唯 「えへ・・・憂、いっつもありがとうね。大好き」

憂 「お姉ちゃん・・・」

唯 「でもね、憂もせっかく中学生になったんだし、これからは憂自身がやりたいことも、たくさんたくさん楽しんでほしいな」

憂 「う、うん。ありがとう、お姉ちゃん」

唯 「ううん。さ、帰ろ。お夕飯のしたく、お姉ちゃんも手伝っちゃうからね!」

憂 「うん」



お姉ちゃん、何も分かっていんだ。

私が一番やりたいことが、お姉ちゃんのお世話なんだって。

そして私が一番楽しいことが、お姉ちゃんの笑顔を見ることなんだって事。

ねえ、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんと一緒にいる時が一番楽しいんだよ。幸せなんだよ?

だからね。私にはお姉ちゃんがいればそれで良いの。

お姉ちゃんと、あともう一人の「お姉ちゃん」。この二人さえいてくれたなら。

私には友達なんて。

・・・必要ない。


・・・
・・・

と、私は思っているのに・・・


純 「平沢さーん!このマンガ読んだ?もう、ちょー面白くて!!」


初めて鈴木さんが話しかけてきたあの日から。

あれから毎日、何か事あるごとに鈴木さんは私に絡んでくるようになってしまい・・・

朝、顔を合わせるたび。


純 「平沢さーん!」


昼、お弁当を広げるたび。


純 「お弁当いっしょに食べよー!」


そして放課後、家に帰ろうと教室を後にするたび・・・


純 「ねえねえ。今日ちょっとデパ地下覗いて帰らない??すいーつ買い食いしようぜ!すっいーーつ!」


いつも私の横には鈴木さんがいて、数日もするとそれが当たり前の風景のようになってしまっていた。

私の意志なんかそっちのけで、鈴木さんはグイグイ懐いてくる。

強引過ぎてアクが強い彼女。

悪い人ではないんだろうけれど、どうにも私は苦手だと感じてしまう。


純 「にっひっひ。平沢さんと一緒だと、なんだか楽しいなぁ!」

憂 「・・・そう?」

純 「うん!」ニコー

憂 「・・・」クスッ

純 「あ、いま笑っ・・・」

憂 「な、なんでもないっ!」


・・・苦手に・・・感じてしまう・・・



平沢家!!


憂 「というわけなんだよ」

唯 「へぇー」

憂 「ほんと、鈴木さんには困っちゃう・・・ずっとベッタリだし」

唯 「ほうほう」

憂 「自分だけの時間もあまり持てなくなっちゃったし。なんだか疲れちゃって・・・」

唯 「なるほどぉー」

憂 「むぅ・・・」

唯 「お、ほっぺた膨らませて、どした??」

憂 「・・・お姉ちゃん、さっきから空返事ばっかり。ちゃんと聞いててくれてる?」

唯 「えへへ、空返事とは違うよ。ちゃんと聞いてるって」

憂 「うう・・・ほんと?」

唯 「ほんとほんと。むしろ聞き入っちゃってるくらいさ!」

憂 「えー、どうして?」

唯 「だって憂、鈴木さんの話をしてる時、とても楽しそうだったから」

憂 「え・・・」

唯 「生き生きしてたよ、憂」

憂 「そんなはずないよ!私はウンザリしてて、それで愚痴をお姉ちゃんに聞いてもらいたくって・・・」

唯 「・・・うん。そんな友達への愚痴もさ。憂、今まで家で話してくれたことって無かったから」

憂 「・・・あ」

唯 「だからね、文句の一つも言いたくなるくらいに親しい友達ができたんだなぁって。お姉ちゃん、嬉しくなっちゃって」

憂 「・・・」

唯 「だからね。憂の話に聞き入っちゃったって、そーいう次第なのさ!」フンス!

憂 「・・・そんなんじゃない。違うよ、そんなの」スクッ

唯 「あれ?どこ行くの?話、まだ途中じゃないの??」

憂 「・・・お部屋で宿題すませてくるね。また後で。ね、お姉ちゃん」トコトコ・・・バタン

唯 「・・・憂」




翌日!学校!!



純 「平沢さーん!!」

憂 「・・・」

純 「お弁当、一緒に食べよう!」

憂 「はぁ・・・」

純 「ん??」


私が鈴木さんのことを楽しそうに話してた?

ぜんぜん実感が持てない。というか、ありえないよ、お姉ちゃん。

そ、そりゃたまには面白いことを言う人だなとか、それくらいは感じることもあるけれど・・・

でも・・・


憂 「・・・なんでもないよ。で、どこで食べよっか?」

純 「平沢さんの好きなところでいーよ。あと、それとね。ちょっとお願いがあるんだけど~」

憂 「??」

純 「へっへっへ♪」



校庭の片隅!!


