・・・
・・・


純 「そ、それで。お姉さんは今もそのままなの?」

憂 「うん・・・夜にお父さんとお母さんが帰ってきて・・・今はお母さんがお姉ちゃんを見てくれてるけど」

純 「そっか。それで心配で寝られなかったんだね・・・」

憂 「本当は学校も休んでお姉ちゃんの側にいたかったんだけど、お母さんが心配いらないから学校には行くようにって」

純 「・・・そう」

憂 「・・・うう」グスッ

純 「あわっ!憂、泣かないでよ・・・」

憂 「だって、お姉ちゃん。あんなに明るくて元気いっぱいだったお姉ちゃんなのに、こんなの。こんなのって・・・」

憂 「お姉ちゃんのあんな姿、見たくないよぅ・・・」ヒグッヒグッ

純 「憂・・・」ナデナデ

憂 「うう、純ちゃぁあん・・・」ヒシッ

純 「よしよし。俺の胸で泣きたけりゃ、いくらでも貸してあげるからな」

憂 「うええええん。純ちゃん、おねえちゃあぁあああん・・・」

純 「・・・」ナデナデ

憂 「なんでお姉ちゃん、あんなんなっちゃったのかなぁ・・・分からないから、よけい不安で・・・うぅ・・・」

純 「・・・そのことなんだけど」

憂 「・・・え?」

純 「今は時間もないし、昼休みにでも。はっきりとは言えないけど、関係あるかもしれない話が、さ」

憂 「純・・・ちゃん・・・?」

純 「ちょっと、あるから・・・」

憂 「・・・?」



お昼休み!校庭の片隅!!


憂 「・・・いじめに?お姉ちゃんが!?」

純 コクリ・・・

憂 「そんな・・・どうしてお姉ちゃんが、そんな。いじめなんて・・・」

純 「聞いた話だからね。確証は持てないけどさ。でも・・・」

憂 「誰に?あのお姉ちゃんをいじめるなんて、いったい誰が・・・」

純 「不良・・・」

憂 「・・・!」

純 「いるらしいね、お姉さんのクラスにさ。なんでも、そいつらに目をつけられちゃったって事らしいよ」

憂 「嘘・・・どうして・・・だって、私のお姉ちゃんだよ!?いじめられるなんて、人から嫌われるような事するはずないのに!」

純 「分かってるよ。私も会ったことあるもん。それは憂の言うとおりだよ。でもさ」

憂 「・・・」

純 「いじめってさ。別に必要ないんだよね。される理由って・・・」

憂 「・・・え」

純 「ただちょっと気に食わないところがあったりとか。何をしても言い返して来なさそうだったりとか」

純 「それだけで、十分。あとはする側の気分しだい。そんなもんなんだよね。あったまくるけど・・・!」

憂 「・・・あ」


(憂 「お姉ちゃんのんびりしてるから、ああいう不良さんたちに目をつけられちゃったりとかしないかな・・・」)


いつかの帰り道。お姉ちゃんたちのクラスに、たちの悪い不良がいるって聞いたとき。

私、和ちゃんに言ってる。

自分で言ってる。お姉ちゃんの性格が、いじめの理由に利用されるんじゃないかという不安を。

・・・私、気づいてる。


憂 「・・・」

純 「う、憂・・・?」

憂 ダッ

純 「ちょ、ちょっと待ったぁー!」ガシッ

憂 「離して!私、行かなきゃ!」

純 「行くって、どこにさ!」

憂 「お姉ちゃんのクラス!その不良に、本当にいじめられてたのか確かめに行かなくっちゃ!」

純 「ま、待って!まずは落ち着け!」

憂 「落ち着けるわけないよ!」

純 「良いから、一呼吸おきなって!」

憂 「・・・っ」

純 「・・・はぁ。あのさ・・・憂。良い?私、さっき言ったよ?確証は持てないって」

憂 「うん、だけど。だって!」

純 「もしこの話がガセだったら。いや、それならその方が良いんだけどさ。でも、ガセなのに下手に騒いじゃったら・・・」

憂 「・・・」

純 「噂のいじめがホントのいじめに成り上がっちゃうかもしれない。そんなの嫌でしょ・・・?」

憂 「あ・・・う・・・うん・・・」

純 「それに。いじめが嘘でもホントでも。憂が騒ぐことで、今度は憂がいじめの対象にでもなっちゃったら・・・」

憂 「そんなのっ!お姉ちゃんのためだったら、私のことなんk
純 「私が嫌なのっ!」

憂 「・・・っ!」

純 「嫌なんだよ、友達が辛い目に合わされるかもなんて。考えるのも嫌だ・・・」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・怒鳴ってゴメン」

憂 「私の方こそ、取り乱しちゃってゴメンね・・・でも、だけど。じゃあ私、どうしたら・・・」

純 「まずは事実かどうかの確認からだよ。ね、誰かいないの?お姉ちゃんの友達でさ、憂も知ってる人」

憂 「・・・あ」

純 「いるんでしょ。だったら、まずはその人に聞いてみなよ。先のことは、それから決めよう?」

憂 「あ・・・うん」

純 「それと、約束」

憂 「え、なぁに・・・?」

純 「いじめが本当にあったと確認できたとして。さっきみたいに我を忘れちゃわないように・・・ね?」

純 「私もできる範囲で協力するから。だから一人で暴走しないで。絶対、コレ約束!」

憂 「・・・うん。うん、ありがとう。純ちゃん」



放課後!


