梓「え……」

律「和の両親が……」

澪「ドカタ……?」

紬「ほ、本当に……?」(ドカタって何かしら……)

唯「……う、憂?」

憂「本当ですよ。両親共働きの、立派なドカタです」

憂「いや、母の方はパートでしたね」

和「……」ダッ

唯「和ちゃん!」

律「おい、和!?」

唯「……!」キッ

唯「憂!」

憂「なあに? お姉ちゃん」

唯「憂……何したか分かってるの!? 和ちゃんが『それ』をコンプレックスにしてるの、知ってたでしょ!?」

憂「知ってたよ?」

唯「だったら……どうして!?」




~廊下~

和「……」タッタッタ

和「……」

和「……はぁ」トボトボ

純「あれ、どうしたんですか生徒会長?」

和「……あなたは、モ……憂の友達ね、確か」

純「あ、覚えててくれてたんですか。そうですよ、ちなみにジャズ研です!」

和「そう、覚えておくわ」

純「……ところで、なんか凄い顔色悪いですけど……なんかありました?」

和(……誰かに話した方が、スッキリするかもしれないわね……)

和(普段あんまり関わらないこの娘なら、他に漏れることもないでしょうし)

和(……いや、ただ私は誰かに同情してほしいだけ)

和(そんな自己満足のために、この娘を利用してはダメ)

和(ダメ、とは分かってるけれど……)

和「……純ちゃん、と言ったわね? ちょっと、話を聞いてくれるかしら?」

純「ドンと来いです!」ドン

純(名前も覚えててくれてた……!)




―――
――

純「はぇ~……。会長のご両親ってドカタとパートなんですか」

和「……ええ」

純「なんか意外ですね。てっきり両親ともバリバリのエリートかと思ってたのに」

和「……」

純「でも、それでよくこの学校に来れましたね?」

和「……特待生と奨学金で、なんとかね」

純「おおっ、流石会長!」


和「……皆には、知られたくなかったな」

純「何をですか?」

和「お父さんと、お母さんの職業よ」

純「何でですか?」

和「何でって……恥ずかしいじゃない……」

純「恥ずかしい?」

和「……ええ」

純「……昔になんかありました?」

和「私ね、小学校の頃、一時的に虐められてたの」

和「一部の男子たちがね、私の方を指さして『お前の父ちゃんドーカーター!』って」

和「『俺の父ちゃんはパイロットだぜ!』って」

純「……」

和「正直、辛かったわ。生活的にも、虐めのことも」

和「家が貧しいから、流行のゲームを買ってもらえない」

和「両親とも共働きだから、家事は自分でやらなきゃいけない。遊ぶ暇が無い」

和「……両親を恨んだことも何度かあったわ」

和「私も、普通に皆と遊びたかった」


純「……」

和「まあ、当然クラスでは徐々に孤立しちゃってね」

和「なんで私だけ……。そんなことをずっと思ってた」

純「……」

和「……まあ、唯と憂だけは、私を庇ってくれたけどね」

和「それでも、辛かった」

和「それからかな……両親の職業を隠すようになったのは……」

純「……」

和「でも、知られちゃった。ふふ……まさか憂にバラされるとはね」

和「皆、引いちゃったよね……」

純「……え?」

和「えっ」

純「いやいやいや……えっ?」

和「……なんでそこで疑問符が出てくるのかしら?」

純「いやいや、だって今の話のどこに、引く要素があったんです?」




~軽音部~

唯「どうして……皆にバラしちゃったの、憂!?」

憂「あはは、やだなお姉ちゃん、『バラす』なんて」

憂「私は、真実しか言ってないよ?」

唯「憂……!」

憂「まったく、ちょっとお姉ちゃんの様子を見に来たら和ちゃんが居たし」

憂「何の話をしてるかと思えば、両親の職業?」

憂「そしたら和ちゃんが言いよどんでるから、私が代わりに答えただけだよ」

唯「憂は……憂は忘れたの……!? 小学校の時……和ちゃんが苦しんでたのを……!」

憂「忘れてないよ? それがどうしたの?」

唯「……憂っ!!!」バッ

澪「やめろ!」ガシッ

律「唯!」ガシッ

紬「唯ちゃん!」

梓「唯先輩!? 憂!?」

唯「許せない……! いくら憂でも、今のは絶対に許せない!!」

澪「落ち着け唯! 暴力はダメだ!」

憂「……」

梓「ほ、ほら! 憂も謝って!」

憂「……」

梓「憂!」

憂「……許せないのは私の方だよ、お姉ちゃん」

憂「お姉ちゃんはドカタの仕事をなんだと思ってるの?」

憂「誰でもできる仕事? 仕事に餓えた人たちが行き着く終点? 底辺の巣窟?」

憂「そう思ってるからこそ、和ちゃんの両親のことを聞かれた時、必死に隠そうとしたんじゃない?」

唯「……っ!」

憂「お姉ちゃん、私はね、ドカタの人って凄いと思う」

憂「あんな大変な作業をして、夜中でも頑張って、でもお給料は少なくて」

憂「それでも生きるため、家族を養うために必死で働いてる」

憂「そんな人たちを恥と思うのは、私は許せない」

紬「憂ちゃん……」(ドカタ……ドカタ……?)

憂「……お姉ちゃんこそ、小学校の時のこと忘れちゃったの?」

唯「……?」

憂「『どんな和ちゃんでも、私達はずっと友達だもん』」

唯「あ……!」

憂「……あの時ね、私すっごい感動したんだよ?」

憂「だってよりによって、和ちゃんを虐めてた男の子の前で、大声で叫んじゃうんだから」

憂「お姉ちゃんと和ちゃんはすごいなあ、って、そう思った」

唯「憂……」

憂「家が貧しくて中々遊べなくて」

憂「それでも必死に勉強して特待生を勝ち取って」

憂「今も昔も絶えず変わらず努力してる和ちゃんを、私は心から尊敬してる」

唯「……」グスッ

憂「皆さんはどうですか?」

皆さん「えっ?」

憂「和さんの家が貧乏って聞いて、何を思いました?」

皆さん「……」


紬「うーん……」(『ドカタ』と『トッカータとフーガ』って似てるわね……)

律「まあ、面食らいはしたけど、和ってエリートそうなイメージだし」

梓「そうですよね。まあ、家が貧乏なのと和先輩の人柄は関係ないですし」

澪「ああ。むしろ努力を怠らない和を、私も尊敬するよ」

律「あ、ずるい! 私も尊敬するー!」

澪「勝手にしてればいいだろ」

紬「ドカタって素敵な響きねえ~」ポワポワ

唯「み……みんな……」グスッ



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