それから数日。
警察の捜索も虚しく、梓は一向に見つからなかった。
また唯以外の部員も目覚めることはなかった。

和はその間も、梓を元に戻す方法を調べ続けたが、
答えは見つからないままだった。

唯は一人、部室でギターを弾いて過ごしていた。
ふとカレンダーを見た。
学園祭は、もうすぐだ。
それまでに梓が元に戻れば良いが。

その時、音楽室の扉が勢いよく開かれた。

和「大変よ、唯!」

唯「な、なに?」

和「梓が……!!」



――
――――
――――――

唯「あず……にゃん……!」

和「……」


テレビには数十メートルにまで巨大化し、
硫酸をまき散らしながら街を破壊する
梓の姿が映っていた。

テレビ『ヘドラは現在、豊崎市に侵攻しております……
     住民の皆様は自衛隊の指示のもとに避難を……
     あ、今、特生自衛隊の攻撃が始まりました……』

特生自衛隊のメーサー殺獣光線車による攻撃は
梓に対してかなり効果があるようだった。
メーサー光線を受けた梓は、
ガスを吹きながら悶え苦しんでいる。


唯「あ、やめて! あずにゃんに何するの……!」

和「唯……あれはもう梓じゃないわ。
  立派な……怪獣よ」

唯「そんな……」


梓は特生自衛隊の攻撃に耐えきれなくなったようで、
回れ右して海へと逃げていった。
海上自衛隊がその後を追ったが、
すぐに見失ってしまった。

街は甚大な被害を受けた。
建物の倒壊等もそうだが、
それよりも汚染のほうが問題のようで、
テレビでは白衣を着た専門家が
難しい用語を交えつつ早口で喋っていた。

和は携帯のワンセグテレビを切った。


唯「……」

和「唯……ショックなのは分かるわ。
  今は学園祭のことだけ考えなさい」

唯「……うん」

和「じゃあ私、行くから」

唯「うん」




学園祭のライブ。
このまま澪たちが目覚めなければ、
一人でライブをすることになってしまう。

唯「……」

唯はギターを手に取り、
白紙の五線譜とペンをテーブルの上においた。

そして唯はギターをかき鳴らした。
唯が初めて作る、オリジナルの曲だった。
唯には作曲の心得など全くなかったが、
不思議なことに曲は勝手に紡がれていった。

今弾いた曲を忘れないうちに五線譜に書きとめ、
それに歌詞をつけていく。
歌詞も曲と同じように、
すらすらと書くことができた。
学園祭までの間、
唯はひたすらその曲を練習した。

そして学園祭の日になった。
その日まで澪たちは目覚めず、
梓も現れなかった。



音楽室。

唯「……」

ガチャ

和「唯……」

唯「あ、和ちゃん」

和「ライブするのね、一人で」

唯「仕方ないよ」

和「そうね……」

唯「あ、私が作詞作曲したのを歌うから、
  楽しみにしてて」

和「なんだか不安ねえ」

唯「大丈夫だよお」

和「まあ、あんたに任せるけど。
  もうすぐだから、講堂行きましょ」

唯「はあい」



講堂。

放送『次は、軽音部による演奏です……』

唯「……」

客「ザワザワザワザワ」

和(がんばって、唯……)

客「ザワザワザワザワ」

唯「……」

客「ザワザワザワザワ」

唯「みなさん、こんにちは」

客「ザワザワ」

唯「今日は事情があって、
  私一人で演奏することになりました。
  その事情というのが、
  最近現れているヘドラの被害によるものです」

客「……」

唯「みなさんは、ヘドラがどうやって生まれるかご存じですか。
  ヘドラは、公害から生まれるんです。
  人間が垂れ流す汚水や、ゴミや、煙のせいで
  ……ヘドラが生まれてしまうんです。
  そう、まさにヘドラは人間が生み出したのと同じなんです」

