ずるずるずる

ちゅるるるっ

唯「あ~、食べたね~」

紬「私、カップラーメンって生まれて始めて食べたけど おいしかったぁ~」

唯「よかったね、ぺっ」

べちょっ

紬「あ……」


またもムギが遠まわしに

「庶民のしみったれた食べ物なんて普段は絶対に食べません、嗚呼 食べませんとも」

というセレブアピールを始めたので

唯が別荘の床にツバを吐いた

でも、やり慣れない事をしようとしたためか

唯自身の太ももにツバが べちょっとかかっただけだった


唯「わぁっ、きたないよぉ~;;」


バカかコイツは

唯「……ムギちゃん、エアコンの音頭下げてよ」

紬「え、えぇ」

ぴっ ぴっ

唯「違うよ、エアコンの温度じゃなくてエアコン音頭だよ~」

 「わかんないかなぁ。あっ、お金持ちだから わかんないんだねっ?ねっ、澪ちゃん」

澪「そうかも知れないな」

紬「……」

ぼたゃっ


ムギがポケットに隠し持っていた大福を壁に叩きつけた


ちなみに私も、唯が何を言っているのか分からなかった



結局、私たちは無事、カップラーメンを食べることに大成功した

しかし確かに海で食べるシーフードヌードルは格別だったが

何かが足りないような気がした

紬「オマールエビ?」

ムギがポケットから巨大なザリガニを取り出す

澪「違う、……律だ」


思い返してみれば別荘に着いてから、あいつと会話した記憶が私には無い

唯「ほえ?」

澪「律だよ律!!分からないのか!?」

唯「わ、分かるよ。分かるけど……」

紬「りっちゃんが どうかしたの?」

澪「どうかしたのかって……さっきからずっと律がいないじゃないか!!」

唯「だってそれは……」

紬「澪ちゃんが海に着くなり、血の海に沈めたんじゃない……」

澪「そういえば そうだったな……」


ハァ──とため息をつく


考えてみれば打楽器で人間の頭を叩くのは大変、良くないことだった

そもそもベースは打楽器ですら無いのだ

学校ではなかなか教えてくれないことだが

こういった経験から、少しずつ 私たちは大人になっていくのか……


まぁいいや


澪「しかし それはそれとして」

 「今になってもアイツが姿を見せないのはおかしくないか?」

紬「あんまり言いたくなかったけど、りっちゃんはたぶんもう……」

唯「うん……」

澪「なんだよ」

唯「だから、ね……?」

澪「……!!」


そのとき、私の頭脳に稲妻のような電撃が走った

稲妻も電撃も似たようなものだが


そんなことよりもしかして、田井中律は死んだのか?


そう考えると、これまでのアイツの行動の辻褄がすべて合点がいく

だから律は今日一日、姿を見せなかったのだ

くそっ、アイツめ

……などと愚痴をこぼしている場合ではない

私が 律の頭でスイカ割りをしたことが明るみになったら……

大人として、いくつかの手を打たざるをえないな、と私は ほくそ笑んだ

澪「あっw!!」

唯「ひっ、ど、どうしたの?」

澪「もしかしたら、『おゆおに』の仕業かも知れない……」

紬「えっ」

澪「おゆおにが気絶している律を食べちゃったのかも知れない」

唯「そんな……」

澪「きっと そうだ、きっと そうだよ!!」

私はイチかバチか、唯の生み出した架空の妖怪『おゆおに』に

全ての責任をなすりつける事にした


唯「うーん。でも、おゆおにって お湯が好きな鬼だよ?」

 「りっちゃんを食べたりするのかなぁ」

澪「だったら、どうして律は帰ってこないんだ?」

 「他に理由があるっていうなら言ってみろよ!!えぇ!?」

おずおずとしゃべる唯の胸倉をつかみあげる


唯「ひっ、だ、だからそれは澪ちゃんがころ……」

澪「見えないよ!!聞こえないよ!!」


紬「……」


紬「じゃあ、みんなで砂浜へ行きましょうか」


紬「りっちゃんの確認に」

澪「へぁっ!?」


ムギめ……まったく、とんでもない事を言い出すヤツだ


紬「りっちゃんが本当に食べられているなら その体に異変が見られるハズよ」

 「鬼に かじられた痕とか」

唯「ふぇぇ……」

澪「で、でも跡形もなく食べられたかも知れないよ?」

紬「だったら 砂浜には何もなくなっているハズね」


くすくす、とムギは笑う


クソっ、なに笑ってるんだ

人が一人死んでるんだぞ!!


と、私は憤りを感じた



ざっ、ざっ


じゃりっ、じゃりっ


私とムギと唯の三人が懐中電灯の灯りを頼りに

砂浜へ向かう夜道を歩く

いつもはにぎやかな唯も、存在感の薄いムギも一言も発しない


もし、砂浜に、律の死体が、あったら、わたしは、いったい、どうなるのだろうか


ムギと、唯は、通報、するのか?

