終章



――1年半後 3月 飛行機内

梓「すぅすぅ」

梓「すぅすぅ」

梓「……はっ」パチクリ

梓「……ん」

梓「んー」ノビーッ

梓「ふぅ」

梓「寝てた、かな」

梓「……」

梓「うーん」

梓「なんだか、すごく懐かしくて長い夢を見ていた気がする」

梓(あんまり覚えてないけど……多分、1年半前のあのライブの夢かな)

梓「ふわ……」ゴシゴシ

梓「うぅ、この時間に寝ると時差ボケがひどくなるらしいんだけどなあ」

梓「今は……日本時間で午前3時か。そりゃ眠くなるよ」

CA「お客様、コーヒーをお淹れしましょうか?」

梓「あ、はい。お願いします」

コポコポ

CA「砂糖とミルクはどうされますか?」

梓「1つずつください」

CA「どうぞ」

梓「ありがとうございます」

ごくごく

梓「ふぅ」

梓(ちょっと目が覚めた)


ごおおお

梓(飛行機の音ってけっこう大きいんだなあ)

梓(けど、気にせず寝ちゃってる人もいる。すごいなあ)

梓(日本人らしき人も多いけど、いいのかな。時差ボケとか気にしてない?)

梓(はあ……)

梓(飛行機って、最初はワクワクしてたけど、慣れてくるとけっこうつまらないものなんだなあ)

梓(映画がやってるけど……あんまり面白くなさそう)

梓(機内ラジオは……聴いてみるかな)

カチカチ

梓(そんなにいい番組ないなあ)

カチカチ

ジャンジャカジャン♪

梓(あ、これ)

梓(『Johnny B.Goode』だ。懐かしい)

梓(これを聴くと、いっつもあの舞台を思い出しちゃう……)

梓(この曲は6人で弾くものだから、○○先輩がいなくなった後は弾くことなかったもんなあ)

ジャンカジャン♪

梓(……)

梓(先輩……)

梓(先輩……私、もう18になりましたよ)

梓(先輩はお変わりありませんか?)

梓(変わらず笑っていますか?)

梓(そちらでも音楽を聴いていますか?)

梓(……)ギュっ

梓(私、先輩に会いたくなりました)

梓(だから、行ってみます)

梓(先輩がいるという場所へ)




合同音楽フェスティバル。

あのライブは大成功の後、幕を閉じた。

最初は黄色い歓声ばかりあげていたお客さんも、3曲目の演奏の途中から曲にのりはじめてくれて、終わり頃は私たちと会場が一体になった。

あれは人生でも1、2を争う良いライブだっただろう。

きっと、私たちの音は色々な人に届いたと思う。

もちろん、最後まで弾き切った先輩のギターの音も。


その後は色々と忙しかった。

打ち上げやら送別会やらで、8月30、31日は大騒ぎだった。

お世話になった人や、ライブに来てくれた友達を全員招待し、カラオケに行ったのは今でも無謀だったと思う。

何にしろ、大部屋を3つも貸し切り、私たちは盛り上がった。


唯先輩が洋楽を歌っている姿に、憂が感動して倒れちゃった時は驚いたものだ。

澪先輩も珍しく大声で歌い、律先輩とデュエットして、

○○先輩は、静かなバラッド曲だけど、初めて歌声を披露してくれた。

正直に言うとそれほど上手くはなかったが、なんだかあの声は心に残っている。



9月になると、私と○○先輩は毎日会うようになった。

先輩がアメリカに行くのは9月8日。それまでの1週間で、会えるだけ会っておこうということになったのだ。

学校も始まっていたので1日中というわけにはいかなかったが、それでも放課後は2人の時間を過ごし続けた。


あの時ほど幸せな日々はなかったように思う。

絆とは時間をかければかけるほど、強くなっていくものなのだろう。

しかし、そんな幸せも長くは続かず。


9月8日、空港にて、

私とけいおん部の先輩たち、和さん、友さん、さわ子先生……

色々な人の涙と手に見送られ、先輩はアメリカへと出立した。




――ロサンゼルス国際空港

入国審査官『ふーん、持ち込むのはギターね。演奏旅行かい? 観光ビザだけど』

梓『ただの趣味です。ここには人に会いに来て』

入国審査官『そうかい。会えるといいね。ほら、手続きは終わりだ』

梓『ありがとうございます』

入国審査官『ようこそ、自由の国アメリカへ』



テクテク

梓「ふう……受験勉強の英語もけっこう通じるものなんだなあ」

梓「さてと、荷物も受け取ったし……」

梓「次はタクシーを捕まえないと」



高校生活の後半は色々と充実していたと思う。

まず2年生の2学期はけいおん部として忙しく活動した。

合同フェスによって私たちのことは校内にかなり広まったようで、文化祭のライブは大盛況。

さわ子先生の作ったTシャツを、観客のみんなと一緒に着て盛り上がった。

他にもマラソン大会や澪先輩のロミジュリなど、覚えていることはたくさんある。

楽しかった日々だ。

ただし、私の恋愛事情について気にする人が多く現れたことには辟易せざるを得ない。

どうして女子高というのは、あんなにも恋愛話が好きなのだろうか。



3学期になると、時は目まぐるしく過ぎ去り、先輩たちは卒業した。

先輩たちの進路についてだが、『いったいいつ勉強しているのか』という私の心配も何のその、なんと唯先輩も含め全員が同じ女子大に合格してしまった。

けっこうレベルの高い大学で、唯先輩と律先輩が合格できたのは今でも不思議だ。


卒業式後は地元のライブハウスでひっそりと卒業ライブを開いた。

いや、『ひっそりと』という表現はおかしいかもしれない。

合同フェスがきっかけになって、私たちのバンドのファンはいつの間にか増えていたらしく、けっこうな数のお客さんが来てくれたのだ。

高校生活の締めくくりとしてのライブは、大成功だった。


しかし、これで私はけいおん部に1人残されてしまった。



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