憂 「・・・ケンカ慣れなんかじゃないよ。あなたにも守りたい人ができたらわかる」どがっ!

憂 「その人を守れなかった時、自分に絶望すれば、すぐにだって分かる」どがっ!

憂 「・・・私に心配させないように、いつも通りに振舞ってくれてたお姉ちゃん。私・・・気付けなかった」どがっ!

憂 「お姉ちゃんが壊れちゃうまで気付けなかった!私!私、私ッ」どがっ!

憂 「私がああああああ!」どがっ!どがっ!どがっ!どがっ!

拓 「・・・ぐ」

憂 「はぁはぁ・・・あれ?気、失っちゃった?」どがっ!

拓 「・・・」

憂 「・・・起きてるよね?息づかいで分かるよ。ね?」どがっ!

拓 「・・・っ」

憂 「まぁ・・・良いよ、そのまま寝てたって。ね、最後に言っておくよ?」

拓 「ぐ・・・う・・・」

憂 「仕返ししたくなったら、いつでも来てください。私は逃げないから」

憂 「でも・・・私はお姉ちゃんのためなら何でもやれる女だって。分かってもらえましたよね?」

憂 「それが分かった上でくるのなら・・・」

拓 「・・・」

憂 「それ相応の覚悟を持ってどうぞぉっ!」どがぁっ!!!

拓 「ぐぁあっ!!」


憂 「はぁはぁ・・・ふぅ・・・」


乱れた息を整えると、私は拓のズボンのポケットをまさぐる。

あった。携帯・・・


憂 「この中にお姉ちゃんの・・・」


辛い、惨めな。壊れてしまわなきゃ耐えられないような姿が記録されているはず。

本当は確認をしてからの方が良いんだろうけど・・・

私にはとても、そんなお姉ちゃんの姿を見る勇気は無かったから。

だから。


ぱきっ


携帯を半分にへし折ると、床に落とし。


どがっ!

どがっ!

どがっ!

ばきっ!!


バットで粉微塵に砕く。


続いて、床でのびている二人の携帯も探し出して、同じように。

さっきのこいつ等の話していたことが真実なら、これでお姉ちゃんの哀れな姿を記録した媒体は全て消滅したことになる。

これで。ひとまずこれで。


憂 「・・・終った」


心の底、肺腑の奥から安堵の息が漏れる。


憂 「とりあえず、終った。終ったよ、お姉ちゃん。もう安心だよ・・・」

憂 「お姉ちゃんを苦しめた連中への罰は下し終わったよ。だから、早く。一刻も早く・・・」


元通りのお姉ちゃんに戻って欲しいよ・・・


その時。


純 「憂っ、危ない!!」

憂 「・・・え?」


油断していた。


拓 「おらぁっ!!」


お姉ちゃんを写した写メを葬り去り、成すべき事をひとまずやり終えて。

ずっと張り詰めていた気が、一瞬ゆるんでしまっていたんだ。

だから。

いつの間にか起き上がった拓が、私の背後からそっと忍び寄り。

木刀を振り上げ・・・


どがっ!!


「あうっ!!」


私に打ち下ろそうとしている事に気がつかなかった。

そう。


憂 「じゅ、純ちゃん!!」


純ちゃんが間に割って入り、私の身代わりになって。


純 「・・・ああっ」


拓の木刀の餌食になって、床に倒れ伏すまで。

私はまともに反応することすらできずにいたんだ。


拓 「・・・!?な、なんだてめぇ・・・」

純 「あ・・・痛ぅ・・・」

憂 「じゅ、純ちゃん!純ちゃん、しっかりして!」

純 「・・・憂」

拓 「く、くそ・・・誰だか知らねぇが・・・邪魔しやがって」

憂 「・・・」


飛んだ。

ずっと冷静だった。

お姉ちゃんを救うためにはどうすれば良いのか。

それを思案し続けなくてはいけなかったから、心を静かに保ち続ける以外に取る道は無かった。


だけど、今。


憂 「・・・たな」

拓 「・・・あ?」


弾けた。

保たせていた、理性の箍(たが)が爆ぜて飛んだ。


憂 「・・・お姉ちゃんだけじゃ飽き足らず、私の大切な友達まで」

拓 「・・・」


目の前で親友を傷つけられ、静めていた血が一気に沸騰する。


憂 「私の親友にまで手を出したな・・・許さない」

拓 「・・・あ、お、お前・・・」

憂 「許さない許さない許さない・・・許さないっ!!!」


バットを握る手に力がこもる。


拓に向き直ると、バットを振り上げ私は叫んだ。


憂 「骨の一欠片残さず粉々にしてやるっっ!!!」

拓 「う、うああああっ!?」


私は今日・・・

ううん。おそらく生まれて初めて。

私は”我”を忘れた。

怒りのままに体を動かし。

叫び、叩きつけ、蹴り飛ばし。

・・・そして。


純 「憂!憂っ!もう良いから、十分だから!」

憂 「はぁはぁ・・・あ・・・」

純 「これ以上やったら、本当に死んじゃうから!」

憂 「・・・純ちゃん?」


次に我に返ったのは。

いったい何分後のことなのだろう。

純ちゃんに羽交い絞めにされて、無理やり動きを止めさせられた時。

私の眼下には。


拓 「あ・・・ぐ・・・も、もう勘弁・・・してく・・・れ・・・」


まさに死にたいとなった拓が血だらけで転がり、許しを請うていた。


憂 「あ・・・わ、私・・・」

純 「憂、しっかり?私のこと分かる?」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「うん。よし、もう行こう。誰か来て、騒ぎになっても大変だし」

憂 「あ・・・で、でも・・・純ちゃん、怪我は・・・」

純 「私は平気だから。ほら、行くよ!」


言うが早いか、純ちゃんは私の手を取ると、すたすたと歩き始める。

その、私の手を取る純ちゃんの腕には、くっきりと。

さっきの木刀の痕が、赤く生々しく。

そして痛々しく残っていた。


第五話に続く!



