唯 「・・・」

憂 「あ・・・お姉ちゃん。今日も髪、お手入れしてないんでしょ。ボサボサだよ?」

唯 「・・・」

憂 「ダメなんだよ、お姉ちゃん。女の子はどんな時だって身だしなみを忘れちゃ」

唯 「・・・」

憂 「私が髪、梳かしてあげるからね」

唯 「・・・」

憂 「お姉ちゃんの髪、ふわふわ・・・」

唯 「・・・」

憂 「ちょっとクセッ毛だけど柔らかくて良い匂いがして・・・私、大好きだよ」

唯 「・・・」

憂 「・・・そんでね」

唯 「・・・」

憂 「お姉ちゃんの笑顔も・・・髪の毛と一緒で、柔らかくてふわふわで暖かくて・・・」

憂 「だから、大好き。ね、お姉ちゃん。早く戻ってきて。お姉ちゃんの笑顔、また見たいよ・・・」

唯 「・・・」

憂 「あ、あのね・・・昨日学校でね、私・・・」


コンコン


憂 「あ、はーい?」

母 「憂・・・唯も・・・」ガチャッ

憂 「どうしたの、お母さん」

母 「和ちゃんが来てるの。下で待ってもらってるけど、来てもらっても良いかしら?」

憂 「和ちゃんが・・・?う、うん。上がってもらって・・・」

母 「分かった。呼んでくるわね」バタン

憂 「・・・和ちゃん」


コンコン


和 「・・・唯、いる・・・?」

憂 「いるよ。入って」

和 「お邪魔します・・・」ガチャ

憂 「・・・」

和 「こんばんわ、唯。憂も。その・・・唯。調子はどうかしら・・・」

唯 「・・・」

和 「・・・唯」

憂 「あの・・・私、外でてるね。お見舞い終ったら、呼んで・・・待ってるから・・・」

和 「あ。待って、憂。憂もここにいて。唯と一緒に、私の話を聞いて欲しいの」

憂 「え・・・」

和 「ごめんね、憂。えっと・・・唯。単刀直入に言うわね。今日、私ね。あいつらと話をしたの」

憂 「え、あいつらって・・・」

和 「うん、唯にひどい事をした不良たちと。それでね・・・もう唯の事を虐めるのは止してって頼んだの」

憂 (和ちゃん、あんなに不良たちのこと怖がってたのに・・・それに・・・)

憂 (・・・あいつら・・・私のこと、和ちゃんに何か言っちゃったかな・・・)

和 「はっきりと聞いた。もう唯をいじめるのを止めるって」

憂 「え・・・?」

唯 「・・・」

和 「いじめるのに飽きたんだって。バカにしてるわ。でも、ね。その言葉に嘘はないと思うの」

和 「だって連中が他におもねる事なんて、あるはずがないもの。いじめを止めるという以上、本当に止める気なんだわ」

憂 「飽きたって、それだけ?ほかに何か、理由は言ってなかった?」

和 「え・・・ううん。別に・・・憂?なにか思い当たることでもあるの?」

憂 「あ・・・えっと、そういうわけじゃ・・・ないんだけど・・・」

和 「・・・?ともかく。いじめは終ったの・・・ね、唯。だから、明日から一緒に学校に行こう?」

唯 「・・・」

和 「もし万が一、万が一ね。あいつらがまた唯の事をいじめようとしても、今度は。今度こそは・・・」

和 「今度こそは絶対に。私が唯を守るから・・・!」

唯 「・・・」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「唯がこんな目に遭わされて、なのに私は何もできなかった。それが悔しくて辛くって。悩んで悩んで・・・はっきり分かったの」

