―――その後、多くの歳月が流れました。
あの荒崎海岸にも何度か行きましたが、姉のなきがらは見つかりませんでした。
ドイツに行った両親も、ソ連によってシベリアに抑留されたまま、還ってきませんでした。
そして、生きるために多くの苦労をし、人一倍働き、無我夢中で生きてきました。
一方で、私ひとりが生き残ったことに、罪の意識すら持ちつづけたのです。
しかし、やはりそれでも私は、あきらめ切れませんでした。
日々の暮らしを続ける中でも、次の瞬間、この柱の影から。その路地の裏から。あの丘の向こうから。
『あ、憂~! ひさしぶり~!』
にわかに姉の声が聞こえ、ひょっこりと姿を現すのではないか。
そんな想いが、私の頭をよぎり続けました。
私の戦後は、何年、何十年経っても、生涯、終わることはなかったのです。
私の戦後は、いつまでも、いつまでも、戦後でした――――――
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―――摩文仁の丘の沖縄平和祈念公園にある「平和の礎」には、
沖縄県民十五万を始め、沖縄戦等で死亡した国内外の人々の名が刻まれている。
その数、二十四万一千百三十二名―――
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――――――平成四十某年(203×年)夏、関東地方某所
「今日から修学旅行です! …お姉ちゃんの」
こんにちは、平沢唯です! 桜が丘女子高等学校3年生です!
今日から待ちに待った修学旅行!行き先は例年京都だったのですが、今年はひと味違います!
「すっげぇー!海青すぎだろ!CGみたいだな!」
すぐそばでりっちゃんが大はしゃぎしています。
「おい律!もうすぐ着陸するぞ!座ってベルトしろ!」
澪ちゃんがカチカチに緊張してベルトを締め直しています。
私も飛行機は初めてなので、面白いけどハートDOKI☆DOKIです!
でも、澪ちゃんの場合、飛行機よりもっと怖い体験が現地で待っているわけですが……
ところでムギちゃん、機内食出なかったね?
「ふふ、国内線は出ないわよ?」
そうなんだ。ガッカリ……
でも、着いてからいっぱいおいしいモノ食べて、たくさん楽しいコトすればいいよね♪
┏━┓
┃桜┃
┃が┃
┃丘┃
┃女┃
┃子┃
┃高┃
┃等┃
┃学┃
┃校┃
┗━┛
―――その数ヶ月前、軽音部室
紬「ねぇねぇ、今年の修学旅行は沖縄なんですって!初めてだから楽しみ~!」キラキラ
律「だから今日のお菓子はちんすこうなのか」モシャモシャ
唯「このお茶、泡が立ってるけど何なの?ほら、ヒゲ!」ブクブク
紬「ぶくぶく茶よ~」
澪「唯、食べ物で遊ぶな!ところで、みんな沖縄は初めてだろうけど、ムギも初めてなんて意外だな」
梓「毎年京都みたいでしたけど変わったんですね。先輩方も楽しんできてください!」
律「おぅ!言われなくても南国でバケーションを満喫してくるぜぃ!」
唯「青い空!広い海!天国だよ! あずにゃん、おみやげ何がいい?ハブ?」
梓「とりあえずハブはちょっと遠慮します……」ゲンナリ
唯「えぇ~? 『ハブ対あずにゃん』見てみたかったのにぃ」ショボーン
梓「何考えてるんですか!やめてください!殺す気ですか!」プンスカ
紬「唯ちゃん、生きてるハブ持ち帰る気だったの?他にもいろいろあるじゃない。泡盛とか」
律「いやムギ、それもおかしいだろ。未成年だし」
澪「私も、沖縄楽しみだな。良い詞が書けそうだ。でも修学旅行だから戦跡とかも巡るのか……」ハァ…
律「あら澪ちゅわ~ん。戦跡怖いのかしらん?」ニヤニヤ
澪「べっ、別にそういうわけじゃなくて!」ムッ
紬「じゃあ、澪ちゃんも戦跡に行って勉強しないと~」ウフフ
澪「いや、それは、まあ、わざわざ行かなくても本とか読めばいいんじゃないか!?」アセアセ
梓(澪先輩、やっぱり相当怖がってるなー)
