――――

車掌「少し話をしませんか?」

紬「はい・・・」

車掌「ありがとうございます。あと2日で琴吹さんの旅も終えてしましいますね」

紬「・・・・・・はい」

車掌「この旅はいかがでしたか?」

紬「・・・」

車掌「・・・」

紬「楽しかった・・・です・・・」

車掌「そうですか・・・」

紬「・・・」

車掌「この仕事をしていると、列車を降りられる方から必ず聞かないといけない言葉がある

んです」

紬「・・・聞かないといけない?」

車掌「はい。『じゃあね』、『バイバイ』なら再会が少なからず約束されているようですが


紬「・・・っ」

車掌「『さようなら』」

紬「っ!」ズキッ

車掌「私はこの言葉が苦手なんです」

紬「え・・・?」

車掌「仕事上よく使われる言葉ですが、未だに慣れてくれません」

紬「・・・・・・辛くないですか?」

車掌「はい。辛いです。この言葉には人との別れが集約されていますから」

紬「・・・はい」

車掌「でも、必要な言葉でもあるんです」

紬「辛い言葉がですか?」

車掌「はい」

紬「・・・」

車掌「新しい出会いの為の言葉だからです」

紬「!」

車掌「『さようなら』の後にくる『初めまして』」

紬「・・・!」

車掌「だからこの仕事を続けていられるんですね」ニコ

紬「・・・そう・・・ですね。・・・そうです」

車掌「・・・」

紬「もう一度出会えば・・・いいんです」

車掌「なるほど」

紬「・・・それを教えてくれたのでは・・・?」

車掌「私はお話をしただけですよ。人に教えを説くほどできた人間ではありません」

紬「・・・」

車掌「では、仕事に戻ります」

紬「ありがとう・・・ございました・・・」

車掌「・・・では」

スタスタ



ガチャ

バタン

紬「・・・」

ガタンゴトン

ガタンゴトンガタンゴトン

区間がこんなに長く感じたのは・・・

初めて・・・

こんな気分でいるから

一人でいるから

どうして乗り続けているんだろう

・・・・・・

・・・

ガタン ゴトン

ガタン

プシュー

・・・・・・

・・・

コンコン

・・・・・・

・・・

紬(また・・・寝て・・・)

紬「・・・九時・・・・・・!」

紬「秋子さんっ!」

ガチャ

バタン

タッタッタ

紬「・・・」

紬(誰も・・・・・・いない・・・・・・)

紬(私の事を気にかけてくれていたのに・・・)

紬(挨拶すらできなかったなんて・・・・・・)

車掌「あら、どうなされましたか?」

紬「秋子さんはっ」

車掌「到着後下車されました」

紬「っ!」ズキッ

車掌「・・・」

紬「・・・なにか言って・・・・・・いましたか?」

車掌「挨拶だけ・・・でしたが・・・」

紬「そう・・・ですか・・・」

トボトボ

車掌「・・・」


ガチャ

バタン

ヒラヒラ

紬(わたしは・・・なにを・・・しているんだろう・・・)