もし、正直に自白するとしても、私はおまわりさんに、動機を、なんて話せばいいんだ?

海に来てテンションがあがって、ついベースを振り下ろして……なんて言ったらアタマが変な子だと思われてしまう

結構、恥ずかしいぞ、それ


そんな事態だけは、なんとしてでも避けねばならない


どうする どうする


いろいろな思考がぐるぐるぐるると頭の中を駆け巡る中

ふと、唯が道端に座り込んだ

紬「どうしたの、唯ちゃん」

唯「お腹いっぱい過ぎて気持ち悪くって……」

澪「お腹いっぱいって、カップラーメン一個で?」

唯「夕飯の前にちょいと、つまみぐいを……」


へへ、と笑う


澪「なに食べたんだ?ハンバーグ?ねぇハンバーグ?ハンバーグ!?」

紬「ねぇ、あんまり無理しない方がいいんじゃないかしら」

唯「うん……じゃあ悪いけど、私、横になってるね」

澪「ああ」


澪「ぁあ?」


道の真ん中で唯は ごろりと寝そべった


紬「唯ちゃん、そんなところで眠ったら お服が砂まみれになっちゃうよ?」

唯「ふんす……」

とろんとした目つきの唯の耳にはもう、ムギの言葉は届いていなかった

唯を置き去りにした私たちは夜の砂浜に到着した


ムギと2人きり……


別にロマンチックなことを考えているワケではない

ムギ一人なら口封じ出来るかなぁ、なんて事を考えていた


澪「ムギ」


紬「なぁに、澪ちゃん」


澪「1000円あげる」


紬「え……?ど、どうもありがとう」


やった!!

商談成立だ!!

やったった!!



ワイロを受け取ったムギとはもはや一蓮托生

これで私をおまわりさんに売れば、ムギも贈収賄罪とかで捕まるハズだ!!

たぶん


澪「唯には内緒だぞ?」

ムギ「え、えぇ……」


唯には10円でいいだろう

紬「えっと、りっちゃんが いたのはあの辺りだったかしら」

澪「そうだな」

 「そうだけど」

紬「?」

 「だけど……なぁに?」

ムギがキョトンとした顔でこちらを見返してくる

澪「今、私1000円あげたよね?」

紬「うん」

私の賄賂を受け取ったのだから、捜索は切りあげて別荘に戻れば いいんじゃないの?

分かんないかなぁ

私はムギの目を見つめてテレパシーを送る

澪「届け、私の想い」

紬「えっ……///」

紬「澪ちゃん……」

澪「あっ、一緒に死体を処理してくれるってこと?」

紬「??」

澪「どうなんだ、ムギ」

紬「ごめんね。澪ちゃんが何を言っているのか分からないわ」

澪「……!!」

こいつ……金だけ受け取って約束を反故にする気か……!?

くそっ、ウンコめ!!

私はムギにヒドイ事をしようと決心する

紬「あらっ」

澪「えっ」


ムギをどうにかしようと背後から近づいたが

興味はすぐさま別のものに移った


月の光に照らされた白い砂浜に、赤黒いシミがべったりと広がっている


しかし、そこにはシミ以外、何もなかった


何も


紬「りっちゃん……? りっちゃんは?」

澪「……」


私の記憶と推察が確かならば

頭から血を流した律が ここに倒れていなければならないはずだ


だけど……


ということは……


澪「やっぱり『おゆおに』が食べちゃったんだ!!」


これで全部、おゆおにの仕業になった!!