第五話 憂「固めの杯」



校庭の片隅!


純ちゃんに手を引かれ、私は体育倉庫から校庭の一隅までやってきた。

駆け足で来たので、お互い息が上がってしまっている。その荒い息が落ち着くころ・・・


キーンコーンカーンコーン♪


憂 「あ・・・チャイム・・・」


授業の終わりを告げる鈴の音が、校内に響き渡った。


純 「五時間目、終っちゃったね」

憂 「え・・・五時間目・・・?」

純 「え、うん。五時間目」

憂 「そっか・・・時間なんて、忘れてたよ・・・」

純 「・・・」

憂 「えっと・・・純ちゃん・・・どうして、あそこに・・・」

純 「だって、憂。昼休みが終ろうとしてるのに、戻ってこないんだもん」

純 「寿さんとこに行ったら、憂が急に走り去っちゃったって。それ聞いて、ただ事じゃないって思ってさ」

憂 「それで、私のことを探してくれてたの?」

純 「うん・・・で、色々探し回って体育倉庫の側まで来たとき、中から憂の声が聞こえてきたから覗いてみたら・・・」

憂 「・・・心配かけさせてごめんね」

純 「・・・ねぇ?」

憂 「・・・なぁに?」

純 「憂、何かさ、習ってた?」

憂 「え・・・何かって・・・」

純 「格闘技とか、その手のを何か」

憂 「う、ううん。別になにも」

純 「そ、それなのにあいつら、怖そうなのが3人もいたのを熨しちゃったわけ!?」

憂 「あ・・・うん・・・」

純 「ど、どうして・・・なんでそんなことができちゃうの?一体どうやって・・・」

憂 「自分でも分からないけど、あの時は私・・・いろいろ見えちゃって・・・」

純 「見えるって・・・」

憂 「次にあの人はこう動くな、とか。次はこう来るんだろうなっていうのが。挙動や目線でなんとなく分かっちゃって」

憂 「それでね、機先を制するって言うのかな。それに合わせて動いたら、私の思ったとおりの結果になっちゃってたんだ・・・」

純 「嘘・・・」

憂 「・・・」

純 「憂、あんた・・・そんな、そんな事って・・・」

憂 「・・・ほんとうにごめんね。腕、平気・・・?」スッ

純 「・・・!」ビクッ

憂 「・・・え」

純 「・・・あ。わ、私・・・」

憂 「純・・・ちゃん?」

純 「ご、ごめん。な、なに・・・?」

憂 「あ・・・えと・・・腕の・・・」

純 「あ、これ?」

憂 「あいつに殴られたところ・・・」

純 「だ、だいじょうぶだよ。急に飛び出したもんで、むこうもビックリしたんだろうね。力が反れてくれたおかげで、そんなに痛くなかったんだ」

憂 「でも・・・痣になっちゃってる・・・」

純 「こんなの。舐めて唾でもつけとけば、すぐに治るよ」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「気にしないで」

憂 「・・・」

純 「それより、憂にはもっと気にしてもらいたいことがあるんだけどね」

憂 「え・・・」

純 「あのさ・・・私、今けっこう本気で頭にきてるんだよね」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「あのさ、さっきの話だと、憂はケンカもしたことがなかったし、何かを習ってた訳でもない。そういう事だよね・・・」

憂 「うん・・・」

純 「それなのに。勝算とかあったわけでもないのに、あんな無茶しちゃったって訳だ」

憂 「え・・・と・・・」

純 「たった一人で・・・私に黙って・・・」

憂 「それは、だっt
純 「だからね。ごめん、ちょっと歯を食いしばってくれるかな」

憂 「え?え?」


パシンッ


憂 「・・・たっ」


純 「・・・痛い?」

憂 「い、痛い・・・」

純 「その程度で済んでよかったね?」

憂 「え・・・」

純 「私、言ったよね?無茶するなって。一人で突っ走らないでって。・・・言ったよね?」

憂 「う、うん・・・」

純 「なのに憂、あんな所に一人で乗り込んで大立ち回りを演じて。もし何かあったらどうするつもりだったの?」

憂 「な、なにかって・・・」

純 「ボコボコにされたり、あとその・・・押し倒されて、無理やりとか・・・その・・・」

憂 「・・・あ」

純 「とにかく!なんで行動に移す前に一言なり、私に相談してくれなかったの?」

憂 「そ、それは・・・」

憂 (言えない。あの時は純ちゃんの言葉、スッポリ頭から抜け落ちてただなんて・・・)

憂 「じゅ、純ちゃんを巻き込むわけにはいかなかったし・・・」

純 「え・・・なにそれ・・・」

憂 「・・・」

純 「私、そんなに当てにならない?頼りがいがない・・・?」

憂 「ち、違うよ・・・そういう意味じゃなくって・・・」

純 「私じゃ、憂の力になれないって、そう思ったの・・・?」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・」

純 「どうせ憂は、お姉ちゃんべったりで私のことなんか・・・」ボソッ

憂 「え・・・」

純 「あ・・・!」

憂 「??」

純 「あぅ・・・ううん。なんでもない・・・なんでもないよ・・・」

憂 「・・・」

純 「で、でも!良かったよ。憂が無事でいてくれて」

憂 「う、うん。純ちゃんのおかげだよ。本当にありがとう。そして、ごめんなさい・・・」

純 「うん・・・もう良いよ。それに私も憂のこと・・・さっき一瞬・・・だから・・・」

憂 「・・・え?」

純 「あ・・・ううん・・・」


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