ヒラヒラ

紬「・・・?」

紬「てがみ・・・?」


琴吹紬さん

挨拶をしたかったのですが、見当たらなかったので手紙で失礼しますね

演奏とても素敵でした。一緒に旅が出来てとっても楽しかったです 

この夏を一生忘れません ありがとうございました    加古川秋子




紬「わたしは・・・」

コンコン

「私だけど・・・」

紬「あ・・・」

ガチャ

菜々子「いたいた、来ないから心配したよ。・・・どうしたの?」

紬「秋子さんが・・・」

菜々子「あぁ、探していたなー」

紬「私・・・挨拶できなくて・・・」

菜々子「とりあえず食堂車行こうか」

紬「・・・」

菜々子「来なさい」

グイッ

紬「っ・・・」


菜々子「出会いが千差万別なら、別れもそうなんだよ」

紬「でも・・・」

菜々子「律と修治みたいにさ」

紬「りっちゃん・・・?」

菜々子「律は修治のおちゃらけた雰囲気を利用したんだよ」

紬「・・・別れの後だから・・・ですか?」

菜々子「うん・・・。それが律の修治への挨拶だって事だね」

紬「そうですね・・・」

菜々子「はは、憶測だけどね」

紬「いえ・・・りっちゃんらしいです」

菜々子「・・・だから、手紙を残していったなら・・・それが秋子ちゃんの挨拶なんだよ。割と古

風なとこあるからあの子」

紬「・・・はい」

菜々子「・・・うん」

紬「・・・」

菜々子「・・・」

紬「・・・約束の時間過ぎてすいません」

菜々子「いいって・・・それじゃ、約束どおり・・・といきたい所だけど・・・」

コック「ほら・・・」

コト

菜々子「びっくりした」

コック「・・・じゃあな」

スタスタ

その子「菜々子さんのはこっちですよー」

菜々子「あ、ありがとうございます」

その子「いえいえ~」

タッタッタ

菜々子「・・・これ食べてからだな」

紬「・・・」

菜々子「へへっ、私の分まで用意してくれてんの」

紬「・・・」

菜々子「食べないと先へ進めないよ」

紬「・・・はい」

菜々子「静花はね・・・、私と出会った時からあんな性格だから・・・人が寄り付かないんだよ」

紬「・・・あんな性格?」

菜々子「あんたは人をちゃんとみるから気付かないんだろうね」

紬「・・・」

菜々子「傲慢で我がままで高飛車で性格も口も悪くて・・・ちっとも素直じゃない」

紬「・・・」

菜々子「私と一番最初に交わした言葉が
   『あら、あなた私とお友達になりたいんですの?どうしてもっていうならよろしくて

よ』
    だよ、それから大喧嘩。お互い波長が合わなくてさ、高校卒業するまでずーっとケ

ンカしてた」

紬「・・・」

菜々子「生まれ持った性格なのか、育った環境がそうさせたのかは知らない」

紬「私と最初に出会った時は・・・」

菜々子「それじゃ、後者なんだろうね。静花は自分に接してくる人に壁をつくるために性格

を曲げたんだろう」

紬「・・・それは・・・寂しいです」

菜々子「・・・でも、そうしないと守れないものもあったんじゃないかな」

紬「守れないもの・・・?」

菜々子「それは分からない。私と静花は常にケンカしていたから、そこまで読み取れないよ


紬「・・・」

菜々子「そんな静花が恐れる事が一つあるんだよ。それが理由で降りた」

紬「・・・それは」

菜々子「・・・・・・」

紬「・・・聞かせてください」

菜々子「・・・ふぅ・・・・・・」

紬「・・・」

菜々子「琴吹グループがカーシグループを今の状況に追い込んだ」

紬「――ッ!」

菜々子「・・・」

紬「・・・ぁ・・・・・・」

菜々子「静花は紬ちゃんにそんな顔をさせたくなくて、見たくなくて降りたんだ」

紬「・・・っ」

菜々子「・・・辛いだろうけど、乗り越えてくれ。そうしないと会わせられない」

紬「・・・っ!」

菜々子「悪いけど、私が出来ることはここまでだ・・・」ガタ

紬「・・・」

菜々子「じゃあね」

スタスタ


修治「・・・」

菜々子「聞いていたの?」

修治「・・・はい」

菜々子「声かけることは許さないよ」

修治「・・・俺じゃダメですよ」

菜々子「・・・」



コンコン

菜々子「はーい」

「私ですわ」

菜々子「・・・」

ガチャ

「菜々子さん、お話があります。外へでてくだい」

菜々子「はぁ・・・、修治のヤツ・・・」

「早くなさい」

菜々子「へいへい」

バタン

菜々子「修治から聞いたんだろ?」

「誰でもよろしいですわ。紬さんに事実を伝えましたわね」

菜々子「あぁ、言った」

グイッ

「なんてことをしてくださいましたの」

菜々子「離せよ」

「私が言わなかったことをどうしてあなたが!」

バシッ

菜々子「じゃあ自分で言えばよかっただろ、静花!」

静花「告げないままで良かったのですわ!!」

菜々子「それをあの子が望んでいないから伝えたんじゃないか」

静花「勝手なことを・・・、広島で私が見られた事に対して負い目を感じてしまいますわ。
   紬さんを追い込んでいることに気付かないのですわね」

スタスタ

菜々子「どこへ行くんだよ」

静花「私の勝手ですわ」

菜々子「傷を舐めあうのか」

静花「・・・っ!」

パァーン

菜々子「・・・っ」

静花「あの子を侮辱することは許しませんわ」

菜々子「・・・あんた、あの子を信じていないんだな」

静花「・・・今さら説教は御免ですわよっ」

菜々子「明日まで待て。それからは好きにしろ」

静花「・・・ふんっ」

スタスタ

菜々子「・・・」


修治「・・・」

菜々子「どうして何も言わない」

修治「謝ると全てに失礼になりますから」

菜々子「・・・」

修治「・・・わざと静花さんにあんな事を」

菜々子「・・・」

修治(琴吹さんを傷つけたことに対する罰・・・)

菜々子「・・・」

修治(・・・敵わないな)

菜々子「うまくいかないもんだな」

修治「出会えたことが重要なんだと思います」

菜々子「・・・それは誰を指しているんだ?」

修治「内緒です」

菜々子「なまいきだなっ!」

ワシャワシャ

修治「姉御肌っ!」

ゴスッ

修治「どうして・・・」シクシク

菜々子「黙っていればマシなのにな・・・修治は」

修治「黙っていたら俺じゃなくなるじゃないですか」

菜々子「なんだそりゃ・・・。だけど・・・黙ってる修治は確かに変だな」

修治「・・・」

菜々子「紬ちゃんは?」

修治「さっき北上さんと外へ出て行きましたけど・・・」

菜々子「・・・ふーん」


―――

静花「私はなにをしているんでしょうか・・・」

私の事を忘れているからという理由で安心して

あの子の近くにいたいからという理由で勝負を始めて

あの子が遠くへ離れてしまうのが怖くて去ろうとしたのに

菜々子さんに引き止められ

その菜々子さんを叩いて・・・

静花「菜々子さんの言うとおり・・・私は最悪の人ですわね・・・」


13