その頃 律と澪は

律「ハァッ ハァッ…ハァッ なんなんだよ!!意味わかんねーし!私そんな悪いことしたか!?どーなんだよ!?澪!!」

澪「もうやだ…グスッ…お家に帰りたい…」

結局律は無我夢中で走り、2階の一番奥の部屋に閉じ籠っていた。澪と2人で
この部屋に来た時は2人共パニックになっていたが、今は少し落ち着いたようだ

澪「律…」

律「…なんだよ?」

澪「何があったんだ?あの部屋で…」

律「よくわかんないんだけどさ…窓を調べようとしたらな…窓、ていうか壁際全体に 影 見たいなものが見えたんだ」

律「それで窓をよく見ようと懐中電灯を近づけたら、その影が懐中電灯を一瞬で溶かした…」

澪「え?どういうこと!?影って…」

律「わかるわけないだろ。私も一瞬 は!? ってなったよ。でもすごくやばい気がしてとにかく逃げた…」

澪「…唯達大丈夫かな…」

律「わかんない…でも私のあの様子を見たら下手には動かないんじゃないか…そうであってくれっ!」

澪「影って…じゃあこの部屋の窓も…!?」

律「どうだろな。試してみるか?」

澪「イ…イヤだ!」

律「澪はそういうと思ったよ。じゃあ私が試してみるよ。さっきのは私の見間違いだったのかはっきりさせてやる」

澪「り…律」

律は頭のカチューシャを外し、ゆっくりと窓際ににじり寄る
律「見てろよ…澪」

澪「ゴク…」

律がカチューシャを影の中に入れた途端、またジュッと音を立ててカチューシャが半分消えた

律「はぁ…やっぱりか…」

澪「ヒィィッ」

律「私達はここから逃げられない ってことか…ハハハ…」

律「なんでこんなことになったんだろうな…あ…私か…ハハ」

律「私がみんなを無理矢理肝試しなんかに誘って、こんなとこ入らなきゃ…」

律「そもそもクワガタとりに行こうってとこから間違ってたのかなぁ…」

澪「律…そんな…」

律「やっぱり私は部長失格だな…いつも騒ぎを起こすのは私。」

澪「律…そんなこと…そんなこと言うな!」

澪「律がいたから私も軽音部に入った…律がいたからムギも唯も梓も…みんなと出会えたんだぞ。」

律「澪…」

律「ごめん澪。私どうかしちゃってたよね。自分を責めるなんてさ。らしくねーっての。な」

律「唯たちのとこに戻って、どうするか考えよう!」

澪「そうだな…部長さん。」

律「走って逃げたの見られちゃったしちょっと恥ずかしいな…ハハ」

律「あイテッ」ドーン

律は足元にあったソファーに気付かず、ぶつかって転んでしまった

澪「全く…カッコつかないな。律は」

律「ホントにな。今日こんなのバッカだな私」

!!?

律「え…うそ…?」

澪「律?どうした?」

律「か…かか…影…がぁ…」

澪「え?影…って…えッ!?」

月明かりの中、澪の目にもそれはしっかり確認できた。
壁際の影がたしかに動いている!…律に向かって!!

