―――四日目、糸満市字伊原


 唯「ここが有名な『ひめゆりの塔』だね」

 律「近くにおみやげ屋さんとかいっぱいあるし、ふつーに観光地っぽいんだな」

 紬(さっき一瞬『コミック百合姫』を連想しちゃった……)

 澪「あ、あそこにいるの和の班じゃないか?」



 和「あら?あなたたちの班も来たのね。てっきり遊び倒してるのかと思ったけど」

 唯「ヒドいよ和ちゃん!」





 唯「むぅ~……」

 澪「どうしたんだ唯? 難しい顔して」

 唯「私、何だか前にもここに来たことあるような気がする……」

 紬「実は私も、ここというか沖縄に来たことあるような、そんな気がして……」

 律「ないない!みんなで“沖縄初めてだから楽しみ!”って言ってたじゃん。おかしーし!」

 澪「デジャヴだな。二人とも初の沖縄だからってはしゃぎすぎて疲れてるんじゃないか?」

 唯「そっか、そうだよね!私なんか飛行機も初めてなのに。えへへ」

 紬「そうね……私もあちこち行ってるから記憶違いかも」

 律(……っつーことは、自分で言いながら私も結構疲れてるのか……少しはしゃぎすぎたなー)

 澪(とは言ったけど、私も何か違和感が……沖縄とムギの別荘の海の記憶とかと混ざってるのかなぁ)




―――資料館館内、展示室


 唯「時代は違うけど、私たちと同じようなフツーの女の子たちだったんだね……」

 律「なんだかホントに私たちみたいだな。うわ……でも解説がキツい……」

 <1944(昭和一九)年撮影の集合写真。担任の山城さわ子先生をはじめ21名が沖縄戦で死亡した。>

 <放課後に談笑する仲良し5人組。のち、沖縄戦で3名が死亡し、2名が消息不明となった。>


 紬「戦争中とは言っても、当時は当時なりに、ささやかな喜びのある日常があったのよね……」

 澪「そう考えると、怖いっていうより悲しいな……」







 唯「うわぁ……説明書きが……」


 “……米軍上陸後、運び込まれる重症患者は日に日に増加し、夜を徹しての手術が行われました。

    手足をもぎ取られた人、銃弾が貫通して血まみれになった人、火炎放射器の炎を浴び皮膚がただれている人など、

    見るも無惨な患者が壕外にあふれ、「早く診てくれ」と叫んでいました。

    重傷を負った手足は切断するしかありませんでした。

    鋸で切り落とされた手足はずっしりと重く不気味でした……”



 澪「…うっ……私、トイレ……っ」ダッ

 律「あ、おい!ゴメン、澪の様子見てくるから!」

 紬「私も、この描写は、つらいわ……」




―――第四展示室


 唯「写真がいっぱい……これ、みんな亡くなった人なの……?」

 律「そう、みたいだな…100人、いや、200人はいるか……」

 澪「写真すらない人もいるなんて、ひどい…」

 紬「一家全滅……。何て言ったらいいのか…」



<仲村渠律 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 宜野湾村出身
 昭和二十年六月二十日 山城丘陵で消息不明


 学徒隊への動員後も、配属された第三外科で、気落ちしがちな友人らを持ち前の明るさで場を盛り上げていた。

 解散命令後、山城丘陵を越える際に砲弾片で重傷を負い、サトウキビ畑の茂みに隠れた。

 水を探しに行った級友らが戻ったときには、すでに茂みは焼き払われていたという。

 両親及び鉄血勤皇隊に動員された弟も死亡したため、一家全滅である。>



<当山澪 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 宜野湾村出身
 昭和二十年六月二十一日 荒崎海岸で死亡


 澄んだ伸びやかな歌声と長い黒髪が評判の美人で、学園ではあこがれの的であった。

 ただ、本人はたいそう恥ずかしがり屋で、歌の詞を書くのが趣味であった。

 解散命令後、荒崎海岸付近を友人らと逃避行している最中、大波に飲まれ溺死。

 展示室にあるカチューシャは彼女の遺体がかけていた鞄に入っていた、友人の仲村渠律のもの。>



<古波蔵紬 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 西原村出身
 昭和二十年六月十九日 伊原第三外科壕で死亡