和 「心の灯が消えた親友を見るのは、死ぬほど辛いことなんだって。やっとね、分かったんだ」

唯 「・・・」

和 「だからね、唯。今度こそは言葉だけじゃないよ。私が何があっても唯を守る。何かあっても、唯にだけ辛い思いはさせない」

和 「ずっと、いつまでも。どんな時も唯と一緒にいるから・・・もう一度だけ、私を信用して・・・」

唯 「・・・」

和 「辛かったよね、唯・・・」

唯 「・・・」

和 「ごめんね・・・」

唯 「ふっ・・・うぐっ・・・」

憂 「・・・え」

唯 「あ・・・えぐっ・・・ふっ・・・ふぇ・・・」

和 「・・・唯っ」ギュッ

唯 「ああああ・・・うああああああ・・・・あああああーーーーーっ」ポロポロ

和 「唯っ、唯っ!!」

唯 「うあああああーーーーーーっあああああああーーーーーっ」ポロポロ

憂 「お姉ちゃん・・・」


和ちゃんにすがりつき、子供のように泣きじゃくるお姉ちゃん。

たぶん、きっと。今日この時。凄惨ないじめが始まって以来はじめて。

お姉ちゃんは泣いたんだろう。

泣きつく先もなく、家では家族に心配をかけないために、無理くり涙を笑顔の下に隠しこみ。

心が壊れちゃうまで耐え続けたお姉ちゃんが。


唯 「・・・和ちゃっ・・・あああ・・・あああああーーーーーーっ」ポロポロ


すがりつく先をやっと見つけ、感情を・・・悲しみを初めてあらわにすることができて。

心のままに泣く事ができたんだろう。


和 「唯・・・もう平気だから・・・唯・・・」


そんなお姉ちゃんを慈母のごとく、優しいまなざしを向けながら抱きしめ続ける和ちゃん。


憂 「・・・」


そんな二人を私は、少し離れたところから見つめている。

感情を爆発させたお姉ちゃん。きっと切れた心のスイッチは、再びオンになったに違いない。

喜ぶべきなのに。それは理性では分かっているはずなのに。


憂 「・・・どうして」


私はまた一つ、自分の小ささを思い知って愕然としてしまった。



それから。

お姉ちゃんは再び、学校に行き始めた。

和ちゃんの言ったとおりに表立った虐めは鳴りを潜め、お姉ちゃんの平穏な生活は再開されたのだ。

だけど、一度切れてしまった心のスイッチは、簡単には完全復旧されないみたいで・・・



それから数日後!とある朝!!

唯の部屋の前!!


憂 「お姉ちゃん?開けるよー?」コンコン ガチャッ

唯 「あ・・・憂。おはよう・・・」

憂 「あ、起きてたぁ。おはよっ、お姉ちゃん。今日も良い天気だよ」

唯 「う、うん・・・」

憂 「ほ、ほらほら。カーテン開けて。そんで早く着替えちゃって?朝ごはん食べちゃわないと、和ちゃんが迎えに来る時間になっちゃうよ?」

唯 「あ・・・うん。そうだね、ありがとう・・・」

憂 「じゃ私、下で待ってるからね。今朝は憂特性のカフェオレ付き。バッチリ目が覚めちゃうから、早くね?」

唯 「うん・・・すぐ行く」

憂 「・・・それじゃ」バタン


憂 「はぁ・・・」


感情を取り戻したお姉ちゃん。

でも、広がりすぎてしまった心の傷は、容易にはふさがらない。

お姉ちゃんの心の箱は、他者への警戒感という名の蓋でスッポリ覆いかぶされてしまっていた。

当然なんだろう。それだけお姉ちゃんが受けた苦しみは、根が深いものだったんだから。

そう。

お姉ちゃんは本来持っていた底抜けの明るさや快活さを、すべて失っていた。

そして、私は・・・


ピンポーン♪


憂 「あ、はーい」テッテッテ


ガチャッ


和 「あ、おはよう。憂」

憂 「おはよう、和ちゃん」

和 「唯は?」

憂 「起きてるよ。でも、ごめんね。ご飯まだなんだ。上がって待っててもらっても良いかな?」

和 「構わないわ。私もちょっと、早く来すぎてしまったし」

憂 「じゃあもしかして、朝ごはんもまだ?」

和 「あは・・・まだ」

憂 「だったら、家で食べていきなよ。簡単なものしか出せないけど。ね?」

和 「え、でも・・・」

憂 「きっと和ちゃんが一緒のほうが、お姉ちゃんも安心すると思うから・・・」

和 「憂・・・」

憂 「だから・・・ね」

和 「・・・そうね。うん、それじゃ。いただいて行こうかな」


・・
・・


しばらくして。

私は朝食の後片付けがあるからと、支度を終えたお姉ちゃんと和ちゃんを先に送り出す。

そんなの・・・嘘。

後片付けなんて、ホントは二人がパンをかじってる間にあらかた終っていた。



通学路!


