホッ。なんだ、うそか」

 「澪先輩が私を殺そうとするワケないですものね!」


満面な笑みを浮かべ大いに納得したようだ


バカなヤツめ


澪「そういえば律やムギも、おゆおにもやられちゃったんだぞ」

梓「えっ」

 「や、やられちゃったって、お2人ともどうなったんですか?」

澪「し、死んだ」

梓「ひぃっ」

澪「つまり、お前も おゆおに にやられそうなところを

  私が部屋にかけつけた事で命拾いした、というワケさ」

梓「へぇ~~!」

これで梓はもっと私を尊敬することだろう

大変よいことだ


梓「それで、ゆ、唯先輩は……唯先輩はどうなったんですか?」

澪「唯?」

 「唯は、えーっと……お腹いっぱいで、眠くなって……いなくなった」

梓「なにを言ってるんですか」

澪「私にもサッパリだが事実だ。受け止めてくれ」

梓「そんな……」

梓「私、唯先輩を探しに行きます!!」

ツインテールを振り回していきりたつ梓


コイツは、唯を性的に慕っている可能性があるからな……


まぁ、それはいいんだが、一緒に探しにいこうと言い出しかねない空気を察知した私は

なんとか引きとめようと思った


何故ならば、外に探しに出れば暑いし、ヤブ蚊もいるからだ


澪「探すったってムチャだ。いいか、どこにいるか見当もつかないんだぞ」

 「ほっとけば、唯もそのうち戻ってくるさ」

 「だって、この別荘は外より涼しいから」

梓「でも……変なバケモノがいるんでしょ!?」

澪「なんだ、バケモノって」

 「そんなもの この世にいるワケないだろ」

 「お前はバカか?」

梓「だって澪先輩が、おゆおにがいるって言ったんじゃないですか」

 「そうじゃなくて もしかして、やっぱり

  私の顔に布をかぶせたのは澪せんぱ……」

澪「おゆおにはいる、必ずだ」

私はナイフを振り上げる梓の目をじっと見つめて言い放った

梓「じゃあ一緒に唯先輩を探しに行きましょう!!」

澪「わかった、お前は別荘の外を勢いよく探せ」

 「そして別荘の中の探索は、この私に任せるんだ」

梓「ラジャーです!!」

そういうと、梓は別荘から飛び出し

Bボタンダッシュで走るマリオのように

暗闇の中を猛スピードで駆け抜け、すぐに見えなくなった



澪「さて、ついにこの別荘には私一人きり」

 「たとえ裸んぼうになっても、もう誰も私を止めることはできないんだ」


そういうと私は服を脱ぎ捨てパンツも放り投げ、別荘の中を全力疾走する


澪「あはははっ、私は王様だぞ!逆らうものは死刑だ!!」


ガチャンッ


カラカラッ


澪「ッ!?」


突如、ガラスの割れる音が、した


それも、そう遠くない距離から


いや。唯なら何故ガラスを割る必要があるんだ

まぁ、アイツは おっちょこちょいだからなぁ

可能性が無い事は無いけど……



みし……


みし……


ガラスが割れた音のした方角から廊下を歩く足音が近づいてくる


唯なのか、それとも梓?


そのとき、私の中で ひそかに ひっかかっていた事が脳裏をよぎる

そういえば律の体は、なぜ海岸に無かったのだろう???

あのときはテンションがあがって、本当に おゆおにが食べてくれたと思ったが

本当にそんな事があるのかなぁ



もし律が生きていて、私に復讐しようと考えていたら……?



