――― 終戦記念日特集 ―――


これは、先の大戦末期において、ある女学生たちが過ごした日々を描いたアニメである。





―――昭和二十年(1945年)初頭、沖縄県那覇市(当時、島尻郡安里村)



     ┏━┓     ┏━┓
     ┃沖┃     ┃沖┃
     ┃繩┃     ┃繩┃
     ┃縣┃     ┃師┃
     ┃立┃     ┃範┃
     ┃第┃     ┃學┃
     ┃一┃     ┃校┃
     ┃高┃     ┃女┃
     ┃等┃     ┃子┃
     ┃女┃     ┃部┃
     ┃學┃     ┗━┛
     ┃校┃
     ┗━┛


―――沖縄師範学校女子部・沖縄県立第一高等女学校は併置校で、

多くの教諭は併任、施設の多くを共用し、「ひめゆり」の愛称で親しまれていた。

赤い屋根の校舎が青空に映え、その校門前には緑豊かな相思樹の並木があった。

「軍国少女」として教育される中でも、夢見る年頃には、歌と笑いがあった―――



参考BGM


―――教室


校庭で宮城遙拝、万歳三唱、国歌斉唱、校歌斉唱などをして、朝礼が終わったあとのことです。


 「……う~ん……」

 「…何うなってるのよ、唯」

 「あ、和ちゃん。学徒隊に入ろうかまだ迷ってて……」

 「え!? まだ決めてなかったの!?」

 「でもでも私頭よくないし学徒隊のこともよくわかんないし……」

 「唯、このままじゃ本当に非国民呼ばわりされちゃうよ…?」

 「学徒隊に加わらないとヒコクミン!?」



こんにちは。沖縄師範学校女子部2年生の平山唯です!

少し前まで平安山(へんざん)だったんですが、姓を変えるのが時勢らしいので平山に変えちゃいました。

ちなみに、県下随一の難関である師範学校に、妹はともかく私が入れた理由は自分でもわかりません!

ドイツに行った両親が何か手を回したみたいなのですが……。


昨年の夏、サイパン島が陥落し、十月には「十・十空襲」があって、那覇の町の大半が焼けたのです。

私たちはもちろん祖国日本の勝利を信じていましたが、いよいよ米軍が近付きつつあることは感じていました。

そうなると、さすがに学徒隊に参加する考えもまとまらず、今朝も和ちゃんに呆れられたばかりです。


 (はぁ~……学徒隊かぁ……どうしよぉ……)



―――放課後


  “ふわふわ時間 ふわふわ時間 ふわふわ時間……♪”


今日は珍しく、陣地構築作業も農作業奉仕もなかったので、

空き教室で、友達と一緒にテニスラケットをギター代わりに『ふわふわ時間(じかん)』を歌ったりしていました。


 「じゃあ次は『毛筆 ~硬筆~』やってみよっか?」


などと話していると、そのときです。


 「コラぁッ!」


鋭い怒声とともに、教室のドアが開きます。


 「あなた達、放課後もダラダラしてないで、作業のない日は貴重なんだからちゃんと勉強してなさい!」

さわちゃんこと担任の山城さわ子先生です。


 「あ、さわちゃ……さわ子先生」


かつては自由闊達な雰囲気だった学園も、戦争が深まるにつれて緊張感が日々充ち満ちてきていました。

さわ子先生はなおも叱責します。


 「それにいつ米軍が沖縄に来寇するとも知れないのに、この非常時に“ふわふわ”なんて軽佻浮薄も甚だしい!」


澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃんがなんとか言い逃れようとするのですが、


 「いえ、あの、“君”っていうのは、君が代の“君”と一緒で、その…」

 「えーと、何というか、陛下をお慕い申し上げているとどきどきするほど士気が高まるというか……」

 「そ、そうなんです!戦意昂揚のための戦時歌謡なんですよこれは!」


これがかえってさわ子先生の怒りに対し、火に油を注いでしまいます。


 「馬鹿者っ! 揃いも揃っていい加減なウソつかないの!不敬にもほどがあるわ!」

 「えぇ~、でもさわちゃんも好きだったじゃん、こういう歌……」


りっちゃんが不平混じりに言い返すと、さわ子先生は一瞬気まずそうな顔をしましたが、

すぐさま眉間にしわを寄せて険しい表情に戻りました。


 「さわちゃんとは何ですか! と・に・か・く、あなた達は皇国女性としての自覚が足りないのよ!

    問答無用です!罰として運動場10周してきなさい!」

 「「「「「えぇ~~!?」」」」」



―――寄宿舎


 “♪もう紐が何だかァ~ 通らないィ~ ララまた明日ァ~……”


