――フォレスト・ローン・セメタリー

トコトコ

梓「……」

トコトコ

梓「……」

トコトコ

梓「広いなあ」

トコトコ

梓「……こんな綺麗な場所が墓地だなんて、ちょっと信じられないなあ」



私は墓標に刻まれた名前をしっかりと読みながら、道を歩いていく。

日本のお墓と違って、こちらは石版に名前が彫られただけの質素なお墓だった。

ただ、ものによっては家みたいに大きなお墓……いや、もはや家そのものが建てられている(大抵有名人のお墓で、一般の人は入ることができないが)。

広く美しい草原に建てられているので、墓地につきものな薄暗いイメージもまったくない。

青い空と相まって、まるで観光名所のような美しい場所だった。

ここなら澪先輩でも肝試しできそうだ。



いくつもの墓標が並ぶ光景は圧巻だが、探し物をする人間にとっては疲れることこの上ない。

私は1つ1つ、名前を読み上げながら、歩いていく。

白い道を歩く。1歩1歩と、心臓を激しく弾ませながら。

梓(……ここだ)


そして私は目的の名前を見つけた。

私は立ち止まり、じっくりとその墓を見た。



ここが私の目的地。




梓(……私、意外と落ちついてるなあ)

梓(どうしてだろ)

梓(先輩がいるからかな)

梓(……)キョロキョロ

梓(……)

梓(……ううん、いない)

梓(いないよ)

梓(いない)



少し泣きそうだった。


風が吹いて私の髪をかきあげる。

よく晴れた空の下にいると、私はいつも日焼けの心配をしてしていた。

ここは外国。日本とは紫外線の強さも違うのだろうか。

だから日焼けもしないのかな?

そんなバカらしい思考も、風が巻き上げ連れ去ってしまう。

私の心は空っぽだった。



ジャンカ♪



何かが聞こえた。


ジャンカ♪


また聞こえた。


ジャン♪


ギターの音?


ジャンカ♪


こんな場所で? 幻聴では?


ジャン♪


先輩に会いたいという思いが作り出した、私の幻聴。


ジャンカ♪


違う。これは、


ジャン♪


先輩のリッケンバッカーの音色。





○○「……やっほ」



1年半ぶりに会った先輩は、車椅子に乗っていた。


その取っ手には『+1』のキーホルダーがつけられ、


アンプにつないでいないギターを手に、先輩は変わらない笑顔を浮かべていた。


望んだ人が私の目の前にいた。




梓「……」

○○「……」

梓「……」

○○「……挨拶ぐらいは欲しいね」

梓「……」

○○「梓ちゃん」

梓「そのギター、売ったんじゃなかったんですか?」

○○「ああ、これ? 実は売れなかったんだ」

○○「いや、売らせてくれなかった、と言った方がいいかな」

梓「どういうことですか?」

○○「あの後、両親にもギターを続けていたことがばれたんだけど」

○○「色々あって結局ギターをやることは認めてもらえて……」

○○「まあ、それはまた後で話すよ」

○○「それよりも、まずは」

○○「ごめん」ぺこり

梓「……謝らないでください」

○○「それでも俺は謝らなきゃいけない」

梓「……」

○○「ずっと、梓ちゃんに手紙を送れなかったから」

梓「……」

○○「ごめん、心配させて」

梓「……」ぷる

梓「……」ぷるぷる

梓「……せんぱぁい」ポロ

梓「……会いたかったです」ポロポロ

○○「……」

梓「すごく会いたかった」ポロポロ

○○「……」

梓「私、我慢したましたよ? 先輩に頭を撫でられたいと思っても、我慢しました」

○○「うん、頑張ったね」

梓「はい」ゴシゴシ

○○「撫でようか?」

梓「……はい」コクン



ナデナデ

○○「……」

梓「……あったかい」

○○「うん……」

梓「先輩、生きてますね」

○○「もちろん」

梓「ちゃんと、私の目の前にいますよね」

○○「うん」

梓「……戻ってきてくれましたね」

○○「日本に戻れなきゃ、まだ約束は果たせてないけどね」

ナデナデ

梓「先輩はどうしてここに毎週通ってるんですか?」

○○「あー……母さんの手紙には何て書いてた?」

梓「この方……『ジョン・スミス』さんのお墓に、先輩は毎週日曜日通っていると」

○○「そっか」

○○「うん、その人は、俺の命を救ってくれた人なんだ」

梓「命を……じゃあ、つまり」

○○「そう、ドナー患者」

○○「そいつは、俺と同じ病室にいた友達だったんだ」



それから先輩は、この国に来てからのことを詳しく話してくれた。

ダラスの病院に入院して、ドナー患者を待っている間に同室の少年と仲良くなったこと。

彼は重い脳の病気にかかっていたが、そんな素振りは全く見せない、明るい少年だったこと。

しかし、治療の甲斐なく、彼は転院して、ロスの病院で死んでしまったこと。

死んだ後、なんと彼がドナー登録をしていて、その提供相手として自分を指定してくれていた事実が発覚したこと。

先輩がロスの病院に移ると、手術の準備を始めるどたばたのせいで、手紙を書けなくなってしまったこと。

例の凄腕の医者によって移植手術を受けたこと。

移植は成功したが、術後の感染症にかかって何ヶ月か生死の境をさまよっていたこと。

ようやく動けるようになったのが約1ヶ月前であること。


色々だ。



○○「もうリハビリはある程度終わってるから、もうすぐ日本に帰れるよ」

梓「日本でもまだ病院に?」

○○「うん。リハビリの続きと、術後の経過を見ないとね……当分は外出もできないかな」

○○「けど、運動制限は必ず取れるようになる。手術自体は大成功だったしね」

梓「良かった……先輩、本当に良かったです」

○○「うん。ただ、日本に帰ってからがまた大変だ。梓ちゃんはもう大学に受かった?」

梓「はい。近くの公立大学に」

○○「俺も日本に帰ってリハビリが終わったら、まずは高校の卒業資格を取って、大学に行くよ」

○○「この下に眠ってる友達の分まで生きたいし」

○○「色々、やりたいことがいっぱいあるからさ」



今の先輩の笑顔は、正真正銘、喜びと嬉しさに溢れたものだった。

最初の頃に見え隠れしていた悲しさは、もう微塵もない。



梓「では、まずは」

ジーッ

ガシ

○○「お、ムスタング」

梓「はい!」

梓「約束通り」




梓「一緒にギターを弾きましょう! ○○先輩!」





おわり