さわ子「真鍋さん、落ち着いて。ね?大丈夫だから」

健康な女性である以上、身体の仕組み上、彼女らは毎月排卵する。

一般的には、排卵日に合わせて性交する事で、女性は妊娠する。それ以上でも、それ以下でもない。いわば単なる生理現象だ。

和ももちろん、そのレベルの知識はある。しかし…しかし、この状況で…

拘束され、完全に身体の自由を奪われた状態で、その事実は…恐怖以外の何者でもなかった。

和をなだめようと、更に声を掛けようとした、その時だった。



「ブー、ブー」

和「ひっ!」

さわ子「な、何?!」

けたたましい、ブザーの音。

それにあわせるように、目の前の薄暗い空間に、明らかな変化が現れた。

手元にあった液晶の時計に赤字で、「5:00」と、何かの時間が表示され、それはすぐさま「4:59」と表示を変えた。

以後、一秒単位で、「4:58」「4:57」とカウントダウンを繰り返して…二人は、それが何かの制限時間なのだと、瞬時に理解した。

和「先生、先生!なんですか、これ!」

和は、はあはあと息を荒げながら、声を荒げながら…不安とストレスのあまり、泣き出しそうになっていた。

和「先生、助けて!はあ、はあ、助けて!」

さわ子「真鍋さん、大丈夫だから!大丈夫だから!」

安全を主張するさわ子であったが…その胸中は、その実和と同様、パニック寸前の状態だった。

しかし、さわ子はその感情を押しとどめ、努めて冷静に振る舞うよう、全霊で自制していた。

さわ子は、教育者として過度に熱心なタイプではなかったが、一般的な常識レベルは当然持ち合わせており、年長者としての責任もはっきりと認識していた。

なので彼女には、和の不安を軽減させ、そして願わくば、彼女を無事に解放するという義務がある。そう、明確に自覚していた。

しかしそれも、次の出来事に度肝を抜かれ、一瞬にして冷静さを打ち砕かれていた。

真ん中に置かれたディスプレイに、男の顔写真と、簡単なプロフィールが表示されたのだ。

短髪の、ハンサムなスポーツマンタイプの男性だった。年齢は20代後半と言った所だろうか。

そして次の瞬間…彼女らは、理解する事になる。

スカートから延びた、二本目の管の存在を。


カシャン、と音がして、プラスチックの注射器の様な物に、白い液体が充填された。

これは、多分。

男性の、精液だ。恐らくは、この写真の男の。

さわ子も、そして現物の精液を見るのは初めてだった和も、そう直感的に理解した。

そしてそれは、透明な管を通じて…二人の、スカートの中へと、這うように続いていた。

一本目の管は、尿道に挿入されていた。そしてきっと、もう一本の管は…。

和「先生!先生!助けて!うえええん!助けて!」

和が、その意味合いを理解し、身体を激しく捩りながら、さわ子に助けを求めた。

だが、さわ子にはどうする事も出来ない。そして、さわ子も、同様に叫び出したい気持ちで一杯だった。

さわ子「真鍋さん!真鍋さん、大丈夫だから!大丈夫!」

さわ子は、自身も動揺しながらも、懸命に和を励ましていた。

例えそれが、何の役にも立たなかったとしても、彼女個人が出来得る、最大限の努力であった事は間違いない。

その意味で、それを貫き通した彼女は、立派な大人だったと言っていいだろう。

しかし。彼女の努力とは無関係に、無情にも時計のカウントダウンが続く。


「3:15」「3:14」…

さわ子「…真鍋さん、落ち着いて。…大丈夫だから。落ち着いて」

自分で言いながら、一体何が大丈夫なのか、さっぱり分からなかった。

和「うう…!!先生、怖いです!私、妊娠させられちゃうんですか?うう…!」

妊娠、という、直接的な表現に、さわ子もショックを受ける。

