和は、ヘルペスという病気に聞き覚えがあった。確か、鯉が死ぬ病気だったように思う。

これが、人間にかかるといったいどうなるのか。和は全く見当が付かず、恐怖した。

そして、もう一つ、クラミジアという病気。これも全く、どういう病気か見当が付かなかった。

和「…」

さわ子は、そんな和を気取り、簡単に解説した。

さわ子「…全部、性病よ。…どれも、比較的すぐ治るし、症状も比較的軽いわ」

和には、それが本当か嘘か、全く判断がつかなかった。

病名からは症状や治療法が全く推測できない。

仮に、さわ子が全くの出任せを言っていたとして、和にはそれを見破ることが困難だった。

「3:00」

無情にも、時間は目減りしてゆく。

和「…OUTボタン、押さないんですか」

さわ子「…さっきも、言ったわよね。私はボタンを押さない」

和「…」

和は、先ほどと同じように、INボタンを押下した。

さわ子「…和ちゃん。私はボタンを押さない。半分ずつになれば、感染する確率も下がるかもしれない。今は、駆け引きをする時じゃないわ。二人で半分こにして、お互い、少しでも感染するリスクを減らしましょう」


ここにきて和は、迷っていた。

実は、さわ子が本当の事を言っていて…駆け引きをする気なんてさらさらなく、純粋に自分の身を案じてくれているのだとしたら…

結果、さわ子に従えば、受け入れる精液の量は、激減する。

既に性病患者の精液を注入されていたが…それも、半分で済んでいたかもしれない。

どのくらい、意味があるのかは分からないが、それでも少なくとも感染の危険性は軽減されていたに違いない。

しかし…ここまで来てしまったのだ。和のOUTボタンが尽きた瞬間、さわ子がOUTボタンを押し始めるかもしれない。

そう、和は判断して、今この決断に至っているのだ。今更もう、後には引けない…


「0:05」

「0:04」

「0:03」

「0:02」

「0:01」

「ピー」


都合三種類の性病を持った精液が、和の胎内へと注入される。

…繰り返しになるが、和は、貞操観の堅い少女だった。

その彼女が、純血のまま、何人もの男の精液を強制的に注入され…

そして、性病に感染するかもしれない。

性病は、不貞の証明の様に、他者に後ろ指を指されるだろう。

性器に疾患を抱え、日々の生活に支障を来しながら、妙な噂に精神をすり減らしながら、産婦人科に通い…

情けない、惨めな思いを強要されるだろう。

和「…」

さわ子「…」

お互いに、無言で見つめ合う。

現状、既に二人には、極端な優劣の差はない状態になっていた。

さわ子はOUTボタンが残り二つ。

和はINボタンとOUTボタンが残り一つずつ。

和が次を凌げば、最終的に、二人は再度対等な状態へと戻る事になる。

そして、ブザーの音が鳴り響き…8回目のゲームが始まった。

カウントダウンが始まり、ディスプレイに男の顔写真が表示され…

しかし二人は、最早持病欄にしか興味がなかった。

いち早く、さわ子がその欄を把握し…先ほどに続き、うっ、と、うめき声を上げる。

 持病:梅毒 

和は、その反応を見て、そしてその毒々しい病名から見て…直感的に、それがやばい病気だと悟った。

和「…先生。念のため、聞いて良いですか。これ、どう言う病気ですか」

ここに来て、さわ子に教示を求めた和の心理状態は、最早完全に論理性を失っていた。

聞いたとして、さわ子が答えたとして…その裏付けがとりようもない状態で、いったい何の意味があるというのか。

たとえば、これが実際は致命的な病気だったとして。

さわ子がそれを、和がINボタンを押して受け入れるように、あたかも軽い病気かのように吹聴するかもしれない。

いや。そう考えれば、既に前回、前々回とも、そのリスクが既に発生しているのだ。

和は、だらだらと、冷や汗を吹き出しながら、それでもさわ子の発言を待った。

さわ子「…症状は、放っとくと酷いけど、今は薬でちゃんと治療できるの。…ただ、血液検査すると、この病気にかかった事があるって、分かっちゃうの」

和は、その説明を聞いても、何を言っているのかピンとこなかった。

