帰り道!!


いつもの帰り道。

今日は一人。最近は私の隣が定位置だった鈴木さんはいない。

とても静か。ほんの少し前までだったら気にならなかった・・・これが普通の。そして当たり前だった道のり。


憂 「・・・」トボトボ


なのに。

なぜだろう。今はその静けさが耳に痛い。

それに心がチクチクする。

この痛さはいったい何のせいなんだろう。

寂しいから?彼女を避けてしまった罪悪感から?

・・・まさか。

そんなはずないよ。あんなうるさい子、いない方がせいせいするし。

なにより、私が罪悪感を抱く理由がない。

・・・ない・・・もの・・・


憂 「・・・っ」

? 「・・・?あれは・・・」

憂 「はぁ・・・」トボトボ

? 「・・・憂?」

憂 「あ・・・和ちゃん」

和 「やっぱり憂だった。どうしたの?肩なんか落として、見るからにしょぼくれちゃって・・・」

憂 「え、そんな風に見えた?」

和 「落ち込んでるようにしか見えなかったけど」

憂 「・・・そっか」

和 「いったいどうしたの?私でよければ、話を聞くけど?」

憂 「・・・うん。実は、あのね・・・」


・・・
・・・


和 「そう・・・それでつい、鈴木さんっていう子のことを避けちゃったね」

憂 「うん・・・」

和 「でも、どうして?憂、昔から絵が上手だったし、褒められたなら誇りこそすれ、せっかく認めてくれた子の事を避ける必要なんてないじゃない」

憂 「それは・・・絵の中の女の子がお姉ちゃんだってばれちゃったから・・・」

和 「唯を描いたの?それはぜひ、私も見てみたいものね。・・・でも、それが?どうして彼女を避ける理由になるの?」

憂 (いくら和ちゃんが相手でも、報われない想いを込めて描いたからだなんて言えない・・・)

憂 「あ・・・あのね、小学生のころなんだけど・・・そのころ仲良くしてた子たちに、同じように絵を見せたことがあったの・・・」

和 「うん。それで?」

憂 「お姉ちゃんの絵ばっかり描いて、お姉ちゃんべったりだって気持ち悪がられちゃって・・・嫌われてそれっきり・・・」

和 「・・・」

憂 「だからまた、そんな風になるのが嫌で。だから私・・・」

和 「嫌われる前に、自分から距離をとったってわけ?」

憂 「・・・うん」

和 「そう。・・・良いお友達ができたみたいね、憂」

憂 「え・・・なに言って・・・」

和 「お友達。好きなんでしょう、鈴木さんのこと」

憂 「違うよ。別に好きなんかじゃない。それどころか、鬱陶しくて迷惑してるくらいだよ!」

和 「本当に?」

憂 「もちろんだよ!」

和 「だったら今の状況は、願ったり叶ったりね。良かったじゃない?」

憂 「・・・え?」

和 「今まで寄って来るから無下にできなかったものが、距離を置く良いきっかけができたってことじゃない。ね、憂」

憂 「・・・あ」

和 「このまま無視なりしておけば、そのうち向こうも憂から離れていくわよ。そしたらほら。憂の望んだとおりになる」

憂 「・・・」

和 「本当に憂が、そう望んでいるのなら、だけれどね」

憂 「そうだね・・・だって私、友達なんか要らないもの。ずっとそう、思ってきたんだもの」


私が友達だと思って、信頼して。それで本当のことを打ち明けても。

それが相手にとってのキャパシティを超える内容だったとき、そんな信頼は簡単に裏切られちゃう。

その時の惨めさ。悲しさを私は嫌っていうほど学んだから。

だから、それから先。私はいっさい友達と呼べる交友関係を誰とも築こうとはしなかったんだ。


憂 「だって、私にはお姉ちゃんと、もう一人のお姉ちゃん・・・和ちゃんがいてくれればいい・・・から」

和 「憂・・・」

憂 「・・・」

和 「憂、私のことをそこまで想ってくれるのは嬉しいけど・・・」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「そんな中にもう一人、大切な人が加わったって良いんじゃないかしら」

