不良1 「えげつねぇー」

拓 「ぬかせ。あと、絶対ネットには流出させるなよ。希少価値が下がったら、値も下がるからな」

拓 「それと、誰かに見せたりするのも無しだ。・・・今はな?」

不良2 「わーってるって」

拓 「ま。売った後でなら、どうなろうと知ったこっちゃねぇけどよ。買い手が流出させようとどうしようと」

不良1 「それでネットにさらされ、祭りになろうと・・・」

不良2 「個人情報を元に、本人に接触しようとするバカが現れようと・・・」

拓 「お前らも十分、えげつねぇじゃねーか」

だはははははっ!!!


憂 「・・・」プツッ


私の頭の奥の奥。おそらく感情をつかさどる場所で。

何かが切れる音がした。

それを合図にふつふつと、お腹の底から静かな怒りが込み上げてくる。

静かで怜悧な、絶対零度の怒り・・・

その怒りが。冷静に私に一つの結論を導き出させた。


憂 (こいつらは・・・だめだ)


と。


きっと彼らは私が土下座しようと何をしようと、お姉ちゃんへのいじめを止めることはしないだろう。

それどころか、私という第二の標的を見つけ、姉妹そろって奈落に突き落とそうとするに違いない。

こいつらは、そういう奴だ。私の心がそう告げている。

言って聞いてくれる奴等ではないんだ。

純ちゃんやお姉ちゃんみたいな、善良な人たちとは根本的に人種が違う。

ならば、どうすれば良い?

その答えも、冷静な怒りが導き出してくれる。


簡単だよ。


なにも、罰を受けるのは私一人である必要はなかったって事。

答えを得た私は、今度こそ扉を引きあけるため、いったんは萎えた力を再び腕に込めた。


不良1 「そういやここ何日か、平沢の奴。学校休んでるな」

不良2 「さすがにやりすぎたかもな。学校にチクラれたら、さすがにやばいんじゃね?」

拓 「なにビビッてんだ、アホ。こっちには写メと動画があるんだ。余計なことをすりゃどうなるか。あいつも分かってるさ」


ガラッ


憂 「・・・」

拓 「・・・ん?」

不良1 「あ?・・・平沢?」

不良2 「いや、ちょっと違う・・・ 確かこいつ・・・」


すばやく室内を見渡す。

すると、入り口のすぐ脇。私のまさにすぐ側の壁に。

元からあったものか。それともこいつらが持ち込んだものか分からないけれど。

一本の木製バットが立てかけてあった。

私はそれをそっと手に取り、今度は不良たちの方へ視線を移す。


不良2 「確かこいつ、平沢の・・・」


私のすぐ目の前に一人。

その右となりにもう一人。

そして倉庫の一番奥。体育マットを座布団代わりに、牢名主よろしく偉そうに構えているのが。

おそらく、こいつらのリーダー格。拓と呼ばれていた奴なんだろう。


不良1 「・・・なんだてめぇ。なに勝手に入ってきてんだよ」


目の前の男が、すごみながら立ち上がった。

顔を寄せて威嚇してくる。その距離三センチ。臭い息が、私の鼻腔を不快にふさぐ。


憂 「あなた方ですか?姉を苛めているというのは・・・・」


だけど、私は冷静だった。

臭い息に顔をしかめることも、恐怖に身をすくませることもなく。

心中は極めて怜悧に・・・私が取るべき行動にのみ思考を先鋭化させる。


不良1 「だぁからぁ!てめぇは何だって聞いてんだよ、ああ!?」

憂 「え?私?顔見て分からない?」

不良1 「・・・ああ?」


怒りが頂点に達すると、一周して却って冷徹になれるのかもしれないな。

心の一隅でそんなことを思いながらも、奴らの配置を把握した私は、行動を開始した。

私自身と、この屑たちに罰を与えるために・・・!!


憂 「あなた方が苛めに苛め抜いた平沢唯の妹ですよ」

不良2 「あ、やっぱりな。あいつ、妹がいるって聞いたことがある。ずいぶん似てやがんな・・・」

不良1 「その妹がここに何しに来た?姉ちゃんみたいに、俺らに可愛がられたいってか?」

憂 「何しに来たって・・・ バカですか?これ、私の手にあるもの。見て分かりません?」

不良1 「俺らのバット。それでどうするつもりよ。なんかの冗談のつもりか?だはははっ」

憂 「あはは。冗談って・・・ この期におよん・・・」ぶんっ

不良1 「・・・え?」

憂 「でっ!!!!」


がごっ!!!