律「くそぉっ…動け動け動け動け動け動け動け動けう…う…あぁぁぁァアァァァ」

澪「律ッ!?」

ついに影は律の足を溶かし始めた

律「アアァアァっッ…足がァアァ」
澪「律!律!律ぅ!!」

澪の顔は恐怖と涙でグショグショになっていた

律「ガアァァアッ!!み…澪ッ!みおォォォ」

澪「律!うわアアああ!」
澪は力の限り律を引っ張る。
途端に フ…と体が軽くなったような感じがして澪は尻餅をついて転んだ。しかし親友の手はしっかりと握っていた

澪は親友を救いだした

はずだった

澪「う…そ…」

澪「りつ…りつぅぅぅ!!」

律の体は腰から下、下半身が無くなっていた

澪「律ッ!ハァッハァッ…り…つ…あぁ!!」

律「ミ…みォ…」

澪「律ッ!?」

律「ご…ごめんな…澪…いっつも澪の…嫌がることばっかさせちゃって…」

律「唯もムギも…梓にも迷惑かけちゃってさ…」

律「みんな…ごめんなぁ…」

澪「そんなっ…そんなことないッ!律はいつだって部長として…友達として私達をみまもってたッッ」

律「澪…ありがと…」

律「みんなにも…お礼言いに行か…なきゃ…」

律「み…んな…あり…が……」

~~~

「めざせ武道館!!」

「新入部員確保~!!」

「けいおん!大好き~!」

「律。おでこ出しなさい」

「私のキーボードがしゃべってる~♪」

「おけぶいん!桶を愛する部員の事だ~ …けいおんぶ…」

「クラブ見学いこうぜ~」


澪…唯…ムギ…梓

本 当 に 楽 し か っ た よ


~~~

澪「律…おい律!りっ…」
澪「うわあああああぁぁぁん」

澪は律の亡骸を抱いて泣いた

泣き果てるほど泣いた

澪もまた親友達との思い出を見ているのだろうか




未だ律に向かって迫る影の事など忘れて…


――――

再び唯、紬、梓たち

唯「りっちゃーん!澪ちゃーん!」

紬「物音一つしない…周りも静かなんだしこの屋敷内にいるなら私たちの声聞こえるわよね…」

梓「…」

唯「やっぱりもう外に出ちゃったのかなぁ」

紬「でも唯ちゃんどうやって?」

唯「わかんない ねーあずにゃん。あずにゃんはどう思う?」

梓「…」

唯「あずにゃん?おーい」

梓「…ハッ ニャ…なんでしょうか?」

唯「あずにゃん大丈夫?まだ顔色悪いみたい…」

梓「すみません…まだ元気!というまでには…」

紬「こんなことになったら仕方ないわよ」

そして2階の部屋が並ぶ通路にやって来た

唯「どの部屋から探そっか」

紬「手前から順に見ていきましょうか」

そしていくつか部屋を調べ、次の部屋を調べようとしたとき

ガチャ

唯「あずにゃん!?」
紬「梓ちゃん!?」

梓が後ろのドア、つぎの次に調べようとしていた部屋に入って行った

唯たちも追いかけるが部屋と廊下の間に結界のようなものがあり部屋に入れない

唯「え?なにこれ!?」

紬「梓ちゃん!!」

へやの中には梓…ともう一人、長い髪の女性

唯「だ…誰!?どうなってるの!?」

女性「カエセ…アカチャン…ワタシノ…」

唯「赤ちゃん!?何の事言ってるの!?あずにゃんを返してよ!!」

梓は部屋の中で一人で遊んでいた…赤ん坊が手足をばたつかせ遊ぶように

女性「カエセ…カエセ…カエセエエエ」

凄まじい衝撃波のようなものを受け、唯と紬は廊下を転がる
突き当たりまで飛ばされた時には2人とも気絶してしまっていた
どのくらい気絶していたのかわからないが、気がついた唯たちが顔を上げると例の部屋のドアは閉まっていた
ドアを開けようとするがまたしてもびくともしない
唯「あずにゃん…」
紬「一体どうして…」

唯「りっちゃん…みおちゃん…あずにゃん…」

紬「とにかくりっちゃんたちを探しましょう4人で力を合わせて梓ちゃんを助けましょう」

4人がかりでもなんとかなる状況ではないのはお互いわかっているはずだが、律たちと合流する事でなにかわかるかも、とも思っていた
そのときふと見た廊下の窓からうっすらと青白い空が見えた
唯「あ…もうすぐ夜明けなんだね…私たちどれくらい気をうしなってたんだろ…」