仲の良い私たちは、寄宿舎でも同室でした。

罰を受けたあと、仕切り直しで『私の恋は綴り紐』を歌ったあと、


 「どうした唯、元気ないぞ。運動場10周のことなら気にしなくていいんだからな」


当山(とうやま)澪ちゃんが心配して話し掛けてきました。


 「なんか変なモノでも食べたか?ま、このご時世、何か食べれるモノあるなら教えてくれよ!」


仲村渠りっちゃんがからかいます。ちなみに名字は「なかんだかり」って読みます。


 「実は、学徒隊に入ろうかまだ迷ってるんだよね。やっぱりおっかないし……

   憂は『お姉ちゃんと一緒でいいよ』って言ってくれてるけど、みんな入るんでしょ…?」


私がおずおずと切り出すと、部屋の空気が心なしか重くなります。


 「うーん、遠く八重山から呼び戻された人たちもいるのに、学徒隊に入らないのも……ねぇ」


ムギちゃんこと古波蔵(こはぐら)紬ちゃんがつぶやきます。


 「『学徒隊に入らないと官費を返還させられる』って噂もありますし……」


同室の唯一の下級生、あずにゃんこと仲間(なかま)梓ちゃんも心苦しそうです。

師範学校は、官費と言って国から補助金が出ていて、授業料が無料でした。


 「学徒隊に志願しないなんて、非国民もいいトコロでしょ!ウチの弟なんか鉄血勤皇隊だぜ」


非国民。今朝、和ちゃんにも言われた、りっちゃんのその一言に私はカチンと来ました。


 「むぅ~。りっちゃんも人のこと言えないよ!ついこの前だって良い歳して“方言札”ぶら下げてたクセに!」

 「うるせー!ついうっかり喋っちゃったのを運悪く見つかっただけだし!」


方言札というのは、標準語でなく方言を話した罰に首から下げる札のことです。


 「ね、ねえ、みんな、お茶にしよう?」


ムギちゃんがとりなして、貴重なさんぴん茶を用意しますが、私とりっちゃんの口ゲンカは止まりません。


 「じゃありっちゃんもカチューシャ早く火薬用に献納しなよ!それセルロイド製でしょ?このヒコクミン!」

 「だったら唯もヘアピン後生大事につけてないで金属供出に出しちゃえばいいじゃん!」

 「せ、先輩方、ケンカはやめてください……」


あずにゃんがたしなめますが、熱くなった私とりっちゃんには聞こえません。


 “……♪青い眼をしたお人形は アメリカ生まれのセルロイド”


澪ちゃんが、不意に歌い出します。


 「「あっ……」」


私とりっちゃんは、きまりが悪そうに顔を見合わせました。

フィリピン移民帰りで米国の血が入っているムギちゃんはその容姿もあいまって、

開戦以来、事あるごとに陰口を叩かれ、肩身の狭い思いをさせられています。


 『せめて寄宿舎では、そんなしがらみはできるだけ無くそう』


そう決めていたのに、無神経な言い争いをしていたことを反省しました。

そして、澪ちゃんに続いて、みんなで『青い眼の人形』の童謡を歌ったのです。


 “♪やさしい日本の嬢ちゃんよ 仲良く遊んでやっとくれ……”


すると。


 「あなた達………。なんで先生の言うことを聞いてくれないの?」


部屋の扉がゆっくりと開いて、寄宿舎を見回りに来ていたさわ子先生が顔をのぞかせます。


 (あっ…)


私たちは縮み上がります。

さっきも「ふわふわなど、けーちょーふはくである!」と目の敵にされたのに、

こんな歌を歌っていることがバレたら、それこそ非国民扱いです。


しかし、大目玉を食うとばかり思っていたのに、さわ子先生は悲しげな表情で語りかけるのです。


 「そんな童謡を歌って……。私じゃなかったら職員会議で吊し上げられて、ヘタすれば退学よ?」


音楽科の先生であるさわ子先生は寄宿舎の舎監も務めていました。


 「す、すみません……」「ごっ、ごめんなさい!」


私たちは口ごもりながら謝ります。

教室で叱ったときとは違い、さわ子先生は私たちに柔らかく諭すように語りかけます。


 「アメリカに勝って、平和が戻ったら、いくらで歌えるようになるわ。……今は、我慢してちょうだい」


あずにゃんと澪ちゃんが、素朴な、そして率直な質問を発します。


 「せ、先生!日本は、いつ戦争に勝ちますか?いつになったら遠慮無く歌えますか?」

 「先生も、授業がどんどん減らされて、つらくはないんですか?」


その質問に、さわ子先生は答えませんでした。

しかし、


 「………。だから、今やるなら“バレないように”ほどほどにやりなさい。

  オルガン室の鍵、貸してあげるわ。あそこなら狭いけど防音も効いてるから」


しばしの沈黙の後、そう言ってはにかむと、部屋の棚にオルガン室の鍵を置いてくれました。


 「「「「「……はい!」」」」」



……そして私は、オルガン室でみんなと歌いながら、決心したのです。


 “毛筆 ふっふぅ~ 震える ふっふぅ~ 初めて 君への挨拶状~”


 (……うん、みんなと一緒なら、私だって頑張れる、よね?)



―――数日後のある朝


教室で、私は開口一番、和ちゃんに宣言しました。



 「とりあえず第三外科ってところに入ってみました!」

 「へー。で、第三外科って何するところか知ってるの?」

 「さあ?でも第三っていうくらいだから、第一とか第二よりはカンタンだよ!たぶん」

 「大丈夫かしら……」

 「部屋のみんなも憂も居るから大丈夫だよ!これで私も白衣の天使のタマゴなのです!」



そう言って私は、フンス!とばかりに胸を張りました。

あきれ顔の和ちゃんに、私は勝手な想像を言いまくります。


 「赤十字の旗が立つ病院で、白衣の天使さまかぁ~。きっとカッコいいよぉ~!

   でも、注射どころか包帯の巻き方もわかんないし、たぶんゴミ捨てとか雑用ばっかりだよねぇ」

 「ふふ、食事の世話くらいはさせてもらえるんじゃない?」


そう言って、和ちゃんは苦笑いを浮かべました。

しかし私は、いえ、私だけでなく私たちはみんな、知らなかったのです。





戦場というものが、どのようなものであるかを。





その後、雲行きはどんどん怪しくなります。

一月下旬の空襲で、学園も被害を受けました。

三月の卒業式の予定もたびたび延期になったのです。

もちろん、毎年三月三日に行われていたひな祭りも、中止になってしまいました……




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