憂 「鈴木さんの事・・・?」

和 「うん、だって。ね、憂。もし憂が本心から鈴木さんのことを嫌っているなら、私が言ったとおりに彼女と距離を置けばいいだけじゃない」

憂 「・・・」

和 「それをし難くって思い悩むということは、憂も鈴木さんのことを友人として認め始めているからじゃないのかしら」

憂 「私が鈴木さんを・・・友達って・・・そんな・・・」

和 「だから嫌われたくないんでしょう?嫌われるくらいなら、自分から避けてしまおうって。ね、違う・・・?」

憂 「・・・あ」

和 「人付き合いって巡り合わせよ。例えば憂とだって、私と唯が友達にならなければ、おそらくは知り合うこともなかった」

和 「そして・・・お互いの相性が悪かったなら。たとえ知り合いにはなれても、こんな風に親しくはなれなかったはず」

憂 「え・・・そんなのやだ。和ちゃんと知り合っていない自分なんて、そんなの考えられない・・・」

和 「でしょ?そして今ここで鈴木さんとの関係を断ち切ったら、あとで同じ後悔をすることになるかも・・・ね?」

憂 「でも、だったら・・・私、どうしたら・・・」

和 「話し合ってみたら?自分のしていること、気持ち悪いかどうか直接聞いてみるの」

憂 「え!でもそんなことして、もし本当に気持ち悪いって言われちゃったら私・・・どうしたら良いのか」

和 「言ったわよ、憂。人付き合いは巡り合わせだって。その時は縁がなかったと思って、キッパリ切っちゃえばいいのよ」

和 「少なくとも、相手が自分をどう思っているかも分からずに断ち切るより、よっぽど前向きで建設的な方法だと思わない?」

憂 「それはそうかも・・・だけど・・・でも・・・」

和 「それにもし最悪な結果になっちゃったとしても、憂には私がいるから」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「うまくいけば友達ができ、そうじゃなくても今まで通り。ね、憂には何一つマイナスにならない。だから・・・」

憂 「うん」

和 「憂には後ろ向きになりすぎて、これからの対人関係の芽をつぶす様なことをしては欲しくないのよ」


・・・ずっと友達なんて要らないって思ってきた。

今の今まで。和ちゃんに言われるまでずっと。そう思ってきた。

思おうとしてきた。

だけど、今の私は鈴木さんから拒絶されることを恐れている。だから、私の方から壁を作ってしまった。

そのことに気づかされてしまった。

拒絶されるより、自分から拒絶してしまった方が心の負担が軽いから。

心が・・・痛くないから。

だから、逃げの一手を打っている。この事実に・・・

でも、どうして?この恐れはいったい、どこから来ているんだろう?

やっぱり和ちゃんが言うように、私は鈴木さんのことが「好き」なのだろうか・・・


和 「・・・だから・・・あ・・・」

憂 「・・・?和ちゃん?」

和 「まぁ・・・ね。例外として、絶対受け入れがたい人っていうのも、世の中にはいるものだけれどね」

憂 「どうしたの、いきなり・・・」

和 「ちょっと道を変えよう。今日はこっちから帰りましょ」

憂 「え・・・?あ・・・ちょっと、待ってよ、どうしたの?和ちゃんー・・・」


・・・
・・・


憂 「和ちゃん、いったいどうしたの?」

和 「うん・・・さっきの道ね。私たちの先に数人の集団がいたの、気がついてた?」

憂 「あ、ううん。あまり気にしてなかった」

和 「そう。あのね、そこにいたの、うちのクラスの不良たちだったの」

憂 「ふ、不良!?」

和 「かなりタチの悪い、ね。基本のんびりしたクラスなんだけれど、連中だけは例外でね」

憂 「そ、そんな人たちがいるんだ・・・」

和 「私ね、ああいう奴らが大嫌いなのよ。無軌道で傍若無人で、人に迷惑をかけることを勲章か何かと勘違いしている救いのない連中・・・」

憂 (和ちゃんが人のことを悪く言うなんて、初めて聞いた・・・)

和 「あ・・・ごめんね。それで、ね。道を変えさせてもらったの。あまりああいった連中と係わり合いになりたくなかったから」

憂 「お姉ちゃん、大丈夫かな・・・」

和 「唯?」

憂 「お姉ちゃんのんびりしてるから、ああいう不良さんたちに目をつけられちゃったりとかしないかな・・・」

和 「それは大丈夫よ。唯には私やクラスの友達もついているんだし。安心して、ね?」

憂 「そうだね」


そうなんだ。

お姉ちゃんには和ちゃんや他にも友達がたくさんいて、だから心配なことがあってもきっと何とかなるだろうって安心できる。

周りのみんなが、友達が力を貸してくれるだろうからって。

でも、私には友達と呼べるような人は一人もいなくって・・・

きっとお姉ちゃん、心配してただろうな。和ちゃんを除けば、私を託して安心できる人が誰一人いないんだから。

安心とか打算的な考えで友達を作るって言うのは、もしかしたら少し違うのかもしれない。

でも、私は和ちゃんがお姉ちゃんの側にいてくれることで心強く思っているし、だったらお姉ちゃんにもそれと同じ心強さを持ってもらえたら嬉しい。

それに・・・

自分の中での鈴木さんの存在の立ち居地がこのまま消化できずにいるのも、気持ちが悪い・・・から・・・


憂 「和ちゃん」

和 「うん?」

憂 「ありがとうね」

和 「・・・うん」


明日、鈴木さんと話をしてみよう。



翌日!教室!!


憂 (いつも通り鈴木さんが話しかけてきたら、昨日のことも含めて色々打ち明けようと思って気負ってたのに・・・)


どうしたんだろう。今日は却って、鈴木さんのほうがよそよそしい。

いつもならこっちがうんざりする位にグイグイ迫ってくるのに、今日は私の様子を伺うようにチラチラ横目で見てくるばかりで・・・


憂 (いったいどうしたんだろう・・・)



昼休み!廊下!!