紬「りっちゃんたち…無事…だよね」

唯「はやく探さなきゃだね」

そして一番近いドア、つまり廊下の一番奥の部屋のドアを開ける

唯「開いた…ね」

紬「また開かないのかと思ったけど…」

そして部屋の中へ
部屋には大きな窓が取り付けられていたため、夜明け前の月明かりが入り込み部屋の様子がすぐに見えた

その異常な様子が

唯「え…なに…??」

紬「何かしら、あれ…それにこの焦げたようなにおい」

部屋の中心辺りに広がった液体?から立ち上る煙のようなもの、ひどく散らかった家具、そして部屋に充満した鼻をつく異臭。何かが起こったと一発でわかる

唯「あれ…なにこれ…」

ホコリまみれの部屋に転がる鮮やかな黄色のプラスチック片

唯「これって…ねぇ…ムギちゃん…」

唯の声が震える

紬「まさか…まさか…」

唯「これ…半分なくなってるけど…カチューシャだよね…」
紬「そうね…この形はカチューシャだわ…半分は…溶けた?」


唯「誰の…」
紬「誰の…」

答えはわかっていた
3年間見てきた黄色いカチューシャ
トレードマーク


紬「じゃあ…あれは…」

未だ溶け続ける液体を指差す

唯「うああぁああぁぁあ!」
紬「いやぁァァアァァ!!」

2人は錯乱し、走り出す

屋敷中の開けられるドアを開けてまわる

しかしどこにも律と澪の姿はなかった

外は朝日がのぼり初め、うっすらと赤い日差しが見え初めていた

2人はエントランスで抱き合うように泣いていた

唯「りっちゃん…澪ちゃん…」

紬「どうして…どうして…」

紬「梓ちゃんも…まさか…」

唯が立ち上がる

唯「あずにゃんは生きてるよ!」

紬「唯ちゃん…でも…それに私たちだって…」

唯「あずにゃんは生きてる!感じるの!!」

紬「ゆ…い…ちゃん?」

唯「待っててねあずにゃん!!今助けるよ!!」

紬「唯ちゃん、助けるって…どうやって…?」

唯「何かないかな?この屋敷に。あの女の人の事がわかるようなのとか!」

紬「どうかしら…それにあの女性はいったい…」

唯「探そう!ムギちゃん!!」

紬「え、ええ。わかったわ!」

唯の気迫に押されてか、紬の目にも精気が戻る

そのとき

外で強い風が吹いたらしく窓や扉がガタガタと揺れた

唯「え?ガタガタって…」
唯はおもむろに玄関の扉に手をかける

唯「開いた…」

紬「うそ…」

昨夜どうやっても開かなかった扉が、まるで最初に入った時のようにあっさりと開いた

しかし2人の頭には警察に連絡する、誰かに助けを求めるといった考えは浮かんでこなかった。自分達の手で梓を助け出す、律と澪の無念を晴らすということのみが頭を巡っていた

唯「帰れない…まだ…あずにゃん!りっちゃん!澪ちゃん!!」

もう日も登り初めていたので屋敷内の探索はそれほど苦労しなかった。
そんな中、紬が1階の部屋から手帳のような物を見つける
それはこの屋敷に住んでいた人の日記だった
日記には