私は和ちゃんにメールを送ってみた。

差しさわりのない挨拶メールに返ってきた返事は、「これから唯のお見舞いにいって良い?」。

お姉ちゃんは表向き、風邪という理由で学校を休ませている。だからこれは、当然の反応。

私は承諾の返事を返すと、純ちゃんと別れ一人、家路に急ぐ。

聞かなくっちゃ。

お姉ちゃんが遭わされた、事の顛末を。



平沢家!


憂 「ただいま・・・」

母 「おかえり、憂ちゃん」

憂 「お母さん・・・お姉ちゃんは・・・?」

母 「・・・」

憂 「・・・そう」

母 「憂ちゃん、少し寝たら?昨日はほとんど、眠れてなかったんでしょ?」

憂 「ううん、平気。それよりもお母さん。もうすぐ和ちゃんがお見舞いに来てくれるから」

母 「え、でも・・・」

憂 「平気。あとね、ちょっと和ちゃんに確かめたいことがあるから。だからお母さん。しばらく私たちだけにしてね」

母 「え・・・」

憂 「お茶とかぜんぶ私が用意するから。だから、ね・・・?」


ピンポーン


憂 「あ・・・はーい」

和 「こんばんわ、真鍋です」

憂 (ガチャッ)「いらっしゃい、和ちゃん」

和 「あ、憂。唯の具合は・・・あ、おばさま」

母 「・・・いらっしゃい、和ちゃん」

和 「唯のお見舞いに来ました。あの、唯はどうしてますか?」

憂 「うん、上にいるよ。さ、上がって。お姉ちゃんの部屋に行こう?」

和 「うん。それじゃお邪魔します」

母 「ええ・・・」



二階。お姉ちゃんの部屋の前。

ノックを二つ。返事はない。


和 「寝てるのかしら」

憂 「たぶん・・・違うと思う」

和 「・・・え?」


私の返事に戸惑う和ちゃんに構わず、ドアのノブを回す。

扉はゆっくりと開き、そして・・・

部屋の奥。ベッドの上に。

じっと腰掛けて、うつろな目をこちらに向けて。

お姉ちゃんは起きていた。


和 「唯・・・」

唯 「・・・」

和 「こ、こんばんわ。風邪って聞いたから、心配でお見舞いに来たよ」

唯 「・・・」

和 「あの・・・寝てなくって平気なの?私のことなら気にせず、ベッドに入ってくれても・・・」

唯 「・・・」

和 「・・・唯?」

唯 「・・・」

和 「唯?唯・・・!どうしたの?なんで何も話してくれないの?ねぇ・・・」


お姉ちゃんの前まで歩みより、その肩に手を置いて揺さぶる和ちゃん。

そして。そこまで近くによって。そこで初めて和ちゃんは気がついた。


和 「・・・唯?あなた、どこを見て・・・」


お姉ちゃんの瞳が、何も捉えていないという事に。


憂 「気がついた?お姉ちゃん、昨日からずっとこうなの」

和 「憂・・・唯が。唯、どこを見て・・・憂、唯が・・・」

憂 「うん。お姉ちゃん、壊れちゃった」

和 「え・・・壊れ・・・て、何を言って・・・え?そんな・・・憂、一体いつ・・・どうして・・・」

憂 「昨日から。お姉ちゃん。瞼は開いていても、誰のことも見てくれないんだ。というか、心がね」

憂 「瞼は開いてる代わりに、心に蓋がされちゃってるようで。誰の問いかけにも、何も応えてくれない・・・」

憂 「お父さんにもお母さんにも。・・・もちろん、私にも」

和 「そんな・・・だって風邪じゃなかったの?そう聞いていたから・・・」

憂 「風邪じゃないよ。風邪じゃないけど、言えないでしょ」

和 「え・・・」

憂 「お姉ちゃん壊れちゃったから、学校を休ませます・・・なんて、言えないよね」

和 「・・・あ。・・・ね、ねぇ、唯。私よ、和だよ」

唯 「・・・」

和 「分かるよね?ねぇ・・・なにか言って。話をしてよ!唯っ!!」

唯 「・・・」

憂 「・・・和ちゃん」

和 「憂、こんなの。こんな事って・・・」

憂 「・・・お姉ちゃんがいじめられていたって、本当?」

和 「え・・・」

憂 「・・・」

和 「あ・・・な、なんで・・・」

憂 「答えて。お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「・・・」

憂 「ねぇ。お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「う、憂・・・あの、あのね・・・」

憂 「お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「あ・・・う・・・」