トボトボ


憂 「・・・はぁ」

憂 (少し前まで、毎朝お姉ちゃんと一緒だった通学路。でも、今はいつも一人・・・)

憂 (一人で歩く道のりがこんなに長く遠く感じるなんて・・・この感覚、忘れてたな)

憂 (だって・・・帰りは帰りで、私の横にはいつも純ちゃんがいてくれてたから・・・)


だけど、今は・・・

あの一件以来、何とはなしに純ちゃんとも疎遠になってしまっている。

ケンカとか、そういうのがあったわけじゃないのに。何となくお互いに気まずい空気を出し合っているというか。

やっぱり純ちゃん、怒ってるのかな。それとも、あんな事をした私を嫌いになっちゃった?

      • 私は私で、純ちゃんと接するのに気後れしてしまっている自分がいて・・・

もう自分の殻に閉じこもるつもりはないし、純ちゃんの事は大好き。

      • なんだけど、思うところもあって私も臆病になってしまっていた。


憂 「・・・あ」

純 「・・・あ」


バッタリ


憂 「お、おはよう純ちゃん」

純 「おはよー。げ、元気?」

憂 「元気元気ー」

純 「そりゃ良かった!」

憂 「そ、それじゃ行こうか」

純 「うん・・・」

憂 「・・・」トポトポ

純 「・・・」トポトポ


憂・純 (気まずいなぁーっ)



教室!昼休み!!


A子 「もぐもぐもぐ・・・もぐもぐもぐ・・・」

B子 「・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・」

A子 「ぱくぱくっ・・・ごっくん」

B子 「A子・・・よく食べるわね・・・」

A子 「あははっ。夏休みが終ったら、すぐに大会があるからね。今から体力つけておかないと!」

B子 「体力の前に贅肉をつけないように気をつけたほうが良いんじゃないの?」

A子 「へーきへーき♪よく食べてよく運動する!そうすれば、胃に入ったものは全部エネルギーに変わるのよ!若いんだし?」

B子 「そう。ま、暴食も程ほどにね。・・・そうれはそうと、純?」

純 「んー?」

B子 「夏休みが目前だけど、憂と遊びに行く場所は決まったの?」

純 「・・・あ」

憂 「・・・え」

B子 「前に言ってたじゃない。遠出で遊びに行くんだって。それ、どうなったのかなぁって」

純 「あ。そ、それねー・・・あぁ、うん。それそれ・・・」

憂 「・・・」

A子 「ぱくぱく」

B子 「・・・?」

純 「そ、それさ。じつはまだ・・・ね、憂」

憂 「う、うん・・・これから決めるところだよ。ね、純ちゃん」

B子 「そうなの」

憂 「さてと、ごちそうさま。ごめんね、私ちょっとお手洗い・・・」

A子 「おー、いってらー」

憂 「うん」トテチテ・・・

純 「・・・」

A子 「もぐもぐ」

B子 「・・・ついていかないの?」

純 「はい??」

B子 「憂に。あんた、憂にべったりだったじゃない」

純 「そ、そうだっけ?」

A子 「ごっくん。んー・・・純さ、憂ちゃんとなにかあったわけ?」

純 「なにかって・・・」

A子 「最近お互いよそよそしいというか。ケンカしてる風には見えないんだけどさ」

B子 「登下校も別々みたいだし。私たちと一緒の時以外は、あまり話してるところも見ないしね」

純 「そんなことないよ。普通だよ・・・」

A子 「そっか。ま、純本人がそう言うなら、そうなんだろうけどさ。ぱく、あむあむ・・・」

B子 「ただ、最近のあんた、らしくないわよ」

純 「え・・・」

B子 「これはね、憂もなんだけど」

純 「なによ・・・」

B子 「辛気臭い」

純 「ひどっ!?」

B子 「見ているこっちも気が滅入るから、悩みがあるならとっとと解決て欲しいところなのよね」

A子 「ごちそうさまっと。・・・相談に乗ってほしいことあるなら、話は聞くよ?」

純 「・・・そっか。辛気臭いか」

B子 「カビが生えちゃいそうなくらいね」

純 「いちいち手厳しいよね。でも、ありがと。確かにここ最近、私は私らしくなかったかもだね」

憂 「ただいまー・・・なにお話してたの?」トテトテ

純 「憂っ」

憂 「な、なに!?」

純 「今日、一緒に帰ろ?」

憂 「え・・・」

純 「忙しい?用事ある?」

憂 「ううん、べつに・・・」

純 「じゃあ決まりね!この前のマックよって行こうよ!むろん今日は割り勘ね!」

憂 「い、いいけど・・・???」

A子 「マックかぁ。いいなぁ・・・B子、部活終るまで待っててよ。うちらも何か食べて帰ろうじゃん♪」

B子 「・・・あんた、まだ食べる気なの・・・」


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