この屋敷に住んでいた人は間宮一郎さんとその夫人、そして2人の間にできた子ども だったこと


ある日、夫人が少し目を話した際に子供が焼却炉に落ちてしまい死亡したこと

その事件後間もなく、夫人が何かにとりつかれたように変わってしまったこと

そしてその後、夫人は自らの命を絶ったこと

そして主人の間宮一郎さんは、夫人と子供のために庭に供養塔を作ったこと


などが書かれていた

唯「じゃああの女の人が間宮さんの奥さん…なのかな」

紬「でも奥さんは昔に亡くなってるって書いてあるわよ」

唯「きっとなにかがきっかけでこの世に魂が戻ったんだよ」

普通なら信じられない話だがこの屋敷での出来事を考えると納得できそうな気もする

紬「子供を返せっていうのは…どうすればいいのかしら?」

唯「わかんない。でも私やってみる。説得でもなんでも。とにかくやってみるよ!」

そして唯と紬は梓が入った部屋の前にやってきた

唯「あずにゃん…待っててね!」



やはり部屋のドアは開かない

しかし唯は諦めず、梓の無事を願った


――あずにゃん――


バンッ
と突然ドアが吹き飛んだ

中には梓と間宮夫人がいる

唯「あずにゃん!!」
紬「梓ちゃん!!」

唯が結界のようなものに飛び込んでいく

今度は弾かれることなく部屋に入ることができた

それを見て紬も続く

…が紬ははね飛ばされてしまった

紬「そんな…なぜ唯ちゃんは…」

呆然と部屋の中の様子を見つめる


唯「ねえ間宮の奥さん!どうしてあずにゃんを連れていこうとするの!?あずにゃんはあなたの子供じゃないんだよ!そんなことしてもあなたの子供は帰ってこないよ!!」

間宮夫人「ワタシノ…アカチャン…カワイイ…カエセ…」

唯「あなたたちはもう死んでるんだよ!」

間宮夫人「コロシテヤル…」

唯「どうして認めようとしないの!?あなたも赤ちゃんも死んでしまってるの!!」


このやり取りをへやの外で見守る事しかできない紬は焦りと歯がゆさのなかある事が引っ掛かった

紬「赤ちゃん…供養塔…」
紬「!!もしかしたらっ」

紬は考えていた
昨日の夜、屋敷に入る前に起こった出来事

あの庭でのやり取りを

紬「子供…供養塔…石…だとすれば…」

昨夜、律が石につまづいたという辺りにたどり着いた

草が生い茂っていたがやはり石は崩された状態でそこにあった

紬「この下に!きっと!!」



間宮夫人「ナゼオコシタ…ナゼソットシテオカナイ!!」

唯「起こした!?私たちがあなたを起こしたっていうの!?」

間宮夫人「カエセー…コロシテヤル」

唯「やめて!!あずにゃんをつれてかないで!!」

紬「唯ちゃん!!」

紬が帰ってきた。土の付いた大きな箱のような物を持って

紬「間宮夫人!!あなたの赤ちゃんはここにいるわ!!」
唯「赤ちゃん!?ムギちゃんそれって!!」

紬「あなたと赤ちゃんの供養塔を崩してしまったのは私たちです」

唯「ムギちゃん!?どういうこと!?」

紬「昨日の晩、ここに入る前にりっちゃんが石につまづいたって言ってたわよね。あれが供養塔だったの。供養塔を荒らされた怒りで夫人は目覚め、りっちゃんは夫人の怒りに触れてしまった」

紬「でもあなたの赤ちゃんはどこにもいっていない!!ここにいるわ!!唯ちゃん!!」

紬の持っていた箱は子供の棺だった
紬は棺を結界ごしに唯に渡す


紬「もうあなたたちの生きていた時代は終わったのよ!!元の世界に帰りなさい!!」

唯は棺を夫人に渡す

唯「私たちのしてしまったことは必ず償います!だからお願い!あずにゃんを返して!!」

間宮夫人は棺を手に取ると
間宮夫人「ァあ!わたしの赤ちゃん…」

と呟いた

それまで鬼のようだった顔は優しい母親の顔になっていた

同時に部屋の結界は消え失せ、梓がふらりと立ち上がった

梓「あ…れ。ゆいせ…んぱい…ムギ…せんぱい」

唯「あずにゃん!!」
紬「梓ちゃん!!あぁ…良かった…」

間宮夫人の魂は天に昇っていった…

両腕でしっかりと赤ちゃんを抱きながら…



後日談


あの後は3人とも力を使い切ったのかその場で倒れてしまい、昼頃に様子がおかしいと感じた琴吹サイドの人間により保護され入院していた


そして数日後、退院した唯、紬、梓は再び間宮邸の前にいた

3人とも手を合わせ何かを祈っているようである





そこにある2つの供養塔に向かって…







おしまい!!