メメ「その原本じゃあ、亀は竜宮城じゃなくてもっと別の場所に人を運ぶんだよね」

律「別の場所?」

メメ「…たいていは竜宮城と変わらないよ、楽園とかそう呼ばれるに相応しい場所さ、望んだ場所へ連れていくんだよ」

紬「…素敵、とってもいい亀さんなのね」

梓「望んだ場所…じゃあ唯先輩は」

メメ「ああ、今ごろ楽しんでるだろうね。自分が望んだ世界で、ただ肉体だけを置いて、ね」

メメ「…んで、問題なのがこの置いていかれた肉体だよ」

澪「そういえば、一週間も何も食べてないのに痩せたりく、腐ったり…」

メメ「しないよ、これはあまり専門じゃないけど…肉体と魂は繋ってるんだ、ただの入れ物と中身。そんな単純な物じゃないよ、まあ専門外だからね…めったな事は言えないけどさ」

憂「じゃ、じゃあお姉ちゃんは」

メメ「ああ、心配いらないよ憂ちゃん…ただ」

梓「ただ?なんですか?」

メメ「さっきたくあんちゃんも言ったけど、この亀はそんな素敵な代物でもないよ?タクシーやバスと同じでね、運賃を取られるのさ」

澪「…ゴクリ」

メメ「この場合、身体でね…」

紬「…ゴクリ」

メメ「なんだかたくあんちゃんから異様な何かが…気のせいかな?」

紬「ええ、気のせいです」

澪「…」

憂「運賃を身体でって…じゃあお姉ちゃんは!」

メメ「大丈夫、さっきも言ったよね?亀は鈍いから…まだ一週間目なんだよね?」

憂「…はい、でも」

メメ「一年」

メメ「一年寝たままだと君のお姉ちゃんは」

憂「死…」

メメ「いや、ヨボヨボのおばあちゃんになる」

憂「…お姉ちゃん…(唯『憂や~あいす、あいす…ごほ、ごっほ!あいすを…』)……仕方ないなあ、もう」

澪「ま、まんざらでもない顔をしてる…」


メメ「……あまり緊張感がないね…時間はあるけど、限りもあるんだから」

憂「す、すみません…」

メメ「歳をとられる…いや、これだと若返るみたいに聞こえるかな、寿命を取られるんだよその人が生きたであろう年月から少しずつね…」

メメ「亀が年をとったぶん、君のお姉ちゃんも歳をとる…って訳だね。だから人の平均寿命を80年とするとだいたい一年でほぼ全部なくなる」

律「ほぼ?」

メメ「浦島太郎でもおじいさんになるだろ?とられた歳の余り、端数だよ…一週間以内には死ぬね」

澪「…ど、どうすればいいんですか?」

憂「お姉ちゃんを起こすにはどうしたら…お願いします!お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けてください!」

メメ「手伝いはするよ…でも僕は助けない。僕が助けるんじゃなくて、君のお姉ちゃんが勝手に助かるだけだよ」



憂「ここが家です」

メメ「へぇ、立派な家だねぇ…二人で暮らしてるんだよね?」

憂「はい、あの…忍野さん一つ気になる、聞きたい事が…」

メメ「なんだい?憂ちゃん?」

憂「…なんで、私はあだ名で呼ばないんですか?」

憂「梓ちゃんにもおちびちゃんって…(そのまえにゴキって何か言いかけてたけど)」

メメ「へぇ…なかなか鋭いねぇ君は、気がついた?」

憂「はい、それになんだか私にだけ態度が違うっていうか…あの」

メメ「そうだね、皆に帰ってもらったのには理由があるんだけど…君はまだ何か知ってる事が、隠している事があるね?」

憂「………はい」

メメ「話してごらんよ」

憂「はい、…あがってください」



これは少し前の、まだお姉ちゃんが長い眠りに着く前のお話


唯「ういーあいすー」

憂「もうお姉ちゃんたらまたごろごろして、ほら掃除機かけるから」

唯「はーい、ごろごろ~あいたっ」

憂「お姉ちゃん大丈夫!?」

唯「いたた…テーブルの足にぶつかっちゃった…うう」

憂「ほっ…お姉ちゃん…」


そんないつも通りの日曜日の事
私は、一匹の亀に出会いました

唯「憂?憂ー?あれーどこいったの?ういー?」

憂「…」

いつも通りの日曜日、私はいつも通りごろごろしているお姉ちゃんに少しイタズラをしました
私を頼って、縋って、楽ばかりしようとしているお姉ちゃんをほんの少しだけこらしめようと