もう、状況的に分かりきった事ではあったが…それでも、改めて言葉にされる事で、さわ子に急激にその実感が湧き、さあっと、顔から血の気が引くのが分かった。

そう。目的はさっぱり分からないが、…これは自分たちを妊娠させるための装置なのだ。

おそらくこのカウントが0になると、注射器に充填された精液が注射され…

そして、この管を伝って、おそらくは子宮口に挿入された先端から、子宮内に直接、射精されるのだ。

名前すら知らない、見ず知らずの男の精子を子宮に射精され…

そして、低くない確率で、妊娠する。

見ず知らずの男の子供を。

はあ、はあ、と、呼吸が乱れる。心臓が高鳴る。

なんとか冷静さを取り戻そうとするが、その試みは半ば以上上手く行かなかった。

「0:58」

いつの間にか、1分を切っていた。もう、時間的猶予は殆どなかった。

二人はこのまま、なんの抵抗も出来ないまま…


和「先生…ひっく。さわ子先生。うう…」

さわ子「真鍋さん、ごめんなさい。ごめんなさい。うう…」

さわ子にはもう、自分の不甲斐なさを謝罪する以外の事は出来なかった。

二人は何も出来ないまま、無情にカウントは減って行き…そして、ついに、10秒を切った。


「0:09」

「0:08」

「0:07」

さわ子はついに観念し、頭を垂れる。和のすがる様な視線に耐えかねて。

「0:03」

「0:02」

「0:01」


和「…先生…」

さわ子「…ごめんなさい…」

「ピー」

タイムアップとともに、ブザー音が鳴り響き、そして…

ぴゅっ、と、注射器に充填された精液が、管を通って押し流される。

管を通って、ちゅうっと、自分たちの身体の中に注入されて行く精液を、二人は絶望的な面持ちで傍観するしか無かった。

精液が、管を伝って、スカートの中へ消え…次の瞬間、おなかの奥がじわりと熱くなって…。

そうして、二人の子宮には、見ず知らずの男の精液が、たっぷりと射精された。

頭を垂れて、歯をくいしばって…その陵辱を、ただただ受け入れるしか無かった。

…和はもちろんの事、さわ子も、男の精液を胎内に入れられるのは初めての経験だった。

和は、貞操観念の固い少女だった。

漠然とではあるが、結婚する相手か、あるいは理想的には結婚するまで、男性と性交する事はないと、そう思っていた。

さわ子にしても、過度に男性経験が豊富な方ではない。学生時代に特定極少数の男性と、厳重な避妊の上、数度関係を持っただけだった。

さわ子の容姿や環境を考えると、身持ちの固い方だったと言って良いだろう。


そんな二人の、人間性、思想、経歴、尊厳…そう言った物を、一切否定するかのように、無情にもその行為は行われた。

二人の子宮は、名前すら知らない男の精液で満たされていた。

さわ子「…和ちゃん…。ごめんなさい。…ごめんなさい。何も出来なくて」

和「…うう…さわ子先生、謝らないでください…」

和は最早、はっきりと認識していた。二人は、対等な条件で、ここにこうして拘束されている。

さわ子にも、自分にも、この状況をどうする事も出来ない。

強固な悪意で、ここに拘束され、自分たちには最早抗う術は無かったのだ。

ならばせめて。

和「…と、取り乱して、すいませんでした。…大声を出して、すいませんでした」

いつもの自分でありたいと、そう思った。

和は、半ば無理矢理に、呼吸を整え、心を整え、精一杯平常心を装って、そう言った。

さわ子「和ちゃん…ごめんなさい。ごめんなさい」

…和はいつの間にか、お互いに名前で呼び合っている事に気がついた。

それに対する、ちょっとした喜びと、そして、この状況に対する絶望感、怒り、悲しみなど、色々な感情がごちゃ混ぜになって…和の精神は、かえって急速にニュートラルに戻りつつ合った。