不良1 「いぎいいいいいっ!?」

不良2 「!?」

拓 「!!」


油断していたんだろう。私のような女の子に何ができるんだって、馬鹿にもしていたんだろう。

思い切り振りかぶり、奴の肩にバットをめり込ませるその瞬間まで。

不良は呆けた顔で私を見ていた。なんら防御策を講じることもできずに、間抜けな目だけを見開いて。


不良1 「いだっ!?いで・・・ぐああああああああ!」

憂 「なんで避けようとしなかったの?もろに入っちゃったよ。だいじょうぶ?」

不良1 「ああああ・・・・いぎいいいぃぃいい・・・」

憂 「もっとも、避けたところで逃さない自信はあったけれどね」

不良1 「あ・・あ・・・」

憂 「無様だなぁ。きゃははは!痛い?ねぇ、痛い??痛いよねぇ。痛くしてるんだもん」


笑いが込み上げる。

なんて無様。なんて滑稽な悲鳴と姿だろう。笑えてきて仕方がない。

でも、あくまでも思考は努めてシャープに。

徹底的に痛めつけておかないと、目の前のこいつが再び立ち上がってくるかもしれない。

多対単で囲まれたら、絶対的に不利だ。そんな事態は防がなくちゃいけない。

だから私は、再びバットを振り上げる。


憂 「あなた方と一緒」どがっ!


そして打ち下ろす。


憂 「人が嫌がるの、痛がるのを分かっていて」どがっ!


こいつらがお姉ちゃんにしたのと同様に。


憂 「私のお姉ちゃんを滅茶苦茶にしてくれた」どがっ!


無慈悲に。徹底的に。


憂 「お前らと一緒だぁ!」どこぉっ!

不良1 「あが・・・が・・・」


完膚なきまでに。叩き潰す。


目の前にはゴキブリのように醜く這いつくばった不良が一体。

死に際の虫よろしく、四肢をヒクヒクと痙攣させている。見苦しいこと、この上ない。

だけど・・・

これで一人は片がついた。

次は・・・

右となりの男に、私はにっこりと微笑みかけて見せた。


憂 「えへっ」

不良2 「・・・!!」


バットを構えなおしながら、笑顔のまま不良ににじり寄る。


不良2 「く、来んな・・・てめぇ、こんなことしてただで・・・」


完全に腰が引けちゃってるよ、この人。格好悪い。

でも、無理もないよね。こいつらの空っぽの頭じゃ、急な事態に即応できるはずなんてないもの。

そんな虚勢見え見えのセリフなんか吐く前に、二人がかりで飛び掛ってでも来れば、ちょっとは違ったかもしれないってのに。

本当に頭が悪い。こんな程度の奴らに、私の大切なお姉ちゃんが壊されただなんて。

腹が立って腹が立って・・・

笑いが込み上げてくるのが止められない。


憂 「あはは・・・ただで済むと思ってるかって?思ってないよ・・・だって。ふふっ」


この笑いは、自虐の嗤い。

私は私を嗤う。

友達を拒絶し、一人で殻に閉じこもって。

すべてを周りのせいにして自己完結させて。でも、純ちゃんと出会うことで少しは成長できたと思っていた。

でも、その実おろかな私はなにも学んでいなくって。

実はいまだに殻に閉じこもり続けていた私は、そのせいでお姉ちゃんが壊れちゃうのを防げなかった。

あまつさえ、そのことを和ちゃんの責任に擦りつけようとして・・・

醜い。

こいつらと同様、私は醜い。その醜さを嗤わずにはいられない。

だから。


憂 「これは私への罰でもあるんだも・・・んっ!!!」ごきゃっ!!

不良2 「ぶべらっ!」


横殴りにバットを顔面に叩き込む。

倒れ伏す不良を見ながら、私は思う。

そう、これは私への罰。

この場はどうにでもなるだろう。でも・・・

こいつらが仲間を引き連れて仕返しにきたら。さすがにそうなったら、私じゃどうにもならないと思う。

それに、このことが問題にでもなったら。私は学校にいられなくなるかも知れない。

でも。それでも良い。

私はどうなっても良いんだ。とにかく今は、お姉ちゃんの苦しみを終らせる事だけを考える。

それが罰。罰を受けるっていうことなんだ。

憂 「痛い・・・?」どがっ!