さわ子「…つまり、ね。性病にかかった事があるって事が、一生、血液検査の反応に出続けるの。…健康診断とかでも、その結果にずっと出続けるの」

その説明を聞いて…すうっと、和の顔から血の気が引いてゆく。

これは、とどのつまり…和が危惧していた、致命的な病気だったのだ。

さわ子「ただ…繰り返しになるけど、この病気は、薬でちゃんと治るし、潜伏期間が長いから、症状が出る前に治るわ。…エイズとかと比べると、全然マシ」

和は、繰り返しになるが、その発言の裏付けをとることが出来ず…かと言って、今の具体的な説明が出任せとも思えず、どちらのボタンを押すべきか、全く判断が付かなかった。

「3:15」

「3:14」

徐々に目減りしていくカウント。

和は、あと三分で決断しなくてはならない。

ここでOUTボタンを使ったならば…和は、この回の精液を、最悪半分受け入れる事になる。

ただし、次回の精液は、何の抵抗の余地もなく、100%受け入れる事が決定してしまう。

…和は、最終的に、直感でこう決断した。

必ずや、エイズの男が出てくる。OUTボタンを使うのは、そのときだ。

和は、そう決断し、意を決してINボタンを押した。

さわ子「な、和ちゃん!」

和「…さわ子先生、さっきの話、本当ですか?」

さわ子「本当よ!嘘なんか言わない!」

さわ子は、逡巡した後、INボタンを押したが、ランプが尽きていたため、当然何の反応もなかった。そのときの和には、その行為の意味がよく分からなかった。

さわ子「和ちゃん。お願い、私を信じて。…もう、次は、二人ともOUTボタンしかない。だから、押しても押さなくても結果は同じよ」

和は、さわ子が何を言いたいのか、理解できなかった。

さわ子「和ちゃん。OUTボタンを押すことはね、相手にリスクを押しつける意思があるという、意思表明なの。だから、結果が同じなら、押しちゃだめなの」

結果が同じ、と、さわ子は言った。

しかし…それには、大前提がある。

和「…二人とも、押さないという保証がどこに?先生が押さないという保証がどこに?」

さわ子「だから!お互い、押しちゃだめだって、言ってるの!」

例えば、双方押さなかったとして…時間が尽きる直前。一人が裏切ったとすると…

コンマの差で、タイムアップぎりぎりにOUTボタンを押したとすると、裏切った方はまんまとそれから逃れられるかもしれない。

そして、致命的にな病気のリスクを、ただ一人、押しつけられて…

和「…先生。私は、次、必ずOUTボタンを押します。…先生は、ボタンを押さないと言っていました」

さわ子「言ったわよ!だけどそれは、和ちゃんが押さない前提の話よ!」

ここまで来ると、もう、完全に平行線だった。

和「…先生。私がOUTボタン押したら、先生も押しますか?」

さわ子「分かんないわよ!押したくないの!だから和ちゃんも押さないで!」

不毛な問答。平行線。

そんなやりとりを繰り返す内に…

「0:01」

「ピー」

いつの間にか、時間が尽き…

ぴゅっ、と、致命的な性病を持った精液が、和の胎内に注入された。

和「ひぐっ…うう…」

思わず、うめき声をあげる。悲鳴を上げそうになる。

でも、これで。これでようやく。

和とさわ子は、ついに、同じ条件になった。

和「…先生。これで、同じです」

さわ子「和ちゃん…うう…信じてよお」

そして…

最後のランプを掛けて、9回目のブザーが鳴り響く。

カウントダウンとともに、ディスプレイに、男の写真が表示され…

その男は、5回目の醜男にひけを取らないレベルの、醜悪な顔立ちの男だった。

そして…果たして、そこには二人が最も危惧する内容が記されていた。

 持病:エイズ 

和「う、うわあっ!うわああ!ひ、ひいい!」

さわ子「ひぃっ…!いやあっ…!」

絶叫。

和の予想通り、それは、二人が今最も危惧する病気だった。

予想していたこととはいえ、実際にその予想が実現したインパクトは計り知れず。

二人は、長い間悲鳴を上げ続けていた。

そして。

和「うわああん!うわああ!」