客「……」

唯「こんな町中に住んでいると、
  公害のことなんて身近に感じられないかも知れません。
  でもヘドラは、工場の煙を吸収し、海の汚染を食べて、
  その汚れを私たちの街にまで持ってくるんです。
  まるで、私たちが目を反らしている現実を、
  私たちに見せつけるかのように」

客「……」

唯「偉そうなことを言いましたが、
  私も普段から公害について考えてるわけじゃありません。
  どっちかというと、無関心な方でした。
  でも、その考えは変わりました。
  ヘドラがきっかけで」

和「唯……」

唯「実はあのヘドラは、私の後輩なんです。
  後輩は、ためらいもなくゴミを川に捨てられる……
  そんな人間でした。
  環境を汚すことをなんとも思っていないようでした。
  だからこそ、ヘドラになってしまったのだと思います」

客「……」

唯「ヘドラは……私たちへのしっぺ返しなんです。
  ゴジラが水爆から生まれ、東京を焼け野原にし、
  日本人に戦争の恐ろしさを思い出させたように。
  私たちも、ヘドラから学ばなければいけないんです。
  地球を汚染し続けることの愚かしさを」

客「……」

唯「私は、環境への想いを……
  公害がなくなることへの願いを込めた歌を、
  作ってきました……」


和「唯! 大変よ、ヘドラが出たって!!」

客「!!!」



放送『藤東湾にヘドラが上陸、まっすぐこっちへ向かってきています。
    生徒の皆さんは慌てず、教員、および生徒会の指示に従って……』

客「きゃーわーうひえーいやーにげろーおすなーうおー」


唯「……」

和「ほら、唯も避難するわよ!」

唯「和ちゃん、携帯貸して」

和「ばか、こんな時に何を……」

唯「いいから、早く!!」

和「ちょ、何を……きゃっ」


唯は和のスカートのポケットから
携帯電話を奪い取り、
ワンセグテレビを着けた。

臨時ニュースで梓の上陸が報じられていた。

梓は100メートルほどに巨大化しており、
特生自衛隊のメーサー殺獣光線車も歯が立たないようだった。
ニュースはさらに、三式機龍を出動させるかどうかで
政府内でもめている……と報じた。

テレビ『現時点でこのヘドラによる被害は……
     死者300人、負傷者は4000人にも上ると見られ……
     地域の汚染も含むと過去5年の怪獣被害で最大……
     また汚染はさらに拡大するものと……』


唯「……」

和「大変なことになってるようね、
  さあ、逃げるわよ」

唯「逃げないよ」

和「唯!」

唯「あずにゃんがここを目指してるのは偶然じゃない。
  まだあずにゃんとしての意識がかすかに残ってるからだよ」

和「そんなこと、あるわけないでしょ!」

唯「あるよ!
  あずにゃんは、きっと元に戻せる!」

和「何言ってるの!
  早く逃げなきゃ、骨にされちゃうわよ」

唯「それでもいい、逃げるなら和ちゃんだけ逃げて!」

和「唯っ……」

生徒会長「真鍋さん、何やってるの! 早く!」

和「でも、唯が……」

生徒会長「もうほっときなさい!」

和「……唯、死んだら承知しないわよ」

唯「うん、分かってる」

和「くっ……」だだっ

唯「……」




講堂は無人になった。
いや、梓の進行方向にある街は、
すでにすべて無人となっているだろう。

誰もいない空間に向けて、唯は語った。

唯「私は、いつか願っています。
  ヘドラによって、すべての人類に、
  環境を守る意識が芽生えてくることを。
  そうでなきゃ、ヘドラがあまりにも可哀想です。
  人間によって生み出され、人間に殺される。
  そう、人間のエゴに振り回されて……
  人間のエゴで、地球を好き放題に汚し、
  それを見て見ぬふりをして……
  でもヘドラは、それじゃダメだって教えてくれてるんです。
  自分たちがやってきたことをちゃんと見つめて、
  そして、地球を守っていかなきゃダメだって……
  少なくとも、私はそう思いました。
  だから、この歌を書けたんだと思います……
  聞いてください。