夢は信じれば叶うって、ホントだったんだなぁ


紬「そ、そんなハズは……」

澪「あっ、ということは口止め料を払う必要もなかったんだ」

 「ムギ、さっきの1000円返してくれ」

紬「えっ、なに?」

澪「1000円。さっき渡しただろ?」

じりっ、とムギとの距離を詰める

紬「い、いやよ」

じりっ、とその分、ムギも後ろに あとずさる

澪「このッ……」

 「いいから返せええええええええ!!!」

紬「いやぁあああああああ!!」


私は その場でクルクルとブレイクダンスを踊って叫びだすと

ムギは一目散に走り出した

澪「ムギッ!!」

紬「あっ!?」


どしゃり


ゴンッ


転んだ

砂に足をとられたムギが宙に放物線を描いて倒れこんだ

放物線って言いたかっただけなんだ   だってカッコいいから

それにしても慌てて駆け出したとはいえ、何もない砂浜で転ぶとは不思議な娘よ

澪「まったく、1000円を返さないからバチが当たったんだぞ」

 「ムギ……?」

私は ふらついた足取りで近づいてみるが

ムギは逃げようとも起き上がろうとすらしない


私は異変を感じて、急いでムギの元に駆け寄る

紬「……」


倒れこんだムギの頭の下に、黒っぽい流木が落ちていた


澪「お、おい」


体をゆすってみるが、ムギは口をだらりと開いたまま、目を開ける様子が無い


ぬるり


澪「……!!」


ムギの頭から赤い何かが流れていた


澪「ム、ムギ!!おい、しっかりしろ!!」

私はムギの肉体が硬直してしまう前に握り締めていた1000円を慌てて奪い返した

澪「ふぅ、損するトコだった。しかし、これってあんまりよくない状況だよね……」

ムギは勝手に転んで流木に頭をぶつけただけだ

私は何一つ悪くない


だけど唯は、私とムギが2人きりで砂浜に向かったのを知っているし

律のこともある


もしかしたら、この光景を目の当たりにすれば

あらぬ誤解をしてしまうかも知れない



澪「……よし」

ざりっ ざりざり


私は砂浜に「おゆおに参上」と書いて

速やかにドヤ顔でその場をあとにした

ムギと2人で来た道を、今は1人でたどって別荘に戻る


私はとりあえず唯になんて説明しようか考えていた


「いきなり、おゆおにが突撃してきてムギをペロリと食べちゃったんだ!!」


……いくら唯が相手とはいえ、こんな雑なデタラメが通じるのだろうか

そもそもペロリと食べたといっても、ムギは頭から血を流してただけで

食べられた形跡はない


!!


じゃあ、こういうのはどうだろう

まず、おゆおにがムギを突き飛ばして、食べようとしてた所を

私がゲンコツで追い払った……

そしてムギは死んだ



決まりだな

分かりやすいし、私の活躍シーンがあるのも気に入りました


私はなんだか自分が大変 立派な人間になったような気がして

暗い夜道をずんずんと歩き始めたのです



澪「ん……唯?」


先ほど、唯が眠りだした場所まで引き返してきたが

そこには誰もいない


地面に「ふんす」と書いてあるので、唯が寝ていたのは この場所で間違いないと思うが……

目を覚まして どこかに移動したのだろうか


ここから私の来た砂浜までは一本道で、それで出くわさなかったのだから

別荘に戻ったか……


人が2人も死んでるのにのんきなヤツだな


しかし、それも唯らしいか


くすり、と私は笑った


別荘は しん……と静まり返っていた

楽しくて賑やかな合宿になるハズだったのに

どうしてこんな事になってしまったのか……


あぎゅyがgclずjぎゃぎゃぎゃがy


澪「!?」

突如、どこか遠くの方から、耳をふさぎたくなるような醜い音が聞こえる


あぎゅあksldjかいおすいほあ;d


澪「な、なに、なんの音?」

これは……獣の雄叫びのような、そんな音だ

だけど、こんな鳴き声の動物なんて、ちょっと記憶に無い


そして、イヤなことに「遠くの方から」といってもすぐ近くではないというだけで

下手をすると、この別荘の奥の方から聞こえたのかも知れない


私は思わずあたりを見回す

まさか得体の知れない何かが、いるんじゃないだろうな


今の音に驚いて誰か出てこないか期待したのだが……

考えてみれば律もムギもいない、唯は……別荘の中にいるのか?いないのか?


そういえば梓は?

夕飯のあとから、部屋に こもりきりだったな


澪「よし、いざとなったら梓を生贄に差し出して自分だけ助かろう」

 「私は梓の先輩だから、その権利があるハズだからな」


私はひとまず梓の部屋の様子を見に行くことにした




コンコン

澪「梓、梓、いるかい?」

ノックをしたが返事がない


もちろん私は部屋のドアを蹴破って中に入った

澪「!!」

 「あ、梓……!?」


梓「あぎゃぎゃがぎゃがyぎゃぎゃぎゃぎゃww」


おぞましい獣のような雄叫びは、ベッドに横たわる梓の口から発せられていた

澪「お、おい、梓」

 「正気か?」

ゆさゆさと体をゆするが梓はニタニタと笑顔を浮かべながら目を開く様子はない

梓「あぴややおpさおhsしおはしおch:あ」

澪「……寝てる」

どうやら悪質なイビキのようだった


私は濡れた布を梓の顔にそっと かぶせる

こうすることで、息苦しくなりイビキがおさまると思ったからだ


いちまい

にまい

さんまい…

148 ---

梓「……」ンフーッ ンフーッ

よんまい

梓「……」ンフーッ ンフーッ

ごまい

梓「……」ンフーッ ンフーッ

ろくまい

梓「……」ンフーッ 

ななまい

梓「……」ンフーッ ンフーッ

はちまい

梓「……」ンフーッ 

きゅうまい

梓「……」ン……

じゅうまい

梓「……」


今、梓の顔の上には月刊ジャンプスクエアくらいの厚さになった濡れた布が重ねられている


そして梓は動かなくなった


さようなら

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