僕はひたすら走り続けた。

そして

律「澪さん」

澪「おや?律じゃない。どうしたの?」

律「澪さん。僕をここから連れ出してください。」

澪「どうしたの急に?紬と喧嘩でもしたの?」

律「そうじゃないんです。でも、ここから出たいんです。」

澪「そう...」

澪「じゃあ、一緒に行こうか!!私も戻らなきゃいけないし」

僕は澪さんの車に乗って、ここを離れることにした。

澪「本当にいいの?」

律「......」

ちょっと考え込んだけど、

律「はい!!」

澪「そう...じゃあ行くよ」

ここを離れるのは初めてだ。

初めての世界に触れたような気持ち。

そして、あの忌まわしき伝染病が蔓延していることが嘘のように道には車が走っている。

夜になれば家の灯りがあちこちに見える。

律「あの病気が嘘のようですね。」

澪「そう?でもねぇ」

そう言って澪さんはカーラジオをつけた。

アナウンサー「○○市は感染者による暴動が発生し、非常事態地域宣言が発令されました。」

アナウンサー「△△市は立入禁止区域にしていされています。」

病気の事ばかりだった。

たまに

アナウンサー「発症後の進行をおさえることが期待できそうです。」

などの治療薬やワクチンの情報も流れてはいるけれど、爆発的に感染が広がる状況では焼け石に水に思えた。

...

車はのどかな住宅街を走っているけど、人影はほとんどない。

少し先の交差点に親子と思われる人影があるだけだ。


その交差点に差しかかったとき、信号が赤に変わり停車したところ。

バン!!

助手席側のドアを叩く音がしたんで驚いて左を見たら。

律「はっ!!」

ゾンビのような姿の少女がドアにもたれかかったかと思うと、そのまま崩れ落ちた。

律「...」

澪「大丈夫。心配しないで。危害はないわよ。」

律「でも...」

澪「見た目は恐いけど、まだ人間の心は残っているみたいなのよ。」

澪「でも脳が冒されると最期。もう手に負えなくなるのよ」

律「...」

律「じゃあ紬もいつか...」

澪「それはわからない。でも変わっていく自分を一人で受け止めるのは辛いと思うわよ」

律「...」

僕たちは遠回りをしながら、澪さんはわざわざいろいろな所を僕に見せてくれながら旅を続けた。

そんなある日、僕たちは小さなステージがある小さな公園で休憩を取った。

どこからともなく歌声が聴こえてきた。

上を向いて歩こおおぉ、涙がこぼれないよおぉに~♪(※)

(※)... 映画で歌ってたのは違ったようだけど思い出せません(花だったかな?)

よくみるとステージの片隅に腰かけて一人の女性がギターを弾きながら歌を歌っている。

澪「気がついた?」

澪「あの人は平沢唯っていってね」

澪「全国を旅しながら歌を歌ってるの。」

律「なんのために?」 

澪「わからない。でも、歌で届けたい物があるんじゃない?」

唯さんは歌いつづけていたけど、僕たちは出発の時を迎えた。

そんな旅を続けていたけど、いよいよ明日は目的地に着く。

このまま終わってもいいんだろうか?

なにかとてつもなく大事な事を忘れている。

いや忘れようとしているけど、忘れてはいけないんじゃないか?

そう思ったとたん。

律「澪さん!!」

澪「どうしたの?律?」

律「僕...やっぱり戻ります。」

澪「そう...」

澪「じゃあこれ持っていく?」

澪さんが差し出してくれたのは、ごく一部の人に配布される貴重な感染予防薬だった。

でも、僕はそんなものは欲しいとは思わなかったので

律「いらない」

澪「そうよね。じゃあ戻ろうか」

澪さんは一直線で戻ってくれた。何週間もかかった道のりをたった数時間で戻ってくれた。

澪「じゃあ元気でね。紬さんによろしくね」

律「はい。」

澪・律「さよなら」

僕は一目散に紬のいる施設に向かった。

でも、そこで目にしたものは

「立ち入り禁止」

のビケテープだった。

律「そ、そんなぁ...」

僕はおもむろに家に向かった。

その途中で目にしたものは...

人気が全く無くなった街並み...

律「なにがあったんだ?」

僕は本当に不安になってきた

...紬...紬...紬...どうか無事にいてくれ!!

ようやく自宅にたどり着き、中に入った。

そこで僕が見たものは...

無人と化した家だった。

律 (お父さん?)

信じられなかった。

お父さんはここで唯一の医者であり、最後の砦のはずなのに...

僕は家中を探し回った。

そして最後に診察室に入った瞬間...