澪「り、律……律なのか?」

おそるおそる呼びかけてみる


みし……


みしみし……



ミシミシミシミシミシミシ



足音が猛スピードで近づいて、きた

澪「わぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

私は怖くなって、その場にあったナイフをひっつかみ

別荘の外へ駆け出していった





ドンッ


澪「わぁあああああああああ!?」

紬「きゃぁああああああ!???」


外に出るなり、何かとぶつかったかと思えば頭から血を流したムギがいた


律「お、おい 何してんだ澪」

 「全裸でバイブ持って」

澪「えぁっ!?り、律!?」

 「そしてバイブ!?」

ナイフだと思ったら


バイブだった



澪「まいったよ。これじゃまるで私が変態みたいじゃないか」

陰毛丸出しでバイブをもったまま

カッコイイポーズをとろうとするが、なかなかサマにならない


紬「それより澪ちゃん……私たち、なぜか海岸に倒れていて……」

 「昨日の晩あたりから記憶がないんだけれど、一体、何があったの……?」

澪「え?」

律「アタシも気がついたら、頭から血を流したまま、砂浜をふらふら歩いててさ」

 「携帯電話は海水でぐちょぐちょに濡れて使い物にならなくなっちまってて

  連絡もとれないし……」

澪「……」

 「マジで?」

紬「うん、マジなの」

澪「…………」


これは……


うまくすれば、この状況を乗り切れるかも知れないぞ

澪「実はな、おゆおにが出たんだ」


神妙な顔で私は切り出した


紬「ね、りっちゃん。言ったとおりでしょ?」

律「そうだな……」


そういうと、律はゾッとするような無機質な目で

私の みぞおちに拳を叩き込んだ

澪「……マ?」


目を覚ますと、私は、なんか、暗くて狭いところに押し込まれていた


上を見上げると、星空が見える


ただし、視界はかなり狭い


どうやらここは縦穴の底らしい

気を失っている間に、律たちに放り込まれたというワケか……


私は律に殴られたお腹をさする


穴の広さは、足を曲げれば座れるが、寝転がることは出来ないくらいで

深さは……5メートル、といったところか……

と、口を半開きのマヌケ面で夜空を見上げていると

ムギがひょっこりと穴の淵から顔をのぞかせた


澪「あっ、ムギ!!」

 「なぁムギよ。な、なぜ私はこんな所にいるんだ?」

紬「おゆおに」

澪「えっ」

紬「おゆおにが澪ちゃんを穴に放り込んだのよ」

澪「い……」

穴の上からムギがスイカに、しゃくっと かぶりつき

私の頭に ぼたぼたと赤い果肉が落ちてくる


私はノドが渇いていたので、それをうまく口でキャッチする

おいしい

澪「いや、しかし、待て、待て」

 「私のお腹をパンチしたのは律だったよね?」

紬「なにを言っているの、りっちゃんがそんな事するハズないじゃない」

 「出来るハズないじゃない」

 「だって、りっちゃんは澪ちゃんが……」

澪「えっ、だって さっき いただろ、律」

紬「ふふ」

そういうとムギはすぐに顔を引っ込めてしまった

澪「もぐらたたきめ」

 「次に顔を出したら絶対に叩いてやるぞ」



さて、少し状況を整理する必要があるな……


どうやら律とムギは生きていて、私に仕返しをしようとしているみたいだ


「おゆおにの仕業」みたいな事を言っていたが

意趣返し、というヤツだな、きっと


問題は律たちがどの程度の復讐を望んでいるかということ


たとえば3日後の合宿最終日まで私を穴の底に閉じ込める程度のイヤガラセなら

まぁ別にあせることもあるまい


しかし、まさか、私の命を奪う気だったら……?

う~ん

アイツら、気はいいヤツらだけどバカだからなぁ……

殺す気はなくとも

加減を間違えて、うっかり死なせてしまったとかやりそうだ


くそっ、まったくどうしようもない連中だよ


どうする?

いっそ謝ってみるか?


澪「お~い、ごめんごめん」


謝ってみた

べしゃっ

澪「?」

べしゃっ

澪「わっ、ぷわっ!?」


穴の上から、何かが ばらばらっと投下された

一瞬、またムギが食べかけのスイカを吹き散らしたのかと思ったが

どうも土を放り込んでいるらしい


スイカだと思って口を開けてキャッチしようとしたため

口内が土まみれ

澪「ぺっ、ぺっ」

 「ひどいや」

ざくっ べしゃっ

ざくっ べしゃっ


次々と土が放り込まれ、もう膝元まで土が溜まってきている

澪「くっ、まさか私を生き埋めにするつもりか!?」


でも足元に降り積もる土をうまく踏み固めていくと

それは足場となり、私の体は少しづつ穴の出口に近づいていくではないか


このまま放り込まれた土を全部、踏み固めていけば、そのうち脱出できそうだぞ


澪「アイツらは本当にバカだな」

私は聖母マリアのように自愛に満ちた表情で高笑いした

ん……?自愛?慈愛?


まぁどっちも似たようなもんだろう

慈愛も所詮、自己満足のためさ

ざくっ べしゃっ

ざくっ べしゃっ


などとカッコいいことをほざきながら

どんどん放り込まれる土を踏み固め

私はついに5メートルの深さがあった穴を脱出できる位置まで来れた


それにしても私が機転を利かせたから いいようなものの

これが唯とかだったら窒息死していたぞ

怖いなぁ


私は穴から出たら律とムギをバラバラにしてやろうと思った

澪「よっ」

穴から出ると、そこにはシャベルをもった鬼がいた


澪「えっ?」

鬼「えっ!?」


毛むくじゃらの鬼がシャベルになみなみと土を盛り込んだまま

こちらを見ている


体の大きさはゆうに2メートルを超えているだろう


私は恐怖した

澪「なっ、えっ、なんだ、おまえっ」

鬼「お……」

澪「……お?」


鬼「お湯もませろぉおおおおおおおおッ」

 「ガァアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

澪「お湯もませろ?」

 「飲ませろ、の間違いじゃないんですか?」

鬼「あっ///」

澪「バカヤロウッ!!」


ばちぃんッ


私がイラッとして鬼に平手打ちをはなつと


鬼は死んだ



あっけなく死んだ2メートル超えの鬼を見ていると

私はなんだかチェ・ホンマンを思い出した


そういえば以前、佐々木希と付き合ってるって噂があったけど

本当だったのだろうか


まぁソースは東スポだから、アレだけど……

しかし、それにしても、この鬼はなんだったのだろう


私も唯もムギも罪を犯し

そして、その罪を、いもしない架空の鬼のせいにした


だけど、そういったウソが迷信となり

歪みをもった信じる力が、本当に妖怪を生み出す……


なんか よく ありそうな話だな


まぁ、こういった場合 報いとして嘘をついた私が

鬼にひどい目に合わされるんだろうが

鬼が弱かったのも時代のなせるワザか


もう鬼とか幽霊とかの時代でもあるまい

UFO番組とか怪奇現象番組とか全然、見なくなったもんね

そういって、ふと近くの草の茂みをのぞいてみると

唯や律、ムギ、梓がいた


みんな、笑顔でバーベキューをしている


ハンバーグもあった


誰も私のことなど気にも留めず

ムシャムシャむしゃむしゃ

おいしそうなものを食べ続けている


アウト オブ 眼中、か


澪「みんな」


私が声をかけると

みんな、ぎょっとした顔をして

お肉を隠した


私は中学時代、卒業式の直後、ママと焼肉屋に行ったら

焼肉やで私以外のクラスメイト全員と出会ったことを思い出した


冷たい体 渇く心 


私はなんだか無性にお湯が飲みたくなり

みんなの元へ駆け出した





    ─御湯鬼─






      終わり


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