秋山澪。
軽音部に所属し、ベースを担当。その容姿から生徒からの人気も高かった。
だが彼女には一つ問題があった。


梓「こんにちはー」

律「お、やっと来たかー」

紬「今紅茶入れるね」

梓「ありがとうございます」

澪「・・・」

梓「いただきま」

唯「あずにゃーん♪」

梓「あっいきなり抱きつかないでください!」

澪「いよしっ!!!」ガタッ

律「ああ!くそおー」

唯「2人ともまたやってるの?」

梓「まったく、今度は何ですか?」

澪「梓が紅茶を飲む前に唯が抱きつくか」

律「紅茶を飲んだ後に抱きつくか」

梓「またどうでもいいことで……」

澪「とにかく私の勝ちだな。律」

律「ちぇっ。ほら、50円」

澪「毎度ありー」


秋山澪は、賭けごとが大好きだったのだ。


賭けごとと言っても、彼女の愛する賭けごとはパチンコや競馬のような決められたルールの中で行われる一般的な物ではない。

日常に起こる出来事を予想し、金を賭ける。それが秋山澪の賭けごとだ。


澪「そろそろ練習するぞ」

梓「そうですね!」

唯「えぇ~」

紬「唯ちゃん、練習終わったらケーキがあるから!」

唯「じゃあ頑張る」

澪「そうだ、そろそろさわ子先生が来る時間だろ?何曲目を演奏してるときに現れるかみんなで賭けないか?」

梓「私たちもやるんですか?」

律「おい澪、みんなを巻き込むなよ」

澪「いいじゃないか。ちょっとした遊びだろ?そうだな、10円でいいよ」

唯「10円なら私もやろうかなー!」

紬「面白そう♪」

律「しょうがないなあ」

澪「これから演奏するのは、ふわふわ、ホッチキス、カレー、ふでペンの4曲。
  その中でいつさわ子先生が現れるか、または4曲を演奏し終わるまで現れないか。どれかひとつに賭けてくれ。
  偶然演奏してない時に現れたら無効だ。さあ賭けた賭けた!」

唯「よーし、じゃあ私はね・・・」


秋山澪は、毎回様々な賭けを考えては、楽しんだ。
彼女にとって、楽しいのは「賭け」そのものであり、金額はどうでも良いことであった。
友人と一緒に賭けを楽しむために低い金額で賭けを行うのは至極当然のことだと彼女も思っていた。


さわ子「みんな、練習がんばってるみたいねー」

唯「あっ!さわちゃん!」

さわ子「あら、演奏続けてていいのに」

澪「ふでペンで入ってきたか」

唯「やったあ!私の勝ち♪」

紬「唯ちゃんおめでとう」

さわ子「あなたたち、また賭けごとなんかやっちゃって」

唯「40円ゲット!!」

さわ子「金額が少ないから多めに見てるけど、他の先生にばれちゃだめよ?」

澪「大丈夫ですよ。それより先生もどうですか?」

さわ子「私はお茶を飲みに来ただけだから遠慮しとくわ。立場もあるしね」



下校中も、秋山澪の賭けごとは終わらない。


唯「じゃあまたねー」

梓「お疲れ様でした」

澪「また明日」

律「じゃなー」

澪「さて、律」

律「はいはい、何思いついたんだ?」

澪「これから律の家につくまで、犬を何匹見かけるか賭けよう!
  数字が近いほうが勝ちで」

律「犬かー。散歩してる人けっこう見かけるからなー・・・何匹か」

澪「50円でいいか?」

律「おう」



彼女は毎日のように様々な賭けごとを提案した。よく思いつくものだ。

だが、なんだかんだで付き合ってしまう私も、彼女との賭けごとが好きだったのかもしれない。



私たちは進級し、3年生になった。
受験が控え、部活にだけ集中するわけにもいかなくなってきたが、澪の賭け癖は無くなるどころか、ますます加速していた。


澪「今度の模試のみんなの平均点予想して賭けようよ」

澪「梓がチューニングを何分するか賭けよう」

澪「今から唯に電話して、何をやってたのかに賭けよう」

澪「ロミオ役に誰が選ばれるか賭けない?」



澪「・・・えっ私!?」

澪「ロミオ役なんて無理無理無理……」

律「私なんてジュリエット役だぞ。もう諦めなって」

澪「……」

律「おーい!なんとか言えって」

澪「よし」

律「ん?」

澪「本番中に何回噛むか賭けよう」

律「それを考えてたのかよ」



私たちの第一志望の受験が明日に迫った時も、澪は相変わらずだった。


澪「いよいよ明日受験だな。4人中何人合格するか賭けようよ」

唯「私は4人とも合格に!」

紬「私も4人合格するのに賭ける!」

梓「私も全員合格に!」

律「おいおい、これじゃあ賭けにならないじゃないか」

澪「私は2人合格に賭けようかな」

律「空気読めよ!」



なんだかんだで私たちは大学に合格し、楽しい日々を過ごした。
澪の賭け癖はエスカレートしていたが、親しい人間としかやらなかったし、
高額を賭けるということも無かったので特に問題は起きなかった。
だけど、大学4年生になった時、私は意を決して澪に話した。


律「なあ澪、ちょっといいか」

澪「律、どうしたんだ?もしかして就職決まったか?」

律「いや、それはまだだよ」

澪「だよね・・・私も全然だよ。そうだ、どっちが先に内定出るか賭けないか?」

律「澪、もう賭けごとはやめようよ」

澪「え?」

律「私たち、来年には社会人だろ?まあまだ内定はないけどさ。
  社会人になるのに、金額が少ないとはいえ賭けごとやってたりしたらダメだと思うんだ」

澪「な、なんでだよ!別に誰にも迷惑かけてないだろ?」

律「ちょっと調べたんだよ、賭けごとに関して。
  それで刑法にはこう書いてあった・・・
 『刑法第2編第23章第186条:常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。』」

澪「・・・!」

律「澪は明らかに常習だろ。確かに金額はかわいいもんだけど、もし社会人になってからこれが問題になったらどうする?
  みんなに迷惑かかるんだぞ」

澪「う、ううぅ、わかったよ」

律「ホントか!?」

澪「ただし、最後一回だけ賭けをしないか?」

律「うん、まあ一回だけならいいよ」

澪「ありがとう。じゃあ賭けの内容だけど・・・」





澪「律と私、どっちが長生きするか、どっちが先に死ぬか賭けよう」





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あれからもう何十年経ったかな。
こんなことがあるまで、賭けをしてたのも忘れてたよ


澪の奴、勝ち逃げしやがって

私が泣いてるって?

賭けに負けたんだから悔しくて泣いてるんだよ



おわり



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