僕は諦めに似た現実に気付いてしまった。

律「あぁ...ここでも...」

澪さんと旅をしていた時、僕は廃墟になった街をいくつも見てきた。

そして、廃墟になった理由は

澪「感染がおさえられなくなったら、集落ごと隔離するのよ」

今、澪さんの行っていたことがフラッシュバックする。

律「そ、そんな...」

その直後

ガサっ

背後で物音がした。

驚いて振り向いた僕が目にしたものは

律「!!」

紬だった。

紬「...」

紬「バカっ」

紬はそういいながら近づいてきたと思うと、

紬「バカ、バカ、バカ」 

泣きながら僕を叩きつづける。

紬「バカ、バカ、バカ!!」

最後は、泣き崩れるように僕に寄りかかってきた。

律「一体なにがあったんだ?」

紬「ある日、政府の人達がやってきて、みんなをつれて行ったの。」

紬「私は必死に隠れてたの。」

紬「静かになってから出てきたら...みんな居なくなってた...ウワァーン」

紬は大きな声をあげて泣きだした。

僕は意を決して紬に伝えた。

律「ここをでよう!!」

律「そして二人で生きていこう。」

今回は紬が反対しても強引につれていこうと思ったけど。

紬「うん、連れていって」

早速、準備にとりかかる。

といっても、できる限りの医療品とお金を捜し出す程度だった。

移動手段は一台の自転車だけだけど、とにかくここを出るしかない。

紬を荷台に乗せて、僕は自転車を漕いだ。

あてのない旅の始まりだ。

不安しかないけど、紬が一緒だと僕は強くなれる。

どこまでもどこまでも二人で行こうと思った。

紬は楽しそうに荷台に乗って微笑んでる。

季節は秋かな

厚いけど、陽射しはどことなく柔かく感じる。

僕たちは廃屋や廃校で寝泊まりを続けながら旅を続けた。

律(こんなに廃屋や廃校があること自体が異常なんだなぁ~)

僕には大切な日課がある。

それは紬の治療。

治療といっても発症している箇所を清潔に保つために消毒をして包帯を替えるだけなんだけど...

そのためには紬は上半身の衣類を脱がなければならない。

僕はおそらく上半身が裸であるであろう紬を見ないように目を閉じて消毒をして包帯を替える。

今でも恥ずかしい。多分これからも恥ずかしいだろうなぁ~

そんな旅をつづけいていたある日、

紬「なんだか、お尻が痛い。」

律「ん?」

律「そう言えば、自転車が重たい。」

自転車を止めて、自転車を調べてたら。

律「あちゃ~」

律「パンクしてる」

どうりで重たいわけだ。

とにかく修理をしたいけど、見知らぬ土地な上、集落も全く見当たらない。

僕と紬はひとまず自転車を押して、休憩できる場所を探すことにした。

どれくらい歩いたかわからないけど、ようやく無人駅を見つけた。

ここなら雨露は凌げるので、紬に留まるように言って、僕は自転車を修理しに駅を後にした。

紬「...」

......

紬「...寂しい...」

紬「...律...」

紬「...本当に戻ってきてくれるの?...」

律「只今ぁ~」

律「待たせてごめん。」

紬「ううん...」

律「でも、ちょっとしたサプライズがあるんだ。」

紬「えっ?」

僕は紬に紙袋を渡し、紬はしばらくの間、身を隠し...

紬は再び僕の前に現れた。

紬は...

僕が買ってきたワンピースに身を包み、はにかみながら僕を見つめながら。

紬「どぅ?」

僕は呆気に取られ、しばらく何も言えなかった。

それほど紬は美しかった。

ようやく口からでた言葉は

律「とっても似合ってる!!は本当に綺麗だよ。」

紬は照れながら、消え入るような声で

紬「ありがとう」

僕はとっても幸せな気分になった。

この時間がずーっと続いて欲しいと思った。

けど、現実はそんなに甘くはなかった。

僕たちはひたすら旅をつづけた。

紬は自転車の荷台にチョコンと座って、うれしそうにしている。

昼間は休みながら自転車で移動し、夜は廃屋に泊まる生活にもすっかりなれてしまった。

たまには、ゆっくりと畳の上ででも休みたいところだけど、 感染者もいる二人組を泊めてくれるような場所はあるわけもなく、

夜を過ごす場所を探すには一苦労する。

そして今夜も廃屋に泊まることになった。

そして、いつものように紬の手当て...

相変わらず、僕は紬の体を見ることができないから、目をつむりながら包帯の交換をする。

律(あれ?右手の状態がひどくなってないか?)

と思っても、目はあけられない。

包帯の交換は大変だけど、僕と紬が直接肌を触れることができる貴重な時間だ。

でも、今日の異変は気になる。


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