憂 「なんで教えてくれないの?お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「・・・」

憂 「どうして目をそらすの?ねぇ、お姉ちゃんはいじめられてたの?」

和 「・・・あ。あぅ・・・」

憂 「・・・目は口ほどに物を言い。無言は肯定の証かな。いじめられていたんだね・・・」

和 「憂。わ、私・・・」

憂 「友達から教えてもらったの。人づてにお姉ちゃんがいじめられてたらしいって」

憂 「いじめてたのは、前に和ちゃんが教えてくれた不良たちらしいって事も。ね、当たってる?」

和 「あの、あのね・・・私。私っ」

憂 「ね、どうして?どうしてお姉ちゃんが。お姉ちゃんみたいな優しい人が、いじめになんか遭わないといけないの?」

和 「それは・・・」

憂 「それと、あの時。和ちゃん言ってくれたよね?お姉ちゃんがいじめられても、和ちゃんやクラスのみんなが守ってくれるって」

和 「・・・」

憂 「お姉ちゃん、壊れちゃったよ」

和 「あ・・・う・・・」

憂 「原因はいじめ以外に考えられない。でも、どうして?和ちゃんが守ってくれてたなら・・・」

憂 「頼れる人が側にいてくれたのなら、どうして壊れちゃったんだろう」

憂 「ね、お姉ちゃん・・・?」

唯 「・・・」

憂 「和ちゃんは、お姉ちゃんを守ってくれた?いじめから助けてくれようとしたの?」

和 「や、やめて・・・」

憂 「・・・じゃあ、和ちゃんに聞くよ。和ちゃんはお姉ちゃんのこと、助けようとしてくれたの?」

和 「それは・・・」

憂 「親友のお姉ちゃんのこと、助けてくれようとしたの!?」

和 「わ、私、私は・・・っ」

憂 「答えろっ!真鍋和っ!!」

和 「っ!!」

唯 「・・・」

和 「・・・ごめん、憂。ごめんね・・・唯ぃ・・・」ポロポロ

憂 「・・・」

和 「一度、一度だけあいつらに言いにいったの。唯をいじめるの、止めてって頼みに。行ったんだよ。でも・・・」

和 「その時、脅されて。本当に怖くって・・・それ以上なにも言えなくって。ごめん。ごめん・・・」

憂 「・・・」

和 「喫茶店に誘ったあの日、本当は憂に相談するつもりで行ったの。でも、私の事お姉さんだって。大切な人だって。そんなふうに憂が言ってくれて・・・」

和 「なのに自分はあまりに不甲斐なくて、それが腹立たしくて・・・言葉に詰まっちゃって。もう、それ以上なにも言えなくて・・・」

憂 「和ちゃん・・・」

唯 「・・・」

和 「だけど!唯がこんなふうになる位だったら、何をされても良い。誰にどう思われたって良い!もっと私にできる事をするべきだったんだっ!」

和 「ごめん。いまさら遅いけど、ほんと・・・ごめん・・・ごめんねぇ・・・」ヒッグヒッグ


お姉ちゃんのあり様を見せつけられ、私に怒鳴りつけられて。

和ちゃんは膝をついて、肩を震わせながらポロポロと涙をこぼし始めた。

いつもは私よりもずっと大人な和ちゃんが、今は小さな子供みたいに小さな嗚咽を漏らしながら・・・


唯 「和ちゃんは・・・悪くないよ・・・」

憂 「えっ!?」

和 「唯!!」

唯 「誰だって、あんな人たちに関わるのは怖いもんね・・・だから、和ちゃんは気にしないで良いんだよ・・・」

憂 「お姉ちゃん、話せるの?私のこと、分かる!?」

唯 「うん。ごめんね、憂。心配したよね。でも、しばらくはそっとしておいて欲しいな。関わらないで欲しい・・・」

憂 「え・・・」

和 「ゆ、唯・・・」

唯 「私ね、一人で。心の中でね、昨日からずっと考えてたんだ。私じゃどうにもならない。誰も助けてくれる人はいない」

唯 「じゃあ、どうしたら良いのかなって。考えてたの。そして分かったよ。何も感じなくすれば良いんだって」

憂 「そ、それって・・・」

唯 「心のね、スイッチを切るの」

和 「・・・っ!」

憂 「だ、だめだよ、そんなの!そんなの辛い!悲しすぎるよ!」

唯 「ごめんね、憂。でも独りにして欲しいんだ。和ちゃんも。今日はもう帰って?」


言って静かに微笑むお姉ちゃん。

やっと。一日ぶりに言葉を交わしてくれたお姉ちゃん。

なのに・・・

発した言葉はか弱く、かつ悲しく。

そして、両の瞳は依然として光を失ったままで、やはり誰のことも見てはいなかった。


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