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律「ああ あーいびきお肉いーっぱいこねて 愛もいっぱい込めて…♪」

律「だいすきーなひとーのため…♪」


 鼻歌を歌いながらテキパキと調理に勤しむ。

 弱火でハンバーグを焼き上げる間にサラダとソースも作り、準備は着実に進んでいく。


聡「ゲ…またSSとか…澪さんやるなぁ…」

澪「…そんなにすごいのか?」

 そろそろ出来上がるのでリビングに向かうと、どうやら澪が聡に圧勝してる真っ最中だった。

 微笑ましくそれを見つつ、熱中してる2人に茶碗と皿を出すように促しておく。

 …そして数分した頃、食卓には、それなりによく出来たハンバーグが美味しそうな湯気を出して並び始めていた。


澪「お、なかなか美味しそう…」

聡「へへ、ねーちゃんもハンバーグだけはプロ級だもんね」

律「だけは余計だ」

澪「ご飯もよそったし…じゃあ、いただきます」

聡「いっただきま~す」

律「うんっ! いっぱい作ったからどんどん食べてって~♪」

 …1人よりも2人、2人よりも3人、食事は大勢で食べるのが何よりも美味しいと思う。

 澪がいてくれたお陰で、今日の夕飯はいつもより特別美味しいと思えたかな。


澪「…律」

律「ん、澪どした? あ、おかわり?」

澪「ううん、このハンバーグ、すごく美味しいよ」

律「へへへっ、そりゃどうも…♪」

 私のハンバーグを美味しそうに食べてくれる澪の笑顔を見て、作って良かったなと、心の底から思うことが出来たんだった―――。

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 食事の片付けを終え、綺麗になった自室で澪とのんびりしている時の事。

澪「んんん…ふあぁ…」

 澪が眠そうな声であくびを出す。 きっと片付けで疲れたのだろう、そこにたらふく夕飯を食べてのんびりしてれば、眠気が襲ってくるのもまぁ頷ける事だった。

律「眠そうだねぇ」

澪「うん………昨日も…徹夜で…作詞と勉強…してたから…」

律「ベッド使ってもいいよ、タオルケットも貸してあげる」

澪「ごめん……3~4時間したら…起こしてくれ…」

律「あいよ」

 そうしてベッドに寝転んだ幼馴染は、数分もせずにくーくーと可愛らしい寝息を立てる。

 その姿を眺めつつ、私はさっき澪が見つけたヘアバンドを手に、物思いにふけっていた。


律「あいつは、本当に忘れちったのかねぇ…」

 ヒマワリの飾りを玩び、昔を思い出してみる。


 あれは…確か、小学4年生の頃だったか―――。


 ―――いつも教室で本を読んでいる女の子がいた。

 その子はとても大人しく、また本が好きで、私の様に活発に動く子供とは真逆のタイプの子だった。

 でもその子はクラスでも珍しく左利きで、それが当時の私にはすごく新鮮に見えて…私はいつしかその子にすっごく興味を持つようになったんだ。


 それから私がその子に声をかけ、ちょっかいを出すようになるのに、そんなに時間はかからなかった。

 その子がどんな本を読んでるのかが気になれば、何を読んでいるのかを聞き。 その子がどんな絵を描いているのかが気になり、その子の絵を強引に見たりもした…。

 私の動作のその度に困った顔をする女の子だったけど、私にはそのリアクションがとても面白く見え、気付けば他のどの友達よりも、私は彼女と一緒にいる時間がとにかく楽しかった…。

 そして、その女の子の書いた作文が賞を取った事をきっかけに、私とその子…澪は、親友と呼べるほどに仲良くなって行ったんだ。

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律「みおちゃん、きょうはなにしてあそぼっか?」

澪「うーん…」

律「じゃーライダーごっこやろう! わたしがライダーで、みおちゃんが悪の怪人ねっ」

澪「え~、わたしそんなのやだぁ~」

律「えいっ、らいだーぱーんち!」ペシッ!

澪「も~、りっちゃんいたいよ~」

律「もーじゃないよみおちゃん! そこは『ぐえ~』だよっ」

澪「ぐ…ぐえー…」

律「そうそう!みおちゃんじょうず~♪」

澪「…はずかしぃ……」

 澪は恥ずかしがりながらも、いつも私に付き合ってくれた。

 他の友達と遊ぶ事はあっても、それでも私は、澪と遊んでる時が一番楽しいと思えていた。


 …でも、常に毎日仲良くしていたわけじゃない、そりゃあもちろん喧嘩だってたくさんした。


 …このヘアバンドは、私と澪が生まれて初めて喧嘩をした、そのきっかけとなった物だったんだ。

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 ……それは、夏休みも終わりに近付いた、8月後半の日の事だった。