憂 (トイレにもついてこなかったな。いつもだったら「連れションだ!」って恥ずかしいこと大声で言いながら、後を追っかけてきてたのに・・・)


なんだか、物足りないな・・・

いたらいたでうるさくって、人の都合なんかお構いなしで迷惑だとすら思っていたのに。

なんで今、こんなに私、つまらないんだろう・・・・

心の中、スカスカしちゃってるんだろ・・・


? 「平沢さん」

憂 「はい・・・?」

A子 「やっほー、平沢さん。お元気ー?」

B子 「こんにちわ。今、時間少しいただいても良い?」

憂 「えっと、あなたたちは確か・・・摩神さんと大徳寺さん?」

A子 「そ。摩神英子と大徳寺美子。純の友達のね。あの子からはA子とB子って呼ばれてるけど」

憂 「A子さんとB子さん・・・それでその、時間って・・・?」

B子 「ええ、ちょっと純のことでお話があって」

憂 「・・・え、それってもしかして!今日の鈴木さん、ちょっと様子がおかしいことと何か・・・!?」ズズイッ

A子 「あ・・・うん」

憂 「・・・ご、ごめんなさい。私、つい・・・」

A子 「はは、いや。いいよいいよ。うん、そう。その純のさ。周りの調子が狂わせちゃう様な態度についてね」

B子 「そのことで、ね。平沢さんに要らない心配をさせちゃったんじゃないかなって。もしそうだったなら私たち、謝らなくっちゃいけないから」

憂 「え・・・え・・・あのっ、それってどういう・・・」

A子 「うん、実はさ。昨日私たち、あの子に言っちゃったんだよね」

憂 「言ったって、なにを・・・」

B子 「あのね。純があまりに平沢さんに立ち入りすぎるから、程ほどにしておいたほうが良いって。老婆心で・・・ね」

A子 「余計なお世話だったかもしれないけど、このままじゃあいつ、本当に平沢さんから避けられるようになっちゃうんじゃないかって。それ、心配でさ」

憂 「な、なんでそんなこと言ったの・・・?」

A子 「うん・・・純が、本気で平沢さんと親しくなりたがってるって、見てて分かったから・・・かな」

憂 「え・・・」

B子 「でも純は、あの通りの子でしょ?相手の心の機微とか考えて行動できる子じゃないものね」

A子 「うん。うらやましいくらいに一直線なんだよ、あいつ。それは純の長所でもあるんだけどさ。でも、時と場合によっちゃぁ・・・」

B子 「短所にもなってしまう」

A子 「今がまさにそれだね。私たちはさ、平沢さん。純に相手のペースも考えて行動して欲しいって、そう言いたかったんだ。けど・・・」

B子 「でもあの子、単純だからね。自分のやり方をダメだしされちゃって、自分でもその事に納得しちゃったせいで、どうして良いのか分からなくなっちゃったみたいなの」

憂 「・・・あ。だから。だから鈴木さん、今日は私にぜんぜん話しかけてこないんだ・・・」

A子 「馬鹿だよねーあいつ。でも単純な奴だから、分かりやすいくらいに分かっちゃうんだ。純は平沢さんと仲良くなることに本気なんだって」

憂 「・・・」

B子 「ね、平沢さん。あなたはどう?純みたいな子、うるさくてやかましくって、そばにいたら迷惑?」

憂 「え・・・」

B子 「それとも、賑やかで明るくって、楽しい子だと思ってもらえるかしら」

A子 「もし迷惑だってんなら、私たちから平沢さんにはもう近づくなって、純には言っておいてあげる」

憂 「そ、それはっ」

B子 「でももし、そうじゃないなら、平沢さんの口から」

憂 「・・・え」

B子 「あなたの口から純のこと・・・私たちの友達のこと、肯定してあげてほしい」

憂 「・・・」

A子 「ごめんね。本当はあなたと純の問題なのに、要らないことをしちゃって、さらに余計な口まで挟んじゃって」

憂 「ううん。ううん、そんなことないよ。私、自分の気持ちとかまだよく分からないけど、鈴木さんと話してみるね」

B子 「平沢さん・・・」

憂 「それに、鈴木さんに打ち明けたいこともあるし。そのことで鈴木さんがどう思うか・・・友達になれるかどうかは、その答えを聞いた後じゃなきゃ分からないけど・・・」

憂 「でもね、摩神さん。大徳寺さん。二人の話を聞いて、友達っていいなって思えたよ」

A子・B子 「・・・」

憂 「ありがとうね」ニコッ

A子 「・・・これは」

B子 「うん・・・純の見立てとおりだったわね」

憂 「え、なんのこと・・・?」

A子 「あ、ううん。こっちのこと。じゃあ、平沢さん。純のことよろしく!」

B子 「こんど一緒にお弁当でも食べましょうね。それじゃ、あとでね」

憂 「うん、ありがとうね」

憂 「・・・」

憂 「・・・友達、か」


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