純 「いやぁ~、快晴快晴!天気良くって気持ち良いね!」

憂 「そうだね」

純 「こんな日に外で食べるお弁当の味、いやぁ格別ですなぁ。やっぱり人間、お日様の光を浴びてないとね!」

憂 もぐもぐ

純 「・・・えーと。平沢さんのお弁当、おいしそうだね?」

憂 「そうかな」

純 「うん、とっても。やっぱそれも、平沢さんが作ったの?」

憂 「うん」

純 「ほほぉ。やりますなぁ・・・」ジー

憂 「・・・?」

純 「あっ!!空とぶコイサンマン!!」

憂 「えっ!?ど、どこ!?」

純 「うっそぴょーん。いっただきー!」ヒョイッ

憂 「あ!!」

純 「いっひっひ。平沢さんお手製の卵焼きゲットだぜ!」パクッ

憂 「あー!最後の一個!!」

純 「あむあむ・・・おほ、こりゃなかなか・・・美味しい・・・」モキュモキュ

憂 「・・・」

純 「ごっくん。えへへ。ありがとね、おいしかった・・・よ・・・」

憂 「・・・」

純 「もしかして、怒ってらっしゃいます?」

憂 「最後に食べようと思って、残しておいたのに・・・」

純 「好きな物は最後にいただく派・・・?」

憂 コクリ

純 「ご、ごめん・・・私のタコさんあげるからさ、許して・・・?」

憂 「むー・・・」

純 「ほんと、ごめんね。だって平沢さんの卵焼き、すっごく美味しそうだったんだもん」

憂 「またそうやって誤魔化す」

純 「誤魔化しじゃないって。実際食べてみて、見た目とおりの美味しさだったしね。これは平沢さんに恨まれてまで、ムリクリ食べた甲斐があったってもんだよ」

憂 ムスー

純 「ほら、いつまでもむくれてない。可愛い顔がだいなしだってば。私のタコさんも美味しいよ?食べて機嫌なおしてよ!」

憂 「・・・くすっ」


変な人・・・

ほんとに変で・・・

思わず、笑いがこみ上げてしまう。


憂 「ふふ・・・もういいよ。それより・・・はい、これ」

純 「お、ありがとう!」

憂 「私のマンガのノートなんか、どうして見たがるの?」

純 「え、だって。私、マンガ大好きだし」

憂 「意味分からないよ」

純 「そっかなー」

憂 「もうすでに一回見られちゃってるから仕方がないけど、本当はそれ、あまり人には見せたくないんだ・・・」

純 「え、なんで?マンガって人に見せるために描くもんじゃないの?」

憂 「それはプロの漫画家さんの話でしょ。私は違うから」

純 「そうなんだ。なんかもったいないね」

憂 「もったいない・・・?」

純 「せっかく上手なのに」

憂 「上手・・・?」

純 「うん、とても上手だった。だからね、じっくり見せてもらいたいなって思ったんだ。ほら、この前はすぐに予鈴鳴っちゃって、あまりキチンと見れなかったから」

憂 「褒めてくれるのは嬉しいけど・・・とにかく。それは私の自己満足のためだけのマンガノートなの。だから、基本的に人には見せたくない」

純 「照れてるの?」

憂 「違うよ。ね、鈴木さん。この事は誰にも言わないでね。私がマンガ、書いてること・・・」

純 「それは良いけど・・・やっぱりもったいないよ」

憂 「お願い」

純 「う・・・わ、わかった」

憂 「・・・ありがとう」

純 「う、うん・・・じゃ、じゃあ、改めて。見させてもらうね!」

憂 「はい、どうぞ」


パラパラ


純 「・・・へぇ。改めて見ると、やっぱりうまいなぁ」

純 「お、この絵かわいい!」

純 「んー・・・いい笑顔だね。こっちまでつられて笑顔になっちゃいそう!」

純 「・・・ん!?セミヌード!?こりはせくすぃー・・・」

憂 「・・・」

純 「マンガというより、イラストなんだね。お話とかは作らないの?」

憂 「え・・・お話?考えたことも無かった・・・」

純 「・・・そうなんだ。・・・ね、この絵の女の子って、ぜんぶ同じ子だよね?」

憂 「うん、そう・・・」

純 「お姉ちゃん?」

憂 「え・・・!?」ドキッ

純 「これ、平沢さんのお姉ちゃんでしょ」

憂 「う・・・あ・・・んあ、な、なんで・・・」

純 「だって、よく特長つかんでるし。私いっかい会ってるし、すぐに分かっちゃったよ!」

憂 「う・・・うああぁ・・・!」バッ

純 「あ、ノート取られた・・・」

憂 「ち、違うから!」

純 「へ??」

憂 「私のノートの登場人物はすべて架空の人物であり、実在の人物とはいっさい関係ありませんっ!」

純 「なんでそんなに説明口調なの?」

憂 「なんでも!と、とにかくお姉ちゃんとか関係ないから!