 その日、誕生日を迎えた私は、珍しく澪に呼び出されて遊んでいた。


澪「…りっちゃん、おたんじょうびおめでとう!」

律「みおちゃん、えへへっ! ありがとー!」

澪「これ、プレゼント!」

律「わ~~! ありがとう! あけてもいーい?」

澪「…うん、いつもなかよくしてくれてありがとっ♪」

 綺麗に包まれた包装紙を開け、私はその中身を出してみる。

律「わぁぁ……!」

 箱の中に入っていたのは、大きなヒマワリの飾りが特徴的な、黄色くて可愛らしいヘアバンドだった。

 生まれて初めての澪からの誕生日プレゼント。 それは私にとって、他のどのプレゼントよりも嬉しい…特別なプレゼントだった。


律「みおちゃんありがとう! わたし、このヘアバンド、いっしょうだいじにするねっ!」

澪「うんっ! えへへっ…りっちゃん、それずっとつけててね?」

律「もちろん、やくそくするよっ」


 そうしてその日から、私は毎日、そのヘアバンドを付けるようにしていた。

 遊ぶ時も、勉強する時も、体育の時だって、片時も欠かさず付けていたっけな…


 そしてすぐに2学期が始まった、そんなある休み時間の事だった。

 その日、私は澪と一緒に、クラスの男子達とドッチボールをしようと思ったんだ。


男子「田井中~、はやくいこうぜー!」

律「ねえねえみおちゃん、みおちゃんもいっしょにドッチボールやろ♪」

澪「わたしはいいよ…りっちゃんだけであそんできて?」

律「ん~…んじゃあ、つぎはいっしょにあそぼ?」

澪「うん、ごめんね…」

 今にして思えばその時、ドッチボールに参加してた女子は私以外にはおらず、遊ぶメンバーは男子だけ…。

 当時の澪がそれに遠慮するのも、今なら十分に納得できることだった。


男子「田井中はやくー!」

律「うん、いまいくー!」

 どこか寂しそうな目で私を見る澪をクラスに残し、私と数人の男子は校庭に飛び出して行く。

 すぐにゲームは盛り上がり、大汗を流しながら、私達はドッチボールに熱中していた。


男子A「…えい!!」

律「わっ!!」

 バシィ!! と小気味の良い音を立て、男子の投げたボールが私の顔を直撃する。

律「あいたたたた……」

男子A「田井中だいじょう…うわ…お前鼻血!」

律「んえ…」

 男子の指摘に鼻を触って見ると、確かに血が出ていた。

 確かに鼻も顔も痛みはしたけど、それよりも私は目の前のドッチボールが楽しかった。

 だから鼻血なんか気にせず、プレイに戻ろうとしたんだ。


律「ああ…だいじょーぶだいじょーぶ! それよりも顔はセーフでしょ? すぐにとまるから…つづきやろっ!」

男子A「でも…お前…」

男子B「いいから保健室行って来いよ…」

律「そんな…だいじょーぶだって! ほら、はやくもどろうよ!」

男子A「でもなぁ…」

男子C「てか…俺達だけ女子と一緒に遊ぶとかなんか…なー」

男子D「田井中も女子なんだよな…すっかり忘れてたけどさ…」

男子E「ん…おれは別にいいけど…?」

男子C「あれ、お前…もしかして田井中の事…ww」

男子E「べ…別にそんなんじゃねーよ! ってか、田井中なんかいなくたって別に楽しいし!」

律「……………っっ」

 みんながみんな、私を仲間外れにしようとしてる気がした。

 確かにそのくらいの歳ともなれば、そういうのを意識するのも当然なんだろうけど…まるっきりガキんちょだった私には、そんな事を理解する頭なんてまるで無かったわけで……。