和「…さわ子先生。…仮に、妊娠していた場合、どうしたら良いでしょうか」

その発言は、極めて冷静で、さわ子もつられるように、精神を持ち直さざるを得なかった。

さわ子「…ええと…。…妊娠してすぐなら、アフターピルで中絶出来るわ」

正確には、妊娠とは、受精後に着床する事によって成立する。

着床する前に事が済めば、妊娠した事にもならず、当然(定義上は)中絶にもならない。

さわ子は、それらを簡単に説明し、気休めではあるが、妊娠にも中絶にもあたらない事を繰り返し説明した。

さわ子「和ちゃん。あなたは男の子と関係を持った事はないわよね?」

さわ子は念のため、そう確認した。和は首肯した。

さわ子「なら、何も心配無いわ。ここから解放されたら、アフターピルを飲んで、次に生理がちゃんとくれば、もう元通りよ」

さわ子「こんな事、何も気にする必要ないわ。あなたはちゃんと元通り、純血のままよ。何も気にする必要ないわ」

和「…うう…さわ子先生…。ありがとうございます。うう…」

…このまま解放されれば、おそらく問題なかったであろう。

二人は深く傷つき、その回復には時間を要しただろうが…いつかは、その出来事を咀嚼し、理解し、乗り越え…いずれは心の傷が癒え、忘れる事が出来ただろう。

しかしその望みは、ブザーの音によって、無情にも引き裂かれる事になった。



「5:00」

先ほどと同様に、赤々と、液晶の時計がタイムリミットを指し示す。

二人は、一瞬何が起こったのか分からなかった。

しかし、無情にカウントを減らして行くデジタル時計と、ディスプレイに映った男の写真、そして注射器に充填される精液を見て、理解せざるを得なかった。

この悪趣味なゲームは、まだ続いていたのだ。


和「せ、せんせ、これ、また…!」

さわ子「…大丈夫よ、落ち着いて。…大丈夫」

さわ子は、先ほどとは比べ物にならないくらい、冷静で、そして頭が回っていた。

先ほど和に話した内容は、そのまま自分への言葉でもあり…一定の、自分への暗示を掛ける事で、さわ子は平常心を取り戻していた。

仮に、受精したとして。妊娠したとして。

アフターピルなり、いよいよとなれば中絶するなり、方法はあるのだ。

もちろんそれは、自分と和の身体に、心に、大きな負担を与える事になるが…

でも今は。今、最も重要な事は。

ディスプレイの写真を睨みつけながら、さわ子は決意していた。

和という生徒を、無事にここから解放する事。

そして、その心の傷を、どれだけの時間をかけてでも、癒す事。

さわ子はそう、固く決意していた。

その決意は、さわ子に冷静さを与え、頭に冴えを与え…

そしてさわ子は、ようやく、このゲームの核心に至った。

さわ子「和ちゃん。このボタン、なんだと思う?」

「4:15」

和「…え…。ボタン、ですか?あ、…あ、これ?」

目減りするカウントに目を奪われていた和だったが、さわ子の問いかけで我に返る。

手元に目を落とすと…そこには確かに、ボタンがあった。

今までも、しっかりと目視し、認識していたはずの、そのボタン。

しかし二人は、そのときようやく、初めて、そのボタンへと意識を向けていた。

さわ子「これね、多分ね。こういうゲームなのね」

さわ子は、ぐっと、右手の「IN」と刻印された側のボタンを押下した。

思ったより、そのボタンは固く、すんなりと押す事が出来なかったが、ともかくさわ子はそのボタンを押して、続いて和に言った。

さわ子「和ちゃん。OUTの方のボタンを押して。そうすれば多分、注射、全部私の方に来るから」

さわ子は、ディスプレイに映った男を睨みつけながら、言った。

ハンサムと言えなくもない。

さっきの男とは違い、知的な顔立ちで…でもどこか、写真を通してこちらを見下しているかの様な…簡単に言うなら、いけ好かない男だった。

さわ子(…あなたみたいないけ好かない男に、大事な教え子を汚されてたまるもんですか)

さわ子はそう、心の中で唾棄し、和にボタンの押下を促した。

和「で、でも…それじゃあ、先生が…」

さわ子「私は大丈夫よ?もう良い大人だし。そんなに、たいした事無いわ。これくらい」


…それは明らかな強がりだった。

こんな、人間の尊厳を無視した様な、こんな行為に…その行為に晒される者が、本気で、そんな風に割り切れる訳が無いのだ。

まるで、家畜のブタの雌のように。妊娠させる、それだけの目的で、その胎内に誰の物とも分からない精液を注入される。

拘束され、身体の自由を奪われ…何の抵抗もできず、なす術も無く…

改めて、その境遇を思い出し、和は思わず叫びそうになった。

だから、和は。

さわ子の善意に、甘えた。

和「さわ子先生、ごめんなさい。ごめんなさい!」

和は、力強く、OUTのボタンを押下した。

和がボタンを押した事を見届け、さわ子は予想通り、と言わんばかりに、うむと頷いた。

さわ子「和ちゃん。見て。ランプが消えた」

さわ子に促され、手元を見る。

OUTボタンの横のランプが一つ、消えた。

さわ子の方を見ると、INの横のランプが一つ消えていた。

さわ子「これ、一個ずつ使って、…ええと、どっちに送るか、選ぶのね。多分」

さわ子は言葉を選びながら、和にこのゲームのルールを伝えようとしていた。

まだ、確定じゃない。実際にタイムリミットを迎えてみないと分からないが…おそらく予想通りだろう。

初回は、どちらもボタンを押さなかった。なので、どうやら、双方のIN/OUTそれぞれのランプが、全て一つずつ消化されていた。

…この時点で、二人は、とても重要な要素に全く思い至ってなかったが…それでも二人は少しずつ、このゲームのルールというか、法則性の解に近づきつつあった。


「1:00」

残り一分を回り、それでもさわ子はうろたえる事はなかった。

いや、それどころか、さっさと終わらして、すぐにでも解放して欲しいと、そんな風にさえ思っていた。

これが終わっても、解放されるという確証はどこにも無かったが…それを悪い方にばかり考えてもしょうがない。

とにかく今は。耐え忍ぶしか、ないのだ。この屈辱に。

「0:10」

二人は無言で、カウントダウンを見守る。

「0:05」「0:04」「0:03」…

そして。

「ピー」

二回目の、タイムアップを迎える。

先ほどと同様に、注射器から押し出された精液が、管を伝って、さわ子の子宮内へ…

しかし、決定的に違う点があった。

和「…あ…私の所、来てないです。…来てません!さわ子先生!」

和の方の管は、透明なまま、精液が送られてくる気配はなかった。

和「さわ子先生!すごい!来てないです!」

和は思わず、歓喜の声を上げた。

…その間、さわ子は、頭を垂れ、唇を噛み締め…その屈辱的な仕打ちに耐えていた。

この短時間に。さわ子は、二人もの精子を、大量に子宮に注入された。

いろんな要因があるので、確実ではないが…それにしても、彼女はまず間違いなく、受精に至るだろう。

大学時代、周りが無節操に男女の遊びをする中で、貞操観を固く保ち続けたさわ子が、である。

周りの女友達にも、何人か望まぬ妊娠をし、中絶した者もいる。そしてさわ子は、そんな彼女らを、心の奥では軽蔑していた。

にも関わらず。そのさわ子が、理不尽に、強制的に妊娠させられようとしている…

和は、そんなさわ子の様子に気づき、居たたまれなさや申し訳ない気持ちで一杯になった。


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