律「そこだアリゲイツいけー!……よっし、レギュラーバッジゲットだぜっ!」
澪を起こす時間まで暇だったので、私は先程のおもちゃ箱の中に眠ってたゲームボーイをやっていた。
しかし久々にやると楽しいな…これ……。 このままじゃ、受験勉強そっちのけでポケモンマスターになりかねないな。
いっそ、ポケモンマスター目指そっかなぁ…
律「…っと、そろそろか」
現実逃避もそこまでにして、澪を起こす時間が来た。
私は澪の身体をゆすり、そっと起こしてみる。
律「お客さーん、閉店ですよー?」
澪「んんん……あふ…」
一言二言声をかけて身体をゆすったら澪は簡単に起きた。
さすがと言うか…目覚めが早いやつ…。
澪「今、何時…?」
律「10時、良かったら家まで送るよ?」
澪「ありがと……でも、それじゃ律の帰りは…」
律「私はいいって、自転車でちゃちゃっと帰るからさ」
澪「…そっか……っ…ん~~~っ…と…!」
そして澪は思いっきり伸びをして、意識を覚醒させる。
澪「…ふぅ…よしっ、帰って勉強しよ」
律「頑張るねぇ…」
澪「律だってやるんだからな?」
律「はいはい、わかってますよぉ~」
そして澪は帰り支度を整え、私は自転車を鍵を手に外に出たんだ。
…その夜道の事。
澪「そう言えば…思い出したよ」
律「何を?」
澪「あのヒマワリのヘアバンド、あれ、私が律の誕生日にあげたやつだったんだよな」
律「そうそう、やっと思い出したか」
澪「うん、確かあの頃…少ないお小遣いを集めて、律に似合いそうなやつを選んで買ったんだ、懐かしいなぁ」
律「…ああ、確かあれで喧嘩もしたんだっけ…なんだか、懐かしいよな」
澪「あー、そんな事もあった……ってか、今にしてみればあれは律が悪い、男子の挑発に乗って、せっかく私が上げたヘアバンド捨てるんだもん」
律「む~。 今更いじめる事ないだろー?」
澪「ふふっ…それもそっか、ごめんごめん」
律「……でもさ、あれから私達、いっつも一緒だったよな」
澪「ああ、確かに…な」
律「中学入って同じクラスになって…高校でもそう」
澪「なんか、大学生になって…大人になっても私達、ずっと一緒な気がする」
律「はははっ、違いない」
…そう、これからもずっと、私と澪は一緒なのだ。
私のバカに澪がゲンコツで突っ込み、私が恥ずかしがり屋の澪を引っ張って…そうやって、持ちつ持たれつでやって行くんだ。
…それは、どっちかが結婚して、母親とかになっても変わらない。
これから先何十年、私と澪はきっと…変わらないんだ…。
澪「じゃあここで、またな」
律「ああ、またなぁ~」
澪の家に着き、軽く別れの挨拶を済ませ、私は自転車を漕ぐ。
吹きつける夜風は適度に身体を冷やし、それがとても心地良い。
…ペダルも何故か今日は軽く… 私は一人、上機嫌に家路を疾走するのであった…。
―――――――――――――
律『澪、中学生になってからもよろしくー!』
澪『うん、こっちこそよろしくな』
律『さっそくだけど、部活どうする? 澪はもう入る部活とか決めた?』
澪『いや…それがまだでさ』
律『じゃー、一緒に部活見学行こうっ!』
澪『うん、どこ行こうか?』
律『…まずは、オカルト研究部って所があるからそこに…あ、でも、カエルの解剖ショーとかやってる生物部もいいかなぁ…』
澪『ごめん…私、やっぱり一人で行く…』
律『じょ、じょーだんですよぉ澪ちゃぁーん!』
―――
――
―
澪『…………っっっ』
律『ほら、先輩来たよ? 手紙とチョコ、渡すんじゃなかったのかぁ?』