 実家はフィリピンでプランテーションを営む富豪。父は沖縄出身の移民、母は米国系であったが、

 日本式の教育を受けさせたい親の希望で、幼い頃から沖縄の遠縁の斎藤氏に預けられていた。

 富豪を鼻に掛けず気だてが優しく、寄宿舎ではよくお茶やお菓子を友人にふるまっていたという。

 第三外科壕でガス弾攻撃を受け多くの学友、教師らとともに死亡。両親もフィリピン戦線で死亡し、一家全滅。>


 澪「……ウッ…グスッ……ウグッ……」

 紬「澪ちゃん……本当に、大丈夫? さっきのこともあるし無理しない方が……」

 澪「ごめん……、ただ、本当に怖かったり、悲しすぎて……わけ、分かんなく、なっちゃいそうで……」

 律「少し、あっちで休もうか……。唯は?」

 唯「んー……、ゴメン。もう少し見てる……」

 律「わかった……あんま、ムリするなよ」

 唯「うん…」


<下地純 沖縄師範学校女子部本科一年(当時十七歳) 那覇市出身 
 昭和二十年五月十一日 南風原陸軍病院で死亡


 にぎやかで朗らかな性格で、学校でも動員後も冗談を言って周囲を笑わせていた。

 陸軍病院動員後は髪が手入れできず、くせ毛がぼさぼさするのを気にしていたという。  

 飯上げ作業中、艦砲弾の破片を受け、その後死亡。

 第三外科の最初の犠牲者となった彼女は、友人の制服を着せられて丁重に葬られた。>



 唯「……」


<仲間梓 沖縄師範学校女子部本科一年(当時十七歳) 嘉手納村出身
 昭和二十年六月二十二日 山城丘陵で死亡


 小柄ながらも頑張り屋で、学業も、陸軍病院動員後の看護活動にも率先して取り組んでいた。

 五月、第三外科から糸数分室に配置換えになり、その後、南部に撤退。

 解散命令後は、先輩らと行動を共にしていたが、別れて斬り込みに加わる。

 斬り込みが失敗した後「私は皇国女性だ!殺せ!」と叫び抵抗したため、米兵により射殺。>



 唯「………」


<山城さわ子 沖縄県立第一高等女学校教諭兼師範女子部嘱託 首里市出身 音楽担当
 昭和二十年六月十九日 伊原第三外科壕で死亡


 一高女から東京女子高等師範学校(現御茶の水女子大学)に進学、母校の教師となった。

 歌が好きで、時には生徒の要望に応え、暗い壕の中でも歌って生徒たちを励ましていた。 

 南部撤退の時には、負傷した生徒を介護しながら、伊原まで移動した。

 解散命令直後、第三外科壕でガス弾攻撃を受け、多くの生徒、教師らとともに死亡。>



 唯「…………」


<真壁和 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 那覇市出身
 昭和二十年六月十七日 山城第一外科壕で死亡


 学園では生徒会長として人望厚かったが、とぼけたところにも好感があった。

 陸軍病院への動員後も、南部撤退から解散命令直前まで、よく学友らの世話を見ていた。 

 伝令からの帰途、山城第一外科壕の入口付近で直撃弾を浴び、即死。

 展示室にある、山城第一外科壕で収集されたメガネのつるの片割れは、彼女のものである。>


 唯「生き残った人たちは……どうなったんだろ……」



 和「……以前は、学徒隊の生き残り方が証言員をしていらっしゃったそうよ。

   でも、もうご健在の方もわずかで、しかも百歳前後になってしまわれて、ね」

 唯「あ、和ちゃん。そっか…、そうだよね。すごく昔のことだもんね。

     でも、おばあちゃんたちに、ちゃんとお話を聞きたかったなぁ、って」


 和「そうね……。殉国美談だの、反戦プロパガンダだの、人によっていろいろな言い方もするけど、

     まず自分で知ろうとすることが大切なんじゃないかしら?」

 唯「えーと、プ、プロパンガス?何それ?」

 和「ふふ、唯なりに少しずつ考えていけばいいじゃない。

     じゃあ、私たちの班はこれから摩文仁の平和祈念公園に行くね……」

 唯「うん……」




 唯「…」


<高嶺風子 沖縄師範学校女子部本科二年(当時一八歳) 北谷村出身
 昭和二十年六月二十日 糸満市米須で死亡


 長い黒髪が印象的で、大人しいが芯があり、怒ると意外に怖く、頑固な面もあった。

 本部壕で生徒会長の真壁和らと行動を共にしていたが、

 解散命令後は級友とはぐれ、米須付近を逃げていたところ、砲弾片に当たり死亡。>


 唯「……」


<比嘉エリ 沖縄師範学校女子部本科二年(当時一八歳) 今帰仁村出身
 昭和二十年九月二日 米軍病院で死亡


 学園ではバレーボール部に所属しており、明るくさばさばとしていた。

 六月下旬、荒崎海岸で級友らとともに手榴弾自決を図って重傷を負い、捕虜となる。

 病院に収容後、米兵がくれたコーラを気に入っていたが、治療の甲斐無く傷が悪化し衰弱死。>




 唯「………この人、本当に私みたいだなぁ……」





<平山唯 沖縄師範学校女子部本科二年(当時一八歳) 那覇市出身
 昭和二十年六月下旬以降 荒崎海岸で消息不明


 柔らかく暖かい人柄と歌声で、彼女自身もその周りにも笑いが絶えなかった。

 持ち前の屈託のない雰囲気で、学園でも動員先でも多くの友人らをなごませていた。 

 解散命令後、荒崎海岸付近を逃避行中、妹の憂とともに手榴弾自決を図る。

 その後、負傷した妹は米軍の捕虜とされたが、彼女の遺体は戦後も発見されず。>






 唯「……目に親し 相思樹並木……」


ふと、展示室に流れている歌を小さく口ずさみます。


 唯(私、なんでこの歌知ってるんだろう…?)

 唯(私には難しいことはよくわかんないけど…)


私はその写真に吸い込まれるように、つう、と指を触れました。


 唯(もし、私たちがあの時代に生まれてたらどうなってたのかな………?)


そんなことを想いながら、目をつぶってみると、

不意に、まぶたの裏に“もう一つの私たち”の姿が、流れ込むように浮かんでくるのでした―――



 “……う~ん……”

 “…何うなってるのよ、唯”

 “あ、和ちゃん。学徒隊に入ろうかまだ迷ってて……………






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