律「わ…わたしをなかまはずれにすんなぁーー!!」

 気付けば私は、鼻血の事なんかすっかり忘れ、私を仲間外れにしようと企んでる男子に掴みかかっていた。

 しかし、垂れる鼻血もお構いなしに掴みかかる私か…どれだけおてんばだったんだ…。

男子B「わっ! 田井中がキレた!」

律「あやまれ! わたしにあやまれ!!」

男子A「いってーな…! だいたい女が男と一緒に遊ぶってのがそもそもおかしいんだよ!」

律「わたしはおんなじゃない!」

男子A「うそつけよ! そんな花のついた女っぽいモンつけててさ! 男だったらそんなもんつけないぞ!」

律「こんなの…ちがうもん!」


 その男子の売り言葉に買い言葉で、私は身に付けていたヘアバンドを外し…勢いよく地面に叩きつけてしまった。

 澪から貰ったとても大事なヘアバンドを…その男子の些細な一言に激情してしまい、かなぐり捨ててしまった。


 ―――もう少し私に広い視野と先を考える頭があれば、あんな事は絶対にしなかったと言い切れるだろう。

 でなければ…澪が遠目に私のドッチボールを見ていた事にだって気付けていただろうから…。


律「はぁ…はぁ……こんなの、いらないもん…! わたしはおんなじゃないもん!」

「っちゃん……」

 そこの男子にしてはえらく違和感のする声が聞こえたので、私は涙を堪えながら顔を上げる。

律「…………っっ…え?」

 …そこには、ティッシュを持って駆け付けてくれた澪が…いた……。

律「み…みおちゃん……」

澪「りっちゃん……………それ…だいじに…してくれるって………っっ」

律「いや……これは…み…みおちゃん……」


澪「…………りっちゃんのうそつき!! もうしらないっ!!!」


 いつか聞いた時よりも大きな澪の怒鳴り声は…辺りの生徒と、私を凍りつかせるのに十分な声量をしていた。

 そして、ぽろぽろと涙を流しながら…澪は遠くへ走り出してしまった…。


 私もすぐにその後を追おうとしたけど…タイミング悪く他の生徒が呼んだであろう先生に捕まった私達は、何があったのかを説明させられる事になった。

 それだけならまだマシだったけど、担任と保険の先生の判断で私は大事を取って早退し、病院に送られる事になったんだった…。

 ………それから、2日の休みを挟んだ次の週の月曜日。

 先週の一件もあった私は、男子とも澪とも上手く話せず、その日の休み時間はずっと一人でいた。

 その放課後、公園で道草を食っていた私は偶然、一人で帰っている澪の姿を見かけたんだった。

 …気まずいと思いながらも、私は勇気を出して澪に声をかけてみる事にして…。


律「みおちゃん…」

澪「……………」

 澪は無言で私を見ていた。

 その表情から、私には澪が本気で怒っている事が伝わり、思わず言葉が出て来なくなってしまう。

 でも、それじゃダメだと思い、私は平常心を意識し、いつもノリで必死で澪に話しかける。


律「いやぁー、あのときはたいへんだったよー、でも、もうだいじょうぶだから、みおちゃんしんぱいしなくてもへいきだよっ」

澪「……………」

律「そうそう! わたし、おとといどれみ見てみたんだ、はづきちゃんってみおちゃんにそっくりだよね!」

澪「……………」

 私が何を言おうとも、澪が言葉を返すことは無かった。

律「その…さ………みおちゃん…、ご…ごめ……」

澪「うそつき、りっちゃんのうそつき!」

 観念し、謝ろうとしたその刹那に響く、澪の声。

 怒りと悲しみが入れ混じり、微かに震える澪の声が…グイグイと私の胸を刺す感じがした…。


澪「だいじにしてくれるって…わたしのヘアバンド…いっしょうだいじにしてくれるっていったのに! ずっとつけててくれるっていってたのに!」

律「そ…それは……その…」

澪「どうして? どうしてきょうもつけてきてくれなかったの? わたしたち、もうおともだちじゃないの?」

律「これは…その……あのときすなでよごれちゃって…きょうは…たまたま……」

 それは嘘ではなく本当の事だった。

 砂で汚れたヘアバンドを、私は母親に頼んで洗ってもらうようにお願いしていたのだけど…両親の都合で休日にはその余裕が取れず、結局その日の私は、いつも使っていた普通のヘアバンドを付けて学校に行っていたんだ。

 でも、そんな言い訳、あの時の澪には理解できる事なんて無いわけで…。


澪「うそだよっ! りっちゃんもわたしのことなんかきらいなんでしょ? だったらもういいもん!」

律「ね…ねえみおちゃん、わたしのはなしも…」

澪「いやだっ! うそつくようなこのはなしなんかききたくないもん! りっちゃんなんか…りっちゃんなんか…だいっきらいっっ!」

律「………………………っ…」

 …理由があるのに、澪はそれを聞いてくれない。

 私は謝ろうとしているのに、澪はそれすらも聞こうとしちゃくれない。

 …次第に自分の中に理不尽な怒りが積もって行き…私も喧嘩腰になってしまい…


律「…そんな…みおちゃんだって………」

律「…っ! そもそもみおちゃんがいけないんじゃん!! あんなおんなのこみたいなものプレゼントするから! わたしだって……くんと…けんかなんか…っ」

律「わたしだって、みおちゃんのことなんかしらないもん!!!」


澪「りっちゃんの…」
律「みおちゃんの…」


「―――ばかーーっっっ!!!」


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