澪『律…お願いっ! 私の代わりにコレ渡して来て!!』
律『いや、それ意味ねーから!!』
澪『………ぅううぅぅぅ…』
律『しゃーねーな…私が先輩呼んでくるから、澪、あとは自分で何とかしろよ??』
澪『ちょっ! 律…!!』
………………。
先輩『えっと…たしか君、2年生の…』
澪『せ…先輩っっ!! わ…私の詩、聞いてください!!』
律『…澪……?』
澪『すぅぅぅ………『わ…私の白馬の王子様へ…』!!!』
先輩『…え?』
律『澪ーー!!! そんなでっけえ声でそんな手紙読み上げるんじゃねえええ!!! 人が見てるだろーーー!!!!』
―――
――
澪『ほら律、またここの公式間違ってる! ここ2年生でやったろ?』
律『そんなの覚えてないよーー…』
澪『絶対に桜高受かってバンドするって言ったの律だろ? もう少しだけやってみようよ?』
律『…そうだった……! 澪!もっかい教えてっ!』
…………………
律『合格発表かぁ…あ、あの子、泣いてる…』
澪『………私達は…大丈夫…だよな?』
律『だーいじょーぶだって! あんだけ勉強頑張ったんだし、絶対受かってるよ!』
澪『…ああ、そう……だよな……』
律『じゃあ……行くぞ……!!』
澪律『…………………』
澪『……う…そ……っ』
律『わ…私…たち……』
『―――受かってるーーーー!!!!!』
―――――――――――――――
その日見た夢はとても暖かく、また懐かしく、私の心を優しく包んでくれていた。
…出来る事なら、この夢がいつまでも見られたら良かったかな…。
それから数日、久々にみんなで学校に集まった土曜日。
律「おいーっす、みんな久しぶり~」
唯「りっちゃんやっほー、あれ? 今日はなんか雰囲気違くない?」
梓「そういえば…何だか今日は女の子らしいって言うか…あっ…」
己の失言に口を塞ぐ梓だけど、もう遅かった。
律「む…梓はあとで居残りな」
梓「す…スミマセン…」
紬「ほら、きっとあれよ、りっちゃんのヘアバンド…」
律「うん、へへへっ…どうかな? 子供の頃によく付けてたやつなんだけど、今でも似合ってるかな?」
紬「ええ、可愛らしくてとっても似合ってるわー」
唯「おっきなひまわり…なんだか、元気ですごくりっちゃんらしいねぇ~♪」
律「だろだろ? やーっぱ今も現役で行けるんだよな、これさ」
…そう、今日は小学生の頃に澪がくれた、あの思い出のヘアバンドを付けて学校に来たんだ。
確かに最初は少し照れがあったけど…一回つけちゃえばもう気になんかならなかったな。
澪「みんな久しぶり……って、りーつ…そのヘアバンド……」
律「いやぁ~、たまには付けなきゃと思ってさ~」
後から遅れてきた澪が開口一番、私の頭を見て呆れていた。
澪「一緒にいると私まで恥ずかしいからそれはやめてくれ」
そう言いながら、澪はひょいと私のヘアバンドを取ってしまった。
律「あー澪、何で取るんだよー?」
澪「ほら、代わりにコレ」
と、澪は鞄の中から包装紙に包まれた箱を手渡す。
やや小さめの箱だけど、その包装紙には、どこかで見覚えのあるブランドのロゴマークがプリントされていた。
律「…これは?」
澪「多分似合うと思うけど…プレゼントだよ、誕生日の」
律「…あ、ありがとう…」
唯「あー、そういえば、今日はりっちゃんのお誕生日だったねぇ~」
紬「実は私も用意して来たのよ、あとで渡すわね」
梓「澪先輩、何を買ったんですか?」
澪「それは、開けてみれば分かるよ」
律「何だろーなー…」
包装紙を丁寧に開け、私はその中身を取り出す…。