和は、ほぼ反射的に、OUTボタンを押していた。

さわ子「和ちゃん!押したのね!?ボタン押したのね!」

和「先生、先生!ごめんなさい!うわああん!先生、ボタン、押さないで!お願い!」

泣き叫ぶ和。そして、さわ子は。

泣きながら、わめきながら、力強く、OUTボタンを押下した。

和「いやああああ!先生!押さないで!押しちゃだめ!うわああ!」

さわ子「だ、だってっ!和ちゃんが先に押したじゃない!押したじゃないの!うううう!」



こうして…二人のゲームは決した。

最後の最後。二人は対等になり。そして、お互いがお互いにリスクを押し付け合い…結果、致命的な病気のリスクを、お互い等しく背負うことになった。

あとはもう、絶叫。

ただ、二人は、叫び声を上げ続ける。

さわ子「いやあぁ!いやあああ!」

和「うわああん!うわあああ!」

バン、バン、と、二人は何度も何度も、既に押下したOUTのボタンを押し続けた。

まるで、そのボタンを押した回数が多い方が、その精液から逃れられるかの様に。

しかし…無情にも。

「0:00」

ピー、というブザーとともに、ゲームの終わりが告げられる。

そして。注射器に充填された精液が、射精された。

ぴゅっ、と、注射器から管を伝って、二人の子宮へと精液が送り込まれ…

さわ子「いやああああ!いやああああ!」

和「うわあああん!いやああああ!いやああああ!」

泣き叫ぶ二人。

身体をよじり、手足に力を込め…しかし、そんな二人の精一杯の抵抗も虚しく。

無情にも、その精液は二人の子宮へと到達した。

二人は、事が済んでしまった事を悟り…うなだれて、嗚咽を漏らした。

うう、と、うめき声を上げながら、涙をこぼしながら…

感染していないように、と、懇願する事しか出来なかった。

…そして。鎌首を擡げる、罪悪感。後悔の念。


和は、今になって、ようやく悟った。

さわ子は、正しかったのだ。

結果は、変わらなかったのだ。とすれば、あの最後のOUTボタンは、決して、押してはならないものだったのだ。

和は今更ながらにそのことに気づき…

気がつけば、謝罪の言葉を繰り返していた。

和「ごめんなさい。さわ子先生、ごめんなさい。うう…本当に、ごめんなさい」

さわ子「うう…私こそ、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。守ってあげられなくて、本当にごめんなさい」

二人は泣きながら、お互いの身を案じ、自らの行為を悔い…

謝罪の言葉を、口にした。

二人は、お互いに謝りながら、後悔の念を吐露しながら…

次のゲームは、始まる気配はなかった。

二人のボタンも、気力も、全てが尽き…こうして、このゲームは、幕を閉じた。

…幕を閉じた、かのように、思われた。

しかし。



ディスプレイに、何かが表示された。

はじめ、それが何なのか、意味が分からなかった。

和とさわ子は、その表示に気がつき、そして…

その内容を見て、その内容を理解して…

わなわなと、震えながら。顔を蒼白にしながら…


「実はあれは精液ではありませんでした。
 片栗粉で作った偽物です。なので、ご安心ください。 

 ただ、この後、特別ステージとして、実際にさっきの男性達から直接精液を注いでもらえます。 

 INボタンを押した男性全てから、順番に精液を注いでもらえます。 
 それでは、次のお目覚めをお待ち下さい。」 


さわ子「ちょ、ちょっと待って…そ、そんな…!」

和「わあああ!い、いやああ!いやあああ!」




…そして、このゲームは、幕を閉じた。

これから二人は、再度眠らされ、別室に運ばれ…男たちに、犯される。

何の抵抗の余地も無く、男たちの為すがままに。

男たちの体力と精力が続く限り、何度も何度も胎内に射精され…そして、妊娠し、最悪、性病を患うだろう。

さわ子「いやああああ!いやあああああああああ!」

和「うわああああああああああ!ああああああああああ!」


…そうして、二人は、何の抵抗も出来ないまま…

悪夢のような、時間を迎え…

そして…



終わり