律「そんなムキになるなって!でも戦跡巡り面倒くさいよなー。せっかく南の島のパラダイスなのにさ」
唯「でも旅行から帰ったあとレポートあるし、少しは勉強っぽいことしないとねぇ」
律「ま、そのへんは澪とムギのレポート写せば大丈夫っしょ!」
澪「こらっ!自分でやれ!」
紬「フフ……みんなで班行動の計画立てなくっちゃね!」
―――再び修学旅行当日。初日、那覇空港(旧海軍小禄飛行場)
ワイワイ…キャッキャ…
律「ひゃっほー!沖縄だー!」
唯「あ、ポケモンジェット!見たの初めてだよ!」
澪「プロペラの小さめな飛行機もたくさんあるな」
紬「離島航路の小型機じゃない?」
和「それもあるけど、自衛隊機もあるのよ。基地が隣接してるから。ほら、日の丸付いてるでしょ?」
律「お、ホントだ。さすが和は物知りだな~」
唯「じゃあ帰ったら和ちゃんのレポート写せばいいね!」
和「ダメよ。そもそも班が違うからムリね」
さわ子「ちょっと!みんな早くモノレールに乗るわよ!」
―――ゆいレール車内、県庁前駅付近
澪「飛行機で疲れたし、ホテルに荷物置いたら夕食まで一息つきたいなぁ……」
律「何言ってんだよ!せっかく沖縄なんだから外に出て遊ぼうぜ!」
唯「国際通りってところにいろいろあるみたいだよ!」
紬「遊びたいでーす♪」
澪(やっぱりこうなるか……)
―――国際通り
紬「あっ、ブルーシールアイスよ!食べましょう!」
唯「おぉ~!変わった味のがいろいろあるね! おいひぃ~!」
律「うぉぉ…頭痛てぇ……」
澪「アイス食べ過ぎだろ………あ、この琉球ガラスの置物カワイイな」
律「ところでさぁ、ハブ対マングースってどこで見れんの?」
紬「唯ちゃん、この三線(サンシン)試し弾きできるんですって!やってみない?」
唯「了解です! …“♪キミを見てるとォ~ いつもハ~トDOKI☆DOKIィ~~”」ベンベン
律「お、すげぇ! なんか沖縄っぽい!」
唯「よし!キミはサンシン太と名付けよう!」
澪「ふふ、唯、ギー太がいるのに浮気しちゃっていいのか?」
唯「えへへ……南国のちょっとした“あばんちゅ~る”ってことで」
―――第一牧志公設市場
唯「あぁ~、目がぐるぐるする~」フラフラ
澪「そりゃ海ブドウが回ってる水槽ずっと見てるからだろ……」
律「あ、生のハリセンボン初めて見た!すっげー!お、この青い魚は何?食べれる?」
紬「それ、イラブチャーって言うのよ。淡泊で美味しいわ」
唯「わぁ~、ブタのお面だよ澪ちゃん!見て見て!」
澪「や、やめろよ!見たくない!」
―――ゆいレール奥武山公園駅付近
律「澪!澪!この写真、ちょっと見てみ」
澪「ん、何撮ったんだ?……ま……っ!!///」
ゴチン!
律「痛だぁぁぁ!」
澪「お前は小学生かバカ律!!」
律「いやー、聡に頼まれててさぁ。ネタ的に面白いかなー、と……」
紬「漫湖は湿地帯でラムサール条約で保護されてるんですって。でも最近は水質が悪化してるらしいわ」
唯「へー、漫湖ってすごいんだね!でも汚い漫湖って臭そうだよ」
紬「そうね。キレイな漫湖を後世に伝えないとね」
澪「二人ともわざと言ってないか……///」
アハハ… ウフフ…
―――二日目。道の駅かでな、嘉手納基地付近
ワイワイ…ガヤガヤ…
澪「ホントは美ら海水族館に行きたかったなぁ」
紬「さすがに遠いから難しいわ」
唯「りっちゃん、この双眼鏡面白いよ!すごくよく見える!」
律「おぉやべえ。米軍マジ米軍。勝てる気がしねぇ」
唯「ホントに基地の中に街がある感じだね~」
紬「私、米兵にケンカ売るのが夢だったの~♪ F**K YOU!」
澪「おいムギ!それはまずいだろ!しかも無駄に発音良いし!」
紬「どんとこいです!」
律「おぉ、ムギもなかなかロックだな!負けてられん!」ビッ!
澪「中指立てるなぁ!」
律「ハイハイ。どーせわかりゃしないって」
最終更新:2011年08月19日 00:44