…なんか、10年ぐらい前にもあったな、この光景……。
律「…わぁ~…!」
そうして箱から出て来たのは、有名ブランド会社のカチューシャだった。
きめ細かいデザインが全体に施されてて…えっと、これは宝石かガラスか何かか…? 所々にうっすらキラキラしたのが付いてて…。
ぱっと見だけでも、決してそれが安物では無い事を十分に伺わせる造りをしていた。
律「ね…ねえ、付けても良い?」
澪「ああ、多分似合ってると思うけどな…」
澪の気持ちに感激し、私は早速それを頭に付けてみる。
澪「ん~、ちょっと律には大人すぎたかな…?」
唯「でもでも、さっきのヘアバンドと違って、今度は綺麗に見えるよぉー♪」
紬「大人っぽいわぁ…澪ちゃん、りっちゃんに似合うのをよく知ってるのね~」
澪「そりゃ…10年近くも一緒にいれば…な」
律「澪、ありがとっ!」
澪「そんなに感激されるとなんだか照れる…、でも、律が喜んでくれて良かったよ」
律「これ、一生の宝物にするよ…!」
澪「ああ、大事にしてやってくれ」
紬「なんか…いいわねぇ…」
唯「レズレズだねぇ~♪ えへへへっ」
梓「…唯先輩、意味分かって言ってます?」
ってやり取りがあり…
律「さてと…じゃあ行きますか…!」
私はみんなに振り返り、号令を飛ばす。
澪「ああ、今日は久々にみんなで…」
梓「演奏ですよねっ! 私、ずっと楽しみだったんです!」
律「の前に、ムギー、お茶~」
唯「私も~♪」
紬「は~い、ちょっとまっててね~♪」
澪梓「ずるぅ!」
澪「って! 練習するんじゃないのか!!」
梓「そうですよ! 律先輩あんなに気合いたっぷりだったのに!」
律「いやだってさ? ムギのお茶も久々だし…」
澪「ったく……おまえは18歳になっても変わらないのな…」
律「でもでも、それがあたしのいいところ…じゃない?」
澪「…まぁ…間違いないけどさ………」
律「あははっ♪」
紬「みんなー、お茶とケーキが用意できたわよー?」
そうこうして数分もしない頃、ムギのお茶が出来上がった。
それと共に美味しそうなケーキの香りが部室に漂い、久々に『部活』をやってるって実感が沸いて来る(なんて、澪や梓に言ったら怒られそうだけどな)
唯「それじゃーりっちゃん!」
紬「りっちゃん、お誕生日…」
唯「おっめでとーー!」
紬「おめでと~♪」
梓「おめでとうございますっ!」
澪「おめでとう」
律「みんな……へへへっ…! あっりがとーーーーーー!!!!!!」
…一段と暑い夏の日差しが部室を照らし、いつものお茶会を兼ねた、私の誕生日会が始まる。
窓の外を見ると、花壇には大きなヒマワリの花が、夏の太陽に照らされて元気に咲いていた。
なんというか、まるでヒマワリの花も、一際輝く夏の日差しも…綿飴みたいな入道雲も、私の誕生日を祝福してくれるように思えた。
私達の夏は終わらない。
それと同じように、ここにいる私達の友情も……いつまでもいつまでも、終わる事はなさそうだった…。
律「思い出のヘアバンド」 おしまい。
えー、書き直しと手直しを交えて投下した結果、えらく時間がかかりましたが何とかこれで終了です。 読んでくれた方ありがとうございました。
しかし、本来なればりっちゃんの誕生日の当日に投下したかったのですが、レベル不足でスレが立てられないと言う事になってしまい、結局2日遅れでの投下となってしまいました(汗
とにかく、りっちゃん誕生日おめでとう!! 全国の隊員もおめでとう!! ですねw
最終更新:2011年08月23日 21:03