頭をかばうように丸く縮こまっている不良に、私は無慈悲な追撃を加える。


不良2 「ぐぁっ!や・・・やめて・・・痛い・・・」

憂 「あはは・・・ねぇ、どんな気分?抵抗できない立場から良い様に痛めつけられるのって、ねぇ?どんな気持ち?」どがっ!

不良2 「あうっ!ゆるし・・・もう、許して・・・」

憂 「たぶんお姉ちゃんだって、同じ事をあなたたちにお願いしたはずだよね?」どがっ!

不良2 「や・・やめ・・・」

憂 「それであなたたちが許してくれた?止めてくれた?」どがっ!

不良2 「い・・・ぐ・・・・ぁああ・・・」

憂 「だのに自分が痛い時だけ止めてもらおうだなんて、虫が良すぎるよ」どがっ!

不良2 「・・・」ヒクヒク

憂 「・・・ふん」どがっ!


ダンゴ虫のように丸くなったまま気を失った不良に止めの一発を打ち込むと、私は最後の標的に顔を向けた。


と、その刹那。


憂 「!」


私の鼻先を木刀の一閃が掠める。反射的に身をそらし、間一髪で突然の一撃をかわす事ができた。

目の前にはいつの間に近づいていたんだろう、あの拓と呼ばれていた男が木刀を構えて佇立していた。


拓 「・・・ちっ」

憂 「・・・仲間がやられてる間に、そっと近づいてきてたんだ?」

拓 「・・・」

憂 「さすがだね。友達助けるより、利用するほうを選んじゃうなんて。テンプレ通りの悪党だよね」

拓 「なんなんだ、お前。本当に平沢の妹か?」

憂 「うん。そっくりでしょ」

拓 「ざけんなよ。お前、なんでそんなにケンカ慣れしてやがんだ?」

憂 「ケンカ慣れ・・・?」


ケンカなんて。

少なくとも殴り合いのケンカなんて、今まで一度だってした事がない。


憂 「慣れてないよ?人を殴ったりするの、今日がはじめてだもん」

拓 「嘘つけよ。だったらなんで、そんなに躊躇も容赦もなく人を痛めつけられる?」


あ、そういう事か。

分からないんだろうな、この手の人たちには。


憂 「あなた、大切な人っていないんでしょ?」

拓 「ああ?」

憂 「本当に大切な人を踏みにじられた時、人がどう思うか。どれだけ悲しいか・・・」

拓 「てめぇ、何を言って・・・」

憂 「その悲しさが、どれだけ人を怒らせるか・・・なんて、想像もできないんでしょ?」

拓 「与太話もいい加減に・・・」

憂 「ふふっ」

拓 「・・・!?」

憂 「そしてそんな事も想像できないバカな人に、大切な人が壊れちゃうまで良いようにされて・・・」

憂 「そんな不甲斐ない自分への怒り。無いでしょ?あなたたちは自分に憤るなんてことなんて・・・ないよね?」

憂 「そしてその怒りが、どれだけの力になるかなんt
拓 「いいかげん黙れやっ!!」


言い抜けに拓が木刀を突き込んで来る。

正確に。私の鼻柱を狙って。

・・・女の子の顔を狙うなんて最低だよ。

だけど、正確すぎる攻撃は却ってかわしやすい。

私は半身を反らせて突きを避けながら、ヒョイッと一本。足を突き出してやった。

渾身の突きをかわされ、力の行き場を失いよろけた拓は、私の足に己の足を簡単に取られて。

他愛なく。かつ、無様にスッ転んだ。

床に顔面強打。痛そう・・・


憂 「大丈夫・・・?」


言いながら、拓の背中を足で踏みつける。

起き上がれないように。思いっきり。全体重をかけて。

とはいえ、私は軽いから。奴が起き上がろうと力を込めたら、簡単にひっくり返されちゃうかも。

だから、その隙を与えず。


どがっ!


拓 「・・・!!?」


抵抗する力を削ぐため。私は再び、木刀の乱打を振るう。


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