純 「え、でm
憂 「じゃ私、そろそろ行くから!」タッタッタ

純 「あ!ひ、平沢さーん!?・・・行っちゃった」

純 「んー・・・私なんか、地雷踏んじゃったかな・・・」


――――

タッタッタッタ・・・


憂 「はぁはぁ・・・」


思わず逃げ出すように、鈴木さんの前から走り去ってしまった・・・

だって・・・


憂 「うかつだったな・・・まさかこの絵がお姉ちゃんだってばれちゃうなんて」

憂 「そこは、それだけ私の絵がお姉ちゃんの特徴をとらえているってことで、本当なら喜ぶべき事なんだろうけど・・・でも・・・」


私の描く”お姉ちゃん”。

それが本当のお姉ちゃんに似ているのは、ある意味当然なんだ。

だって、この絵に注ぐ私の想い。報われることの無いお姉ちゃんへの気持ちすべてをぶつけて、それを紙の上で具現化したもの。

私の想いが形になったもの。それがこのノートの中のお姉ちゃんなんだ。似ないはずが無い。


憂 「分かってたはずなのに・・・」


鈴木さん、私がこの絵に込めた気持ちを知ったら、いったいどんな反応をするのだろう。


憂 「また・・・気持ち悪がられちゃうのかな」


頭の中、記憶の奥底から。かつての友人に投げつけられた、心無い罵声が蘇ってくる。


『平沢さんがお姉さんベッタリなの、そういう理由だったんだー』

『姉妹でそれは、正直引くわ・・・』

『その絵もお姉さんなの・・・?うわ、ちょっとキモいんですけどー』


憂 「うう・・・っ」


頭を思いきり振る。脳みそを撹拌して、嫌な思い出ごと粉みじんになっちゃえとでも言うばかりに。

だけど記憶にこびり付いた思い出は、錆のように心の壁にガッチリと根を張ってしまっていて。


(純 「うわ、ちょっとキモいんですけどー」)


それは頭の中で、勝手に鈴木さんの言葉に置き換えられて再生されて・・・

私の心をさらに苛める。


憂 「・・・もう、あんな惨めな思いはしたくないよ」



その日の放課後!!


純 「平沢さーん!」

憂 ビクッ

純 「今日、帰りマックよって行かない?朝さ、駅の前でクーポン配ってたんだよね。かなりお安くなってるの!」

憂 「あ、あの・・・」

純 「卵焼きのお詫びもかねて、今日はこの純ちゃんがドーンとおごっちゃうからさ。ね、行こうよ!」

憂 「わ・・・悪いけど、今日はちょっと・・・用事があるから」

純 「んー?じゃあ、待ってようか?私、どうせ暇だし」

憂 「う・・・ごめん。とにかく今日はダメなの。また・・・ね、今度!じゃあ、私かえるから!」タッタッタ

純 「あ、ちょっと、平沢さ・・・ん」

純 「・・・行っちゃった。まだ怒ってるのかなぁ」

A子 「あはは、純。なーに、平沢さんにふられちゃったの?」

純 「あ、A子にB子・・・うん、まぁ。そんなとこかな」

B子 「さいきん純、平沢さんにご執心だったものね。どうしたの、ああいうおとなしい子、とっつきにくそうなのに」

純 「うん、私も最初はそう思ってたんだけどさ」

純 (あの子の本当の笑顔、見ちゃったからなぁ・・・)

A子 「ん?」

純 「あ、ううん。たださぁ、平沢さんって。みんなが思うほど、付合いにくい子じゃないと思うんだよね」

B子 「え、そうかしら・・・」

純 「絶対そう。こんど二人も平沢さんと話してみると良いよ。私の言ったこと、きっと納得できるから」

A子 「ふーん。純、平沢さんのこと、よっぽどお気に入りみたいだね。ま、確かに純好みの可愛い子だもんねぇ・・・」ニヤニヤ

B子 「あ、なるほど。そういうことなの・・・」

純 「そういうことって、どういうこと?」

A子 「はいはい。ま、純が誰をどう思おうと関係ないですけどね。ただ、これだけは言っておくね。忠告」

純 「?」

A子 「純、平沢さん構いすぎ。余計なことにまで立ち入って、愛想を尽かされないように気をつけてね」

純 「・・・え」

B子 「確かに。はたから見ててもちょっとウザかったのよね。適度な距離って、ほんと大事だと思うわよ。ご執心もほどほどに・・・てことね」

純 「あ・・・え・・・あっ、だからか!」

A子・B子 「・・・遅かったか」


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