唯「うい~?出かけたのかな…うい~?」

憂「困ってる困ってる、でも、困ってるお姉ちゃんもかわいいなあ」

クスクスと、私は押し入れの中で笑いを押し殺して隠れていました

唯「憂…憂どこ?…うい、くすん」

泣いてる、お姉ちゃんが泣いてる
行かなきゃ、お姉ちゃんの傍に
お姉ちゃんを泣かせたのは私なのに
結局私は、お姉ちゃんが好きで大好きでほっとけないんだ


そんな当たり前な事、再確認したいつも通りの日曜日の、


憂「あ、あれ?…開かない?」


ー筈でした


「お姉ちゃん!お姉ちゃんっ!!!」

押し入れの襖を何度も引いて、押して、叩きました
でも開きません、まるで鉄の門みたいにびくともしませんでした

憂「…なんで?なんで開かないの?お姉ちゃん!お姉ちゃん助けて!」

私とお姉ちゃんを遮るものは襖一枚の筈なのに
私の声が、届かない筈がないのに


それでも、お姉ちゃんは私を助けに来ませんでした


憂「どうして?私が意地悪したから?…お姉ちゃん!」

私は悲しくて、寂しくて
扉を叩くのもやめて、暗い押し入れの中で泣いていました
襖が開かないのもきっと、お姉ちゃんが何かを使って押さえてるだけ

憂「お姉ちゃんの馬鹿…お姉ちゃんなんて、」



--キライ--



そして私は押し入れの中で一匹の亀に出会いました



憂「掌にのるくらいの小さな、青い亀でした…それで、…襖が開いた時にはお姉ちゃんはもう、くすん」

メメ「なるほど、やっぱりね……『憂』ちゃん、人の隣でこそ『優』しくなれる…いい、名前だね」

憂「くすん…お姉ちゃん」

メメ「さあ、泣いても何も始まらないよ?終わりもしない…君は君がやるべきことを、するだけだよ」

憂「…はい」


メメ「君のお姉ちゃんを起こす事自体は簡単さ、ちょっとした裏技があってね」

憂「裏技…じゃあ簡単に退治できるんですね?」

メメ「そう簡単さ、でもその前に君が知らなきゃならない事があるんだ」

憂「私が…知らなきゃならないこと、ですか?」

メメ「そうだね、まずは君が亀に行き遭った理由」

憂「理由?理由があるんですか?」

メメ「怪異だって事情はあるよ、悪いものばかりじゃない…退治だなんて物騒な考え…ってこれ、誰かにも言った気がするなあ」

憂「?」

メメ「ああいや、こっちの話さ」

メメ「怪異だって何も好きこのんで人間を殺してやろうって奴らばかりじゃないよ」

メメ「『送り亀』なんてむしろ感謝こそされてもおかしくない、だってそうだろ?」

憂「望まれた場所へ送る…」

メメ「そう送って贈る、それが『送り亀』、たしか場所によっちゃ神扱いされてる場所もあるしね」

憂「でも、私何も…何も望んでなんか、」

メメ「いないよね?そう、君じゃあないんだ。だって眠りについてるのは、送られてるのは君のお姉ちゃんなんだから」

憂「じゃあ…お姉ちゃんが望んで…」

メメ「そう、君はただ呼んだだけ。『送り亀』は浦島太郎にもあったけど、争いの前に現れる」

憂「あっ…」

メメ「いじめを止めようとした浦島くんと子供たちしかり、ささいなイタズラから知らず知らず喧嘩に発展した姉妹もしかり」

メメ「まあまあ、アレだよ。夫婦喧嘩は犬も食わないけどさ、亀は食べちゃうんだよね、さすが雑食って感じだよ。ん?」

憂「…お姉ちゃんが望んだ…私と離れ離れになる事を?…」

メメ「…じゃあ、そろそろ起こしに行くかい?寝ぼすけお姉ちゃんを」



憂「ここが…お姉ちゃんの部屋です、じゃあ、お願い…します…」

メメ「何を言ってるんだい?お嬢ちゃん、言っただろ僕は助けないよ」

憂「…え?」

メメ「君が、君とお姉ちゃんが勝手に助かるだけだよ」


メメ「じゃあ、教えた通りにするんだよ?僕は下で待ってるからね」

憂「はい…よし」

憂「…お姉ちゃん」

唯「…すー…すー…」

憂「そっちは楽しい?楽しいんだよね、お姉ちゃん笑ってるもん」

唯「…すー…すー…」


--お姉ちゃんは私に頼ってばかりで


憂「お姉ちゃん、本当は起きたくなんかないよね?そのままがいいんだよね?…でも」


--ちがう…頼ってばかりなのは、


憂「でも、私…私、お姉ちゃんがいないと…くすん」

唯「…すー…すー…うい…」

憂「…お姉ちゃん?」

唯「ほらうい…泣かないの…すー…すー…」


--頼って、縋っていたのは…私の方、だったんだね



これは、お姉ちゃんが長い眠りに着いて一週間の
いつもとは違う日曜日のお話


唯「うい~あいす~あいす~あいたあっ」

憂「お姉ちゃん!またぶつけたの!?もう!」


---結局お姉ちゃんはどんな場所を望んだのか教えてくれませんでした


憂「怪我は?血はでてない?」

唯「大丈夫だよ~憂はいつも心配しすぎなんだから~…やっぱりあっちの憂の方が…」

憂「何?なんて言ったの?お姉ちゃん」

唯「ん~ん、なんでもないですよ~それよりあいす~あいたっ」

憂「大丈夫!?お姉ちゃん!………あいたっ」


---教えてくれなくたってわかるよお姉ちゃん、それに望まなくたってお姉ちゃんは


唯「だ、大丈夫!?む~このテーブルめよくも憂を~」

憂「いたた…ふふ、くすくす」

唯「?」

とっても頼りになるお姉ちゃんだよ?---




ゆいタートル 終わり



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