  『かえせ太陽を』」


ジャンジャジャジャンジャージャジャーン


唯「水銀 コバルト カドミウム
  鉛 硫酸 オキシダン
  シアン マンガン バナジウム
  クロム カリウム ストロンチュウム
  汚れちまった海 汚れちまった空
  生きもの皆 いなくなって
  野も 山も 黙っちまった
  地球の上に 誰も
  誰もいなけりゃ 泣くこともできない
  かえせ かえせ かえせ かえせ
  みどりを 青空を かえせ
  かえせ かえせ かえせ
  青い海を かえせ かえせ かえせ
  かえせ かえせ かえせ
  命を 太陽を かえせ かえせ……」


唯は歌った。
声の限りに歌った。
世界中の人々に届くように。
こちらに向かっている梓に聞こえるように。


唯「水銀 コバルト カドミウム
  鉛 硫酸 オキシダン
  シアン マンガン バナジウム
  クロム カリウム ストロンチュウム
  赤くそまった海 暗くかげった空
  生きもの皆 いなくなって
  牧場も 街も 黙っちまった
  宇宙の中に 誰も
  誰もいなけりゃ 泣くこともできない
  かえせ かえせ かえせ かえせ
  みどりを 青空を かえせ
  かえせ かえせ かえせ
  青い海を かえせ かえせ かえせ
  かえせ かえせ かえせ
  命を 太陽を かえせ かえせ……」


唯は歌い続けた。
声が枯れるまで歌い続けた。
何度も何度も、繰り返し歌った。



やがて日が傾き、
外が暗くなり始めても、
唯は歌っていた。



――
――――
――――――


唯「汚れちまった海……汚れちまった空……」


何時間も歌ったため、
唯の疲労はもう限界に達していた。
もうギターをまともに弾くことが出きず、
声もガラガラになってしまっていた。

唯はそこで「おかしい」と思った。
梓がこっちに向かっているならば、
もうとっくに到着していてもおかしくない。
しかし、梓の足音も、自衛隊の攻撃の音も、
一向に聞こえてこなかったのだ。

方向転換でもしたのか……
と唯がぼんやり考えていると、
講堂の扉が開かれた。


唯「……!」


そこには人間の姿の梓が立っていた。



梓「唯先輩……!」

唯「あ、あずにゃ……あ゛ずに゛ゃ゛~ん゛」

梓「うわっ、声ガラガラじゃないですか……」

唯「どうして元に戻れたの?」

梓「私の意識は、完全にヘドラに支配されそうになっていました。
  でも、上陸して街を攻撃していたとき……
  どこからか唯先輩の歌が聞こえてきたんです」

唯「歌が……」

梓「はい……私には何を歌っているのか
  聞こえなくて分からなかったんですけど、
  ヘドラが」

唯「ヘドラが?」

梓「ヘドラが、唯先輩の歌にいたく感動したみたいで……
  そのヘドラの心が、私に流れ込んできたかと思うと……
  元に戻っていたんです」

唯「そう……
  ヘドラに、届いたんだ。私の歌……」

梓「はい。ヘドラの心が流れ込んできた瞬間、
  私は胸が締め付けられるようでした……
  ヘドラの痛みや悲しみが、すごく大きくて……」

唯「そっか」

梓「私……これからは、地球環境を大事にします。
  消えていった、ヘドラのためにも……」

唯「違うよ、あずにゃん……ヘドラは消えてない。
  あずにゃんの心のなかに、生きてるんだよ」

梓「……はい」

唯「でも、これで一件落着だね」

梓「そうですね、ご迷惑をおかけしました」



ガラッ

和「大変よ、唯!」

唯「ど、どしたの?」

和「眠っていたはずの澪と律と紬の3人がが合体して、
  キングギドラになっちゃったのよ!」

唯「……」


        お    わ        り



これでおしまい

ゴジラ対ヘドラを見た勢いで書いた
反省はしない